【はじめに】
新人職員の皆さん、記事執筆は進んでいますか?
『SCP_Foundation』は超常的なオブジェクト達の話を、「ある秘密組織の報告書」という形で語るコンテンツです。記事を書き始められた皆さんも、当然「報告書」風に書かれていると思います。
しかしながら、いざ下書きスレッドで見せてみたら「文体がSCPっぽくない」「改行しすぎ」「客観的に書け」などと言われてしまった……なんて事はありませんか?これは、『SCP_Foundation』全体で共通している「SCP記事の文体・書式」を、貴方が良く知らない事が原因です。
本来、SCP記事の文体・書式を知る為には、SCP記事を沢山読み言葉遣いや記事構成などを自分で考える必要があります。しかし、それは非常に労力と時間がかかる作業であり、とにかく大変で非効率です。(私は本家・日本支部両方の記事を全て読み終わるのに半年かかりました)
ガイド「SCPを作成するには?」やマッケンジー博士による執筆に役立つエッセイはありますが、やや抽象的で「実際にはどう書けばいいの?」と思われる方も居るかと思います。
そこで、ここではケーススタディに近い形で、「SCP記事の文体・書式」について私の考えをお話しさせていただきます。ただし、このエッセイは、あくまで私一個人の考え方であり、サイトで守るべきルールなどではない事を初めに把握しておいてください。この書き方が全てではありません。自由な発想こそ一番大切な事です。
また、このエッセイは非常に長い事を最初にお断りしておきます。ですのでこのエッセイは、ガイドハブと違い全てを読まなくても必要なテクニックを必要な分だけ得る事が出来る様な構成を取っています。このエッセイの趣旨である「SCP記事の文体・書式」は【"報告書"としての文体】タブに、「SCP記事の構成・展開」は【"読み物"としての構成】タブにまとめました。
【要するに"それっぽく"書けばいい】
SCP記事を書くにあたって気を付けるべき事は色々言われていますが、結局のところ、最低限"それっぽい"SCP記事であれば良いのです。ただ、多くの新人職員の書く記事は"それっぽくない"事が多く、サイトにふさわしくないと判断され低評価を受けてしまうのです。そう、貴方が思って書いている以上にSCP記事にはセオリーやルールがあります。
【SCP記事は"報告書"であり"読み物"である】
まず、SCP記事には二つの側面がある事を知らなくてはなりません。それは「架空の財団が作成したオブジェクト報告書」と「怪奇創作サイトの読み物」というものです。「報告書」とは、記事は作品世界内でオブジェクトを収容・管理する財団職員が使う資料であり、業務遂行の上で必要な情報が適切な文体で載っていなくてはならないという事、「読み物」と言うのは実際にはフィクションのショートストーリーであり、読者を楽しませなくてはならないという事です。記事を書く貴方は、この二つを常に意識する必要があります。
【記事を書く前に】
記事の執筆に移る前に。話に入る前に。ガイドハブは読みましたか?え?読んでない?今すぐ全部読んできてください。サイトのルールやマナー、慣習などについてほぼ全てがそこで説明されています。やってはいけないと言われている事をやって怒られても知りませんよ。特に「サイトルール」「初めての方へ」「SCPを作成するには?」は重要です。必ず目を通してください。読んだ人も抜けが無いかもう一度確認しましょう。
■良くありがちな新人職員の失敗例
新人職員がやってしまいがちなミスの例です。
・フォーラムの自己紹介カテゴリで挨拶してくれない
まずはフォーラムの自己紹介カテゴリで挨拶してみてください。新しい職員が増えた事に我々が気が付けません。参加希望書は管理者の方しか読めないのです。
・下書きを利用せず、いきなり記事を投稿して凄まじいマイナス評価と厳しい評価を受ける
一番多い"やらかし"です。記事の書き方も投稿の仕方も良くわかっていないまま、いきなり投稿して袋叩きにあう新人職員は定期的に現れます。まずはサンドボックスⅢで下書きを作成し、批評に出してみましょう。厳しくも参考になる意見が必ず貰えます。貰った意見を参考に「直しました!また批評お願いします」と何回か推敲をしてから、初めて投稿するのが望ましいです。いきなり投稿する職員は、どんなにベテランでも実は殆ど居ません。
・投稿・削除に関するルールを判ってないまま投稿する
「本投稿してもフォーラムに報告しない」「"scp XXX jp"のままタイトルを変えない」「タグを変えない」「SCP-JP一覧のページの編集をしない」「削除しても報告しない」「内容だけ削除してページが残っている」などが該当します。最初に言った通り、ガイドハブを読めば書いてある事です。読んでください。
・フォーラムの他のスレッドを読まず、空気がわかっていない
他の掲示板のようにSCPのフォーラムにも"暗黙のルール"や"雰囲気・空気"があります。勿論ガチガチに守る必要はありませんが、他のスレッドを読んで、なんとなくは理解してください。その方が身の為です。
ガイドハブ読んでいただけましたか?読んだ?では確認の為もう一度読んできてください!
