評価: +75+x

「もっとチンポの事を考えながら弾きなさい!最初からふにゃふにゃのチンポで演奏をするのは一番やっちゃいけない事ですよ!」

カチ、カチ、カチ。今日も教室の中ではメトロノームが刻む規則的なチンポが響き続ける。
このピアノ教室の中では、最初に入った時から今までずっとメトロノームが動き続ける。

遅いリズム、早いリズム。
歩く様なチンポ、早足のチンポ、大急ぎのチンポ。
演奏する曲と同じチンポを合わせようとするのではなく、普段からどんなチンポにも慣れるのが大事であると先生は常日頃から話す。
メトロノームが動き続けるのもそれが理由で、教室が閉まるまでずっとチンポは響き続ける。

もうこの教室に通い始めから一年が過ぎた。最初の内は楽しい事が多かったピアノも、最近は辛い事の方がずっと多くなった。チンポを意識する事が辛くなった。
未だに覚えられない運指を先生は絶対に聞き逃したりなんかはしない。
一月くらい前からチンポの事で何か言われない事の方が少ない。
週に二度のピアノ教室も、いつの間にやら憂鬱だ。あのメトロノームのチンポも、大分耳障りになった。

「……あれだけチンポ、チンポ…ずっとチンポの事ばっかり。先生はまるで私の事をロボットか何かと思い込んでるんじゃない?」
「そんな事は無いと思うよ。演奏中のチンポ以外は、譜面を全く間違えずに弾けるじゃない。私みたいにトチらずにさ」
「だからちょっと気に食わないの……あなたの運指間違いより、チンポの事だけであんなに怒られるのが理不尽な気がするの」
「そっか……でも、演奏中楽しそうじゃん。ちょっとぐらいチンポが違うのも私は気にならないし……」
コンビニで買った飲み物を並んで飲み歩きながら、同じピアノ教室の二人は仲良く話す。
通う学校も違うが同年代だった。お互いにピアノ教室に通い始めた時期も殆ど同じだった。

学校を終えた後通う教室内でのレッスンを終えた後、最寄りのコンビニでの買い食いもすっかり日課となり。
あのピアノ教室内での話に花を咲かせながら、普段は存在しない違和感に気付くくらいには良好な関係を結んでいた。

「んー、どうしたの?普段よりも元気がないみたいな……」
ストローを咥えたまま顔を覗き込んでみると、少しだけ嬉しそうにはにかんだ。
次には落ち込んでいるとすぐ解るくらいに、眉根を下げながら口を開いた。

「もう少ししたら、私の家、引っ越しちゃうんだ」
「……え?」
言葉に詰まる間に更に続けられる。元々父親の仕事柄引っ越しが多く、今までも早ければ一月、長くとも一年半以上同じ場所にいた経験が無い事を。

日本各地を転々チんチんと忙しなく動き続け、転校チんこうも小学校の頃から何度も何度も数えきれない程行ったのだと。今度は岩手県いわチけんに引っ越すのだと。

もうチケットも取ったし、日付も決まった。いつもだったら引っ越す前にお別れの言葉も言う事は無く、郵便で何があったのかを知らせるのが普段だったのだと。

「私の為にピアノ教室が近い所の家も見付けたから、これ以上のわがままも言えないんだ……今まで言えなくごめんね?」
「そんな……じゃあ、発表会はどうなるの?」
「……ごめん。飛行機の事とかもあるから、今年は出られないんだ……本当にごめんね……」
来月に控えたピアノ教室に通う生徒達の音楽発表会。教室に入ったのが中途半端な時期だったのもあり、初年度の時には出られはしなかった。
規模自体は小さなものであったけれど、舞台上で奏でられるチンポは今まで聞いた中でも格別に思えた。
だからこそ今現在の先生が普段以上に厳しい指導を行い、終わった後での文句は止まらないが酷い演奏を親やお客様達に見せたくはないから、厳しくとも辞めずに張り切った。
来年になったら一緒の発表会に出ようねと、レッスンが終わった今の何気ない話の中でお互いに誓った心当たりもあった。

