キャロル#427: 嘆き屋
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RAISAファイル: 要注意団体 [消滅済]
GOI-001: シカゴ・スピリット

ファイル作成日時: 1936年頃
GOIによる最後のファイル改訂: 1946年7月頃
ファイル回収日時: 1955年9月
[文章を以下に再現]1

GOI-001は1938年の指導者チャペル収容を契機に組織として壊滅しており、構成員の多くは他の組織に吸収されました。一部個人はGOI-001を名乗り活動を続けていた痕跡が残されています。


序文: ニューヨーク州ニューヨーク市で回収された文書から捜査が開始され、9ヶ月の期間を経てファイルは発見されました。GOIにより執筆されたファイルは東京都新宿区で回収されており、この文章と同様にルーカス・ノーマンを称する旧GOI-001構成員が執筆したものです。以下、文書の内容を記載します。

10.17.1946

愛するミアへ、

君の目の前に得体の知れない女が現れたのなら、俺とはしばらく連絡が取れなくなるだろう。それは君のせいでもないし、女のせいでもない。無鉄砲に走った俺と、俺を吊り上げようとしている奴らのせいだ。主張しておきたいのだけど、君が女によって不吉な目に遭うことはない。彼女は君のひと時の味方だった。留めておくことはできないけどね。

もし女を見たのなら、マンハッタンに住むグレイソン・グレイスを尋ねてくれ。彼の指示に従い、処方される薬でも飲んで落ち着いてほしい。そうしたら何も心配しなくていい。彼は、俺がスピリットの外で最も信頼する人間だ。

アメリカの占領下にあるとはいえ、東京の市場を牛耳ることはまだ叶わない。俺も仲間も、散々に振り回されている。だが、チャペルの消えたスピリットを立て直そうとしたのを後悔した日は一日たりともない。君には迷惑をかけてしまって、本当に申し訳なく思っている。

ミア、もうすぐだ。もうすぐですべてが終わる。終わったら、きっと幸せになれる。

-ルーカスより。


{Carroll 427: The Mourner}

キャロル#427: 嘆き屋

TheMourner

デクランにしても、チャールズ・アダムスの新聞漫画みたいな素描を描きたくて描いたんじゃないだろう。
奴は見たままを描いたのさ。


{Where it is}

何処にいるか

デクラン・オーウェンの近辺。彼自身、それを操れるわけじゃない。でも確実にデクランの近くにいて、事あるごとに報じてくれる。もし関心があるのなら、デクランとの仲を保て。

更新: 1946年7月23日、デクランが死体で発見された。予測は、できていた。奴が行方不明になる3日前、こいつは俺の寝床に現れて泣き喚いたからだ。以来、女は俺に付いて回る。今も、俺の部屋の隅で身を屈めている。


{Who know about it}

誰が知っているか

チャペルはオーウェン一族を支配下に置きつつ、距離を置いていた。適当なタイミングで使いを酒場に送っている。酒場の常連客や近隣店舗にも悟られていない。認識しているのはデクランと直接繋がっているメンバーと、幹部陣のみ。チャペルや幹部陣が使いを任せるのは前者の面々だ。女の泣き声は当事者以外に聞こえないらしく、ありふれた環境音に変わる。白昼の酒場で叫ばれても問題はない。

更新: 現在スピリットに残っているメンバー、つまり俺の周辺にいる人物だけがこの女を認知している。手許に残されたキャロルの一つで、俺たちが東京でやっていくためのキーの一つ。デクランが俺たちと一緒に来てくれたことは、今でも感謝している。


{How we found it}

どうやって見つけたか

俺のダチは近々死ぬ人間がわかる。スピリットの経営する酒場で酔っ払った農夫が呟いた。オーウェン一族の存在が此方側の世界に明るみに出たのはその日だった。

中規模地主のオーウェン。彼らはイギリスからの移民で、ケルトの妖精が家に仕えているそうだ。付き添い妖精アテンダントフェアリーという種類らしい。妖精は頬こけた顔で灰色のマントを被り、苔のような色合いの布を纏っている。