それほどに重要なのです。
【"読み物"としての構成】
ここでは敢えて、"読み物"としての側面から説明します。なぜならば、SCP記事の本質はフィクションの"読み物"だからです。"報告書"のスタイルを取っているのはあくまで演出に過ぎない事ははっきり理解しておくべきでしょう。
この章で説明するのは
- 「記事の面白い点は自分で理解する」
- 「読者は順番に読む」
- 「順番に読む事を逆手に取る」
の3点です。
■「何が面白いのか」説明できますか?
まず記事を書きだした貴方に聞きます。「その記事の何処が面白いか、自分で説明できますか?」と。書いている本人ですらどう面白いのかわからないのでは、読者が困惑するだけの何が言いたいかわからない記事になってしまいます。また、何を書いていいのか執筆中に混乱する原因にもなります。書き初めの段階で、「この記事はこんな事を伝えよう!」とはっきり決めておくのが良いでしょう。
■読者は順番に読む
読者に伝えたい事が決まったら、次は「どうやってわかりやすく伝えるか」考えましょう。ここでまず覚えておいてほしいのは、「読者は記事を上から順番に読む」という事です。
まず、初めて記事を読む読者は、貴方の考えたオブジェクトについては全く何も知りません。貴方だけしかそのオブジェクトの事は知らないのです。なのに、外見の説明無しにいきなり性質の話をするなど、前提となる部分を飛ばして説明してしまうと、読者はオブジェクトを上手くイメージする事が出来ず混乱する事になります。読者がイメージし易いように、説明は順番に順序立ててしていく必要があります。(イメージ出来ない事を読者の想像力のせいにしてはいけません。同じオブジェクトをもっと上手く説明できる人が居る事を想像しましょう)
例えば、「SCP-XXX-JP-1」などの副次的なオブジェクト番号が、何の説明も無しにいきなり出てくる事がしばしばあります。これは読者にとって非常に不親切です。なぜならば、読者は記事を普通なら上から順番に読んでいく物であり、後々説明が来るまで何のことかわからないまま読み進めなくてはならないからです。これでは読者は途中で疲れて飽きてしまいます。そもそも副次番号を出し過ぎるのも読み疲れてしまう原因になります。不必要に番号を付与するのは避けたほうが無難です。
悪い例
SCP-XXX-JPは、SCP-XXX-JP-1によりSCP-XXX-JP-2に形成された巣です。SCP-XXX-JP内部にはSCP-XXX-JP-3が生息しています。SCP-XXX-JP-1はカラスで、SCP-XXX-JP-2は道路の木です。良い例
SCP-XXX-JPは、ハシボソガラス(学名:Corvus corone)の一種(以降SCP-XXX-JP-1と指定)により街路樹上に形成される巣です。SCP-XXX-JPの内部にはSCP-XXX-JP-1の雛が生息しています。
■読者が順番に読む事を逆手に取る
読者が順番に読んでいくと言う事は、ドラマや劇の台本の様に順序良く話の展開を作ることで、読者を話に惹き込む事が出来るという事でもあります。実際の学術的な論文や報告書では、本来演出の為の「話の展開」は許されませんが、これはあくまでSCP記事が小説などと同じ"読み物"であるから出来る事です。むしろ面白い記事を書く為には推奨されるべき事でもあります。
私はSCP記事の基本的な展開構成は「起承転」か「起承」であると思っています。
- 「オブジェクトをイメージさせる為の説明」(起)
- 「オブジェクトはどんな性質で、どんなことをするのか」(承)
- 「読者をあっと言わせるどんでん返し」(転)
この三つです。
(ただしこれはあくまで私の考え方であり、「もっと別の分類が出来る」あるいは「そもそも展開構成を枠にはめて考えるべきではない」といった考えもある事を理解したうえで読んでください。こういう考え方の人も居るのか程度に留めて頂けると幸いです。)
「起承」型の例
SCP-173 - 彫刻 - オリジナル
- 「不気味な像です」(起)
- 「目をそらすと首をへし折りに飛んできます」「石臼の音します」「床が汚いです」(承)
SCP-049 - ペスト医師
- 「ペスト医師の恰好をした誰かさんです」(起)
- 「手術してくれます」「でもなんか酷い事になります」(承)
SCP-1171 - 人間どもは去れ
- 「とある家です」(起)
