私は突然財団の奴らに捕まり、ある場所に連れていかれた。そこはテントが立ち並び、怪我をした人や涙を浮かべる人が大勢いる難民キャンプだった。
おかげでテントは崩れ落ち、人々は倒れた。分かりきったことだ。
財団は私という危険を人々から遠ざけたかったはずだ。彼らは前から協力的だったはずだ。それなのに何故、私をこんな所へ連れて行く?理解が追いつかない。
更に奇妙なのは、兄弟達が彼らに一切手を触れなかったということだ。
人々が苦しみに悶えるのを見ると、私が人々を痛めつけているのだと実感し、今にでも死にたいと強く願うようになった。難民キャンプの中央を進む私を人々が四方八方から睨み、視線が刺さる。
保護団体の隊員のような者もいた。彼らは銃を持ち、私を攻撃した。彼らの顔付きは他の者達とは明らかに違い、それは私に「意志」を焼き付けた。
彼らは傷つき倒れたが、死を迎えるまで私を攻撃し続けた。私には彼らを見ていることが苦痛で仕方なく、目を背けその場を後にした。
破壊が済んだら、また別の難民キャンプへ移動することになった。私に抵抗する術はなく、否が応でも従う他なかった。
死を運びに移動する間、様々な異形を見た。気味が悪い肉の塊の怪物や、ロボットによる馬鹿らしい演説、発光する長剣。そしてそれらに翻弄され逃げ惑う人々。そんな目を開いているだけで気がふれるような世界を横断した。これも奴らの仕業なのだろう。
別の難民キャンプに着いたらまた喧騒の中を歩かされ、破壊して回る。私の足元で倒れた人を何度も見た。口から吹き出る血を何度も見た。倒れた者がこちらを見てくるが、私は目を合わせなかった。
やはりここにも保護団体はいて、私に攻撃をしてきた。だが結果は変わらず、悲惨はまた起こった。
そんなことの繰り返しで、私には傷心する気力すら残っていなかった。
そして今、私はアイオワ州の破壊された難民キャンプにいる。正確に言えば、奴らが拠点に戻る途中で放り投げられた。もう私に用はないようだ。足元には壊れたテントがあり、汚れた包帯があり、人の死体がある。この全てが私によって壊されたという事実を受け止めるにはまだ時間が足りない。
今までで一番強い無力感を感じながらキャンプ跡を暫く彷徨っていた。すると、ノイズのような音が瓦礫の中から聞こえた。すぐさま屈みこみ、煉瓦の破片をかき分ける。
それは小型の音声記録装置だった。今にも崩れそうだが、まだ記録が聞ける。
班員、集合!
我々の使命は財団を否定し、討伐する事だ。だが、今日をもってこの使命は「全ての人類を保護する」ということと同義になる。もはや財団は我々カオス・インサージェンシーだけの敵ではなく、人類の敵となった。
そして今日、財団のサイトに襲撃し、多量のオブジェクトやアノマラスアイテムを奪取した。これはこの事態が始まってから最初の財団に対する攻撃だ。この攻撃をもって、財団と我々の全面的な闘争が開始される。
当攻撃作戦での死者は15名、重傷者は22名。かなりの打撃を受けたが、ここで立ち止まっている暇は無い。
そして、これから我々はそれぞれの担当の難民キャンプでの保護活動に行く訳だが、移動する前にアノマラスアイテムの中で覚えてもらいたいものがある。
この音声記録装置だ。これは我々が奪取してきたアイテムの中で破壊耐性を持っている唯一のアイテムである。
私はこの装置を持っていき、全てを記録する。だから、もし私が死んだ時に、この装置を回収して欲しい。そして、我々の「壊れない意志」を思い出し、継いで欲しい。
ここには戦う者がおり、守る者がいた。そして、壊れない意志を持っていた。
だが不幸なことに、私には壊せたのだ。
装置は崩れ、塵となった。