連邦記録法に則り、以下に電子コピーを掲載
UIUファイル2014-014: ケースファイル “形而上学的サメテロリズム”
概要: 当該実体はウバザメの形而上学的な影に類似する概念食性の存在である。神格化協会によって創造された後、スリー・ポートランド内にて活動していた。ジュラシック地区の採石場に最初に出現し、労働者の死と高価な超常工学パラテクノロジーの破損を招いた。捕獲されるまでの間、都市の様々な場所で活動を継続した。
名前: N/A
変則性相互参照: 動物、サメ、形而上学、概念食、神格化協会
身体的特徴: 当該実体はCetorhinus maximus(ウバザメ)の形而上学的な影であり、黒いシルエットの形を取る。
性別 | 身長 | 体重/体格 | 人種 | 髪 | 目 | 特徴的属性 |
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オス | 26フィート(7.9m) | N/A、巨大 | N/A | N/A | ダークブルー | ウバザメの三次元的な影、空中を移動可能 |
能力: 対象は特定領域内の概念を濾過摂食し、また固体物質をすり抜けて“泳ぐ”ことが可能である。摂食された概念はその領域から消失し、2時間後に再び現れる。例として、“鉄”という概念が摂食されたならば、領域内のあらゆる鉄(およびそれによる構成物)は消失する。この場合、鉄は本来あるべき場所に輪郭だけを残すことになる。
目的/動機: 不明/生存
活動規範: 対象は空間を移動しつつ、口周りの球状空間(半径23フィート)にある概念を消費する。対象が動くにつれて、背後には概念を失った空間の軌跡が残される。
行動: 通常のウバザメと同様、大人しく振る舞う。口は摂食過程において開かれ、影響領域を去る際には閉じられる。当該実体は自身より巨大な固体物質を通り抜けることによって消失する。
鉄筋の欠片: 対象に消費されたリー・ヴァン・クリーフ記念陸橋の一部だった長さ8フィートの鉄筋。消費されたサンプルの中では唯一、完全には概念的不変性を取り戻せていないという点で注目すべき物品である。鉄筋は消費された状態と通常状態の間で変動しており、しばしば概念の一部を喪失する。
時間石灰岩の欠片: スリー・ポートランド内での人気が高まっている建材の欠片。石灰岩の堆積物を構成する先史時代のサンゴと軟体動物を、未だ生きた状態で異常に含有している。スリー・ポートランドの入口の一つであるポートランド島に近いジュラシック地区の採石場から採掘されている。この欠片はインディテック建設会社が所有する、対象が最初に出現した17番採石場に由来。“真空”の概念が失われた際に石壁から吹き飛ばされたものである。
未知の概念的パラテクノロジー: 形而上学的な特性を改変するために使用された、手製のパラテクノロジーの断片。SCP財団が使用する現実測定装置、カント計数機の携帯版を基にして構築されており、インディテック・GRENadINES株式会社・旧プロメテウス研究所などの企業から盗まれた物と特定されたパラテクノロジーで大幅に改造されている。当該物品の中央チャンバーには複数の抽象的-形而上学的概念構成ポインタ1と、少なくとも1つのプロパティエディタツールが含まれていた。当該物品は元々、1980年代初頭からスリー・ポートランドで活動し、類似の事件に関与していたテロリストグループ/カルト教団の“神格化協会”(Associates of Apotheosis, 以下AoAとする)が所有していた。どのような仕組みで機器が作動しているかは不明であり、研究が進行中。
現状: 当該実体は現在、ティール地区の人気観光スポットであるポートランド水族館の改造水槽で飼育されている。水槽は概念的無固晶(Conceptually Null Clearsolid, 通称CNC)2で構築されており、水位は対象のニーズに応じて変動する。各種の複雑な保安システムによって、許可されていない実体または物質が水槽内に入ることは阻止される。対象の状態はAoA構成員によって兵器化目的で人為的に引き起こされたと考えられるため、形而上学的海洋生物学者たちがUIUと協力して対象の状態を判断している。対象は自身の状態のため、常に中~重度のストレスの兆候を示している。
犯罪: AoAの構成員は、犯罪目的による形而上学的・概念的特性の操作、動物虐待、意図的な財産損害、重窃盗、軽窃盗、複数の第一級殺人、並びにテロリズムの罪に問われている。
量刑: 無期限拘留
UIU活動記録:
1982/8/27: AoAは、動物を用いたパフォーマンスと精神病歴の両方で知られるカリスマ的なパフォーマンス異常芸術家アナーティストのJ・ランデッカー・スミスと、プロメテウス研究所に雇用されていた形而上学エンジニアのロナルド・カーンにより、メタヒューマニズムに関心を持つ人々の宗教クラブとして設立された。この団体の中心目標は“概念摂理”の状態または“概念的特異点”への到達、即ち神格と化すことである。構成員には様々な科学者、アナーティスト、トランスヒューマニズム主義者、そして少なくとも1名の非人間市民が含まれる。UIUはこの時期からAoAの監視を行い始めた。
1987/3/02: AoA構成員が、昆虫ベースの概念食生物としての形而上学的改変を受けた700匹のカエルを放流。問題のカエルには、食欲を増大させエネルギー消費を減少させる目的で、甲状腺に異常な手術が施されていた。このため、半径30ブロックの全ての昆虫が概念的な無と化し、浄化に7ヶ月を要した。AoA構成員はまずUIUの注目を集め、2年間収監された。この後、サメの解放まで目立った活動は無し。更なる情報はファイル1987-005を参照せよ。
2014/5/17: 1:09 PM、サメはジュラシック地区のインディテック建設会社が保有する3番採石場の内部に出現。採石場の労働者である陳 淑芬チェン・シューフェンからポートランド警察に入った通報の傍受内容によると、労働者はまずこの実体の出現に困惑を見せ、作業能率を落とし始めた。実体が口を開けて“空気”の概念を食べ始めるとパニックが広がり、酸欠によって多数の死亡者が出た。通話は1:14 PMに途絶え、警察とUIUエージェントが現場に派遣された。また、追加の警官が砕石場の入口を封鎖するために送られた。1:32 PMの到着時点で、実体は領域内を旋回しつつ空気を消費し続けていた。警官はサメが接近した際に発砲し、対象は地面の中に入り込んで消失した。消費された領域内の空気は3:15 PMに復旧した。
採石場にいた22名の労働者全員が酸欠で死亡。時間石灰岩の採掘と保存に使われていたパラテクノロジーは、真空の形成とその後の通常大気の復旧によって甚大な被害を被った。時間石灰岩もまた、適切かつ安全な保管を行うための労働者がいなくなったため、機械を損傷させる要因となっていた。
2015/7/15: 8:47 PM、サメは2317ウクレレ・ドライブに位置するヴァレー・ヴァレ奇跡論ショッピングセンターの内部に出現。実体はヴァレー・ヴァレ映画館の内部にある“活動写真”の概念を消費して建物を退出し、“夏”の概念を消費してから1台のバスの内部へ入り込んで消失した。周辺風景は1時間の間、寒い気温と死んだ植物から成る冬の様相を呈した。ヴァレー・ヴァレ映画館の内部からはスクリーン、売店、利用者が2時間近くにわたって消失していた。全ての概念は10:40 PMに復旧。ヴァレー・ヴァレ映画館の利用者たちは“映画”という概念を理解する能力を恒久的に喪失したが、それ以外には危害を受けなかった。
2016/3/12: 6:51 AM、サメはブレイクウォーター地区のトリニティ・ハウス・オベリックス・シャドウの隣に位置するリー・ヴァン・クリーフ記念陸橋に出現。“コンクリート”および“鉄筋”の概念が1時間にわたって摂食され、橋の大部分が8:50 AMまで失われた。道路上の車をはじめとする乗り物が橋から地面へと落下し、およそ79人死亡、28人負傷。破壊された/破損した車両からは複数の悪魔実体が解放され、結果として蘇生3件、人間憑依1件、テクノロジー憑依2件が発生した。スリー・ポートランド警察、高リスク対処部隊、UIUエージェント、複数のパラテック分野の専門家が派遣された。
橋の消費による恒久的ダメージは残らなかったが、概念の復旧時、落下した複数の破損車両が支柱に融合した。これによって橋には構造的損傷が発生し、修理のために陸橋とその下の道路は2ヶ月間封鎖された。この間に車両片および人体部位は支柱から取り除かれた。融合していた人体部位の持ち主の死亡時期が橋の再出現前か、或いはその途中かは判明していない。
2017/8/7: 1:32 PM、サメはティール地区のフェニックス公園に出現。民間人は当初興味をそそられていたが、やがて対象はアイスクリームを異常な手段で製造販売している企業、アストラル・アイスに関連する概念の摂食を開始した。アストラル・アイスの売店、製品、従業員が消失し、民間人の間にはパニックが発生した。UIUエージェントと警察は1:51 PMに到着し、民間人と残りのアストラル・アイス従業員を退避させた。影響された全ての概念は3:40 PMに復旧。影響を受けたアストラル・アイスの従業員たちは、同社のユーテック・スターズ味アイスクリームを知覚する能力を恒久的に喪失した。