- 「窓にメッセージが書かれます」「おはなしできます[対話ログ]」(承)
「起承型」は、「単純にオブジェクトの性質だけを伝える記事」の分類です。特に記事中でどんでん返しのような物があるわけでもなく、比較的淡々と外見と性質について説明して終わります。一番シンプルで、最も"報告書"らしい記事であるとも言えます。本家の初期に作られた記事に多い傾向があります。
「起承転」型の例
SCP-1048 - ビルダー・ベア
- 「かわいいくまちゃんです」(起)
- 「かわいいです」(承)
- 「おともだちつくるっぽいです」「おともだちとやんちゃします」(転)
SCP-1981 - 演説中に解剖されるロナルド・レーガン
- 「ビデオテープです」(起)
- 「レーガンの意味不明なスピーチが再生されます」「毎回レーガンさん酷い目に遭います[再生記録]」(承)
- 「I SEE YOU」(転)
SCP-342 - 涙の乗車券
- 「切符です」(起)
- 「何度も使えます」「この切符で乗物乗ると降りれなくなって怖い目に遭います」「終点の先に連れて行かれます」「[実験記録]」(承)
- 「関係者が巻き込まれました」「どうも"成長"してるらしいです」(転)
「起承転型」は、「オブジェクトの説明のあと、読者を驚かせる展開が待っている記事」の分類です。このパターンを取る記事は多く、記事の最後に読者を驚かすような画像が載っていたり、「だがちょっとまってほしい」的な研究員のコメントが付いていたり、最後の最後で収容違反を起こしたりなど、様々なパターンがあります。怪談物でも最後に驚かすようなオチが来ることは多く、怪奇創作であるSCP_Foundationでそのテクニックを使っているとも言えます。ただあまりに露骨にやってしまうと陳腐な印象になり「最後は蛇足」と言われてしまうので、気を付けたほうが良いでしょう。
また、この分類における"結"にあたる部分(推理小説でいう「事の真相」)ははっきりとは書かれません。それによって読者に「後味の悪い不気味さ」を残す事が出来るからです。
そして繰り返しますが、この分類が全てではなく、あくまで「良くある記事」の例である事を理解してください。SCP-087やSCP-093は全く別の構造になっています。面白い記事を書くには常に新しい表現を模索する事も重要です。
ちなみに、ここで紹介したおおざっぱな記事の要約のやり方は、記事のプロット・下書きを考えるときにも使えたりします。
【"報告書"としての文体】
さて、"報告書"としてのSCP記事ですが、ここで紹介する事は「SCP記事らしさ」を出すために非常に重要な部分です。このエッセイで最も伝えたい事でもあります。文体の問題は、この章をマスターすれば解決する事間違いなしです。
この章で説明する事は、大まかに言うと
- 「ありがちなミスの例」
- 「SCP記事は"小論文"や"レポート"に似ている」
- 「"パラグラフ"の重要性」
- 「修飾関係をわかりやすく」
- 「ですます調にする」
- 「検閲など、財団がどんな情報を必要としているか考える」
- 「無駄な部分は省く」
この7点です。
■ありがちな間違い
「SCP記事っぽくない記事」で良く見る特徴をご紹介します。
・改行しすぎ
これは一番多い上、一番目立つ失敗です。SCP記事では一文一文でいちいち改行はしません。改行は「意味のまとまりのある段落(「パラグラフ」と言います。詳しくは後述します。)」毎で行ないます。
悪い例
SCP-129-JPのより異常な特性は、曝露直後の一次反応が治まった後に現れます。
曝露後に被験者は、強度の強迫性障害に類似した精神疾患を発症します。
発症した被験者は、同種の付着物の存在に対する強迫的な恐れを持ち、SCP-129-JP-1だけでなく、異常性のない一般の履物も忌避し始めます。
良い例
SCP-129-JPのより異常な特性は、曝露直後の一次反応が治まった後に現れます。曝露後に被験者は、強度の強迫性障害に類似した精神疾患を発症します。発症した被験者は、同種の付着物の存在に対する強迫的な恐れを持ち、SCP-129-JP-1だけでなく、異常性のない一般の履物も忌避し始めます。・主観的な表現を使う
