爆現!新しい力!
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その日、彼は助けを求める音を聞いた。彼は空間を飛び、足元に現れ、そして……

……失敗した。失意に苛まれながら、彼—SCP-877-JP“ピールオブバナナマン”は、収容房の中に、何時ものように『再生』した。
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はずだった。

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気がつくと、彼は見知らぬ空間の中にいた。驚く彼の耳に、声が語りかけてくる。

『バナナマンよ…』
「だ、誰だ!」
『バナナマンよ…何故戦う…人を転倒せしむるに足る十分な力を持ちながら、なぜ人に与する…』
「…!」
『楽になれ…お前のなすべきことを理解するのだ…』

そうだ。彼にだってそれは十分にわかっている。自分の力は、人を転ばせる力。そのために、手にした力のはずだ。

『楽になれ…バナナマンよ…人を転ばせることがお前の目的のはず…』
「違う!俺は…俺は、人を助けたい!理由なんてない、俺は…人が好きなんだ!」
『…その道は、茨の道…誰にも感謝されず、疎まれ、それでも抗うか…?』
「当たり前だ!人が俺を愛してくれなくたっていい、俺が人を愛してさえいれば!!」
『…バナナマンよ…上っ面の皮ではない、お前の実の叫び…しかと聞き届けた…』
「お前は、お前は誰なんだ!一体!」
『我は神…生きとし生ける果実、すべてを司る神…さらばだバナナマン…もう一度、やり直せ…あの時から…やり直すのだ…』

謎の声が遠ざかっていく。そしてバナナマンの意識も、だんだんと薄れていくのだった。

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つるり。
足を滑らせた研究員は、とっさに手で頭を覆った。不必要なまでにバリアフリー化されたこの施設で転ぶことが、どんな災害を招くことになるか、彼は十分に承知していた。

その時である。

《……スタンドアップ……フルーツ……》

彼の耳に、聞きなれない電子音—待機音声が響いてきた。

《バナナ……フル……ライプネス……》

かれの頭の下に、一つの、よく知っているバナナがあった。
いや、そうではない。頭下のバナナは、皮……ではない。剥き身だ。中身が……ある。
《ライプ……ライプ……》

そのバナナは、剥けている皮を駆使して、器用に自らの中身を捻った。
まるでどうすれば人を救えるか、それを理解しているかのように。一皮剥けた、戦士の姿がそこにはあった。
《ジャキィン!》
《カンジュク!バナナ!ライプ・フォーメーション!》

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頭下のバナナの身が、輪切りになる。輪切りになったそれぞれの部分が飛翔し、回転しながら彼の関節のあちこちに張り付いた。

ピール・オブ・バナナマン・ライプ(熟した)・フォーメーション。彼の、中身を伴った正義の心が生み出した、新たなる姿であった。
《レスキューザヒューマン!》
《マキシマム!》

「いけぇえええ!!絶対に、俺は!俺は、人を救うんだあぁ!!」

倒れゆく研究員の肘に、膝に、踵に。輪切りにされたバナナが張り付き、彼の体を支えんとする。

しかし。

依然、単なるバナナに過ぎないその体は、崩れゆく人間の体を支えるには、あまりに無力であった。
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ぐちゃあ。

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