彼らは大型の脳を持つ。立体的な視野を有す。
対向性の指を生やし、二本の脚で大地に立つ。
もしそんなステノニコサウルスが生き延びていたら、
彼らは一体どのような姿に進化しただろうか?
……それはきっと、我々ホモ・サピエンスにとても似通ったものになったのではないだろうか。
デイル・ラッセル
目まぐるしい速度で宇宙を駆けるその惑星に、今、我々は別れを告げる。
母なる地球から、星々の煌めく暗黒の空間へ。
広大な青い海と生い茂る緑の大地の狭間には、ぽつぽつと背景を穿つように、空に届くような荘厳でちっぽけな建造物が聳えている。コンクリートや鉄の中に散りばめられた人工の灯りは、各大陸に点在する1000万都市の各々で闇に打ち勝ち、眩いばかりの見事な夜景を浮かばせている。経済・文化・社会のそれぞれが絶頂の座を欲しいままにする、文明の紛うことなき黄金時代がそこにある。湯水のように注がれた金属資源が精錬を受け、広大な電波通信網が空に架かる。この惑星に現れた偉大な科学技術の結晶は、我々を全知全能の神に類する存在にまで到達させたと言っても過言ではないのかもしれない。しかしそれは、遥かな天蓋の果てへ逃げ去らざるを得ない我々を見るに、ある種の矛盾 あるいは陰湿な皮肉を孕んでいるように感じられる。
ぽり、と肌の鱗を掻く。今やかろうじて足に痕跡を残すのみとなった祖先の鉤爪から、今の我々が持つ平爪への進化。幾億にも渡って積み重ねられた指と手の変異の先に我々が直面したものは、地球環境の激変という形で我々自身に跳ね返ってきた。人口増加による環境破壊、食糧危機、資源枯渇。あまりにも無秩序に繰り返されてきた収奪と、100億にものぼる莫大な人口の負荷は、地球表層の環境収容力を狂わせるのに十分だった。かかる事態にあって、我々は数世紀にわたり、考え付く限りのあらゆる手段を以て対応に尽力した。
しかし、文明の力ではどうにもならない事象というものは確かに実在する。かねてより懸念されていたマントルプルームの湧昇は、並大抵の破局噴火どころではない壊滅的災厄をもたらすと予想された。単なる部分熔融とは根本から異なる噴火機序を前に、大陸地殻が開門され、地を昇るマントルそのものが地表で剥き出しとなる。この世界の地図を永劫に書き変えられる未曾有の災害を前に、種の存続を目指す我々の意志は大きな揺らぎを受けた。加えて決定打となったのは、地球への直撃が確実視された大質量の小惑星であった。狙い澄ましたかのように太陽系第三惑星に近づくこの天体は、今から数十年後の春に大気圏を劈いて海を沸かす。大地を融かし、生命を薙ぎ払い、塵で地球を閉じ込める。生態系を瓦解させ、我々が存在すらも知りえない種まで含め、多くの系譜を断崖の縁に追い詰める。太陽の重力に導かれた巨大な岩石の軌道への干渉は、大地の下で鳴動する営力の制御よりも遥かに絶望的なものと予想された。
我々の意図せぬ厄介な遺物、そして地球内外からの脅威を前に、残された生存への道は恒星間移民計画のみであった。仮に故郷が致命的な被害を受けても、文明の復興に至らなかったとしても、限られた同胞を宇宙で延命する。灼熱の金星は不適。火星は重力が不十分。月は言わずもがな。ともすれば我々が目指すべきは、外縁天体の彼方で異なる重心に公転軌道を規定される、生命の居住を許す惑星たちである。幾万年の航行を可能とする巨大なコロニーは消耗した地球の生物圏を発ち、何重もの緻密な方程式で構築された航路に乗り、銀河の隅々へ広がっていく。およそ50億の同胞を母星に置き去りにしたまま、私を含め、残り半数の者たちは生存権確保のため宇宙へ逃亡する。合理的にして苦渋の選択だ。急ピッチで建造される宇宙船を前にして、崇高な文明の築いた治安と風土はどこへやら、デモやテロは日常茶飯事になっていた。
そうした妨害をものともせず、やがて竣工は完了した。一機、また一機と、無尽蔵の技術を搭載した世代間宇宙船は終わりのない暗闇に身を投じた。移民プロジェクトの一翼を担っていた私も上に命じられ、ようやく一隻の宇宙船に腰を落ち着けた。こうして今まさに紡いでいる思索の糸も、清潔な内装と安全な環境の整った屋内があってこそのものである。
部屋のほかに与えられたものは、船内活動に適した過度の装飾の無い衣類と、肉と脂を練って固めた完全栄養食、そして厳正な肉体的・遺伝的選別を受けた麗しき配偶者である。初めて寝室に足を運んだ時には、見知らぬ若い女性が毛づくろいをしていて度肝を抜かれたものだ。滑らかで艶のある羽と、血色が良く端正な顔立ちは、移民船へのチケットを与えられるに十分なライセンスを示している。あなたが私のパートナーか、と双方ともに認識した。
