連邦記録法に則り、以下に電子コピーを記載
UIUファイル 2017-003: コードネーム: スキッパー・ベイト
概要: 財団として知られる異常テロ組織に加入していると思われる異常な人物。確保時にテレポート/具現化の能力を示したが、それ以降は示していない。
名前: 不明、"エージェント・デュマ"というコードネームを提示。
変則性相互参照: 人間、財団、テレポート、テロリスト
身体的特徴:
性別 |
体重 |
体重/体格 |
人種 |
髪 |
目 |
特徴的属性 |
男性 |
67インチ |
175ポンド、中肉中背 |
レバント人 |
黒色 |
茶色 |
今のところ無し、逮捕時は財団支給の作業服を着用 |
能力: 容疑者がフーヴァー砦に突然出現した事は、彼がテレポートするか、あるいは瞬間的に物質化するかのどちらかの能力を持っている事を示唆している。それ以来、容疑者はこの能力を発動していないが、出来ないからなのか発動する意志が無いからなのかは不明である。容疑者が現地工作員として財団に所属している事から異常物品の対応/確保に関して高水準の能力を有する事はもちろん、最初の逮捕時に抵抗した事から基本的な戦闘訓練を受けている事が窺える。
目的/動機: 尋問からは不明。しかしながら、財団への所属という情報から、同様に現在も不明ではあるが同組織の目標を支持するものとされている。財団が彼の在籍を否定している(ヒストリーログ、アイテム2参照)事から、公式には否定されているが、容疑者は秘密工作員であると考えられる。
活動規範: 尋問からは不明。活発なスパイ活動の努力が続けられているにもかかわらず、財団の正確な運用手順は未だ不明である。当初は"エージェント・デュマ"への尋問によりこの領域に関する貴重な情報が得られると期待されていたが、この容疑者はこれまでのところ、全ての形態の尋問に対して、高い耐性を有する事が証明されている。現在のところ、この容疑者は、財団が優先順位度の高いアノマリーの特定/確保のために編成した特別作戦チームのメンバーであるというのが定説である。
行動: 容疑者はほとんどの要求に対して協力的であるが、出自と任務に関するものは除かれる。尋問はこれまでのところこの容疑者には効果が無い事が証明されており、高度な反尋問訓練を受けた事が示されている。容疑者は、理由は不明ながら、処罰の脅迫あるいは将来的な受刑者特権の保留に特に抵抗を見せるようだ。
A: 財団支給の制服: 容疑者は確保された時、この財団支給の軍服一式を着用していた。全体的な様式は他の確保された容疑者が着用していた制服に類似しているが、当て布と記章が既知の財団の部門の様式と一致しない。
B: 泥の箱: 初期拘留中、"エージェント・デュマ"は、段ボールの小包を所有していた。開封したところ、小包は泥が詰まっている事が判明した。後の検査ではこの泥に追加の異常性質は確認できず、容疑者はこの小包の重要性を明らかにする事を拒否している。
現状: キャンプ・ミューラーにてUIUが拘束中。
犯罪: 連邦法第173編第12章A違反、連邦法第174編第1章B違反、国内テロリズム、逮捕抵抗、不法侵入及び計4件の法執行官への暴行
量刑: 無期限拘留
UIU活動記録:
2017/02/03: 容疑者は最初にフーヴァー砦の営舎の中央に出現した。営舎内にいたUIUエージェントは突然の侵入に備えていなかった; その結果、容疑者が施設からの脱出を試みた際に4人のエージェントが重体のまま放置された。この事件以来、容疑者は公然な敵意を示してはおらず、また告発された容疑に異議を唱えていない。
2017/03/06: ヘブンフォール作戦の間一時的な敵対行動を停止した後に、人質交換の一部として容疑者の身柄が提供されたが、財団が彼の存在を否定したために却下された。外交・諜報の両ケーブルはこの時点では容疑者の財団における正確な役割を特定出来なかった。
2017/06/15: 中西部における財団部隊を包囲するヘブンフォール作戦失敗後、フーヴァー砦は、奪還するための反撃の間、財団の機動部隊ベータ-6、タウ-3そしてイプシロン-4に襲撃された。UIU第三師団及び合衆国陸軍第15歩兵連隊によって最終的に救援が為されるまで、財団の部隊は多くの確保されていた工作員を逃す事に成功した。監視映像からはMTFベータ-6の工作員が容疑者デュマの収容されている保安エリアから逮捕された複数の人員を解放している様子が見られるが、十分な時間が残されているにも関わらず、デュマを解放しようという試みは行われなかった。
