綺羅星はきみの遥か先へ
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 見渡す限りの静寂だ。

 純白の月光と深紅の斜陽が交わる空の下、砂漠が地平の間に横たわっている。視界の端から端まで あるいは、その向こうまで 優しく波打つ砂丘が広がっている。歪みも境界も、ここにはない。
 別世界からの旅人ならば、穏やかで美しい場所だと言えたのかもしれない。ひょっとしたら、無垢だと言う人もいるかもしれない。でも、僕はそんな妄想に耽ってなんかいられない。僕は彼方まで続くこの砂漠の下に、何が埋まっているのかを知ってしまっているから。
 ここはこの星を包み込むほど巨大な墓場だ。僕の足元に、七〇億の人々の魂が眠っている。元が何だったかもわからないほどに磨り潰され、刻まれた魂が。
 知っているのだ。僕は。僕がこの魂たちを、ここに埋めたんだから。

 なあ、兄弟よ。あっという間だったじゃないか。僕らがいなくなってから。

 始まりは、そう。僕が知らないきみが僕の力に気づいた日だ。何回かの前世の間じゅう、僕が自分自身からも隠し通していた力だ。なぜ隠していたのか、今なら簡単にわかる。
 僕は、自分のアパートの窓の外を見ていた。そうすれば星が見えるかと思ったのだけれど、僕は代わりにきみのことを見た。きみが自分のことをバラバラに引き裂き、そして煌めいて燃え上がる姿だ。そこまでして、きみは僕の力から遠ざかった。どうしたらいいか信じきれなかったから、きみは全部捨てることにしたのだろうね。きみは自分のことを知りすぎた。僕もそうだったと思う。少なくとも、ある瞬間ではそうだった。
 きみのことなんか見えるはずがない。みんなが口を揃えて僕にそう言った。僕のアパートというのは、実は地下八〇〇メートルに埋まっている小さな収容房だったからだ。自分の世界に引きこもっている僕にとっては些末なことだが。
 僕はきみが終わる瞬間を見た。そのときに初めて僕は気付かされたのかもしれない。気づくまでにどれだけ経ったかなんて、わからないけれど。あの時、僕の中の何かが僕の力と意志そのものを何処かに捨て去った。僕はそのときに、永久に抜け出せない現状維持に囚われたんだ。
 僕の頭の中にしかいない上司のためにスプレッドシートを埋めたり、九時に居もしない人と嘘の会議予定があったり、妄想の中にしか居ない女で僕のことを慰めたりする日々だった。永遠に退屈で、代わり映えしない普通の人生だった。
 でも、あの夜に全部終わったんだ。きみの魂が寄る辺ない綺羅星を纏って燃え上がったあの夜に、僕はその明かりで目覚めた。そして、死んだのだ。

 僕のアパート 実のところ、ただの収容房だけど から抜け出したときの僕は、もはや僕じゃなかった。精々、地虫がいいところだった。地虫と違うのは、自分が這っている土を多少なりとも弄くれるその一点だけだ。財団の連中は僕のことをただの低度な現実改変者以上のものではないと思っていた。僕の鬱屈した力とノイローゼをひとまとめにしただけでは、差し迫った脅威にもならない。そう。財団は正しかった。僕はSCP-1915と呼ばれていて、それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。
 でも、あの日。1915は死んだ。堕ちた綺羅星を見つめて。その光が守衛を僕の房に打ち付けた。まるで虫けらみたいだった。そして、その光がサイト-17を跡形もなく破壊して、僕の足元の暖かく白い砂に変えたのだ。実に華々しい光だった。
 その光に人格を伴うような実体はない。何もないのだ。目標もない。そいつの行動には、指針もない。結果も然りだ。意志もない。欲望もない。復讐もない。支配もない。自由もない。そうなんだ。どうしても僕がそいつのことを形容せねばならないのであれば、そいつは「くうきょ」だ。物が嵌っているべきところから、深淵が覗いている。目的も意志もなく、白痴なる力そのもの。すなわち「くうきょ」なのだ。