彼女との会話は弾みに弾んだ。個人的な身の上話、地元の文化、従事していた職務、流行りの大衆文化に至るまで、母星への惜別の情を吐露するように胸の内から流れて下りて混ざり合った。やがて昂った刺激は体の動きを駆動した。互いの手を下腹部に当てがい、寄せ合った身に拍動を感じ、熱を帯びた羽毛を擦り合わせあうに至った。宇宙船が夜間シフトに入った後は、誰の視線にも晒されない暗がりの下、芯から火照った身体を重ね合わせた。上層部より課せられた命脈を繋ぐ義務と、生物の本能。その2つが混在した行為に他ならなかった。
夜も更け、結露したグラスに波を立てる飲料を携えてシャワーから戻ると、妻は部屋の壁に備え付けられたスクリーンを眺めていた。何隻もの金属の塊に囲まれた母星は、青い小さな丸となって遥か遠くで光っている。高画質のスクリーンの1つ1つのピクセルは、かろうじて斑に混ざった緑色の植生を彼女の網膜に届けていた。
「ねえ、貴方」
彼女の言葉は私の注意を引いた。
「移住計画について口は挟まないつもりだったのだけれど、ごめんなさい。どうしても気になってしまって」
彼女は、何か恐ろしい物に触れるような表情を浮かべている。もしも我々が矮小な哺乳類であったならば、皮膚から塩の混ざった水を滲ませていたのかもしれない。想像絶する圧力、圧倒的な離断、苛烈極まる太陽の核。絶対的な何かを背後に置いたかのように、彼女には小さな震えが見えた。
「アレは、地球に残していいの?」
「アレというと 」
妻が手をやっている制御盤から続き、スクリーンへ視線を向けた。無数の宇宙船の下に覗く緑色を見て、妻の瞳の内奥に潜む懐疑と不安に察しがついた。
「ああ。アレは……」
言葉に詰まる。私とて、これまでの過程であの仕組みに何も思うところが無かったわけではない。惑星系を股にかく軌道を眺めているときも、マントルの上昇に伴う大地の微動を感じたときも、思考の奥底には常にあのシステムが存在感を放ちながら潜み続けていた。隕石と火山の迫る墓場の星に、同胞とともにあの機構を残す。良心の呵責は砂利と岩石を混ぜた坩堝のようになって私の精神を喰らい続けた。濁流に叩きのめされた私の精神は、細い1本の枯れ枝のようになって、贖罪 否、正当化の思考に縋って立ち尽くしていたのである。
「物資が限られている。宇宙に送り出せるのは、我々50億が上限だ」
ようやく言葉をこぼした。口に出してみると、その内情は実に、実に冷淡なものだった。
「100億は救えないんだ。我々がすべきことは、地球を旅立つ50億の生存確率を最大限に高めてやることだ。100%とは口が裂けても言えない。10%で十分だ。1%でも御の字だ。小数点の先に幾つゼロが続いたとしても、それが無に近似してしまえる水準に至るまで、私は抗い続けると心に決めた」
そこで言葉を切り、スクリーンに目を向けた。青く光っていたあの星は、既にディスプレイの解像度を超過してしまっている。再び故郷を目に入れるには天体望遠鏡が必要だ。それでも、如何に質の良い機材を揃えたとしても、今後旅することになる想像絶する距離の前では、ものの数日で意義を失うことが目に見えている。
「恩恵を享受するには、私たち自身の寿命じゃ足りない。私たちの子供でも、またその子供でも無理だろう。気の遠くなるような時空の果てで、もっと先の、ずっと未来の、子々孫々の安寧のために 私たちはあの装置を残した」
己の真意は判然としない。これは自身の本心の発露か、あるいは空虚な自己防衛に過ぎないのか。
「いつか必ず。きっと 」
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
6,600万年後。非鳥類型恐竜を含む多くの生物種が絶滅を迎えた遥か後、アフリカの地に端を発し、全世界で勢力を増した者たちがいた。彼らは傲慢の末に自らを最高位の動物 「霊長類」と呼称し、あろうことか Homo sapiens 「賢きヒト」という種名も冠した。ディノサウロイドが滅びたこの時代において、彼らが地球の覇権を握っていることは疑う余地もありはしない。彼らは2本の脚で立ち上がり、カメラ眼で真っ直ぐに物を見つめ、異様に巨大な脳を持った。
