クレジット
翻訳責任者:kuromituzatou
翻訳年:2024
原題:Tick-Tock Transmogrification
著作権者:Ampyrsand
作成年:2023
初訳時参照リビジョン:rev.7
元記事リンク:https://scp-wiki.wikidot.com/tick-tock-transmogrification
私の祖父は、驚くほど歳を重ねているが、彼の110年を超える人生の中で、故郷から20マイル以上離れているのを見たことがない。祖父は、私や両親と同じで、バハの海岸沿いにある小さな村で育った。何年たってもドレッドノート級戦艦のように頑丈なので、バハの教会では、彼をドレッドノート神父と呼んだ。だが、骨と皮だけになって死にかけている今の祖父は、その呼び名にはほど遠い。それでも、祖父はここ30年は病気にかかっていない — つまり、信じがたいことに80歳から歳を取っていないように見える。そういう意味では、祖父は超自然的なまでに健康だ — とにかく、この町では、老ドレッドノート神父の長寿は神からの賜りものということになっている。
だが、このところ、祖父は自主隔離をしている。最近は他の司祭たちとさえあまり一緒にいないように思う。今や教会にもほとんど行かず、ただ浜に座って魚釣りをしている。そこに何かを忘れてしまい、それが何かを思い出せないかのように、座って何時間も湾を見つめている。祖父についていったこともあったが、どうも現実離れしていた。私は時々祖父は大丈夫なのかと心配になる。
私の16の誕生日に、祖父は箱をくれた。箱には、ネジに鉄くず、ナットにボルト、そして歯車でいっぱいのギアボックスが入っていた。はじめ、私は本気で、彼は自分が1800年代からやってきたのだと思いこんでいるのだ、と納得した。私がその技術に興味を示したとき、彼は私がこれに興味があると思ったらしいからだ。
彼が説明すると、私はその考えを改めた。彼は、どうにかして — それをカリフォルニア湾で釣り上げたと言うのだ。何百万の時間を費やしてもそのようなものは釣れなかったのだから、何か意味があるに違いない。神が何かを伝えようとしているのだ。彼は、私があまり信心深いわけではないことを知っていた。だが、少なくとも、彼の形見として、他の何より象徴的に受け取るべきだと言った。
彼は、cuidarlo de cercaみたいなこと — "よく見てみなさい"と言ったのだと思う。彼が手渡してきた木製の箱には、何世紀にも渡る水害で錆びついた、華麗な銅の象嵌が施されていた。重さは1000ポンドほどもあった。
ついに両親が引っ越すというので、実家に訪れた。私の部屋は、至る所がホコリの層で覆われ、老朽化した部屋独特の匂いがする。ホコリの層はほぼ確実に2インチはあり、部屋も狭い。その2つの要素が組み合わさり、ほとんど息ができないほどの空気が作り出されている。窓を開けると、幾星霜続いた部屋の静寂が破られ、私の顔のホコリがほんの少し散った。
私が開いた窓から堰を切ったように来るホコリから目を守り、部屋の扉の左角に振り向くと、そこにはあの箱があった。私はその箱を思い出した。その箱について思い出さないようにしていたことも。
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棚の掃除を始め、下部のホコリを払っているときに、小さなロボットの人形 — たしか"ラジネーター6000"とかいう名前の、小さい頃にお気に入りだったおもちゃ — を見つけて取った。私は考えもなく、箱の上にそれを置いた。
思い返してみると、そのおもちゃはあまり好きではなかった気がする。
棚の掃除を続けて5分ほどたったころ、箱からかすかなハム音が聞こえ、私は振り返った。ネジを巻いていないにもかかわらず、おもちゃがガタガタと揺れ、それはどんどん速くなっていった。おもちゃは箱から落ち、壊れたはずだった。
しかしその時、蓋が飛び出してしまいそうなほどの勢いで、箱がひとりでに開いた。中では小さな歯車や管や金属の継手が、封を破ろうとするように壁に詰まり、カビが繁殖するように細長い模様を成し、ほんの少しずつではあるが動いていた。この箱にどんな選別機が、どんな19世紀末のメカスパゲティの乱塊があったにしろ、とにかく部品達は意思を持って壁を登り、蓋を開けた。
続いて、またロボットの人形がひとりでに動き出した。人形は3フィートほどの平面を登り、箱の側面をよじ登って自ら中に落ちた。人形は掴めるようなものが何もないところを登り、自発的に — そしてきっかり4秒で頂上に到達した。私は動けなかった。
それから、それは組み立てを始めた。ロボットは、歯車やチューブ、ワイヤーを自分自身にすべて取り付けながら、箱の中で起き上がる。機械部品は人形にくっつき、互いに組み合わさり、板状の装甲と6本の乱雑な付属肢、そして1つの精巧な鉄の王冠を形作っていく。そしてついに、私の知る小さなロボットのアクションフィギュアは、箱の内外の物のほぼすべてを飲み込み、立ち上がると私に迫る高さにまでなった。
自動人形は周囲に溶け込もうとするかのように辺りを見回すと、その欠けた目で私を凝視し、おぞましい金切り声をあげた。
私は階段を駆け下り、裏口から家を出た。人形は窓を破壊し、庭に落下して私についてきていた。
私の持てる全速力で車道に出たが、振り返ってみると、人形は私に興味があるわけではないことに気づいた。それはガレージに向かい、既にそこに居た。鋼鉄製の扉を破壊し、それも飲み込んで — 化け物じみた造形に取り込まれる扉の、金属が噛み砕かれ、かき回される音が聞こえる。新たな素材によって7本目の触手が成長していく。私がなぜ逃げずに立ち止まっていたのかは、自分でもわからない。
ソレは一歩進んでガレージを丸ごと食べた。ものの1,2分ですべてが飲み込まれた。園芸用品は破壊され、熊手はかぎ爪に、シャベルの先は装甲になった。使い古された刈り込みバサミの列は、ぐずぐずの大口の奥で噛み合う歯列になった。2機の芝刈り機の留め具がステンレスの馬車に変形し、ソレの左肩と一体化した。金属製のフェンスが広がり、醜く歪んだ一対の翼になった。調理用ストーブは火炎放射器状に整えられた。予備タイヤのゴムはソレの関節や付属肢を覆った。電動のこぎりはサソリの毒針となり、回転数を上げた。車のエンジンはソレの巨大な恐ろしい心臓となった。
この巨人のような姿には畏怖さえ覚える。おぞましい。だが、私は未だに逃げていなかった。なんということだ、私は何故まだここに居る?
ソレは今や巨像に、ジャガーノートになっていた。果てしなく巨大な、戦艦ドレッドノートが如き天使の化身。その30フィートほどの尻尾は、100トンは下らないだろう。ソレは機械のクモが煙を上げてエンジンを吹かすように、脚と尾で無理やり立っているようだった。その神をも恐れないようなエンジンを核とした胴体には、今や腫れ上がった14の腕に爪、そして触手が混じりあった脚が生え、混乱しながら空を掴もうとしている。眼の代わりは未だ見つかっていないようだった。4つのボロボロになった翼、3本のとげとげしい尻尾、肩に2組の神殺しの砲を備え、そして1つの精巧な鉄の王冠が頭に載っていた。
そして、巨像は私に背を向け、木をなぎ倒しながら車道へ出て、そのまま東に、海の方に向かっていった。しばらくの間、私はそれを見ていた。
あれはカリフォルニア湾に帰ったのだと思う。