 僕の足元の砂は、温かいままだ。つまり、遥か上の方で太陽が煌々と光っているということだ。僕はなんで太陽だけそこ残っているのかわからない。太陽以外の全部が、あまりにも早く消え去ったというのに。「くうきょ」は天空の上まで飛んで太陽をもぎ取ってしまうことさえ簡単に出来たというのに。
 この太陽は人類の思い出の猿真似だ。僕はそう考えることにした。僕の中のほんの小さな一欠片がずっと肉体に執心 そう、なにかに埋まったダニみたいな頑固さで しているのを知っていて、馬鹿にさえしているんだ。でも、これは「くうきょ」のせいだってことを忘れちゃいけない。「くうきょ」は何かを馬鹿にすることだって出来ないんだ。

 すぐに仕返しがあった。サイト-17が破壊されたあとのことだ。まず標準収容チームがやってきた。最初にしては、財団が強大な力を以てサイト-17に収容できるようなどんなアノマリーと対峙しても大丈夫な程度には強かったけど。とにかくそいつらが帰還に失敗して、到着の報告すら満足にできなかった時、財団は更に過激な手段に出た。
 常に孤立していたものだから、サイト-17は自由に動くことが出来た。ガンシップと歩兵分隊。空爆と砲撃の弾幕。その時はSCP-1915と見做されていたモノに対して、財団は炎神の拳を振り下ろすかのごとく苛烈であった。爆音と高熱が、風となって吹き荒れていたのだ。
 「くうきょ」が本当に空虚じゃなかったら、塵一つこの世に残らなかったに違いない。でも、実のところ「くうきょ」はあの日も空虚で、そいつの周りに引っかかっていた僕の肉の切れ端 それも、見せかけの なんか何でもなかったんだ。だから、「くうきょ」は全部を受け入れた。だから、財団が初めに見せた憤怒はすぐに。そう、たち消えになってしまったんだ。
 そのうち「くうきょ」は歩きだした。歩きだしたといっても、そんなに速いわけではない。何日かの間じゅう、「くうきょ」はゆったりとした足取りで堂々と歩いていた。財団が持てる全てを「くうきょ」にぶつけても、「くうきょ」は素知らぬ顔をしていたんだ。僕はずっと僕の心の奥底にある閂の内側から見ていた。「くうきょ」は無感情で、無遠慮に歩いていて。一歩々々の足跡からこの広大な砂漠が生まれて。「くうきょ」の先触れたる綺羅星と同じくらいに計り知れず、止められなくて。

 僕らは孤独なんかじゃない。強情な非定命たちは生き残っている。本当に哀れな者どもだ。三つの罵声を聞きながらも、大陸の向こうの古代人は元気に彷徨っている。そいつは自分のことを唯一人残された者で、休息を許されているのだと思っているようだけど、本当のところは違う。
 この地面の下には、一人の魂が埋まっているんだ。この大地に、正気を土塊ほどまで削られる苦しみにあえぐ魂が。黄金と紅玉の牢獄に、永遠にとらわれてしまっているんだ。
 嘗ては笑っていた神が、どこかに臥せっている。横になっている彼に、砂はゆっくりと積もってゆく。すべてを受け入れているようだ。昔は世界に神の愛を、人類には綺羅星を約束した神だ。懸命に残り火と信者たちを集める神の指を、降り積もる砂が撫でてゆく。それがあまりに儚い火と、死んだ信者でも。すでに滅んだものだとしても。