ありとあらゆる道具の利用を許した彼らの手と指は、他の生物に対して優位な立ち振る舞いを可能にした。彼らは他の動物の多くが畏れる炎を操り、まだ定式化されていない古典力学を経験で牛耳った。彼らは森林を切り拓いて植物を伐採し、人工的な「自然」を生み出して農業を開始した。作物栽培に要する費用の投資と引き換えに、彼らは安定した社会制度を確立した。この社会構造はムラからクニへ至り、地球上には様々なイデオロギーを抱えた国家が醸成され始めた。
他方、彼らは猛獣たるオオカミを手懐け、ウマを飼い慣らして移動手段とした。彼らの手で改造を施された生物種の用途は様々だった。食糧の供給、廃棄物の処理、外敵からの防衛、遠隔地との伝令、物品の運送 あるいは娯楽を提供する愛玩動物として。ある者は過剰な肉を付着させられ、あるものは素早く走れるよう脚を変えられ、ある者は全身の骨格を歪められた。生物は人類に奉仕をし続けた。
集団の成熟と生物利用技術の躍進は、戦争という果実を生んだ。戦争は技術を進め、組織を変化させ、流動する情勢は技術の進歩を左右する。次なる火蓋が切って落とされる。人類史上において絶え間なく入り乱れるこの複合的な連鎖の終着点に位置していたのは、協定世界時にして2020年1月2日の出来事 SCP財団という巨大組織による、全世界への宣戦布告である。
◆ ◆ ◆
約1400万の生活が営まれる日本国の首都・東京にも、SCP財団なる狂気の魔の手は振り下ろされた。爆発した阿蘇山から勢いよく流れ下る火砕流が九州の中央部を薙ぎ払う頃、東京に集中したオールドメディアが緊急報道を展開するその背後で、花粉や胞子ほどの浮遊物を含んだ黄緑色の煙が人口密集地の各所で立ち込めていた。

異様な光景と異臭に気を取られた数千人の民間人は皆、刺すような痛みを呼吸器官から順に全身へ刻まれた。腹の底から響く怒声を上げた彼らは、金属を捻じ曲げるような高い悲鳴を奏でた彼女らは、たちまちのうちに痙攣を伴って不気味に変形した。手を繋いだ恋人は重なるように倒れ、母親は腐り落ちる乳児を庇って崩れ、老いし者は支えにならない杖を弾き飛ばし、若き者は手足を振るってのた打ち回り 身を仰け反らせ、喉を掻き毟り、地べたを這いずり廻って斃死した。死に至った生物が力無く転がる様は、阿鼻叫喚の極致と呼んで差支えの無いものであった。
生物兵器を使った空前絶後のテロ事件。しかし意外にも、この常軌を逸した光景の中で、炭疽菌、野兎病菌、ボツリヌス菌、天然痘ウイルス……国際社会が目を光らせる名だたる病原体はこぞって沈黙していた。財団の保管庫にこうした細菌やウイルスのサンプルは掃いて捨てるほど蓄積されていたものの、実際に彼らが白羽の矢を立てたものは米国政府の警戒リストに記載の無い新手の珪藻類だった。動物体内に浸潤し僅か数分で死に追いやる、細胞レベルでの虐殺を可能とする強制的侵食装置。励起された化学エネルギーの塊、二酸化ケイ素に覆われた時限爆弾。 SCP-798-JPである。
財団はこの藻類のサンプルを数多有していた。液体窒素気相で冷却された遺体を収蔵庫から引きずり出し、芽胞に勝る安定性の加護を受けた、深い冬眠に落ち着いた珪藻の生理活性を叩き起こす。熱エネルギーを与えて励起すれば、SCP-798-JPは未曾有の進行速度を誇る生物兵器の韋駄天と化す。街に火の手が上がろうものなら冪乗で数を増す。さらに悪いことに、ヒト-ヒト同士の接触感染だけでは飽きたらず、彼らは航路を開拓した。上昇気流に乗ったエアロゾルは空気感染性を持つのである。酸素を吸ってエネルギーを取り出す限り、好気性生物は彼らへの門戸を大きく開け放っているどうしようもない実情に置かれていた。
「ここから離れてください!地下に避難してください!命を守る行動を優先してください!」
けたたましく鳴り響くサイレンの中、滞空する無数の垂直離陸機は上空から膨大な水を撒き散らして幾つもの虹を架け、また地表ではガスマスクを装備した軍人が放水業務にあたっていた。世界オカルト連合の排撃班である。財団の凶行を迎撃した彼らは、蔓延するSCP-798-JPの処理に追われている。
彼らの放つ水は純粋なH2Oの化学式では記述できず、その実CH2Oを多分に含んでいた。
酸化メチレン、メタナール、ホルムアルデヒドの水溶液 都市に垂れ流されたのはホルマリンである。
