統計部門のオリエンテーション
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皆さんこんにちは。統計部門企画課長の番場です。お集まりいただきありがとうございます。
残念ながらベーグルはありません。というのも、これは公式なオリエンテーションではありませんので。
元々オリエンテーションというのは、あまり人が集まらない、何をやっているか分からない小規模部門が配属希望者を募るためにやっていた説明会でした。しかし我々統計部門はそれなりに規模があり、何をやっているかもみんなが知っています。なので、我々統計部門でもオリエンテーションをやりたいといってもベーグルの予算はおりませんでした。
ああ、話している間にコーヒーは行きわたりましたね。それは休憩室から拝借してきたやつです。既に配属されている皆さんには飲む権利がありますから、これの予算がどこから来ているかは心配しなくていいですよ。

さて、始めましょう。
我々統計部門は財団日本支部内におけるあらゆる統計データの徴収、資料化、分析を行います。直接にアノマリーや要注意団体と対峙することはまずありません。そういう意味で危険は少ないでしょう。若干の統計学の知識を除けば、他の部門みたいに変な法則を覚えたりする必要もありません。
我々がやっていることはこれだけです。本当に。…簡単そうだと思いましたか?ここに集められた方の多くは数字に強い方の筈です。実際、統計資料をまとめるのは皆さんにとって簡単な業務でしょう。

では、なぜこんなオリエンテーションもどきをやっているのか?答えは、覚悟を持ってほしいからです。

先程、ベーグルの予算が下りなかったと言ったのを覚えていますね?不思議なことです。20年前であれば、統計部門のオリエンテーションなんて、殆ど大した内容のない形式的なものなのにベーグルが出ていたんです。
経理部門ははっきりとした理由を言いません。しかし、統計部門は理由を察しています。予算不足です。我々の下に回ってくる表向きの会計諸表からは読み取れませんが、証拠は幾らでも揃っています。例えば、過去5年で「合理化」された収容予算の額とか、解雇されたEクラス職員の人数とか色々と。

財団は秘密組織です。これは単に外部に対して存在が秘密である、というだけの意味ではありません。全ての財団内部部門は、他の部門に対して秘密を抱えています。
陰謀論じみていると思いますか?残念ながら事実です。我々はあらゆる統計データを分析し多くの秘密を明らかにしてきました。員数外の職員、存在しない部門の業務内容、大小さまざまな不正等々。

今朝の朝刊の一面は読みましたか?…ええ、あの大企業が潰れるとは驚きでしたね。粉飾決算を15年も続けていたようです。世の企業や団体の多くが様々な挫折や破綻を経験する中で、財団だけは例外である、なんてことはありません。
財団にも不景気はやってきます。今日平常通りだからと言って、明日もそうだとは限りません。その事実から目を背けず、明日やってくる凶報を一早く知らせること、それが我々の任務です。

質問はありますか?
何、前職は渉外で統計や数学は苦手?問題ありません。君に求められているのは他部門との折衝です。部門が抱え込んでいる極秘資料を持って帰ってくる「営業マン」が必要ですから。君は、体格も良さそうですしね。

他には?…ああ、そうですね。我々は少々嫌われています。情報漏洩したと無実の疑いを着せられることは年に1回くらいはあります。

他にはないですか?結構。
僅かな虫の知らせをも見逃さず、文字と数字で見えるようにする。それが我々のできること、我々にしかできないことです。この部門が財団を救うことになると、私は確信を持っています。誇りと、矜持を持って職務に当たってください。
統計部門にようこそ。

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