これも多いミスです。SCP記事に限らず一般的に「報告書」では、客観的で科学的な表現しか使われません。小説やコラムで使うような主観に頼った情緒的な表現では、物事を正確に伝えられず担当者に誤解を招く可能性があるからです。また、人によって受け取り方が異なる可能性のある曖昧な表現も、同じ理由で避けるべきです。
悪い例
SCP-XXX-JPは、非常に大きなボディビルダーのような体格で、おぞましい形相をしています。周辺に人が居ると、右手の非常に長く鋭い爪で対象を引き裂こうとします。
良い例
SCP-XXX-JPは、身長2.3m、体重110kgの筋肉質な人型で、しばしば「ボディビルダーのような」と形容されます。眼窩には眼球が存在せず常に血液が流れだしていて、口唇は切除され歯が剥き出しになっています。SCP-XXX-JPから半径5m前後の範囲内に人が侵入すると、右手の約10cmの鋭い爪で対象を引き裂こうとします。・細かな表現の使い方が間違っている
SCP記事で使われる用語や数字の表現には、一定の"規則"があります。これをあまり理解していない場合、誤った使い方をして記事に違和感を感じてしまう原因になります。
「五メートル四方のコンテナ三基」→「5×5×5mのコンテナ3基」
「時速3000キロで飛行します」→「3,000km/hで飛行します」
「広さは一坪です」→「面積は約3.3m2です」
「身長は170cmです」→「身長は170cmです」
単位は必ず国際単位系の物を使ってください。また、出来る限り正確な表記になるよう省略等は行わず、「漢数字+カタカナ」ではなく「半角アラビア数字+半角アルファベット」の表記にしましょう。
「機動部隊"ぬ-5"【掃除屋】」→「機動部隊ぬ-5("掃除屋")」
「サイト-64-JP」→「サイト-8164」
SCPの用語の使い方が間違っている例です。これは他の記事を読んで使い方を知るしかありません。オススメなのは、執筆時に似ているオブジェクトの記事を幾つか見ながら書く事です。パクリやコピペさえしなければ、書き方を少し真似する程度なら問題はない筈です。「SCP-XXX-JPは、対象の皮膚下に潜り込みます。」→「SCP-XXX-JPは、対象の皮膚下に潜り込みます。」
文字装飾の使い方が間違っている例です。通常、記事中では太字やイタリック体や下線などの文字装飾は行いません。使われる事があるとすれば、研究員のメモ書き・コメントの部分でイタリック体を使う程度です。
まぁ、つまりこんなかんじなわけだ。 - 井坂研究員
■報告書は「小論文」や「レポート」に似ている
SCP記事は「客観的に"事実"を読者に伝える」という点で小論文やレポートに似た形式の文章です。と言うより、そもそも報告書の訳語は「report」です。そして、目的が似通っている以上表現や構造も似たものになり、同じテクニックを使う事が出来るのです。
■読者が理解できないと意味がない
小論文やレポートが何を目的として作られるのかと言うと、それは「事実や主張をまとめ、読者にわかりやすく伝える事」です。当たり前と言えば当たり前ですが、初心者が陥りがちな「自分の言いたい事を言うだけ」の文章と、「相手に理解して貰おうと考えて作られた」文章では、読みやすさも評価もまるで変わってきます。読者が理解しやすいように報告書を作る事を心がけましょう。
■パラグラフとは
改行するタイミングの話で触れた「パラグラフ」という考え方は、わかりやすい文章を作る上で非常に有用な概念です。英語圏では文章を読み書きする上で「paragraph writing/reading」という言葉があるほど、非常に重要視されています。パラグラフは日本語で言うと「段落」に該当しますが、厳密には意味に違いがあります。(余談ですが、日本においては明治期に入って"英文の真似"をする形で「段落」が生まれたとも言われています。あくまで"真似"だった為に、パラグラフ本来の重要性が浸透しなかったらしいです。)
「パラグラフ」とは、「ある一つの話題(トピック)について述べた文の集まり」の事を指します。多くの人は段落分けのタイミングを「文章が長くなるから、キリの良い所で適当に分けておこう」程度にしか認識していませんが、それでは「パラグラフ」の真の効力を殺してしまっています。パラグラフを活用するためには「読みやすい長さ」ではなく「同じトピックを扱った文のまとまり」を意識する必要があります。
おそらくこれではわかりにくいと思うので、具体例を示します。
悪いパラグラフの例