幹部陣は早速、オーウェン一族の囲い込みに取り掛かった。取引先に圧力をかけて農場を破綻させ、密造酒に手を出すよう誘導した。その段階でスピリットはオーウェン一族を引き入れた。スピリットへの加入時、妖精はデクランではなく彼の親父のラルフに仕えていた。目的を持って現れるとき以外は仕える家主にしか存在を認知できないそうで、デクランも初めて妖精女を見たのは彼以外の家族が死ぬ3日前だったという。対立するギャングによって家族経営の酒場が攻撃されたその日、デクランを除くオーウェン一族は全滅した。

デクランは彼女を「嘆き屋」と呼んでいた。家族の死、そして暗殺相手の死。移ろう死を告げ、淡々と仕事をこなす働き者。そのくせ、死に際にも葬式にも現れない。主が死んでも執拗に、次の主を求めている。資本主義に迎合してるみたいだと、彼は死んだ目で笑っていた。

更新: 一人一人、仲間の死を彼女は伝達してくれる。俺たちが彼女を利用する際も、敵の死を伝達してくれる。そこに差異はない。死者への敬意のない、情緒の欠落した嘆きだ。俺は笑うデクランを眺めることしかできなかったが、彼が消えて初めて、彼の怒りを理解した。


{what We Use It for}

何のために使うか

女は、主が認識している人物の死を知り、泣き喚くことで主にそれを告げる。主は女の涙の中に、死ぬ人間の顔を見るらしい。つまりその死ぬ人間とやらが俺たちの敵だった場合、俺たちは相手の死を確信して敵を殺せるわけだ。作戦を実行に移す際、女の涙は事実上のトリガーの役割を果たす。最小のリスクで最大のリターンを、ってな。皮肉にも嘆かれた死は、嘆いた者により引き起こされていた。

女に暗殺対象をオーウェン一族の知人だと誤認させる手続きは、手間取るものじゃない。掻き集めた情報を、現在の主となっているオーウェンが知ればいい。顔を合わせていれば細密な調査も不要になるが、リストに載っている人間はどれも元々下調べが終わっている奴らばかりだ。その点で不都合がないのを幹部陣はありがたがっていた。

顔合わせで思い出した。オーウェン一族は冷遇されていたが、それが理由かもしれないな。一度でもオーウェンと面会してみろ、女はその死期を把握できるようになっちまう。誰だって自分の死のカウントダウンなんか知りたくないんだ。死そのものにも恐怖し切っているってのに。それに、オーウェンが発起人になって下剋上でも起こされたら目も当てられないのは想像に難くないし。

更新: この項目の更新点は少ない。非常に有用だよ。オチアイやタケダとかいう闇市を掌握しようとする連中がくたばるのを頭に入れて計画を進められる。唯一厄介なのは、アリムラという組織だ。奴らはきっと、俺たちと同じだろう。2


RAISA更新



序文: 以下の文書群はファイルが回収された際、ニューヨーク市及び新宿区で同時期に発見されました。内容に関連性があるため、当ファイルにも収録します。なお、時系列に従い整理されています。

9.17.1945

グレイスへ、

戦争が終わって1月ほどが経った。シカゴは変わらない。シカゴのギャングは粋がっている、スピリットが勢いを落としたあの頃から。カポネの部下、チェーソン・リーに動きがあった。奴らは東京に進出するつもりだ。それかもう旅立った頃だろうか。今の日本はGHQの占領下にある。物売りのアメリカ人もそう珍しくない、リーは中国系だけどな。戦争直後となれば、魂胆は透けて見える。闇市場の掌握だ。

国がぶっ壊れたこの状態の闇市を牛耳る。それはそのまま、今後の裏社会を担う存在になれることを意味してる。日本にはいろいろな需要が未来にも転がっているんだ。だから、シカゴのチームは東京に繰り出すことに決めた。これは賭けだが、スピリット再興のチャンスになると俺は信じてる。アメリカに居続けても財団と連邦捜査局の睨みからは逃げられない。日本はどうだ? まだ政府としての地盤が固まってないから警察はザル、財団だって体制を組み立てるのに時間を食っていることだろう。ギャングたちを一掃すれば、俺たちは日本の覇権を取れる。

武装と、いくつかのキャロルを持っていく。デクランも同行すると言ってくれた。それと、ミアをシカゴに置いていくことにした。何か不穏な前兆がシカゴであれば、お前がミアを守ってやってくれ。状況は随時報告する。市場を陣取れたなら、真っ先に日本への招待状を送ってやるよ。