2017/06/18: 旧財団基地であり、軍事的標的である事が証明されている場所に容疑者を収容し続ける事は安全ではないと判断されたため、フーヴァー砦からキャンプ・ミューラーに移送され、異常保有捕虜として処理を受ける事になった。
これは記録されているのか? クソ、まあ良い。
俺はジェームズ・フィンチ少尉、一等技術士官、UIU兵団。割り当てはケース"スキッパー-ベイト"、UIUファイル2007-003、キャンプ・ミューラー配属。主要任務は、"エージェント・デュマ"として知られている容疑者の異常能力の監視。
ボストン事件後に分かった事だが、皆古いカン・テロリストを見る、手に負えない程の数の方法を持っている。しかし、今日までずっと、俺はこの事が気になっていた。
良いか、財団が潰れる前まで、この男をどう扱っていたのか、理解出来なかった。テロリストに指定した後でさえ、交流するための裏ルートは動き続けていたにも関わらず、一度も彼を取り戻そうともしなかったし、存在を確認しようとさえもしなかった。フーバー砦襲撃の際も、特殊部隊の誰も、彼を脱出させようとしなかった。それは我々の諜報員が、回復させた最新のデータバンプを解読するまで、全く意味不明だったんだ。
なぜ財団が彼を取り戻そうとしなかったのか、知りたいか? それは、彼らの記録によれば、イェフダ・ミズラヒ、または"デュマ"は4年前に死んでいたからだ。KIAだ。基地の中で変異したアノマリーに殺されたんだ。俺達は、死んだ男を、彼が死んだところを見ていた組織に、釈放しようと試み続けていたのさ。
明確な疑問は、"それでは我々は、13B監房に、一体誰を監禁していたのか?" この疑問が俺を叩きのめすが、しかし俺はこの疑問に関係があるであろう誰とも、連絡が取れない、カンが街を均し始めたら、人々はきっとそれまでの事を気にしなくなるんだろう。
もう少し、掘り下げてみようと思う。もしかすると、クソみたいな超機密作戦か何かで、彼らは彼の記録を消去する必要があったのかもしれない。あるいは違うかも。もしかするとこの横道には終わりがあるかもしれない。もし無かったとして、それを誰も気にはしないだろう。だが、せめて世界が終わるときには、待ちぼうけなんかしてないで、少なくとも何かしらはしてやろうと思ってる。
めちゃくちゃだ。
ミズラヒがここに居て、他の財団エージェント同様粛々と処理されない理由は、俺達が、奴をカン人間で、俺達にそのクソみたいな変な異常性を向けるかもしれないと考えたからだ。
だが間違いなく奴は完全にカン人間じゃないと思う。
刷新された財団技術のいくつかを奴に施そうと試みたが、どれもそれらの尺度においては効き目が無かった。奴がこのセンサーを騙せるほど強いのか(その場合は俺がやられているからどうでもいいんだが)、もしくは奴が本当にカン人間ではないかのどちらかだ。その選択の中には、俺が完全にダメになっていない物が含まれるから、それを俺の作業仮説にしようと思う。もちろん、アジアの戯言ショーがもっと広まるんなら、議論の余地はあるだろうが。忌々しい事に、最近はセキュリティが段々厳しくなっているせいで、何かを成し遂げる事が難しい。正直なところ、かなりフーヴァーっぽい感じがする。
とにかく、これでもまだ、奴がなぜここに居るか、あるいは奴に本当は何が起こっているのかについては正確には分からない。この時点で、俺は奴が秘密作戦に関与していると疑ってはいる。なぜなら、間違いなく財団はやりかけの仕事を仕上げるためだけにこの時点で何かをやったと思うからだ。でも言ったように、間違いなく奴はカン人間ではないとも思う。もし奴がカン人間じゃないとしたら、なぜ死んだはずの男が俺達の監房の中に居るんだ?
いくつかアイデアはある。それらを裏付ける証拠があるか見てみよう。
"やあ、士官殿。また来たのか? 何かを楽しみに待っているようだな。今度は焼き鏝と拷問台か?"
"貴方に、見せたい物がある"
"言ったはずだ、私は何も知らない "
"これは違う。私を満足させてくれ。これを見ろ"
"……どこでこれを手に入れた?"
"貴方のだろう? いや、完全に貴方の、ではないか。しかしこのIDは貴方によく似た誰かの物だ"
応答無し。
"ミスター・イェフダ・ミズラヒ、1985年5月6日、マーガン・ミハエル・キブツ生まれ、テル・アビブ大学を卒業 "
"ああ、分かった! 分かったよ。それがどうかしたのか?"