 歩いてさえいれば、そのうちどこかにたどり着くことになっている。とにかく、全員の最高の努力をまるっきり無視して、「くうきょ」は最初の都市にたどり着いた。そいつの足元を、まるで従順な子犬みたいに砂がついて回っていた。その都市に来る前に、村とか町がいくつもあったはずだ。だけど、「くうきょ」は気づきもしていない様子だった。ただ通り過ぎて、気まぐれに砂に変えていく。それだけだ。「くうきょ」はそれしかできないのだ。
 「くうきょ」が都市の通りを歩いているとき、機動部隊のみんなが数分間だけ稼いだ。数分間だけ。市民が避難する時間だ。事実として起こってしまっていることを隠し通すなんて、この時点で無理な話になっていた。当然の話だ。だって、都市の大通りが根こそぎ沈んでしまったからだ。穏やかに押し寄せる砂の波に呑まれてしまったからだ。
 もちろん、財団は都市そのものを避難させようとした。「くうきょ」はもはや押し止められないと気づいてしまったのだ。でも、僕が人生 つまり、会社の奴隷だった永劫の期間 で一つ学んだことがあるとするなら、都市を動かすほど大規模の作戦は、立案するだけでもひどく時間がかかるということだ。そして、財団にそれをするだけの時間は残っていなかった。救える人々を救えただけでも奇跡だった。それ以外の人々については、語らないでおこう。

 夜の帳が下りるまで「くうきょ」は待った。異界からの凍りついた光に照らされて、オフィス街と住宅街の交わるがらんどうに立つ孤独な人影。かつては蒸気機関車が走っていて、ずっと新型を待ちわびている線路。実に奇妙な風景だったと思う。
 要するに、「くうきょ」は星が見えるまで待ったんだ。ひとしきりそうしてから、「くうきょ」は燃えた。熱はない。光も命もない。そんな炎だった。都市に穴が空くほど強い炎だ。
 その穴には無が満ちていた。財団がいつも言っていたように、現実はに虚空られないのだ。いくらそんなことを言っても、「くうきょ」は現実性のことなんか一つたりとも気にしていない様子だった。
 それで、なんというか。「くうきょ」はいなくなったんだ。僕だってどう説明したらいいかわからない。存在さえしないものを説明することなんて、出来やしないんだから。あるときのその都市には五十万からの人間が詰めていて、瞬きのうちに全員いなくなる。一粒の砂さえも残らなかった。無が満ちる傷跡になってしまったんだ。

 その時に財団の方も、一人じゃ立ち向かえないと気づいた。少なくとも、僕はそう思う。来たる数ヶ月の間、行進する「くうきょ」は財団の味方たち いつも味方だったわけじゃないけど と対峙することになった。連合の魔術師殺しと熱核弾頭による打撃。イニシアチブの聖戦士と聖遺物。狙撃銃だろうと、聖剣だろうと。地獄の炎だろうと、神の懲罰だろうと。「くうきょ」にとってはそよ風ほどでもなかった。
 すぐに財団の味方はいなくなった。僅かに残っていたとしても「くうきょ」をどうにかできるほどではなかった。だから、財団はかつての仇敵に声をかけたんだ。インク喰らいたちは狂気的な芸術を紡いで、「くうきょ」の無限の心を壊そうとした。アーキビストと司書たちは次元路から溢れ出て、三千世界の知識をもたらした。時計じかけの巨人たちは荒れ果てた純白を震撼させるほどの、鋼鉄の轟雷を降らせた。でも、それでも。やっぱり「くうきょ」にとってはそよ風ほどでもなかった。財団の敵も、いなくなった。
 どうにもならなくなった財団は、艱難辛苦の裏切りに出た。看守は、囚人を世に解き放ったのだ。これについても、僕は書き留めておかねばならない。「くうきょ」にとってはそよ風ほどでもなかったのだろうと思う。

 ボストンと呼ばれていた、どうしようもないほどの荒れ地。そこで「くうきょ」は二人の兄弟に襲われた。一人は兇悪で、もう片方は物憂げ。一人は暴威で、もう片方は気怠げ。なんにせよ、その二人は優雅で、息を呑むほどに美しい戦いを見せた。
 僕は二人の目の中に光を見た。気の遠くなるほどの日々の間いがみ合っていた二人が、いまは共に戦っている。長い不和を、少なくとも整理しようとする意志の光だ。後悔と希望を見た。憤怒と絶望を見た。でも、いちばん良く見えたのは生きねばならぬという決意だ。彼らは数千年の離別で育んだ憤怒と共に戦っていた。でも、「くうきょ」は満たされない。
 なあ、兄弟よ。二人で会ったときに、僕らもあの時の彼らみたいに居られたかい?