SCP-XXX-JPは、豚骨ラーメン以外は摂取できません。しょうゆラーメンでは反抗的な態度を誘発する為、代替としては推奨されません。SCP-XXX-JPの身長は170cmで、神奈川県出身です。手から紫色のカタツムリを出現させる際の瞬間は、ハイスピードカメラによる撮影でも未だ捉えられていません。
このカタツムリの検査では、[データ削除済]。そのため、これ以上出現させないよう手に拘束具が填められています。拘束具は紫色に染まりつつある事が確認されています。この色はカタツムリの色素が移った物で、SCP-XXX-JPは強い不快感を示しています。
また、収容以前、神奈川県で小学校教諭を7年間勤めており、20██年にしょうゆラーメンが学校給食で出た際には、児童██名を含む傷害事件を発生させました。
- この例では、「豚骨ラーメンしか食べられない、手から紫のカタツムリを出す、元教師」の説明をしていますが、話題がバラバラになっていて非常に読みづらい文章になってしまっています。パラグラフの意味が全くありません。
良いパラグラフの例
SCP-XXX-JPの身長は170cmで、神奈川県出身です。収容以前、神奈川県で小学校教諭を7年間勤めていました。
SCP-XXX-JPは、豚骨ラーメン以外は摂取できません。しょうゆラーメンでは反抗的な態度を誘発するため、代替としては推奨されません。20██年にしょうゆラーメンが学校給食で出た際には、児童██名を含む傷害事件を発生させました。
手から紫色のカタツムリを出現させる際の瞬間は、ハイスピードカメラによる撮影でも未だ捉えられていません。このカタツムリの検査では、[データ削除済]。そのため、これ以上出現させないよう手に拘束具が填められています。拘束具は紫色に染まりつつある事が確認されています。この色はカタツムリの色素が移った物で、SCP-XXX-JPは強い不快感を示しています。
- こちらの例は、先ほどの例で使われた文を、ほとんど書き変えずにただ並び替えただけの物ですが、それでもかなりわかりやすくなっている事がわかりますか?パラグラフごとに「同じ話題」でまとめると、非常に文章がすっきりと判りやすいものになります。
■パラグラフとトピックセンテンス
パラグラフの役割としてもうひとつ大事な役割があります。それが、「パラグラフの最初の一文だけ斜め読みしても、記事全体で何を言いたいか大体わかる」というものです。これは論文調のわかりやすい文章の鉄則とも言えるものです。
何故最初の一文目だけ読めば意味がわかるのかと言うと、それは「トピックセンテンス」という考え方があるおかげです。
「トピックセンテンス」とは、「パラグラフの最初に置かれた、そのパラグラフの要旨を表す一文」の事です。そのパラグラフ中で言いたい事を、一言で最初に言ってしまう事で、格段に文章が読みやすい物になります。
悪い例
SCP-XXX-JPは、青がかった灰色の毛並みをしており、青い虹彩を持ちます。鋭い爪と、折れ曲がった耳が特徴的です。性格は人懐っこく、しばしば仕事中の研究員の膝の上に載ってきて眠ってしまうため、担当職員の成果率は75%に落ち込んでいます。しかし、サイト管理官の許可により、この行動は許可されています。品種はスコティッシュフォールドで、19██年に英国支部より移管されました。なお、SCP-XXX-JPはイエネコ(学名:Felis silvestris catus)の個体です。
- このように結論が最後に来ていると、文章を全部読むまで何を言いたいパラグラフなのか理解する事が出来ず、読むのに苦労する事になります。
良い例
SCP-XXX-JPはイエネコ(学名:Felis silvestris catus)の個体です。青がかった灰色の毛並みをしており、青い虹彩を持ちます。鋭い爪と、折れ曲がった耳が特徴的です。性格は人懐っこく、しばしば仕事中の研究員の膝の上に載ってきて眠ってしまうため、担当職員の成果率は75%に落ち込んでいます。しかし、サイト管理官の許可により、この行動は許可されています。品種はスコティッシュフォールドで、19██年に英国支部より移管されました。
- 今度は初めからただのかわいらしいネコの話だとわかり、読みやすくなったと思います。
トピックセンテンス以外の部分は、この例でも分かる通りトピックセンテンスに対する補足的な内容になります。トピックセンテンスに直接関係していない文は、適切なパラグラフに移した方が良いでしょう。
