隧道蛸
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──「北陸自動車道の噂、知ってるか。」

こっちのサイトに配属されて少し経った時、ある先輩がそんな話をしてきた。

「学生の間でそういう噂が多いみたいだ。特にそういうのが好きな中高生。俺も最初は息子経由で知った。流石にこっちの仕事に支障が出るレベルだから定期的に記憶処理やらするんだが、それでもいつの間にかまたその噂が出るんだ。」

ハンドルを握る手が汗ばむ。

「記憶処理の度に内容は変わる。ただどんな時でも変わらない物、それは出現場所、トンネルだ。」

「お前も少しは知ってるだろ。トンネルが連続してる区間がここにはある。26個。そのうちどれか一つで、出るらしい。」

トンネルを抜け、またすぐ次のトンネルへ進入する。

「ある時は車だった。ある時は非常電話から出てきた。バラバラだ。」

子不知トンネル、総距離4500m弱。目が慣れていく。

「噂が出る前に俺達も巡回してるが、どうにも見つからない。監視カメラだって何も映し出さない。見つけたらある意味手柄もんだな。」

落ち着いて車を停め、通信機のスイッチを入れる。

『巡回部隊な-47("群青")の南方です。子不知トンネル内、異常有、機動部隊こちらにお願いします。』

ライトが全て、こちらを凝視している。こちらを異物、あるいは餌とでも思ってるかのような目、目、目。

「ただまあ、見つからないからって適当にしていい訳じゃない。そこにいると思い込んでる意識の集合で、オブジェクトは発生する事もある。特に注意すべきはそれで神格実体が来てしまうことだ。」

「幸い今回の噂はただの異常な蛸で終わりそうだが、それでも巡回中は気を抜くなよ。」

トンネルに組み込んであったバリケードを作動させ、子不知トンネルは完全に封鎖された。ラジオからは事故のため封鎖、とカバーストーリーが流布されている。

問題はここからだ。どのように収容する。見た所異常はライトだけだ。敵対的な行動も見られない。取り外せばトンネルは通常通り使用できるだろうか。



──何か聞こえてくる。エンジン音。

ライトの目玉は一斉に消え、バイクが1台、突っ込んできた。バリケードを目視するが、どこも破損などしていない。形を変えたか、と考える。

ライダーは人の形をしていた。首根っこから生えた無数の触手を除いては。南方に挑発のハンドサインを送ると、バイクは走り出した。

逃げ出されてはまずい、と急いで車を動かす。長いトンネルとは言え、4km弱しか無い。異常性もまだ確定していない。もしこのまま別のトンネルに行かれたら厄介だ。

120、130とスピードを上げていくが、追いつけない。このスピードだとあと30秒もいけるかどうか。さらに加速する。

トンネルの出口が見えてしまった。明かりが、明かり?バリケードが作動しなかったのか。

いや、あれは違う。ブレーキを踏み込み、スピードを落とす。ライダーはこちらを振り返ると、ニヤリと笑った。気がした。



直後、バイクは出口で待機していた機動部隊のトラック荷台にそのままの速度で突っ込んで行った。

即座に扉が閉まる。内部カメラは困惑するライダーを映し出していた。




トンネル内部の調査が終了した。異常無し。収容完了。ライダーは最寄りサイトに輸送され、通行止めは解除された。トンネルを出る際少し見えたあの空は、もう透き通るような青で上書きされている。

生まれたばかりの噂の怪異は、あっさりとその居場所を無機質な収容室に移されることとなった。ただ、噂自体は消えることはない。そう遠くないうちに、またあのチェイスが始まる事を、蓮台寺PAで一服している南方は知らなかった。

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