ホルムアルデヒドの化学反応は曝されたタンパク質を次々に変性させ、あれよあれよという間に凝縮させていた。目を保護するガラスの向こうでは、とうに動くことをやめた変死体や今まさに藻類の巣窟になろうとしている黄緑色の塊が、痛烈な刺激臭を伴う無色透明の液の中へ情け容赦なく沈められていく。例え彼らが肺を動かしていようとも、1つでも多くの病原体を潰し、1つでも多くの感染経路を食い止める。現在の此の地でなく未来の彼の地を守るため、ヒトもろともに封じる措置を迫られていた。
幸いなことに、古くから地球に住まうSCP-798-JPのことはGOCも認識していた。大災害に翻弄される日本政府が洪水のように流れ込む膨大な情報に悲鳴を上げている頃には、GOCは過去の蓄積を浚って同定を完了していた。ぶくぶくと膨らみ死んでゆく民間人の症状は既知の疾病の中でも極めて特異的なものであり、この時点でほぼ確実な目星がついたと言えよう。そして遺体から採取されたDNAの塩基配列や不飽和調査ケトンは動かざる証拠であり、それらを手掛かりに彼らは病原体の断定を済ませ、暫定的対処法の確立にまで至っていたのである。
GOCが採用した対処法とは、火炎を使わず、高いホルムアルデヒドの高い反応性で以て生命活動に楔を打つことだった。莫大な液相で熱エネルギーを奪った上で、共有結合でタンパク質と架橋して変質させる。一部微生物ではホルムアルデヒドの分解特性が知られているが、SCP-798-JPにそうした報告は無い。標的の気の狂いそうな著しい炎症に襲われる地域住民の被害を度外視すれば、GOCの選択はこの上ない最善の策と言えるものであり、実際に彼らによるその被害は全体から見て無視できる些末なものに留まっていた。
GOCの決死の尽力と警察や自衛隊による避難誘導は実を結び、都内の感染加速度は微々たる変化を続けた末、一時的に負に転じた。感染者数の増減グラフは緩やかに変化していき、その具体的な数字を彼らが目にすることはなかったものの、主観的な実感となって隊員たちの意欲を駆り立てた。全戦力には程遠い氷山の一角といえども、財団の軍備はGOCと自衛隊による攻撃を受け、一部の運搬手段も破壊されたことで波及の勢いも衰えた。中枢機関の奪還も決して夢物語とは呼べない程度に希望の光を見せ始めた。
エアロゾルの爆心地から離れた場所では、質量とエネルギーに満ちた怒涛の人流を捌く、翻弄されながらも懸命にあがく警察官の姿があった。
「誘導します!皆さん、足元に気を付けて!焦らず落ち着いて行動してください!」
圧倒的な圧力に吹き飛ばされそうになりながらも、紺色の制服と警棒が波に飲まれながら翻る。年齢、性別、身体障碍の有無、言語の壁、無数の事項と戦いながら汗と唾とを散らす彼らは、激動の中で概況を見極めようとした。あと何十人、何百人が避難の手ほどきを要するのか。甘美な休息も脳裏をよぎる。視線を動かし、首を後ろに向けた。彼方から彼らの視界に飛び込んだものは、危急の暗示。否、危急そのものの具現だった。

翼が動く。
羽ばたきの躍動は重力の柵を超える。1羽、また1羽と吹き荒んでゆく迫り来る嵐は、逃げゆく人々を呑み込んだ。
鳥類がこの珪藻への適合性を示したことは、財団には嬉しい誤算だった。
高い視覚と聴覚を持つ、時速100kmでの飛翔をも可能とする無数の有翼生物。
天空を牛耳る彼らが感染因子と共存を果たしたのである。
都市に密着した鳥類種を中心に、夥しい数の嘴と爪は人の子の柔い皮膚からアノマリーを刺し込んだ。カラスは瑞々しい音と共に肉を刺突して襞のついた管を引き摺り出し、モズは変色したゲルを食い千切って有刺鉄線の先に連ねていった。張力が限界まで高まったヒトの皮膚は油膜のようにあっさりと破れ、鉄を感じさせる空気とともにドブの腐敗したような異臭を垂れ流した。寄生生物を介した生存競争。この地球上で幾度目かの生態系シフトが始まった。
勿論、人類は愚直にも無抵抗を貫き、みすみす霊長の座を明け渡したわけではない。駅で、空港で、商店で、病院で、工場で、大学で、政府機関で あちこちで銃声がこだまする。警察、自衛隊、GOCは即座に迎撃の構えを取った。目標は空を埋め尽くす鳥類の群れに他ならない。火薬と叡智の結晶が爆発的な加速を生み、鉛の塊が凶悪な運動エネルギーを孕んで放たれる。螺旋を描いた弾丸は尋常の生物ならば骨まで噛み砕かれる代物だった。