"もう説明したと思ったが、ミズラヒ?"
"くどいぞ士官殿。だが武装警備員や異常確保警察を見てない事から察するに、アンタはまだその情報を他の誰にも共有していないな"
"頭が切れるな。なぜ財団が貴方を引き入れたのか分かる気がするよ。いや、確かに私はこのことを他の誰にも話してはいない、しかし貴方の言動によっては変わるかもしれない"
"具体的には?"
"貴方が本当は誰なのか、教えてほしい。どこから来たのか。なぜここに居るのか、全てだ"
"まるで完全に俺じゃないみたいな言い方だな"
"教えてくれないのなら、私は逃げて、キャンプ・ミューラーの最も悪名高い謎の住人に隠された秘密を漏らすだろう。結局、彼はそこまで特別な存在ではないのだと。ここで何の役にも立たないという事は、貴方の全ての特別な特権が取り消されるという事を意味する。私は昇進し、そして貴方は古き良きAIEAのおかげで死刑判決を言い渡される。"
笑い声。
"何がそうおかしいんだ、ミズラヒ?"
"アンタの脅しは俺には無効だ。俺はもうアンタの世界のここで捕まってしまった時から、自分は死んだものとして諦めた。何が望みだ。俺の仕事は終わり、俺の故郷は守られた。俺は責任を果たした"
"仕事とはなんだ? 責任?"
”言っても分からないだろうさ”
"試したらどうだ?"
"俺は、防御柵に新たな杭を加えたんだ"
"防御柵とはなんだ?"
応答無し。
"貴方を殺す必要は無いんだ。私は貴方のここでの生活をより快適にする事が出来る。あるいはより不快な物にすることもね"
"知ってると思うが、拷問は効かない。俺の訓練を以てしても、確実にアンタ達は俺を最終的に壊す事は出来ると思う。俺はアンタ達を止めるために何かを喋ってしまうかもしれない。しかし、そのどれが真実なのか、どうやって知るつもりだ?"
"どうせ死んだと思っているのなら、なぜ私に何も教えてくれない?"
"多分、話したくないからだ"
"なぜ? 恐れているのか?"
"いや"
”罪悪感か?”
"いや、あり得ない。絶対に。なぜ、俺が、アンタと仲間達に、自分の名前がデュマだと教えたか、分かるか?"
"教えてくれ"
"古典アラム語で、デュマとは沈黙を意味する単語だ。故に、俺の信仰では、デュマは沈黙の天使であり、死の一側面だ。デュマとは終わりが近い時、耳元で囁く声。デュマとは全てが一瞬にして終わると告げる声。彼は苦しみに終止符を打つ"
"詩的だな。何が言いたい?"
"なぜ真実を教えないのか、知りたいか? 何があっても、もう既に動き出している物事を止める事は出来ないからだ。これ以上、俺やアンタに出来る事は何もない。終わりが近いのなら、黙っていた方が良い、そう思うんだ。そうすれば、出来るだけ痛みを感じずに終わりを受け入れられるかもしれない。デュマのように、それが俺がアンタに差しだせる唯一の慈悲だ"
箱だ、クソッタレな箱だ。奴が正確には何をしたのか、このクソ箱がどう適合するのかは知らない、だが適合するんだ。
先週、東海岸の半分が消えたばかりだ。ある瞬間にはそこにあった物が、次の瞬間には誰かがPhotoshopで削除を押したかのように消えていた。街も、人も、誰かが反応するのに十分な時間さえ無い。ただ消えた。残された物の欠片をかき集めていた頭の良い研究者達が、フィラデルフィアがあった場所の大気を調査するという素晴らしいアイデアを得て、地域全体に浸透していた超次元的な何かの痕跡をうまく見つけたんだ。
ここで気まぐれから新たな財団由来の技術を使って分析をして、我々の記憶装置にある何かと一致するかどうか確認してみた。あそこで起きている何かは、もしかすればここに起きている事に関係があるかもしれないと思ってな。
そして俺は、東海岸があったところの大気と奴のクソッタレの箱の中にある泥が、100%の確率で同じ現実から来たものである事を知った。
何が起きているのか知らない。なぜ世界が終ろうとしているのか、あるいはミズラヒが俺達に何をしたのか知らない。そして今日奴を見に行ったら、ただ死体だけを見つけた。独房で首を絞めたんだ、どうやってかは神のみぞ知る。だから答えは得られなかった。ヒントもない。時間もない。
誰かが知るべきだ。誰かがこれら全てがどこから来ているのか明らかにすべきだ。
頼む、誰か俺達を助けてくれ。