 黒海と呼ばれていた、ただの抉れた谷。僕らは神を自称する者と出会った。そいつは現実そのものを混乱に陥れて、目の中には爛々と自信の光が灯っていた。世界の根底にある法則を書き換えて、捻じ曲げる。「くうきょ」に計り知れぬ破滅をもたらすために。地は凍り、燃え、そして波打った。空気が惨禍の嬌声を上げた。そして おお 神は雷光の外套を纏って闊歩した。時間そのものが、虚無の鉤爪となって「くうきょ」に喰らいついた。「くうきょ」の眼中に自分が居ないと気づくまでは。自分が臨んでいるのは、永遠に続く無そのものだと気づくまでは。「くうきょ」を満たすことができないと気づくまでは、ずっと。

 アッカの壁のすぐそば。砂の海嘯に呑まれた古代都市。僕らはそこで、二つの現身と出会った。一つ。その身は四つ脚で角を持つ。その頭には氷華の冠。その眼には銀河。その完璧たる力は絶対。二つ。一人の男。質素で、奥ゆかしい。しかし、宇宙の端まで包み込むほどの愛を抱く。地獄の底まで貫き通すほどの容赦ない憐憫を持つ。その二柱のうち、僕にはどちらがより尊きものだったのかもわからない。どちらがより怖ろしきものだったかも。
 その二柱は意志そのものとなって「くうきょ」に立ち向かった。その意志が僕らに降り掛かった時、僕は泣いてしまいそうになった。何者もこの二柱には抗えない。何者も抗おうとさえしない。でも、「くうきょ」は何者かですらなかった。何者かである資格さえもないのだ。僕はきみに、優しきパングロスがどうなったかを教えた。もう一柱についても。今は何一つとして、残ってなかったとしても。

 何ヶ月。何年。何十年。「彼ら」は僕らを訪れた。一つずつのときもあったし、何体かまとめて来たときもあった。あるときは激しく、あるときは虚ろな目で。ともかく、財団の囚人たちは「くうきょ」にその身を投じた。
 それぞれのアノマリーの動機なんか、僕にはわからない。でも、もしかすると。「くうきょ」みたいな存在と世界を共有するなんて、あまりにも嫌で嫌で嫌すぎたのかもしれない。それで、狂気がはびこったのだと思う。僕は「彼ら」のことをとやかく言うつもりなんてない。
 結局、牢獄は空っぽになった。世界も渇ききった。少しずつ、少しずつ。一つずつ。一つずつ。生命が世界から失われていった。そして、たった一つだけの都市が生き残った。

 何の力によってかわからないけれど、僕は自分の意識を僕らの行く先へと飛ばすことを許された。最後まで残ってしまった人類の一欠片を震えながらも抱擁する心許ないくらいの要塞に向かって、「くうきょ」は歩みを進める。僕らの周りの砂が大地に根付く最後の木の一本を飲み込んだ。僕にはこの儚いところに残っている生命が、安っぽい蝋燭の火かなにかに見えた。それも、台風の前に一生懸命に灯っている火だ。この瞬間。黄昏が粟立つほどの赤と橙となって、象牙色の砂上で踊る瞬間。僕は全部を感じたんだ。きみのためだ。兄弟。僕は目撃したんだ。

 鬱屈とした狭い部屋に、一人の女が居た。彼女はひときわ小さい寝床に丸まって座っていて、祈ることさえも出来ていなかった。赤ん坊の頃に母を失った彼女だけど、今はもう子どもではない。彼女の体にはあの事件の傷跡が深く残っている。女の母は子を喰らう者の前に立ちはだかって、一歩たりとも動かなかったのだ。娘もろとも地に伏せたときに、母は主への祈りを唄った。唄い続けたのだ。
 女の父は「くうきょ」との戦争の初日に亡くなった。聖戦士が聖なる熱情を目に浮かべて行進していたときだ。父は篤信の者であった。女の人生のなか、常に確かな存在感を示し続けていた者だった。後悔以外の何物でも動かすことが叶わぬ錨であった。
 父は娘に約束をした。必ず戻ってくると。嘘をつくつもりなんてなかったに違いない。でも、神は彼を見放したのだ。彼が神をもっとも必要とした時だったというのに。
 いま、ナオミは跪いている。どんどんと狭苦しくなる寝床に。祈ることなんて出来やしない。だから、呪うことにしたのだ。

