イプシロン12-1555から文書化した物
背景: 機動部隊イプシロン12(『施設管理者』,現在消滅)は異常な生産設備及び施設の調査のために組織された機動部隊であった。当記録は、SCP-1555の予備調査45分時点で消息を絶ったエージェントハリスに対する捜索救出任務の物であり、彼らの最後の遠征である。
アルファ: 全員防護服着用の上無線機の電源は入れたか?
<チームより同意。>
アルファ: 内部チェック。
ベータ: ナイトロックス1及びヘリオックス2準備良し、満タン。
デルタ: 準備良し、満タン。
ガンマ: 準備良し、満タン。
アルファ: フィルタ機能チェック。
ベータ: フィルタ良し。
デルタ: フィルタ良し。
ガンマ: ちょっと待ってくれ。(ごそごそ…)フィルタ良し。
アルファ: デルタ、ガンマのフィルタをチェック。
デルタ: 機能良し。
アルファ: 密封チェック及び加圧。
<機動部隊の防護服に加圧される音が響く。>
ベータ: 密封良し、機能良し。
デルタ: 密封良し。
ガンマ: 密封良し。
アルファ: 遠隔機能チェック。
本部: 有線、無線、長長波100%。光学100%。気密及び気体排出、良し。
アルファ: 装備チェック。
ベータ: 自動小銃、チェック。拳銃、チェック。
デルタ: 拳銃、チェック。カメラ類、チェック。
ガンマ: 拳銃、チェック。分析機材、チェック。
アルファ: 準備完了だ諸君。進入のち脱出、道中潜入捜査を行う。エージェント・ハリスを探せたら見つけよう。内部へ。
(この時点で機動部隊はSCP-1555の円筒真下の扉を通過している。)
ベータ: パイプが凄い。
デルタ: ああ。
ガンマ: 導管尽くし。
アルファ: ああ、予備調査での報告によると夥しい数のパイプがあったそうだ。本部、我々は先へ向かいこのやたら多いパイプを確認する。
<デルタの外部マイクが鈍い音を拾う。>
デルタ: 何か鳴ったような。ヘルメット越しじゃ聞こえないな。
<また鈍い音。>
デルタ: こいつが何か吹いてるんだな。多分蒸気だ。
<デルタのカメラのシャッター音。>
アルファ: 先へ進もう。
<5分間、機動部隊は山のより奥へと無言で進む。>
ガンマ: なあ、この場所はこれまで人の出入りが無かったのに酷く綺麗だよな。どのパイプも輝いてるし。埃ひとつ無い。
ベータ: 埃のほとんどは人の皮膚の老廃物だろう?
ガンマ: あーそうだな、どーも。
デルタ: まごう事無くパイプばかりだな。
アルファ: 警戒を怠るな。唯のパイプか分からない、そしてエージェント・ハリスはここの何処かに居る。
<2分間無言。>
アルファ: 本部、廊下に出た。辺り一面大量のパイプとそのバルブで満たされた大きな房に居る。パイプのいくつかはラベルが貼ってある。
ガンマ: 『ガス構成』
ベータ: こっちは『乳剤』。
ガンマ: 写真を送信する。
<デルタのカメラからのシャッター音。光学リンクを介し写真が添付され転送される。>
本部: サンプルを採取出来るか?
ガンマ: ばっちりだ。
<ガンマが数分間に渡り、切断機をパイプに当て、ドリルでサンプル採取用の穴を空ける作業を行う。蒸気が吹き出す様な音が種々聞こえる。>
ガンマ: 本部、真空パイプ二本と中の蒸気四本分を採取した。質量分析器だと『ガス構成』のパイプは鉛管みたいだな。厚い方、黄色いのが『乳剤』のパイプから取った奴だ。ここの空気は完全に清浄だが、丁度酸素25%、窒素75%の割合だ。
(試料用真空チューブを通してガンマが原料の入った小びんを送る。黄色乳剤塗りの資材が塩化銀の内容物と共に確認された。)
本部: サンプルを受け取った。準備が出来次第先へ進んでくれ。
ガンマ: 何かが丁度この真空パイプを通り過ぎて行った。真空カプセルだと思う。
アルファ: 前進。
<22分間、機動部隊は(ステータスチェックを除き)無言でSCPのより奥へと進む>
ガンマ: 待った。放射線検出。
アルファ: そりゃ凄いな。線量は?
