ポレンズビー。ポレンズビーはどこなのだろうか。
どこまで歩いても、走っても、いるのは僕。顔も、声も、おそらく性格も、僕と変わらない。そして、僕は僕を殺そうとしている。目を覚ましたらこんなふうだから、今も夢なんじゃないかって思ってる。外は寒いから、暖を求めてまだ形を保ってる建物に入ろうとすると、ぐちゃぐちゃになった毛だらけの僕がいっぱいいる。あそこに居続けると僕もああなるんだろうか。
ポレンズビー、故郷に関して何かを知りたいが、ネットワークはもうダメみたいだ。携帯端末も僕に盗られたしね。まずここは、どこの国なんだろう。歩くだけでポレンズビーに戻れるのだろうか。
歩き続けていると僕じゃない、トーマス・ホアンじゃない人がいた。助けを求めて近寄ってみたが、男性は僕を見た途端に走って逃げ出した。こんな世界じゃ、無理もないか。しかし、彼が向かった先は森のようになった僕の方だった。
「そっちは行かない方がいいですよ!」
彼は僕の忠告を無視して中に入ってしまったが、すぐさま戻ってきた。そして、諦めたように僕の方へと戻ってきた。そして、僕に喋りかけてきた。
「仕方ない、もう俺には後がないようだ。だから、あんたに話そうじゃないか」
「大丈夫だなんて……いや、問題ない」
「そうですか、それは良かった。本当に良かった」
僕は男の顔をよく見た。何となく、見たことがあるような気がした。
「どこかであったことありませんか?」
「え?ああ、嫌というほどあんたは見てきたね」
「……あ、いえ、あなたとどこかで、そう、結構親しい仲だった気がします」
「え?まあ、どうせ俺としての人生も短いから話してみなよ」
「あ、はい。名前は……確か、████……ですか?」
「まあ、そうだよ」
「同じ職場で働いていた気もしますね……確か、研究所のような……そうだ、何か菌類について研究をしていました」
「はは、そういうことか。こりゃ、驚いた」
「当たっているようですね。……あ、そうだ。あなたのことはあだ名で読んでいたと思います。そう、███ってい……」
「ちょっと待て、それは、たぶん、俺はお前のことを█████って呼んでいたんじゃないか?」
「ええと……ああ、そんな気もします」
「そ、それなら俺の家に、入ったことは?あるか?」
「ちょっと思い出させてください。はっきりとは覚えていな……」
「その夜に飲んだ酒は、そうだ、ワインだ。コルトンとかそんな名前だった。めちゃくちゃ高い酒だ。でも、俺はほとんど飲まなかった。飲んだフリをしただけだ。それで、映画を見てた。『ノッティングヒルの恋人』だ。そんな関係になりたいと思ってて、それで、いや、俺の考えてたことはクズだった。そう、それで……」
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、もちろん」
「あの、ポレンズビーがどこか……」
「もし……」
「え?」
「もし、俺もトーマス・ホアンになったなら、一緒にその故郷に行こうぜ」
「……」
返事に困っている僕を、彼は熱く抱きしめた。