しかし、鉛の一閃が鳥を砕き散らせて抉り潰すも、その絶対数は遥かな不足に見舞われた。体を裂かれて羽毛を散らしながら撃墜される個体を差し置き、かつてリョコウバトの旅団が見せつけた圧倒的な数の暴力は、地表へ暫時の日食をもたらし、地上で蠢動する人類の処理能力を凌駕した。しなるように旋回して射線を躱わす。銃弾を掻い潜って肉を斬り、血を迸らせて毒を撒く。僅か2本の脚に質量を預けた人の体はいとも容易く吹き飛ばされ、筋繊維の変形する湿った悲鳴は濁流の羽音に掻き消された。
霧を巻き上げて莫大な奔流が都市を舐め尽くした後には、職場に急ぐ会社員や都心を楽しむ観光客の声はなく、ただ舞い降りた沈黙が一帯を支配した。黄土色に変容した有機体は、裂帛と地面をまだらに汚しながら無残な姿で野晒しにされていた。酷く弧を描いて膨れ上がった腹に、リンゴほどの腫瘍のように隆起した歪な顔面。口元には白濁とした泡がこびりつく。地面に叩き付けられた顔や千切れ飛んだ指からは、タールのように黒いどろりとした液体が重力に屈している。潰れ、裂かれ、混ぜられ、啄まれ、雑巾を絞ったようにぐしゃぐしゃになったそれらがかつて人間であったことは、変質を免れた衣服と筋力を失った骨格が静かに物語っていた。
情熱的な火焔の舞踏と鮮烈な飛翔能力による蹂躙を経て、東京はたやすく首都機能を喪失した。一世紀半ぶりの大火の中、人類が築き上げた建造物が倒壊していく傍らで、鳥類は陽炎の立ち昇る街を闊歩した。恐竜たちを焼き尽くした森林火災を彷彿とさせる、6,600万年の時を経て蘇った焦土の上。原型を留めないほど叩き潰された肉塊を脇に、鳥類の系譜の末裔は再び地上を歩いていた。
◆ ◆ ◆
時刻を同じくして五大都市の各地でも同じ煙が立ち上り、列島を支えた遍く経済圏は総崩れを目前に控えていた。沈黙を確認した財団は、既に解き放つ用意をしていた異形の者を地方へ差し向けた。百万から数十万の命の暮らす有力都市に波濤が押し寄せた。涎のように滴るてらてらとした粘膜に覆われたSCP-3199の卵が各地に投下され、嘴に歯の並ぶハトの群れ SCP-3683も空輸され、人間の駆逐を開始した。ホモ・サピエンスの勢力図はあちこちで上書きされ、瞬く間に塗り潰されつつあった。
やがて日本のある地では、光沢を持つアスファルトの上に十数メートル程度の距離を空けて明るい何かが現れ始めた。
それは骨である。ヒトと思しき動物の骨である。脳を護っていたと思われる丸みを帯びた骨が、眼球を収納していたであろう穴を晒したまま、路側帯の上で無造作に転がっていた。残虐で、しかし緻密な頭蓋を綺麗に残すような芸術的なまでの上品さを兼ね備えた、何かしらのアノマリーの蹂躙を受けた後であるらしい。おおよそ数万に上ろうかという骸の数々は白い斑点となり、太陽に照らされた大地の上に静かに浮かび上がっていた。
地上を席巻した人類が消え去ったにもかかわらず、野山に住まう哺乳類や叢に潜む夥しいまでの昆虫類は不思議と姿を見せていない。傍をアノマリーが闊歩しているからか、あるいは他に理由があるのか、死肉のおこぼれに与ろうという者は一匹たりとも居なかった。肉片がほんの僅かにでもこびり付いてさえいない現状があるとはいえ、骨の中の有機物を探し求めることすら犯罪とでも言うかのような静寂は、食物連鎖に差し込まれた何かしらの異変を体現しているかのようだった。
一つ例外を上げるとするならば、それは植物だった。動物が静まり返った不自然な事態にあっても、付近に茂った植物は、養分を吸い上げるためだろうか、転がった骨の方へゆっくりと根を伸ばしていた。人間という頂点捕食者が溜め込み続けた栄養分がその死に伴って解き放たれた今、突如として降って湧いた栄養塩と有機物は青々と茂る草の礎になろうとしているのかもしれない。複雑な意図も煩雑な感情も無くシンプルな代謝に律される根の伸長は本能的に霊長の骨を捕え、ただただ機械的で最適化された動きを以て、鬱蒼とした緑の中へ微塵まで貪り尽くすかのように沈めていった。
なお、財団が手に取った殺意の矛先はHomo sapiensという高慢に満ちた学名を頂く唯一種に限らず、それに近い機能を持つ者には満遍なく向けられたようである。人類の根絶に乗り出す以前に、ヒトへの共感性を持つアノマリーは閉鎖的なコンクリートの建物の中で大粛清を受けた。その悲鳴が漏出することはなく、彼らは外に居た誰の鼓膜も振るわせることなく息絶えた。果てた異常存在は人知れず処分されたが、いまだ人間社会に潜伏しているアノマリーたちもヒトとともに虐殺の憂き目に遭ったようである。