ガンマ: 無害なレベルだ。待ってくれ、測定ポールを出した。
ガンマ: 3メートル下までは無害なレベルだが、そこからは少し増加している。
本部: 前進せよ。その防護服はこのレベルなら十分防げる筈だ。
アルファ: 別の房がある。壁から更にパイプが出て来て伝っている。
本部: 先へ進んでくれ。
アルファ: 例の如く大量のパイプだ。途中に何かの機械があるな、パイプがそこに向かっている。ハリスの痕跡は無いままだ。
デルタ: 写真を送信する。
<デルタのカメラのシャッター音。光学リンクを介して写真が転送される。>
本部: 止まってくれ諸君。調査する。
<二分間無言。>
本部: うむ。アルファ、そこに見えているそれは小型原子炉のようだ。米海軍で通常使われる型に似ている。
アルファ: クソが。
ベータ: ここはお船じゃないぞ。一体どういうことなんだ?
デルタ: 何かの制御機材やその類も見えないな。制御室に面する窓も無いしな。
ガンマ: 皆このパイプから離れとけよ。放射線が出てる。
本部: サンプルを入手出来るか?
ガンマ: はいよ。
<30秒間、ガンマが切断機を入れ穴を穿つ作業音が聞こえる。>
ガンマ: 分析機だとウラン六フッ化物みたいだな。混ざらないようにこうし…うわああ!
<何かが噴出する大きな音が聞こえる。>
アルファ: ああクッソ!走れ!こっちだ!
<一分間、隊員達が息を弾ませ原子炉室から逃げ出している。>
ガンマ: いきなり加圧されてあのクソ忌々しい欠片が切断機を吹っ飛ばしやがった。放射能汚染されたガスをモロに浴びちまった。
アルファ: 本部、出口にデコン設営求む。
本部: 了解。
アルファ: ガンマ、ヨウ素剤の錠剤がヘルメットの三番目の取り出し口にあるだろう。服用しろ。
ベータ: パイプだらけだ。
デルタ: ああ。
アルファ: 線量計の数値はどうだ?
ガンマ: 防護服が放射能汚染されて俺は癌になっちまうだろうけど、今日は生き延びられそうだ。
本部: そちらは順調に進めているか、アルファ?
アルファ: 了解、本部。全員これ以上パイプと触れ合いにならないように。
デルタ: そうだな全く。
ベータ: もう配管に触ったりなんてしないよ。
ガンマ: 防護服の一番外側が剥がれちまった。
本部: 恐らくは腐食性のガスに包まれたためだろう。心配するな、現在テントを設営中だ。
ガンマ: デコンじゃ癌は治せない。
本部: 癌になるかは早計に過ぎる。
アルファ: 前進する。
<ステータスチェックを除き15分間無言。>
アルファ: 何らかの標示群の前にやって来た。パイプは全て壁の中に戻り標示群がそれを覆っている。別の房がある。大きなシャフトに向けて開いているようだ…斜めに上下している。天井から吊り下げられて真ん中を下って行くパイプの束がある。
(この時点では、慣性案内は機動部隊が山の中央付近、山頂から400メートル下の地点に居ると示している。)
ベータ: 全部警告標示だ。
デルタ: こいつはドイツ語で書かれてる。
ガンマ: 分析ではここには放射線は無いが、酸素も無い。待ってくれ。
ガンマ: ここの周囲の空気はヘリウムだぞおい。何の物理的な仕切りもないのに空気だけが変わってる。
本部: 注意して進んでくれ。
アルファ: 了解。前進する。
ベータ: ここでもパイプとなんて触れ合いにならないように。
(遠隔電子機器は全て機能を喪失した。機動部隊からの視覚音声通信及び試料管は使用可能のままであるが、外部マイクは使用不可能である。本部から機動部隊への通信は防護服の復調機の残量が不足しているため、モールス通信のみである。)
本部: ジョウキョウホウコク
アルファ: ここの敷居を越えた後で全ての電子機器が壊れた。
アルファ: 廊下へ戻っている、ヒトもモノも壊れかけだ。
ガンマ: 分析機材も駄目だ。
ベータ: 自動小銃は使える。
ガンマ: おいコラ、そこらに撃つんじゃねえよ。パイプに当たるだろうが。
ベータ: このパイプめ。
アルファ: 次回はダメ機能をチェックしてくれ、ベータ。
デルタ: デジタル一眼レフカメラは駄目だ。荷物にペンタックス製の古いフィルム式カメラがある。待ってくれ。
デルタ: 露出計なしで、フィルムは高感度の白黒のみだ。ガンマが傍に立ってちらつかせなきゃいいんだが。
ガンマ: 俺の防護服は放射性じゃねえよ。3
<小休止。>
アルファ: 何だこれは!無線機が燃えた!
