マルとバツを並べて
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アベルに対して、〇✕ゲームのような引き分けが最適解のゲームを挑む事は禁止されました。アベルが引き分けを認めるまでに3週間を要しました。


「なあアベル、またアレやらないか?」

その一言から始まった〇✕ゲーム。とうの昔にパターン化され尽くしたごく単純な遊びだが、076‐2にとっては未だに新鮮味があるものらしかった。引き分けになるパターンが来ると非常に厄介なことは前回でわかったから、引き分けにならないように工夫しながら相手をする。そんな面倒臭いことをわざわざやるのは、経過観察ひまつぶしの為だ。

先攻が‪✕‬を書き、後攻が〇を書く音がずっと部屋に響いていた。076‐2は殆ど喋らない。たまに私が何か言ったり尋ねたりしても、大抵は頷くか首を振るかのどちらかだ。私が何かするたびにいちいち怪訝そうな顔をする奴らとは大違いだ。

「ほう、それは面白い手だな。ちょっと考えさせてくれ」

もちろん次に出すべき手はすぐに分かっていたが、考える振りをして、なんとなく首飾りに触れる。これは手癖のようなものだった。うーん、とわざとらしく声を出して悩んでいると、ずっと黙っていた076‐2が不意に口を開いた。

「最初はいつだった?」

その言葉で、首飾りを弄っていた手が一瞬固まった。

「ん、それはどういう意味かな?」
「最初はいつ、どうして死んだ? 死んだ後にそのアミュレットで復活したと聞いている。他の奴がオマエのそのアミュレットの話をしていた」

076‐2側は、過去に殺戮した何人もの人間を全員覚えてなどいないだろう。……そう、覚えていないんだ。いや、そもそも知らないのだろう。私のことを殺したのが、質問している自分自身だということを。しかしそれを知ったところで076‐2は何も感じたりはしないということを、私はわかっている。

だからニコリと微笑んでみせてその質問に答えた。

「……私の最初の死はお前によるものだったよ、アベル。何年も前の収容違反で、君は私を殺したんだ」
「そうか」

それきりまた076‐2は黙った。その後再び喋ることは無かったが、076‐2の様子は特段いつもと変わらなかった。やはり、特に思うことはなかったのだ。私のことは多分、運が悪かった奴とでも思ってるんだろう。

しばらく〇✕ゲームに興じてから、その残骸を持って私は076‐2の元を離れた。禁止されたばっかりのゲームをまたやってきたことを口うるさく言ってくる輩に見つかる前に、そそくさと自身のオフィスに向かった。

オフィスに帰り、手に持った何枚かの紙とそこにたくさん書かれた〇と✕の群れをちらりと見た。それを見るとなんだか胸焼けがする気がして、ゴミ箱に全て捨ててしまった。

きっと、このゲームはもうしない。私はずっと負け越しだ。

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