日本国を無政府状態に陥れ、東アジア一帯も同様に壊滅させていた財団は、 果たしてその一環なのか 熱核弾頭の配備をも計画していた。文字通りの都市鉱山を掘り起こし、自動車や家屋を破砕して熔融し、廃材から兵器を生む。無論GOCをはじめとする他の勢力の沈黙を前提にこそするものの、東シナ海からベーリング海峡に至るまで約10万発の核弾頭が配列し、海岸沿いに壮観な眺めを展開する計画まであった。世界情勢を指1本でひっくり返すことも可能であろうこの謀略の果てに、彼らが何を目指すのか。それは定かではない。
◆ ◆ ◆
さて、財団の手は日本全国に伸びようとしていた。確立しきっていない包囲網を抜け、血管を張り巡らせていくように次々にアノマリーが輸送されていく。SCP-798-JPのさらなるサンプルを積載したトラックもまた路上を走行していた。都心の混乱がインターネットを介して伝播していく中、財団の爪牙はまた別の地の動脈に突き立てられようとしている。行政、メディア、ライフライン。より多くの人生が渦巻く地へ地獄は歩を進めていた。

市街地に向けトラックを走らせていた財団の運転手は、人間性か、あるいは何か重要なものを欠落したその瞳の上に、生い茂る水田を映し出していた。首を垂れる稲穂は黄金色の絨毯をなし、この国で最期になるであろう人類文明の絶景を掲げている。数千年にわたって培われた技術と文化の果てに、稲は人間同士の闘争など露知らぬ顔で佇んでいるように見える。一面に広がる豊穣の地に対して運転手は特に感慨に浸る様子も見せず、アスファルトの上を走り去っていく。
ふと、違和感に気づく。はじめはほんの少し鎌首をもたげただけに過ぎなかった違和感は、やがては大きな当惑、困惑の渦となって運転手の内奥でうねり始めた。人類の根絶を開始した際、GOCや壊れた神の教会が立ちはだかるであろうことは読めていた。人類勢力の抵抗があることは火を見るよりも明らかな、言ってしまえば自明の理であった。
しかし、これはどういうことか。
2020年1月2日。年が明けたばかりの厳冬期に、光り輝かんばかりの稲穂が存在を主張する。硬いプラントオパールを孕んだしなやかな葉が、細く緑の反射を浮かべている。
イネ科の植物はその大多数が1年で枯死するはずだ。だからこそ日本人は、否、人間は、1年間に定義されたイネ科の生活環を利用して収奪を繰り返してきたのである。1年以内に結実し種子を残す草本は、権益を重視した社会構造の構築に理想的であり、古代の人類を魅了してきた。温暖な春に葉を伸ばし、冷涼な冬に立ち枯れる。そのサイクルからの逸脱が眼前で起きている。
かつての体制の財団ならば確保・収容・保護の対象と見なし、時間が巻き戻されたかのようなこの超常現象に向き合ったことだろう。達成すべき大いなる目標のため、運転手は平静を保ちながら水田の脇を通り抜けた。しかしアクセルをふかしてハンドルを切るその姿は、明らかな異常を放つ稲から却って逃げ出すかのようだった。
やがてしばらくも経たないうちに、ホロコーストの執行者から見て計算の枠外に位置する、鋭利で破壊的な異変が瞳の先に浮上した。道路に散らばる人間の遺体 より厳密には遺骨である。
(これは )
人間の肉を食らい尽くす生物など、財団の管理下には幾らでも居る。従来の捕食者から考えにくいものであっても、骨に脂や腱の一欠片すら残さず綺麗さっぱり平らげるような怪物と聞いて、片手に余る程度には容疑者が思い浮かぶ。さらに言えば、報告書の山の大部分は運転手には未知の領域であり、想像を超えたアノマリーなど計り知れない。地面に転がる骨の存在自体は運転手の知識と経験と直感に基づいてさほど問題とはされなかった。
だが、より大きな問題がある。それらのアノマリーが何であったとしても、まだこの地に放たれてはいないということだった。
運転手の身に奥底から湧き上がったのは『無』と形容すべき何かだった。絶対的な禍殃、圧倒的な凋落。一切の濁りも曇りも帯びない、暗黒ともつかない限りのない透明である。財団職員として死線を潜り、数々の恐怖を経験してきた運転手の感覚が、一欠片も残さず完璧に拭い去られたような錯覚があった。
強いて言えば、彼は『死』を察知したのかもしれない。しかしそれは、何かを腐らせたような胸を悪くする甘い瘴気ではなく、徹底的に何かを消し去る予兆だった。恐怖心は消えた。焦燥感も去った。かといって、諦念が残されたわけでもない。山脈よりも深く穿たれ、海溝よりも高く聳えた、断絶の虚空がそこにあった。