アルファ: 全員電子機器のスイッチを切れ!
アルファ: 電子機器は全て発火するぞ。
ガンマ: 分析機材をこのヘリウムの空気中に投げた。発火はしないが床で溶けやがった。
デルタ: 本部、さっき送信した写真を受け取れたといいんだが。メモリーカードがトーストになっちまってる。
本部: ウケトッタ
アルファ: 本部、提言はあるか?
本部: マテ
(本部の研究員同士の会話により4分間経過する。)
本部: ゼンシンセヨ タダシ キケンヲカンジタサイハモドレ
アルファ: 了解。前進する。
ベータ: 畜生、もっと深く?
デルタ: 階段がシャフト側にあるな。階段があるんだから誰かしらかクソ共が居るよな。
ガンマ: セラミックの絶縁体から察するに何らかの高電圧線が右側面にあるようだ。線上に絶縁する物は無い。左側面を保持して行こう。
アルファ: 全員油断するな。
アルファ: シャフトの下端に向かって何かの力が引っ張っているな。
デルタ: 気泡水準器を持っている。重力異常かもしれない。
デルタ: このエリアを調査してみよう…以前潮汐力でばらばらに引き裂かれた人々を見た事がある。ありゃあいいモンじゃないよ。
ガンマ: 風がシャフトを吹き降りてるじゃないか、お前が、ほんとバカなんだよ。
ベータ: ああ、風音が聞こえた。
<7分間無言。>
アルファ: 左前方に戸口がある。調べよう。
アルファ: ああクソ、何てこった。ハリスを見つけた。
本部: ジョウタイハ
アルファ: 彼の下半身が無い。完全にすっぱりと切られている。
本部: ゲンインハ
アルファ: 分からない。
ベータ: ここを行った先に通路がある。
アルファ: 調査する。
<1分間無言。>
ベータ: な!待て待て待て待て!
アルファ: 何があった?
ベータ: 小銃の銃身が切り落とされた!
ベータ: 通路に小さな穴の様な所があったんだ。そこら中にある。
ベータ: 通る時にその上に銃身を突っ込んだら、薄切りにされた。
デルタ: この床中にそんなのがあるってのかよ?
ベータ: 小銃の薄切りと……ああ、畜生。
ガンマ: 吐きそうだ。
アルファ: やらんとは思うが防護服内で吐くなよ。
アルファ: 本部、ハリスのもう半分を見つけた。
本部: ジョウキョウハ
アルファ: ひき肉にされちまったのが床中にある。焼けて、まるで砂粒だ。
デルタ: 物凄く近付けば天井から床の穴に張ってある物が見えるな。極細のワイヤーみたいだな。
アルファ: 引き返す。
<隊員達の防護服越しに大きな物音が聞こえる。>
ガンマ: どうしたベータ!?