2017/10/20: 8:01 PM、サメはティール地区のポートランド銀行の外部に出現し、“奇跡論”の概念を消費し始めた。奇跡論に基づくテクノロジーと銀行の保安システムがシャットダウンし、即座に警察部隊派遣要請の警報が発せられた。UIUエージェントと警察は8:23に到着し、実体を監視して銀行のセキュリティに更なる違反が発生するのを阻止した。実体を捕らえるための特殊拘留コンテナを輸送するため、道路は封鎖のうえで通行が一掃された。コンテナが8:49 PMに到着すると、サメは速やかに銀行外からその中へと入り込んだ。CNCバリアがコンテナ周囲に展開され、実体を水槽内に捕獲。コンテナはその後、一時的拘留のためにUIUティール施設へ移送された。
2017/10/30: サメはより良い拘留および世話のためにポートランド水族館の特殊水槽へ移送されることになった。UIUエージェントは水族館を保護し、実体の研究を支援するために割り当てられている。
2017/11/5: 8:00 PM、AoAの構成員4名がポートランド水族館に侵入し、実体を解放するためにCNC水槽の破壊を試みた。監視カメラ映像は、構成員の一人であるクリス・スタンディング・ロックの、水槽上部の給餌ハッチを内側から開けるためにCNC板をすり抜ける最初の試みが失敗したことを示している。CNCの特性によってロックの概念は無効化され、彼は各種の概念嘔吐を経て死亡した。この時点で警備員は高リスク対処警察部隊に通報し、この変則実体の繊細な性質を鑑みてUIUエージェントにもAoA侵入者の拘留を要請した。
到着した警察官たちとUIUエージェントは、現場を一目見ようとする報道記者とアンダーソン・ロボティクス動画撮影ドローンを退去させた。特殊部隊UIUエージェントが建物内に突入し、続けて高リスク対処部隊と一般UIUエージェントが入場。生き残りのAoA構成員3名は、到着した警察官の戦力に対抗するため、部隊の突入前に(現在に至るまで不明な機器を使って)自らの形而上学的特性を編集していたことが判明した。7名のエージェントがAoA構成員のロザリナ・ポランコ=ガアァートによってエルフダコの飼育水槽に投げ込まれ、即座に捕食された。エージェント ブランクスはAoA創始者のJ・ランデッカー・スミスと徒手格闘に及び、最終的にアンダーソン・ハイパー手錠カフを掛けることに成功したが、直前にスミスからペンギン飼育域に投げ落とされて頭蓋を骨折した。警察官たちはやむなくポランコ=ガアァートを狙撃し、残るスミスとジャック・スカルディルを鎮圧することに成功した。3名は全員、形而上学的編集を弱めるためのCNC板補強を施した警察車両に乗せられ、拘留下に置かれた。
2017/11/6: 尋問の結果、過去30年間にAoAは様々なパラテック企業に侵入しており、また複数のマクスウェリスト殺害に携わったことが判明した。これは機密性の高い構成部品を取得して自分たちの機器に組み込むためでも、マクスウェリストのサイバネティック・インプラントをサルベージしてテレパシーネットワークを構築するためでもあった。この2つの要素を組み合わせることで、理論上は彼らの目標である“概念摂理”が達成可能になるとされているが、この過程についての情報はまだ拘留下の彼らから得られていない。AoA本部の位置と、回収された概念機器の詳細もまた明らかになった。
2017/11/7: UIUエージェントが、ライム地区のアヴァン通りと7番通りの角にあるAoA本部に突入する。1名のAoA構成員がエージェントに発砲したが、速やかに左脚を撃たれて無力化された。その場にいた全8名が投降し、逮捕され、建物は調査のためUIUの管理下に置かれた。複数の携帯型概念機器に加え、地下からも大型概念機器が数台発見された。
2017/11/9: AoA構成員の尋問によって、サメはある存在の概念的特性を抜本的に改変する試みとして行った実験の産物であり、将来的には人間にも同実験を行う意図があったことが判明した。実験は成功したものの、AoAは長期的な保管手段を持っていなかったため、サメを放流していた。水族館の襲撃は、サメがどのように概念的に機能しているか、概念特性をどのように編集するのかをUIUが学び、AoAの更なる努力を阻害する恐れに駆られた末の行動だった。
その後の尋問で、AoAは他にも施設を有しており、うち幾つかはスリー・ポートランドの外部にあることが示唆されている。これについての調査が開始されている。