-ノーマン。

9.21.1945

手紙をありがとう。無事でなによりだ。俺はニューヨークの情勢を見守り続けようと考えている。地下から一歩も動けずに、仲間と一緒に警察とギャングの抗争を脇目に見てる日々だ。ミアの件は承知した。こんな俺だが、薬剤師のフリをやめて飛び出す覚悟くらいならできてる。

スピリットのアジア進出をこんな機会で迎えるとは思ってもいなかった。昔、スピリットは人形騒動の一件で台湾や日本に降り立ったことがあると聞く。その計画が以降どうなったかは、関与していない俺たちには知りようもない話だ。もし降り立ったが撃ち払われたんだとしたら、あの島国にはギャング程度じゃどうにもできない奴らが住んでるのかもな。都市と一緒に消し飛んでいるといいんだが。

返信は行う。安否の確認にもなるだろう。遥か遠くからになるが、俺はお前たちの健闘を祈っている。

-グレイソン・グレイス。


12.17.1945

グレイスへ、

市場は順調に俺たちのものになりつつある。この国は、何をするにも物資が足りない。しかも、日本人の海外渡航は禁止されている。奴らが国外から物資を調達するのは不可能。俺たちが到着した頃には、既に大規模な闇市が各地に形成されていた。民衆はそれを頼って生活している。品物はどれも粗悪品だ。おそらく、船を使って外国から物品を輸送して売り捌くだけでも商売はできたが、流石にGHQに手口がバレる。

まず、だ。天然痘を引き起こす菌に侵されたアルコールの流布と、対抗薬剤を混入させた「無毒な」アルコールの販売。細菌と財団が与えた作用剤がゴードンズ・ジンの売上をどれだけ伸ばしたか、過去の記録に記載があるはずだ。闇市は混沌としている。出所が不明な酒でさえ、確認する余裕なんかない。衛生環境はもっと最悪だ。皮膚病ぐらいなら発生してもおかしくないし、人はそれでも呑みたがる。病を防止できる酒を俺たちが独占しておけば、人は自ずと群がってくるって寸法さ。

近いうちに賭博場も開く。利益を上げる方法もある。キャシディの肉を使う。曰くつきだってのは知ってる。でも、そんなことは承知の上だ。金を掴んでいると思い込んだ日本人の手が肉に汚れても、俺たちは一向に構わない。日本人のおかげで久々にマシなクリスマスを過ごせそうだ。

追伸: GHQは日本人の郵便物の検閲に熱心だ。間違って開封でもされたら目も当てられない。報告の頻度を落とす。

-ノーマン。

12.22.1945

メリークリスマス。ニューヨークのスラムとどちらが酷いか、比べてみたくなるな。姦しいが和やかな雰囲気に包まれていて、ギャングの騒音に悩まされずに済みそうだ。

今日、財団からの横流し品を入手した。MC&Dとの取引の結果だ。高くついたが、満足しているよ。超常技術製品の質は目に見えて良くなってきている。特に、記憶処理薬の錠剤が流れ込んできたのは大きい。俺らからすると後始末にしか使われない印象があるけれど、民衆にとっちゃ現実逃避の特効薬みたいなものだ。同時にいくつか小話を聞いた。奴らは日本にも出向いているが、無法地帯が過ぎるせいで商談が上手くいっていないらしい。乱暴者が徒党を組んでいる状態だと語っていた。気を付けてくれ。

-グレイソン・グレイス。


2.7.1946

グレイスへ、

先月、賭博場に客が来た。一帯の賭博を取り仕切ってる団体の使いだ。酒場にも同じような輩が押しかけてきた。この国の賭博場はバクトが、酒場や露店はテキヤを称する奴らが取り仕切っている。余所者の俺たちは縄張りを破り、好き放題やってしまったそうだ。日本語はさっぱりだったが、怒気だけは伝わってきた。突入してくるのも時間の問題だった。なら、その前に礼儀を果たす必要があるよな。

数日して、それぞれの場面に立ち会っていたデクランがチームに話を持ちかけてきた。既に、尋ねてきた奴らの調査と情報共有は完了していた。彼は、女が泣いたと言った。後は手順通り、懐かしい仕事をした。魔法なんか知りもしない連中だ。女の涙の通り、制圧するのは簡単だった。銃とキャロルを使ってボスを殺し、子分はわざと逃亡させる。逃げ出した人間を通じ、恐怖は一気に拡散されていく。実際、広まった。もう俺たちに手を出してきそうな組織の話は聞かない。乗り込んでくる同業者がまた現れるかもしれないが、そのときはそのときだ。

デクランが同行してくれてよかった。先手を打つにしても、こちらに死人が出る危険があるなら控えなければいけない。異国で仲間を失うのは俺にとってもリスクになる。しかし、女は俺たちの死を告げず、敵の頭目の死を告げた。迷う要素はどこにもないだろ?

