奴らはどんな道でも探し出す
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蛇の手の一行は放浪者の図書館に息を切らして崩れ落ち、その後ろで道が閉じてゆく。

彼らはしばしの間怯えていた。先ほどまで背後にいたバッタの大群への恐怖だ。だが道は閉ざされ、全員が無事だった。彼らは生き延びたのだ。

しかし、他の者たちはそれほど幸運ではなかった。


温情なワンダーテインメントの従業員が群れによる被害のない世界を探し出し、手あたり次第ワンダー・ワールド!™への道を開放している中、ワンダータワーの最上階では二人の女性が会話していた。

「受け入れ人数はどれくらいですか?」ホリィ・L・ワンダーテインメント博士が、額を擦りながら訊ねる。

彼女の助手、ジュディ・パピルの答えは彼女の聞きたい数字よりも大きいものだった。

「そうですね…もし…もしもこの事態が避けられないなら、最後の最後、必要に応じて私たちの隠れ家を提供することも考えています」

「それでは私たちが —」

クリップボードから顔を上げたジュディはホリィが涙を流していることに気付く。「他にどうしたらいいかわからないんです、ジュディ」ホリィが鼻を啜る。「私は…こんなことになるとは思っていませんでした。余りに…こんなにも早くなんて。でもよかった…」

「よかった?」

「ええ…」ホリィは椅子から立ち上がり、足を震わせながらもこう答える。「少なくとも…」

ジュディが身を乗り出して最後のワンダーテインメント博士を抱きしめると、ホリィの目からどっと涙が溢れだす。「少なくとも、私たちは一緒に生きています」

その遥か下、タワーの最下層では疲れ切った男が手足を放り出しつつ道から現れ、ワンダー・ワールド!™の住人が足を引き込むのを手伝っていた。「ありがとう!助けてくれてありがとう!」

純粋な感謝の心は、彼の服から姿を現し新天地にえさを求めて準備万端に飛び立つバッタの羽音を完全にかき消してしまった。


「着ているものをすべて脱いでください! 中に何も持ち込まないように! 皆さんは検査を受ける必要があります!害虫どもにスリー・ポートランドの侵入を許すなど言語道断、そうですよね?!」UIUの局長が落ち着かない様子の市民を見渡しながらメガホンに叫んでいる。

「道へ向かってください、そこのエージェントが安全なところに連れて行ってくれますから」検査を終えたエージェント・トッシュ・レディは泣きじゃくる若い女性にあざけりの念を込めてそう言った。彼女は頷き、口から飛び出しそうな嘔吐物を飲み込むと、前に向かって走り出した。トッシュからため息が漏れる。「次の人 —」

銃声が鳴り響く。検問所の近くからだ。何事かとトッシュが首を伸ばすと、男が床に倒れ腹から血を流していた。男を撃ったエージェントが駆虫剤 — このバッタに唯一効果が見込める薬 — のボトルを手に屈みこみ、背中のかろうじて目視できるほど小さな穴へ吹きかけたところ、死体から三匹のバッタが飛び出した。しなびて死ぬ直前、それらのあげた甲高い鳴き声をトッシュは確かに聞き取った。

心配しすぎだな…やれやれと首を振りトッシュは自分の検問所に戻る。

「次!」トッシュが叫ぶと、別の男性が前に出た。体を震わせ、顔には生気の感じられない不安げな表情が張り付いている。トッシュが検査をすると、男は一度だけ口を開け咳をしたが、咳は乾いた嘔吐きに変わった直後に治まった。「大丈夫ですか!」

返事がない。

「そうだな…」震えてるだけだ、きっとそうだ。そうに違いない。他に問題はないし、切り傷なんかも見当たらない。「どうぞ、進んでください。エージェントが安全な場所へ案内します」

静かに前へ歩いてゆく彼のふわふわとした足取りは、まるで何かが体内で蠢かんとするようだった。また別の列に並んだ後、道に足を踏み入れると、彼はついに市民が服と食料の配給で賑わうスリーポートランドを仰ぎ見た。

誰かが肩をポンとたたき、男にローブが差し出される。

次の瞬間、反応する間もなく複数のバッタがえさを求めて男の胸を突き破った。


放浪者の図書館に戻った蛇の手の一行は、書棚が虚無に崩れゆく様を目の当たりにした。

終わりを迎えた異世界に残されたのは空を舞う埃だけだった。

一行が失なわれた知識に別れを告げて図書館を去ると、書棚から一匹のバッタが現れた。ただ、えさを求めて。

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