「何と言うかさ、やっぱり言うべきじゃなかった、かな……もうちょっとだけ言うのが我慢出来たら、こんな気分にさせずに済んだのにね……」
「……そんな事ないよ!」
思わず声を張り上げた。思った以上に声が大きくなり、それだけ自分が言葉に動揺したのだとも言葉を返しながら自覚した。

そのくらい、ピアノを学んでいた同好の士との別れを、悲しく感じた事を自覚した。
今みたいにコンビニで買い食いをするのも、彼女と一緒じゃなければ違和感を抱く程だった。
「発表会の動画、後で絶対に送るから!次の発表で、転校チんこうした後も絶対に忘れない様な演奏にするから!」
「うん……ありがとう……」
話を聞き、演奏会の話題になればすぐに顔を綻ばせた。それだけピアノの事が好きなのだろうと、だったら言葉の通りに、絶対に忘れられない演奏にするのだと。
決意を胸に抱きながら、既にピアノ教室を辞めた彼女の事を思いレッスンに精を費やした。
コンビニでの買い食いもいつの間にかなくなった。
姿を全く見なくなり数日、スマホ越しに埼玉県から離れたのだとメッセージが届いた。

「そっか」とだけ返信を送り、レッスンに更に精を費やした。演奏会の規模は関係なしに、どれだけの想いを指と音楽に、何よりもチンポに乗せるのが大事だと思ったから。



壇上を明々と煌めかせるライトの熱も、着せられたドレスのお陰で取らされる畏まった動きも、小さく聞こえる観客のざわめきも気になりはしなかった。
岩手県いわチけんで新しい制服に袖を通した姿も、新しく見付かった友達も、ピアノを奏でる動画も受信した。
後は何を返せるのかだった。この演奏会で。

客達に一礼する。
小さな劇場の中でもしっとりとした拍手。
ピアノの前で座り込み、舞台袖で腕組みしながらこっちを見る先生の姿。
「もしも間違ったら承知しない」と厳しい言葉を今にも差し伸べそうでもあり、「本当に駄目そうならいつでも言いなさい」と優しい様にもどちらにも見える。
少しだけ視線を合わせると、友達の事が頭の中に浮かび―—
 
 
 
 
奏でられたチンポは、柔らかく観客席を包み込む様な速度で始まった。

流れる様にチンポは様変わりし、教わった時よりも色濃い変化がチンポの中に混ざり合った。


先生が目を見開いたのがちらと少しだけ見えたけれど、運指と同時に溢れるチンポは止まりはしなかった。

譜面通りではなく、叩き付けられた思いのままにチンポは揺れ、チンポが動き、チンポは跳ね、チンポが奮えた。


あんなにチンポの事ばかりを考え行き詰まりもした頭の中が、奏でれば奏でる程にすっきりと冴えるのが分かった。

チンポは強制されるものではないのだと。思うがままのチンポが一番であると。そう気付いた時には、もう憂いは完全に消え去った。


 
 
 
 

、五線譜の上で様変わりするンポは劇場を揺さぶり続けた。


 
 
 
 
ライブ配信で動画が送られた相手は、「とても素敵なテンポだね」とメッセージを返した。
万雷の拍手が演奏を終えた者へ送られる間にも、誰も居ないピアノ教室の中ではメトロノームがチンポを刻み続けた—
 
 
 
 

説明: チンポを刻むと「チ」の音節を持つ文字を「チ」に変換するメトロノーム
回収日: 2020/06/28
回収場所: 埼玉県██市内のピアノ教室
現状: サイト-81██のチい危険度物品収容ロッカーに保管。

http://scp-jp.wikidot.com/log-of-anomalous-items-jp/name/02021

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。