-ノーマン。


3.27.1946

グレイスへ、

不可解なことが起きた。闇市から天然痘が消え去った。治療するにしても、手際があまりにも出来過ぎている。GHQも、日本政府も、医療施設も、混乱続きのこの時世で方策を実施できるわけがない。財団やMC&Dの商人の仕業でもない。第一、そいつらは動けば跡が残る。だというのに、天然痘は箒で掃かれたみたいに消滅しちまった。
 
他にもある。引き入れた現地の人間に任せておいたカジノがやられた。酷い有様だ。従業員たちの身体は切り裂かれ、一つの塊になってルーレット台に乗せられていた。切断口は、刃物でやったようには見えなかった。推測だが、獣だ。相手は獣を使って下っ端を殺したみたいだ。数人が生き延びたせいで、襲撃された事実は周知のものになった。俺たちも拠点に駆け込んできた日本人からそれを知ったわけだが、敵の情報は乏しい。ある紋章の刺青をした集団と、不可視の獣の爪。汲み取れたのはそれくらいだ。

財団からリークしたデータに該当する組織がないか、そっちで調べてほしい。それと、俺はお前からの連絡がまったくなくて内心不安に思っている。ニューヨークが平常であることを願う。

-ノーマン。


7.14.1946

グレイス、

敵の素性が見えてきた。紋章を辿るうち、アリムラという名前に行き着いた。組織としての体系はそこらのバクトやテキヤたちと同じだが、奇怪な物品を扱うとそこかしこで噂になっている。魔術を用い、戦時中も民衆相手に快楽を提供していたようだ。アリムラ姓のボスを筆頭とし、奴を慕う連中から形成されたグループ。まるで、チャペルが居た頃のスピリットを眺めているみたいだ。

日本の同業者どもはやたらと縄張りを意識している。交渉も挟まず、毎日のように喧嘩を起こしやがる。俺たちは少々派手にやり過ぎたらしい。これは好機でもある。奴らを潰せば日本を取ったも同然だ。増援を寄越して欲しい。ここを俺たちの再起の場所にしよう。

-ノーマン。


7.25.1946 緊急通達

シカゴのチームから死人が出た。アリムラを探すために東京の地下を探っていたシモンズとフォスター、それに酒屋で番をしていたはずのデクラン・オーウェンが死んだ。事件は一週間のうちに立て続けに起こった。シモンズとフォスターが獣の爪で三枚おろしに遭って、それからデクランが行方不明になった。デクランの死体は二人とは違って、全身に痣が刻まれ、手足には縄の跡が見受けられた。拷問の証拠だ。水死体として引き揚げられなければ、俺以外の人間は裏切りを疑っていたことだろう。

俺はデクランが死んだことを、死体が揚がる前から理解していた。これは現地にいる奴らには誰にも話していない。封筒にはキャロル427のファイルを添付してある。そいつが、俺の前に現れた。本来なら、こいつはオーウェンの血族にしか認識できないはずなのに。外套女は白昼に突然、部屋に突っ立っていた。攻撃と判断して銃をデスクから取ったときにはもう、目と鼻の先だ。拠点が揺れるような喚き声を上げ、瞳から床に液体を落とした。感覚が声に錯乱される中、零れ落ちた涙の表面に、歪んだデクランの顔が映っていた。女は常に宿主を探す。一家ファミリーとかいう名義上の括りを、奴は家族と見なしたのかもしれない。

敵は俺たちの動向を把握している。敵は俺たちを明確に認識し、デクランを拷問して情報を掴んだ。早々に決着をつける。シカゴ・スピリットは腑抜けの集まりじゃないさ、誇りある一家だ。妖精が間違うくらいにはな。


