UTE-7560-Velveteen回収記録の写し
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突入前の空気はいつだって重い。隊員の様子を見ると、皆緊張した面持ちであった。
 
排撃班5823"青嵐"の隊長、"鉱石"は一度時計を見て、淡々と促した。
「"掲示板"、任務詳細を」

掲示板と呼ばれた男が一歩前に出る。
「確保対象はUTE-7560-Velveteen、認可レスポンスレベル2の超脅威存在です。所持者はORIA、連中から対象を奪取、破壊する必要があります。事前調査から対象は先々月のFBI襲撃時に奪取された物と推測されます。また、財団が対象の確保に動いています」

「連中はどうしてもこのクソが欲しかったらしい。激しい反撃が予想される。なぜ俺達が呼ばれたか、分かるな?」

鉱石の言葉に、隊員は各々頷く。
OCULUSを起動させ、鉱石は冷静な目でターゲットの潜むバラック小屋を睨んだ。
「突入」
 


 
部屋にはORIA構成員の死体が転がっている。銃撃音はなりを潜め、アノーマリーを捜索する音だけが響く。
"トンカチ"が部屋の隅で傷の手当てをしていた。スーツで保護できない部分に弾を受けたのだろう。連中が本隊と合流していたら、被害はより大きかったろう。

「隊長、回収対象ってこれじゃ?」
トンカチが拾い上げたのは、見た目は古いパスポートだった。どうもまだ使えそうだ。
「なんかパッと見、異常なさそうですね」
興味津々といった様子で、隊員達はじっくりと見ている。

「黙れ」
鉱石は堅物で知られる人間である。排撃班の隊長として、冷徹無比に任務をこなしてきた。たくさんの人を殺し、たくさん破壊してきた。
その彼が、これは特別だと感じてしまっていた。きっと便利なものだろう、きっと役に立つだろう。でなくても、何か使える技術になるかもしれない。

「レベル2の物品なんでしょう? 持ち帰って観察下に置きましょう」
「俺は、黙れと言ったんだ」

だが彼は知っている。
そんなものはこいつを壊さない理由にはならない。

トンカチからそれを奪い取り、呆然と突っ立っている隊員の頬を叩く。
「我々の任務は破壊だ、それが何であろうと! 便利そうに、無害そうに見えても実態は分からん」
「でも……」

それでも未練たっぷりにアノーマリーを見る輩を睨みつけ、鉱石は怒りに任せて手に握ったものを引き千切る。
「手前ら、それでもGOCか!」
叱責に隊員は首を竦める。それから、ハッとして隊長の方を見た。
 
既に、彼らの中から気の迷いは消えていた。
もしや、このアノーマリーの性質か? ぐっと口を引き締めた鉱石の耳に、本部からの連絡が入った。
 
 

補遺8: 20██年1月██日、GOCより「SCP-756-JPをORIAより奪取後、破壊した」との情報が寄せられました。また、GOCとの合同調査によって、SCP-756-JPが破壊されるのと同時にミーム的特性も消失していた事が確認されました。
 
SCP-756-JPの残骸はGOCより返還され、Neutralized認定後、同組織職員立ち合いの下で焼却処分されました。

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