Unwelcome to America!
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 今日も、不自然に揃って響く軍靴の音で目を覚ます。
 早朝にもかかわらず、軍人さん方は軍事パレードで行う集団行動の練習中である。パフォーマンス集団と化した彼らには気の毒だが、喫緊の課題は隣国ではなく海を隔てた彼方にあるのだから致し方がない。
 かく言う私も、こんな時間に起こされているのは委員長から直々に呼び出されたからなのだが。何故こんな早い時間なのかは気になるが……私には関係のないことか。

「お待たせいたしました、同志委員長」
「おお、よく来たな。……誰にも言っていないな?」
「ええ」

 呼び出されるにあたって、くれぐれも内密に、と一言添えられていた。大抵の職務はそういうものだと認識していたから、わざわざ口添えされたことを少々訝しんでいた。

「呼び出したのは他でもない。今回、いよいよかの金色の恥知らずに一泡ふかせてやろうと思ってな」
「……! まさか、正気ですか同志委員長。明らかに負け戦ですよ」
「安心せよ。先手必勝、必殺一撃。そのために、際限なく強力な兵器を手に入れた。これを受ければ奴等も再起不能だ」
「それは素晴らしい。して、その兵器とは」
「よくぞ聞いた。こいつだ」

 そう言って、委員長は目の前に被されてあった布を取り、私は"それ"と相見えた。

「……椅子、ですが」
「『刑火鳥7号』だ」
「椅子ですよ」
「『刑火鳥7号』だ」
「椅子」
「『刑火鳥7号』だ」
「……『刑火鳥7号』とは、一体どのような代物なのですか?」
「ああ。こいつは、座った人間をノースカロライナに飛ばすことが出来る」
「何故、ノースカロライナ限定なのですか?」
「知らん。だがアメリカまで飛べることは確かだ。それだけで十分だ」

 私は、とうとう委員長は気でも狂われたかと考えた。しかし彼の目はその類いのものではなく、真剣に祖国の安寧を目論んでいるのだった。

「分かりました。偉大なる同志委員長の仰ることです、いくら奇天烈だろうと真なのでしょう」
「その通り。しかも、最先端で革新的な我が国の技術開発により、着弾時に無慈悲で容赦ない核爆発を伴うように設計されているのだ」
「なんと! ……なるほど。一撃必殺、とはこの事で」
「そこでだ」

 委員長の興奮が私にも伝わってくる。そのせいか、次に言われると予想できる言葉にも、承諾せずにはいられなかった。ああ、偉大なる同志よ。私の身が、祖国が偉大な一歩を踏み出す礎となるのなら――。

「我が偉大なる国家のために、『刑火鳥7号』に搭乗してくれないか」
 
 
 
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「委員長。無事、発射に成功いたしました」
「ああ、ご苦労」

 自分ですら未だに信用していなかったが、まさか本当に椅子が人を飛ばすとは……。一先ず、一段落といったところか。若干騙したようになって同務には申し訳ないな。
 実験台にするには惜しい人物ではあったのだが……彼以上に私を信じてくれる者も、彼以上に私の脅威たりえる者も居なかった。国家の安寧のため、必要な犠牲であった。
 『刑火鳥7号』の威力は、推定ではあるが半径1500kmを容赦なく壊滅させるものだ。性質上、実験を行えなかったことは懸念点ではあるが、我が国の技術力は随一である。確かな性能であるはずだ。もちろん想定以下の威力に留まってしまった際に備え、後続の核兵器も発射準備を完了させている。
 幸運なことに、射出された人間は視認できないという情報を得ている。何も理解できないまま、憎き米帝は崩壊することになるだろう。

 ああ、良い気味だ。先ほど打ち上げられた狼煙は、そのままこの最終戦争に勝利した祝砲となるだろう――。
 
 
 
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incident: ████/██/██未明、朝鮮半島北部に半径およそ150kmの巨大クレーターが突如として出現しました。
 韓国支部からの報告によれば、クレーター出現の2時間23分前に、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)から飛んでいく人型の物体を数秒間確認できたとのことです。また、クレーター中心部に40代の男性が倒れているのを発見しました。
 いずれの特徴からSCP-1475-JPとの関連性が指摘されていますが、これまで見られていなかったクレーターの発生理由など多数の不明点が浮上しています。現在、韓国支部との協力の元で調査を進めています。

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