年越しそば
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朝。今年最後の朝はとても気持ちのよい目覚めだった。天気は快晴、体調も上々。意気揚々と仕事場へ向かう。今日は大晦日、1年の締め括りとして幾つかの書類を仕上げなければいけない、はずだったのだが。

何かがおかしい。サイトの廊下を歩いていたのは人ではなくざるそば、困惑して立ち止まる私を追い抜いていったのはかけそば。寝ぼけているのかと目を擦るも目に映ったのは動くソバだった。

「おはようございます、エージェント近江」

その声はエージェント育良だろうか、しかし目の前にいる…いや、あるのは一尾の海老天が乗ったソバ。

「お…おはようございます、エージェント…育良さん?」

「どうしたんですか?どこか体調でも悪いんですか?」

「い、いや…大丈夫です……」

どう説明すればいいのか全く分からない。朝起きたら皆がソバに見えるようになってました、と言うべきか?そんなミーム汚染があるのか?夢か?これは夢か?自分の右頬に渾身の平手打ちをしてみたが、鈍い痛みは確かに感じられた。ミーム汚染されたなんて報告したら確実に降格、いや拘束される。人がソバに見えるなんて話で拘束されたくはない……  黙っていよう。

研究室に籠り黙々と書類を仕上げた。SCP-209-JPなんて安全なオブジェクトにこんなに書類書かなくてもいいじゃないか・・・全て終わったのは夜の11時、相変わらず外ではソバが歩いている。食堂では年越しソバが配られていた。

年越しソバを配っていたのは天かすソバ。受け取った年越しソバをテーブルに置き七味唐辛子を取りに行った。しかし戻ったときにはテーブルの上に年越しソバが7つ、椅子は6つであるからどれか一つは職員の内誰かだ。そして不運なことに私の席の付近に年越しそばが3杯ある。確率は3分の1、ソバに話しかけたらミーム汚染されていることがばれてしまう。選んだのは真ん中、割り箸を咥えパシッと割り、ソバを捕え勢いよく音を立てて啜る!

ゴリラのパワーの如く、パンチの効いた鶏ガラつゆが絡められた麺は私の口に勢いよく飛び込み、頬が落ちるような鉄の味がした。

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