■パラグラフで掴む記事全体の流れ
パラグラフが「意味のある文の固まり」として考える事が出来るようになったら、今度は記事全体の構成に目を向けてみましょう。記事は複数のパラグラフによって構成されていますね。と言う事は、各パラグラフから抜き出した複数のトピックセンテンスだけを順番に読んでいけば、記事全体の内容がおおよそ掴める事を示しています。
これがつまり「パラグラフの最初の一文だけ斜め読みしても、記事全体で何を言いたいか大体わかる」という事の意味です。
拙作記事「SCP-058-JP - 血飲みの嵐」を用いて、図で説明します。
まず、こちらは説明書きの部分を抜き出した画像です。

そして、トピックセンテンスを赤、それ以外を青で示します。

トピックセンテンスを読んだだけでも大体どんなオブジェクトなのか、なんとなく掴めるでしょうか。
つまり、ざっくりとこの記事全体の流れを図に表すと、以下の様になります。

このように、記事全体を非常にシンプルに考える事が出来るようになり、書く上でも読む上でも頭を整理しやすくなります。ちなみに、この様なパラグラフの構造を強く意識した読み方の事を「パラグラフ・リーディング」といい、英文や学術論文を読み込む時に非常に役立ちます。覚えておいて損はないと思います。
また、これは私論ですが、パラグラフの流れにはいくつかパターンがあると考えています。
- 「並列型」 - 複数の性質や特徴を並べていくパターンです。トピックセンテンスのみを並べると、箇条書きのようになります。上で例に挙げたSCP-058-JPなど、多くのSCP記事の展開は、この「並列型」です。
- 「時系列型」 - 物事や事件を発生した順番に並べていくパターンです。実験ログや歴史を振り返るような文章で良く見られます。
- 「論理型」 - 「○○が××だったので□□した」というような理屈を説明するときに使われるパターンです。学術論文や、意見を主張するための論説文などで見られます。SCP記事では稀にしか見ません。オブジェクトの性質に論理がある事はそうそう無いですからね。
■修飾語が何処に係るかわかりやすく
読みにくい文章は、修飾語がどの言葉に係っているかわかりにくくなっている事があります。特にSCP記事の様な論説文は、一文が長くなりがちな上に使っている単語も硬い言葉が多い為、修飾関係がわかりにくくなりがちです。句読点や言葉の並びを上手く調整する事で修飾関係を少しでもわかりやすくする事を心がけましょう。
悪い例
「エージェント・ジョンは泣きながら記憶処理をするドゥ博士に声を掛けた。」
- この場合では、「泣きながら」の修飾先がわかりにくく、ジョンが泣きながら声を掛けたのか、ドゥが泣きながら記憶処理をしていたのかわからなくなっています。
良い例
「エージェント・ジョンは泣きながら、記憶処理をするドゥ博士に声を掛けた。」
「エージェント・ジョンは、泣きながら記憶処理をするドゥ博士に声を掛けた。」
- 句読点を挟んだことによって、泣いているのがどちらなのかがわかりやすくなりました。 更に、言葉の並びを調整して、
「記憶処理をするドゥ博士に、エージェント・ジョンは泣きながら声を掛けた。」
「泣きながら記憶処理をするドゥ博士に、エージェント・ジョンは声を掛けた。」
- この様に修飾語「泣きながら」と被修飾語「声を掛けた」or「記憶処理をする」を近づける事で、よりわかりやすくなります。
■SCP記事では「ですます調」にする
これは非常に単純な話で、SCP記事では「である調」は使わず、「ですます調」を使うという事です。一つの文章内で「である」と「ですます」が混在する事は以ての外で、そもそも日本語としておかしいです。例外的に、実験記録やその他のログの説明文では「である調」を使う事もありますが、基本的には全て「ですます調」にした方が無難な上、SCP記事らしくなるでしょう。
■どの職員が何の情報を必要としているのか考える
ここで思い出して欲しいのは、SCP記事は「秘密組織の内部文書」という体で書かれているという事です。それも本当にそういう組織があるんじゃないかと不安になる読者が出てくるレベルのリアリティが求められます。そこで必要となるのは、「この報告書は誰が何の為に書いているのか」という部分を明確にする事です。
