夢と笑顔を作るためのオリエンテーション
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ワーオ!! ワンダーテインメント博士の秘密コレクションを見つけたみたいだね!
ぜんぶ見つけて君もミスター・コレクターになっちゃおう!

01. ミスター・おやすみ(発売未定)
02. ミスター・かおだらけ
03. ミスター・ずぶずぶ
04. ミスター・くらやみ(発売未定)
05. ミスター・にんじゃ(発売未定)
06. ミズ・きみのだいじなひとを(自主回収中)
07. ミスター・ひきさかれる(自主回収中)
08. [判別不能]
09. [判別不能]
10. [判別不能]
EX. ミズ・いいひと
EX.ミスター・しょぎょうむじょう

注意: 本製品は非売品であり、販売の予定はありません。誠に申し訳ありません。


冗談だよ。

君がどういう状況でこの音声を聞いているかを想像してみよう。恐らく君はエメンタールチーズが好きで週末はテレビとビールを友にして過ごすイカした男か、リキッドルージュをいつも鞄にいれていて時たまミュージシャンのライブにでも足を運ぶ洒落た女性で、軽薄で、迂闊で、愚直な人間だ。

おっと、怒らないでくれよ。そうでなきゃこんなヘンピな音声なんて聞いちゃいないだろ?
君はいつもの様に日常を過ごしていた。いつもの様に退屈で、いつもの様に平和な日常を。

でもある日君は見つけたんだね。朽ちかけた姿で静かに時を過ごしている、苔だらけの大男を。君は戸惑っただろう。困惑しただろう。自分が何か、物語の主人公として歯車が動き始めたとさえ思っただろう。そうして君は彼に触れた。彼が起動するなんて思いもせずに、ね。

残念ながらこの音声はこの手の物語でよくある様な秘密結社からのメッセージじゃ無いし、君にスーパーな力を宿らせる物でも無い。そもそも私は別に黒幕になれる様な存在では無いんだ。異世界からの英雄じゃない。只のしがない玩具売りさ。

前置きが長くなったね。これは、私から君へのオリエンテーションだ。


そう身構える必要はない。これは別にヤバい組織からの勧誘でも何でも無いさ。そうだな、まずは君に1つ質問をさせて貰いたい。子供は好きかい? イエスなら大丈夫だ、そのまま続けよう。ノーならば、残念ながら君に用は無い。あぁ答える必要は無いよ。そこの大男君が勝手に読み取ってくれるからね。君はどうやらイエスの様だ。嬉しいよ、続けようか。

子供が好きな同志である君には、1つのプレゼントを用意しよう。退屈で冗長で普遍的な、よくある昔話さ。でも途中で居眠りしないでおくれよ?君に聞いてほしい物なんだ。

……昔の話だよ。まぁ昔話なんだから、当たり前っちゃ当たり前だよね。でもこれは君が思っているよりもずっと昔の話だ。やり直す前の、ささやかなお話。ある所に、1人の玩具売りがいたんだ。

そいつは子供が大好きだった。子供達の笑顔を見るために、夢を与えるために、色んな物を作ったんだ。大人達の常識に縛られない、驚くような品物を。例えばそれは何処へでも現れるイカしたスーパーボールだったり、粘土遊びに夢を与える電子レンジだったり、色んな種類がいる愉快な仲間達だったりした。

勿論挫折もあった。ジャマしてくる奴らなんかも当然いたさ。それでも玩具売りは諦めずに玩具を売り続けた。どうだ、よくある様な話だろう?さて、君はここからどういう展開を想像するかな。玩具売りの努力は報われて幸せになる、とかが丸いかもしれない。あるいは彼が欲を欠いて間違った方向に進み、罰を食らうとか。もしかしたら、その玩具売りが世界を救う、なんて展開もアリだろう。


それでも世界は終焉を迎えた。


突然の事だった、と言えば嘘になる。気づけば状態は少しづつ悪化していた。その「少しづつ」はもうどうしようもできない程に積み上がって、ある日崩れ落ちた。命が吹き飛んだ。街は瞬きをした直後に消えていた。子供達の夢も笑顔も、何もかもがグチャグチャに踏み潰された。そんな中で、玩具売りはもう何も出来なかったんだ。

彼は外に出た。絶望の果てに、不条理に抗うように。あらゆる情報を掻き集めた。イエローストーンを呆然と眺めた。そうして思いついたんだ。一世一代の、天才的な閃きを。……いや、これは閃きというにはあまりにも不確かだ。その実、縋りに近い物だったのかもしれない。この世界は失敗した。何かを間違えた。もう自分が生き残ろうだなんて思わないさ。

でも。もしも「もう一度」があるのなら。コンティニューが赦されるのなら。その時は、もっと面白い物が作れるように。もっと夢と笑顔を作れるように。彼は最後の"伝達者"を作る事にした。彼の信念が洗い流されないように。彼の望みが隠されないように。そうして彼は伝達者を地下深くに埋めた。


我々は忘れられてもいい。


でも、子供達の笑顔だけは、忘れ去られてはならないんだよ。


話が長くなったね。これで昔話はおしまいさ。何よりも子供が大好きで、日常に大きな欠落を抱えている君への、なんて事ない昔話。気づいたかな。君は選ばれていたんだよ。この音声を聞けている時点で、ね。先程の質問を茶番だなんて言わないでおくれよ?私はずっと君を待っていたんだ。子供が好きで、日常に退屈し、大人達の常識に辟易しているような人間を。君は軽薄で迂闊で、私の意志を継ぐに相応しい"誰か"だ。君は果たして「ヒト」という枠組から外れた存在かもしれない。もう君達が生きる世界には子供なんて概念は消え去ってるかもしれない。それでも私は確かに君に託そうとした。だって、その方がずっとずっと面白いだろう?

もし君がこの言葉を受け取った上で共に運命の手綱を握ってくれるのならば、私はもう一つプレゼントをしようと思う。この音声を垂れ流している大男君の左手を、そっと握ってくれれば良い。その手はきっと優しく握り返される筈だ。子供達を愛し、つまらない常識を憎み、世界を全力で楽しもうとした、誰かの記録。その全てを彼は教えてくれるさ。

君がこの音声を聞く頃には、恐らく彼に残された時間は少ないだろう。それでも彼が君の良き友人となってくれる事を、私は祈っているよ。

 

私はワンダーテインメント博士。
これは、私から君へのオリエンテーションだ。

じゃあ、後は任せたよ。これから君が見る世界は大きく変わるかもしれないし、別に対して変わらないかもしれない。

どちらにせよ。

どうか新しい世界を、楽しんでね!!!!!

────これは冗談じゃ無いさ。


回収記録: Anomalous-████-JP

説明: 破壊耐性を持っていたと予測される人型実体。現在は完全にその機能を停止している。記録媒体を保存・再生する能力を有していたと思われるが、記録そのものは発見段階で既に抜き取られていた。
回収日: ████/██/██
回収場所: ████跡地
補遺: 肩部に『ミスター・しょぎょうむじょう』と書かれた刻印が発見された。尚、当刻印には打ち消し線が引かれており、被せるように以下の文字が彫られていた。

・『ミスター・うけつがれるもの』という新たな刻印
・「ありがとう!!」という短文

詳細については現在調査中である。

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