8.30.1946

襲撃が激しくなりつつある。当然のように銃を所持しているあたり、ザルなのは警察のみならずGHQ本体も同じらしい。増援は届かない。グレイス、俺はお前からの返事が欲しい。報告を無視しているならそれでいい。これを受け取ったスピリットは至急、グレイソン・グレイスの容態を教えてくれ。手紙を託して帰国させたワトキンスの消息も掴めていない。

キャロル427は非常に有用だ。俺たちは確実に死を迎える仲間を切り捨て、巻き込まれないで拠点を移している。仲間にはまだ話していない。全員に話したところで俺一人に不信が集まるだけだ。今は疑心暗鬼を生じさせるべきじゃない。死が近い仲間を部屋に招き、ただ告げている。それから、残ってもらうんだ。自分が死ぬと知ったときの表情ってのは、いつ見ても最悪だ。顔面が硬直して、数秒動かなくなる。情緒が消え失せる。受け入れるにしても、否定するにしても、心は一度死ぬんだと思う。朝、鏡を見た。未来の死人どもの顔が映ったんだろうな。俺の顔は嘆き屋みたいに枯れていた。

明日か明後日にまた人が死ぬよ。だが、アメリカに戻ったら地獄でデクランたちにタコ殴りにされるだろうな。顔は嘆き屋でも、俺には感情が残ってる。こっちだって、やられっぱなしじゃないからな。


9.26.1946

俺たちが相手しているのはアリムラだけじゃなかった。この東京という街だ。敵の一人は、自分はアリムラじゃなく、他の組に入っている人間だとほざいた。バクトやらテキヤやら、俺たちを恨む奴らを取り纏め、一点集中して攻撃を行っているらしい。規模がおかしいのも頷ける。腹立たしいのは、アリムラが俺たちを利用して闇市の覇権を掌握したことだ。スピリットへの対抗戦線を張り、指揮を執るという口実で裏社会の頂点に立っちまった。けどその分、末端の忠誠心は薄くなった。こうして情報を仕入れられたのも、手下がその辺の貧民だったからさ。

捕縛と拷問の繰り返しで、俺はアリムラの本体、その統率者を認識した。女が泣いたときが、奴の命日だ。


10.18.1946

-君の親愛なるルーカス・ノーマンより。

嘆き屋は皮肉な存在だと考えていたが、最近はそうでもないように思えてきた。感情を捨て去った涙で見送られるのは不服だし、湿っぽいのは俺も嫌いだ。周囲の人間に死を報じて終わり。死を受け入れる準備をするように言ってくれるくらいが、ちょうどいい。そうすれば、悲しみに沈まなくて済む。

今日、女は異様に泣き明かした。大量の涙に見えたのは、生き残り全員の顔だった。タイムリミットだ。そこに俺は含まれていないが、嘆き屋は当人には死を伝えないから、きっと俺も巻き込まれて死ぬ。奴が海を越えるかは不明だけれど、もし越えるなら、ミアかグレイスの元に行くんだ。郵便が未発達の時代の人々にとって、嘆き屋は大層重宝されただろう。遠方の人間の死なんか、普通知りようがない。隔絶されていたとしても、彼女は役割を務めてくれる。それにしても、この妖精は一家ファミリーが全滅した後はどこに行くんだろうか。ミアもグレイスも彼女を知らないから、今後は東京で亡霊でもやるんだろうか。3

この島国に閉じ込められて、ほとほと己の無力を実感してる。俺たちを掌の上で弄んでいるんだ。そうだろう、アリムラ。先日、廃屋からワトキンスの死体を回収した。検閲局と癒着して手紙を盗むなんて、本当に大胆な芸当をするじゃないか。そりゃ、敵の未来を知ったなら先手を打つよな。手紙泥棒と共謀者は始末した。グレイスからの返事が2月から来ないのも納得したし、あいつには何もなさそうで安心したよ。その祝いに、この手紙をくれてやる。シカゴ・スピリットからのダイレクトメッセージだ。

先月の手紙を翻訳して恐怖している頃か? それとも俺たちの死を知って安堵している頃か? 残念ながら、嘆き屋はたかだか数人の死じゃ取り乱さない。死人の分だけ涙が必要になるから、大袈裟に振る舞うんだ。嘆き屋は、お前らの死を嘆いたぜ。

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