まず作中世界において、財団職員達がオブジェクトを収容し続ける為に日々設備を点検し、オブジェクトの動向を監視し、チェックし、場合によっては実験も行っている様子を想像してください。
その中で、オブジェクトの基本的な性質と特別収容プロトコルが記載されたこの"報告書"=SCP記事は、常に危険と隣り合わせな収容業務の基礎となる重要な資料です。貴方の書いたこの"報告書"を元に、熟練した収容担当者達が日々の設備の点検とオブジェクト監視を行い、優秀な研究員達が実験と研究を行い、収容違反などの緊急時には勇敢な部隊指揮官達が指揮を執るのです。
執筆者である貴方の責任は非常に重大です。もし特別収容プロトコルに不備があったら?わかりにくい記述のせいで研究員が実験薬剤の量を間違えたら?曖昧な表現のせいで指揮官の判断に10秒遅れがでたら?そう、貴方のせいで人命が失われる事になります。そんな不完全な報告書は受理されません。
報告書としてのリアリティを出す為にも、記事を書く間は財団職員になりきりましょう。隅々まで不備の無いように想像をめぐらせてください。貴方の筆に、同僚達の命がかかっているのです。
■検閲について
SCP記事と言えば「検閲」です。皆さんも████や[編集済]、[データ削除済]といった様々な検閲表現を見ていらっしゃるかと思います。検閲の使い方については、Eskobar氏のエッセイ「禅とデータ削除済」などがあり一部内容が被りますが、ここでは私の考える検閲について簡単にご説明させていただきます。
まず、検閲で一番大事なのは「リアリティ」です。秘密組織の秘密文書であるSCP記事を如何にそれっぽく魅せるか、その工夫の一つがこの「検閲」です。
強権的な政府による厳しい検閲が為されている国家を想像してください。政府は「政府にとって都合の悪い情報」は検閲で隠しているはずです。財団にとっての検閲も同じで、「財団にとって都合の悪い情報」を検閲しているはずです。財団は超常現象を隠匿する秘密組織であり、そのオブジェクトや組織自体の秘密が暴露される事は避けたいはずです。
ですので、多くの記事では「財団職員に関する情報」「場所や日時」「オブジェクトの性質の核心に迫る情報」などが検閲の対象となっています。
更に、SCP記事の執筆者達が執筆上の理由で検閲を使うタイミングは、大体以下の4つです。
- 具体的な日時・場所・人名を隠したい時。これは最も多い検閲の理由です。「20██/██/██に██県███市でエージェント・███が発見しました」の様に使います。こういった日付などを[データ削除済]などで消す事はあまりありません。大体「██」を使います。█の文字数は"元ある文字列と同じ文字数"に揃えるようにしてください。(例えば埼玉県さいたま市なら██県████市になります。)
- 記事を読むうえで必要ない詳細を省略したい時。例えば「SCP-XXX-JPはエージェント・██が[データ削除済]時に発見されました。」の様なものです。この検閲部分が例え「GOCと交戦していた」でも「林檎をバターでいためて焼き林檎を作っていたら洗濯機から変な音がしたので火を付けたまま様子を見に行ってしまい自宅が全焼した」でも「新宿駅のトイレで用を足していた」でも記事の内容そのものに関係ない場合は検閲を使って省略してしまう事がしばしばあります。その方がかえって読みやすい記事になるのです。
- 読者の想像にお任せしたい時。例えばSCP-231でこれは顕著です。つまり、敢えて隠す事で実際には何が起こっているのかわからなくさせ、読者に色々な想像をさせる事が目的になっている「検閲」です。これは応用的な使い方であり、そう簡単に出来る訳ではありません。だからこそSCP-231は高く評価されているのです。
- 本当に不快で不適切な表現を隠す時。これはあまり多くはありませんが、単純に過度に性的あるいは暴力的な表現を用いている時に使います。
そして一つ上の節「どの職員が何の情報を必要としているのか」とも係ってきますが、原則として特別収容プロトコルは検閲を掛けてはいけません。特別収容プロトコルは日々の収容業務に必要な為、クリアランスレベルの低い作業員でも読む事が出来る事になっています。なのに「SCP-XXX-JPを収容するには[データ削除済]してください」なんてあったら、作業員たちはどうすればいいのかわからず困った事になります。
■無駄は省け!!