現実世界における数秒が過ぎ去り、男は正気を取り戻した。ブレーキペダルから足を離し、解放したドアから宙に投げ、そのまま放物線を描いてアスファルトに着地する。反作用が体を駆け抜け、体幹が地球の引力を退ける。地面に散らばる骨を調べようと、重心を移す その刹那だった。
男の鼻が崩壊した。痛みは無い。ただ、鼻を形作る肉が塵に変わり、空気の中に漂って蒸発するように消えていく。僅かな脂と飛び出す血や汁はそれぞれ混ざり合い、不定形の雫となって落下していく。次々に顔から生まれる微小な粒子は穏やかに吹き出しているが、しかし着実に男の体積を減らしていく。もしもこの場に顕微鏡があったなら、男は潰えるように細切れになって空気に還る己の細胞を間近で観察できたことだろう。
危機を察した。神経も確実に削られているこの状況で、痛みを伴わないのは却って異様な有様だった。文字通り目と鼻の先で進む現象の見当も付けられない運転手は、この場でただちに執ることのできる防衛策を選択した。足のもつれる思いをしながら運転席へ駆け込み、座席に飛び込みながら腕を伸ばす。伸びきった指はダッシュボードに着弾し、シンプルな電気回路で結ばれた、後方に鎮座する噴霧装置を起動した。
男は消えた。接続を失った体毛と骨を散らし、崩れ落ちる衣服と座席に体液を染みわたらせ、男はこの世を立ち退いた。勢い良く放たれる黄緑色の霧の音、周辺住民を根こそぎ抹殺するための噴出音を背景に、男の生命は消滅した。 まるで何者かにボタンを押され、強制終了されたかのように。
男に代わって出撃した、黄緑色を帯びた獰猛の化身もまた、その攻撃はむなしく空を切っていた。密閉されたトラックの聖域から放たれた死の煙は、殺戮の激突をなすこともなく、致死の拮抗に至ることもなく、逆に彼ら自身が終焉に身を捧げる局面を迎えていた。2,000万年に亘って死を振り撒いた珪藻の群集はこの瞬間において自らの破滅と向かい合った。もし彼らが多細胞生物で、神経細胞を有し、脳を持ち、発達した思考能力があったとしたならば おそらく、この異常事態に戸惑いながら、自らの体が消失してゆく不自由さと異質さを痛感していたことだろう。
何百万、何千万、そして何億もの個体がミストの中に含まれているが、その1個1個の細胞が悉く分解を受ける。単に緻密で、繊細で、ただ生物学的芸術性を纏ったμmオーダーのガラスの粒子として浄化されていく。
絶息の渦の中で、SCP-798-JPが絶えていく。
非常にミクロの視点で見ると、SCP-798-JPのケイ酸被殻の隙間を縫うようにして、ある高分子有機化合物が彼らの息の根を止めていた。この揮発性有機化合物は、周囲に蔓延る細く長い植物の体 死神の鎌のような葉を纏ったイネ科の者たちにその根源を持っていた。
植物の気孔から放たれたタンパク質たちはSCP-798-JPと同様に空気中を漂いながら獲物を見定めるが、その最大の違いは粒径である。同じ微粒子に括ったとしても、1個の細胞と1個の分子ではそのスケールには雲泥の差があった。分子から見てまさしく桁違いのSCP-798-JPは、巨大な図体を携えた格好の的に過ぎなかった。
この化合物の立体構造は目まぐるしい勢いで変化し続けており、標的生物の細胞膜上に並ぶタンパクに狙いを定め、ブルートフォースアタックを展開する。言わば総当たりである。サブユニットの結合を高度に切り替えながら、ありうる選択肢を全通りで潰しに行く。やがて標的生物の細胞膜は化合物の持つシグナルを受容し、その伝達を許してしまう。それがいかに危険で、不可逆的で、致死的なものであったとしても。
プログラム細胞死を引き起こしたこの因子の根源は周囲の至るところに蔓延っていた。1億年におよぶ進化を遂げたそれは、皮肉にもSCP-798-JPと同じ卓越したケイ酸を身に着けていた。植物体内で物質輸送を制御したそれは、今からざっと数千万年彼方の草原に端を発し、風雨に任せて水の流れを下ったはずだ。重力に従って土壌の隙間を通り抜け、巨岩や地盤のうねりにも負けず、川を辿って海に届く。その先で夥しい珪藻たちの根源にもなったはずだ。
「稚児が図に乗るな」と。
珪素の悪魔、その始祖が牙を剥いたのである。
SCP-798-JPはダイヤモンド・ダストを描き、地平の彼方へ溶けて消えた。
二度とノックの音は鳴らないだろう。
オスタハーゲンの鍵は既に解かれた。