ベータ: ガス管付きの使えないクソライフルが切り落とされた。アレは銃全部をたやすく切れるんだ。
デルタ: とっとと出ちまおうぜ。
<1分間無言。>
アルファ: シャフト上部に進行する。
ベータ: 今度は風が上向きだ。
デルタ: 追い風だな。
ベータ: 風が強くなってきている。階段は鉄製だ。各員、用具で固定……クソ、留め金が無くなってる。
アルファ: 手すりにしっかりと掴まっておけ。
アルファ: 取り消す、手すりはガリウムか何かで出来ている。触ったら溶けた。(ガリウムの融点は29.8 ℃。)
アルファ: しがみつけ。飛ばされそうなら傍にくっつき、互いに身を寄せ合え。
<3分間無言。>
<突如風の音が防護服越しに聞こえる。>
ベータ: ああ!
アルファ: ベータ、何か脇に掴まれ!
ベータ: 風が横に吹いてる!通気口とか掴めそうなのが無い!
デルタ: パイプの上に通気口がある。よく見るんだ。
ベータ: ぐっ!
<ベータの防護服越しに打ち付ける様な大きな音が聞こえる。>
ベータ: ワイヤー群に引っ掛かってる!
アルファ: どれかのパイプに掴まりそこから身を離すんだ。その防護服は断熱性だ、耐えられ……
ベータ: ワイヤーが、熱い!断熱越しに焼けてる!
アルファ: 頑張るんだ!耐えろ!
ベータ: 駄目、耐えられない、たえ……
(ベータの防護服との光学リンク越しの通信が切断。真空チューブが本部にただヘリウムを返す。)
ガンマ: ニールセン!(Nielsen)
アルファ: 畜生、何で!
デルタ: 出ちまおう!風が下向きに変わった!
ガンマ: このクソパイプめが!
<4分間の動揺した息づかい。>
アルファ: 本部、聞こえるか?
本部: キコエル
アルファ: ベータは死亡…ワイヤーが防護服と彼女を焼き切った。チューブは密閉したが、再度動作しているか?
本部: シテイル
デルタ: 通路は向かって左にある。ここに来た時にはこっちに無かった。
ガンマ: ここの領域はまだ下に続いているな、まあ…。
アルファ: 本部、限界ギリギリまで行く、リード締めてくれよ?
本部: ワカッタ
アルファ: 締まって行こう。前進する。
<6分間無言。>
アルファ: 壁が変わった。ここからはコンクリート壁ではなく、見た所打ち放しの鉄の壁だ。
ガンマ: くすんだオリーブドラブ塗装だな。
アルファ: 前方に別の房があるな。出るためには通らなければならん。
<1分間無言。>
アルファ: 湖なんてあるぞ。クソ深い上にこれまた大量のパイプが入り込んでいる。
デルタ: 超デカいな…向こうまで1マイル(約1.61km)くらいありそうだ。
アルファ: 本部、我々は山の内部に居るのだと思っていた。これはそうとは思えない程大きい。
本部: マテ
本部: ソチラハ ヤマノ ナカニイル 1200 メートル シタダ
デルタ: 水面下に光があるな。おい。
ガンマ: 青色だな。見た感じ…湖全部が原子炉みたいだな。4
ガンマ: こちらの試料管は生きてるが、どうする?
本部: オクレ
ガンマ: 水のサンプルを送る。
<2分間経過。>
ガンマ: 受け取ったのか?空気はあと二日分しかないんだぞ。
(予想された4分後、サンプルの入った小びんが届く。到着後即、サンプルにより放射線警告が発せられる。)
本部: キケン スミヤカニデロ サンプルハ コウホウシャセイ
アルファ: ええい畜生め、出るぞ!ぴったり付いて来い!
<3分間の激しい息づかい。>
アルファ: 止まれ。一旦小休止とする。
ガンマ: 了解。
デルタ: それじゃ…うわ!
<部隊の防護服越しに何か打つ様な音が聞こえる。>
アルファ: どうした!?
デルタ: 壁一面にあるパイプに寄りかかったんだよ!