"報告書"として必要な情報を想像する必要がある事は述べましたが、だからと言ってやみくもに情報を詰め込めばよい訳ではありません。必ずしも要る訳では無い部分は削らないと、非常に冗長な報告書になり読む人の時間の無駄が生まれてしまいます。具体的に何が必要で何が不必要かについては個別の記事内容の問題であり、これ以上はこのエッセイの趣旨とは異なる為割愛しますが、兎に角言える事は「冗長で不必要な情報や表現は削り、スマートで"濃度の高い"記事を心がける」と言う事です。同じ内容を表せるならば、より短い文章表現を選ぶべきです。
■難しい言葉を使えば良い訳では無い
無駄を省く事と関連して、SCP記事はやや難解な報告書の形を取っているからと言って、SCP記事っぽく見せる為に難しい言葉を羅列している記事をしばしば見かけます。しかし多くの場合、無闇に難しい言葉を並べてしまうと、安っぽいB級SFのようになってしまってむしろ逆効果になってしまいます。(言葉選びのセンス次第ではそうならない事も稀にあります。ただし賛否両論になるのはほぼ必至です。)あくまでSCP記事らしさに重要なのは、"報告書"としての文体・構成とSCP_Foundationで使われる用語を正しく使う事に尽きます。
【まとめ】
まとめます。
「SCP記事らしい文体」の問題は、以上で述べた「"報告書"としての体裁」を守れば解決します。
- 報告書は「小論文」や「レポート」に似ている
- 読者にわかってもらう事を目的にする
- パラグラフの考え方を使う(改行のタイミングや、意味のまとまりを作る話)
- 句読点や言葉の並びに気を付ける
- 「ですます調」を使う
- 検閲のタイミングなど、どの職員が何の情報を必要としているのか考える
- 無駄は省く
- 他の記事を参考にしながら、正しい用語を使う事
この8項目が基本です。
しかし忘れてはならないのは、「SCP記事は"報告書"であり"読み物"である」と言う事です。
"読み物"としてのSCP記事については、
- 「何が面白いのか」自分でしっかり決めておく
- 読者は順番に読む事を意識する
- 話の展開を作る
この3項目を念頭に置くようにしましょう。
ただ、どんなに基本を守っていても"例外"や"新しい問題"は必ず発生します。また、このエッセイではあくまで「文体と構成」の話である為、アイデアや内容そのものについては何も触れられていません。
ココから先は、作った貴方の記事やアイデアを直接サンドボックスⅢでサイトメンバーと練っていく事が大切です。判らない事や壁にぶつかったときは、サイトメンバーとdiscordや雑談スレッドなどで交流するのも良いでしょう(SNSに居る職員も居ます)。ディスカッションでは厳しい事を言いますが、余所では交流を楽しんでいるメンバーが殆どです。
恐れずに、新しい記事の下書きを作っていきましょう。初めから上手い記事が書ける人はそう居ません。
そしてなにより、貴方があたらしい記事を生みだす事を心から楽しみにしている人達が待っています。
さあ、ペンを取れ!!