財団の目論見は失敗に終わった。しかし人類も生存に成功したわけではない。
人類と財団、哺乳類と鳥類 その一切の区別なく、地球は孤独に閉ざされた。
広大で無音の宇宙空間の中で、地球は閑寂とした天体に回帰した。
◆ ◆ ◆
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「アレは、地球をただの岩と土の塊に変えてしまうプログラムだ」
端的に、あの植物群の正体を告げる。妻は目を丸くした。その言葉の意味することを理解したとは思えない。これから私が何を語るのか、ただただその真意を読めずにいるのだろう。
「あのプログラムのトリガーは私たちの後継者だ。私たちが何の変哲もない獣脚類の系統から進化し、この惑星の僭主の地位に上り詰めたように やがて地球には別の知的種族が現れるはずだ。脳の容積を増して。四肢の形を巧みに変えて。どれだけ破局的な末路を辿ったとしても、どれだけの混乱に塗れたとしても、生命は再び立ち上がる」
如何に劣悪な環境にあっても、強かさを増しながら何度だって舞い戻る。
ある意味で我々もそうなのだ。単弓類との競争に勝ち、偽鰐類を破った我々の祖先は、およそ1億6,000万年に亘る繁栄を手に取った。全ての大陸に歩み出し、この上ない頂点の地位に立った。それは未来も同じなのだ。銀河に散らばった子孫たちは、遺伝的交流を宇宙に阻まれ、独自の進化を歩むはずだ。軛の下でも命は必ず前へ進む。
そして同じことを、地球の申し子はやってのけてしまうだろう。
変化と擾乱に富むこの惑星を生き、飽くなき探求を続けてきたのだから。
「1億年が経っても、2億年が過ぎても、そこには文明を築く何者かが居る。自らの手の届く範囲を飛び越えて、遥かに高い樹木の先に思いを馳せ、底の見えない海の深淵に思索を巡らせる。彼らは道具を使い、環境を作り替え、やがて海と空を踏破する」
言葉のボルテージが上昇していく様を己の喉と胸に感じる。我々の歴史を追走するように語りながらも、全く未知の存在の叙事詩を読み上げる、奇妙な倒錯がそこにある。
「彼らは雄々しく地面を蹴り、雄大な旅に出るのだろう。その留まるところを知らない好奇心で全てを捻じ伏せ、底なしの強欲で万物を作り替える。想像だにしない変化をこの世界にもたらし、やがてその貪欲さを宇宙へ向ける。我々が 我々の子らが暮らす、何億何十億の星々の瞬く、この莫大な世界に魔の手を伸ばす。我らの故郷を踏み台にして、我らの地球を吸い尽くして、理不尽が牛耳る混沌の始まりに変えてしまう」
将来的に何が「彼ら」になるのかは知る由もない。哺乳類だろうか、頭足類だろうか。あるいは、幾千万年の彼方で袂を分かった、大空へ翼を広げた鳥類の成れの果てなのかもしれない。いずれにせよ 仮に彼らが我々の遠い血縁の果てにあったとしても、護るべきものは変わりはしない。
「私たちは簒奪に甘んじてはならない。あの植物のゲノム配列の根底にあるコードの起動は、地球に触れさせてはならない種族の台頭を意味する。例え我々の故郷が灰燼に帰すとしても、まだ別の星がある。我々は遍く宇宙に旅立ち、前に向かって生き抜くのだから。だが 過酷で凄惨な選択圧に生を受けた、暴虐に満ちた地球の申し子たちは、まだ地球にしか居ない」
「彼らが地球から離れないうちに、星もろともに絶滅させると?」
「必要とあらば故郷に沈黙の幕を引くことも厭いはしないさ。顔を見ることもない我が子たちには……ひっそりと忘れ去られた、祖先の発祥の地に脅かされることなく、どうか安寧の内に過ごしてほしい」
スクリーン上の一点に目をやった。かつて地球が表示されていた点は夥しい宇宙船や隣り合う天体と結合し、そのまま太陽に吞み込まれていた。太陽系に君臨するこの恒星の光も次第に衰えていき、やがて有象無象の星々の中に紛れてしまうことだろう。
太陽系へ手を伸ばす。掌に感じられた微かな放射は、輝く太陽そのものではなく目の前のディスプレイから放たれる極めて人工的な熱に過ぎない。しかし、その紛い物の温かみの中に、1ピクセルにも満たないであろう故郷の面影を感じようとする自分も確かに存在した。
先刻触れた妻の羽毛のぬくもりが、鳥を脳裏によぎらせた。青空に飛び立つ鳥たちと、彼らを育む緑の星を。
雑念を振り払う。決して嫌悪ではなく、生理的で合理的な断絶の下に。
「嗚呼 慈愛の母よ。威厳の父よ。我らの栄華のために、どうか安らかに眠りたまえ」