ガンマ: パイプの中はネズミで一杯だ!
アルファ: 本部、野鼠を突き止めた。パイプから出ている。
デルタ: 何千何万って数の鼠だ。
ガンマ: この、このパイプネズミ共が。
ガンマ: どうだネズミ共!このパイプ野郎が!
<防護服越しに複数の発砲音が聞こえる。>
アルファ: 撃つんじゃない、ガンマ!
ガンマ: クソパイプが!
デルタ: 向こうのあのパイプに当たってる、漏れてるだろ。
ガンマ: え、ああ…。
アルファ: ガンマ、お前の拳銃寄越せ。
ガンマ: 了解…。
アルファ: 何かの白い雲がたなびいているな。ガスか蒸気かは分からないが。
アルファ: 前へ行く必要がある。
<2分間無言。>
デルタ: 滅茶苦茶冷てえ。液体窒素か何かだコレ。
アルファ: 出来る限り早く通過しよう。
ガンマ: 防護服の関節部が凍り付いちまった。
デルタ: 俺のは良好だが。お前のは外層が無いせいじゃないか。
ガンマ: パイプ共めが。
アルファ: 凍り付いた野鼠が床中にあるな。
<2分間無言。>
ガンマ: 肘が曲げられねえ。
アルファ: このまま行こう。
<1分間無言。>
ガンマ: 何か空気タンクに落っこちたみたいだ…吸い込む空気が冷えて来た。
デルタ: こっちは大丈夫だぞ。
アルファ: 空気タンクが剥き出しになっている様だぞ、ここから出ないといけないな。
<1分間無言。>
ガンマ: なあ二人とも、肺が凍り付いてて、防護服の膝も固まっちまってるんだ…凍ってんのかな?引きずってくれるかい?
アルファ: ガンマ、引っ張って行こう。
<2分間無言。>
ガンマ: なあ、膝が固まっちまってさ。もう…
<砕ける音が聞こえる。>
アルファ: ガンマ!
デルタ: ヘルメットの面が砕けちまってる。ガンマは死んだ。解放されちまった。
アルファ: 畜生!
(ガンマの防護服との光学リンク越しの通信を切断。真空チューブから極低温に冷やされた水素を数分間に渡り受け取る。)
アルファ: ここから速攻で脱出しよう。
<6分間無言。>
アルファ: 通路を一気に引き返すぞ。
デルタ: ここは暖かいな。
アルファ: ガンマがぶちまけたパイプの片端だ。空の様だな。
デルタ: 何か飛んで出て来てる音がするな…きっと圧縮空気だな。
デルタ: うわあ!
アルファ: 何をした!?
デルタ: 触ってない!寄りかかったらネズミの毛が噴き出して来た!
デルタ: とにかくここから離れよう。
<28分間無言。>
アルファ: 大きな房があり、ここでもパイプが壁に入り込んでいる。進入する。
アルファ: 高い天井だ…5階か6階分という所か。壁は途中まで石綿で覆われている様だ。
デルタ: パイプが一本あるな…天井の上から唐突に伸びている。約50センチで途切れている。
デルタ: おい!今何か落ちたぞ。
アルファ: 通路に戻れ!
<防護服越しにガラスが割れる音が聞こえる。>
アルファ: 何なんだ一体?
デルタ: ここでもまだ何かあるってのか?