 地下。湿った貯蔵庫 昔はチーズか何かを保存していたのだろう で、四〇かそこらの女が壊れたおもちゃを弄っている。若い頃の彼女は、不思議を形にすることが出来た。とても不思議なものだった。早すぎた老いが彼女の顔に刻んだ皺の一本一本に、僕はあり得たかもしれない可能性を見た。「くうきょ」や僕にはないものだった。消えかけの明かりの下。彼女の感覚もない指のなかで、腐りかけの木がやわらかい音を立てる。僕はそこに、可能性の死を見た。すべての可能性の死だ。イザベルはいつもどおりに頑固だったけど、彼女はこのおもちゃが最後だということもわかっていた。今日が終わったら遊べるものもなくなってしまうことも、同じくらいにわかっていた。

 残っている中で一番高い建物の屋上。ひとりの老爺が世界の終わりを見つめていた。彼は財団のエージェントだった。備えがよく、熱心で、招集された十万人のうちの一人だ。新人のエージェントを教育することが彼の職務だった。エージェントたる者の義務や思考を新人たちに詰め込むのだ。彼はこの手の仕事の達人であった。彼の教え子はことごとく長生きするのだ。己の師に感謝をするくらいには、少なくとも。でも、今の自分は何者であろうか。彼は考えた。砂に溺れる、軟弱な最終防衛線を見ながら。生意気な愚か者が、たったの一日で築き上げた防衛線だ。
 彼の息子や娘たる教え子らも、死んで久しい。長きにわたる訓練と実務の中、彼はたった一つの真実を導き出した。真の終わりが来るときに、教え子たちの力など無に等しいということだ。財団はもうない。だから、彼もエージェントであることをやめた。生徒たちはもういない。だから、彼は師であることをやめた。誰一人として残っていない。だから もうこんなことを言ったって、しょうがない。そうだろう? もうなにもない。この世でいちばん残酷な冗談みたいだった。彼は考えた。「くうきょ」が来ようが来まいが構いやしないと。結局、全ては「くうきょ」に飲み込まれているからだ。
 彼の後ろで、なにかの音がした。老爺が振り返れば、皺だらけの灰色のスーツと型くずれした帽子 フェドーラかなにかだろう に身を包んだ鼠めいた小男がいた。男は老爺のことを見つめる。しかし、何かを言う様子はない。ロンバルディは後ろを向く。笑うべきか、泣くべきか。そんなことも、わからない。
 間もないうちに、老爺はただの物へと還った。

 こんなものが終焉なのだ。静かで、小ぢんまりとしていて、勇気と偉業の簒奪そのものなのだ。大義名分などない。あの夜、母なる地球の上に人類が居た。次の夜には、もういない。それだけの話だ。

 兄弟よ。綺羅星はきみを待ってくれなんかしない。きみが僕の力を奪って、きみが自分を天空の向こう側で燃やし尽くしたとき。綺羅星にとっては、きみのことなんかどうでも良かった。綺羅星は人類のことも待ってくれない。人が結んだ約束や、人ならざるものが人類とした約束を。なら「くうきょ」はどうなるんだ? 僕は?

 この世の中で最も恐ろしい怪物だったのだ。どう考えても、どう見ても。僕らは。あるいは、僕は。どんな別世界だろうと、そうだったのかもしれない。
 それでも。兄弟。なあ、綺羅星は待ってくれているんだ。僕らのことを。僕のことを。正しいことなんかあるものか。ありもしないものなんか、求めたって仕方がない。でも、事実は残るんだ。なあ、兄弟。綺羅星はきみの遥か先へ。でも、僕なら少しは届く。届くから、抱きしめることだってできるんだ。

 僕も逝ってしまうのだと思う。そう長くないうちに。

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