アルファ: 本部、あのパイプから黄色粉末で満たされた密閉ガラス容器が落とされた。
アルファ: サンプル用のケースはガンマが持っていた。我々では送れない。
デルタ: フィルムケースならある。
アルファ: 丁度良いな。
アルファ: サンプルを送る。
本部: ワカッタ
<ガラスの割れる音で度々静謐が遮られるも、35分間ほぼ無音。>
(33分後、到着予想通りにサンプルが到着する。)
本部: ウケトッタ マテ
本部: サンプルハ 50パーセントガ イオウ ノコリ50ガ ミチノ ユウキブツ
本部: シバシ マテ
アルファ: そりゃいいな、暫し休める。
(本部でサンプルを分析する間に、23分が経過する。)
本部: カンリョウ
本部: ノコリ50ハ キノカフン セコイアスギ ノ モノ
アルファ: 予想はしてたが役に立たんな。
アルファ: 行こう。きっちり付いて来る様に、後ろにぴったりくっつくくらいにな。
<20分間無言。>
アルファ: またも全てのパイプが壁の中に入り込んでいる。前方の壁面上に何かあるな。
アルファ: 見た所、床から天井まで壁の大部分が開いたパイプで埋まっている。
アルファ: 前方に向かおう、パイプがこっちをヘドロか何かで埋め尽くさない事を願ってな。
<30秒間無言。>
デルタ: ちょっと待ってくれ。
デルタ: ライフリングがある!このパイプ群は銃身なんだよ!
アルファ: ああクソ!走れ!
デルタ: 奴等はここで殺る気だったんだ!
<15秒間の動揺した息づかい。>
<各々の防護服越しに自動機銃による膨大な数の発砲音が聞こえる。発砲は約5分間続く。真空チューブが漏れ始める。>
デルタ: 止んだ。本部、聞こえるか?いまいち耳が聞こえないんだ。
本部: キコエル
デルタ: アルファは死亡…彼のスーツすら見分けが付かない。俺が最後の一人だ。
デルタ: 5インチ(12.7 cm)くらいの塊が壁にへばり付いてる。畜生め。
デルタ: 彼のリンクを切断し、真空チューブを密閉する。
デルタ: 本部、俺は出口に近付いてるよな?
(この時点で、本部は12キロ離れている。真空チューブの限界一杯で残り1400メートルである。拡張分は化学的、物理的に元の素材と同一である。この情報は機動部隊の最後の隊員の士気を保つために伏せられていた。)
本部: モチロン
デルタ: ありがとさん。
デルタ: 進み続けるよ。
<12分間無言。>
デルタ: 前方に別の房がある。
<30秒間無言。>
デルタ: 本部。
本部: ウム
デルタ: 通路はここで終わっている。
デルタ: 小さなパイプが一本ある。床の中程に、おおよそ直径3インチ(7.62 cm)で5インチ(12.7 cm)の長さだ。
デルタ: 留め具が入り込んで行く。
デルタ: 入り込んでここから出られねえ。
デルタ: もうどうあがいても空気が尽きてここで呼吸するのを待つしかない。多分ホスゲン5かキセノン6か何かだぞ。
デルタ: 拳銃に弾が12発ある、ここの天井が迫って来て俺を潰す前に、自分のドタマを吹っ飛ばすつもりだ。
デルタ: ロールフィルムを送る。開く際はケースの爪を押し込んでくれ。
本部: ワカッタ
本部: キデンハ ミゴトニ ナシトゲテクレタ
本部: スマナイ
デルタ: もう違いなんて無いさ。
デルタ: フィルムが届いたら教えてくれ、そしたらリンクを切断する。
本部: ワカッタ
(予想された通り、4時間後にフィルムケースが到着する。)
本部: フィルムガ コチラニ アガッタ
デルタ: 良し。
デルタ: 俺の宿舎のベッドの下に錠前付きの箱がある。解錠番号は3589だ。その中にあるノートを弟に送ってくれ。
本部: ソウスル
デルタ: ここには代わりの誰も送らないでくれ。ロボットか何かを使うんだ。ここにこれ以上人を通らせちゃいけない。Dクラス以外で、こんな事やらされる者なんか居ないんだ。
デルタ: もうやっちまおうと思う。ここの勝ちになんてさせないさ。
<空気の流入音と銃声に伴われ砕ける音が聞こえる。>
イプシロン12-デルタの自決後、60キロメートル以上に渡る留め紐をSCP-1555から回収した。使い捨て人員以外での財団職員による更なる探査は禁止とされ、これに加えて、財団の標準型加圧式試料切断機は、イプシロン12-ガンマの経験を踏まえ、このような噴出事例を避けるべく改良された。