あなたが不死種、長命種を諦めるべき一つの理由
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SCP-████-JP聴取記録-19

インタビュアー: 八嶋研究員


<記録開始>

(八嶋研究員がSCP-████-JPの入っている棺を開ける)

八嶋研究員: おはようございます、SCP-████-JP。

SCP-████-JP: 余の御寝を妨げるは、汝か。

八嶋研究員: はい、今日のインタビューを務めさせていただきます、八嶋と言います。今日はあなたの身体について、いろいろ聞かせてもらいますね。

SCP-████-JP: あなたではない、余はルーマニア王国チャウシェスク家の末裔、クリスティアン・チャウシェスクであるぞ。平民が華冑界の人間を気安く呼ぶことは失礼に値する。チャウシェスク閣下と呼べ。

(数秒沈黙)

八嶋研究員: では早速聞いていきますね、SCP-████-JP。

(SCP-████-JPが飛び出し襲い掛かる。)

(ディスプレイに銀の十字架が表示される。)

SCP-████-JP: (呻き声)

(十字架の表示を停止する。)

SCP-████-JP: 何が聞きたい。

八嶋研究員: まず確認ですが、あなたは1880年、34歳の時に魔術的な儀式を行い、吸血鬼になった。これは間違いないですね。

SCP-████-JP: 相違ない。余は百と四十年程昔、東京の築地にて魔変化人の儀式を執り行った。では、余が竹帛に残した、不老不死の偉業を成すまでの経緯を汝に教授しよう。

八嶋研究員: 結構です。続けますが、そして吸血鬼になったあなたは、いくつかの異常性を手に入れた。

八嶋研究員: 一つ目は、膂力の増強。全身の筋肉が密度を高め収縮能力が強化され、また全身の神経伝達の速度も不明な原因で高速化しています。また、これに伴い全身の物理耐性も上昇していますね。

八嶋研究員: 二つ目は、肉体の再生能力。腕一本、脚一本程度なら欠損しても瞬時に元の大きさまで再生し、首だけにした場合も10秒で全て再生します。研究の結果これは「非常に高速の細胞分裂」が起こっていることが判明しました。脳や、本来分裂しない神経等の細胞の場合、細胞自体が再生しています。

(SCP-████-JPが鼻を鳴らす)

八嶋研究員: 二つ目にかかわるものとして、三つ目には不老性。「非常に高速の細胞分裂」を行った場合、基本的に細胞は老化し分裂限界を早めることになります。いわゆる、ヘイフリック限界ですね。しかしながらあなたの細胞は常人の分裂限界をとうに超えているにも拘らず、不老性ゆえに若々しいまま。細胞の分裂限界の目安を示すテロメアの縮小もみられず、一般的な30代男性のもののまま数十年維持しています。

SCP-████-JP: ふっ、これこそが余の究めた魔術の神髄である。

八嶋研究員: はい。それで、四つ目に多くの特殊なアレルギー及び特殊な恐怖症。吸血鬼になって前述の生理的特性を得るときの副作用と考えられるでしょう。どれも過剰なほどに耐性がなく、具体的には銀の十字架(目にするだけで吐き気倦怠感高熱に冒される)、流水(流しそうめんですら足が竦む)、ニンニク(匂いだけで蕁麻疹が出る)、日光、ピクルス、夏バテ、よく吠えるイヌ等々……

SCP-████-JP: 大業を成すにあたりて多少の報仇というものはなんら珍稀なことではなくてだな

八嶋研究員: はい。あと、これらの身体的特徴を、自身の血を他人の血管に注入することで、その人間の全身のDNAの一部を強制的に書き換えて異常性の恒久的な複製が可能、つまりあなたの眷属を増やすことが可能ですね。ただ、これはある意味内臓移植と同じような働きを行うため、適合しなければ眷属になることはなく、実際これまであなたの眷属は記録上たったの2人ですね。

SCP-████-JP: まあ、やはり余の崇高な血統は常人では受け入れがたいだろう。

八嶋研究員: そういうのではないです。合わないっていうだけですね。

(SCP-████-JPが顔を顰める)

八嶋研究員: しかし、デメリットを加味してもやはりあなたの身体的な特性はヒトをはるかに凌駕しています。しかも、もともと非異常の人間が後天的にこれらの異常性を獲得したという例は非常に稀です。

(SCP-████-JPが笑顔になる)

八嶋研究員: では、そろそろ本題に入りましょうか。少々デリケートな話になりますが、よろしいでしょうか?

SCP-████-JP: 構わぬ、高邁の士に秘することなどない。

八嶋研究員: では遠慮なく。あなたの再生能力と複製能力ですが、その二つの能力を併用するにあたって、明らかに不便な点が存在します。

SCP-████-JP: ほう、不便?

八嶋研究員: はい。それぞれの能力の発動条件について考えてみれば分かりやすいでしょう。再生能力はあなたの細胞全てが対象であり、複製能力はあなたの血液を持つ人間が対象です。

SCP-████-JP: それについては汝も先程説明しただろう。

八嶋研究員: その二つの条件は両方ともあなたのアノマリーとしての危険性、拡散性に寄与しています、しかし、その、異常性は不便というか、あなたにも牙を剥くことがあるというか……

SCP-████-JP: なんの事だ?

八嶋研究員: うーん何というか、その、出来ればこの時点で察してほしいのですが。

SCP-████-JP: 迂遠な話はいい加減にせよ、余を愚弄しているのか。

八嶋研究員: まあ私が言うのは簡単なんですが、多分あなたは怒るでしょうから。

SCP-████-JP: 構わん。

八嶋研究員: では、話の続きを。再生能力と複製能力ですが、二つの能力の発動条件を両方満たすものがあります。

SCP-████-JP: 余の細胞で、余以外の人間?

八嶋研究員: はい。それは、あなたの生殖細胞です。生殖細胞はあなたの体内に貯蔵されていますが、一方見方によればあなたの体外においても自律した運動が可能であり、別個体として見ることも可能です。もちろん、生殖細胞はあなたの体細胞から分裂したものであるからして、あなたの異常性が複製されています。

SCP-████-JP: まさか

八嶋研究員: ここまで言えばお気づきになったでしょう。普通の人間のオスの生殖細胞、いわゆる精子は精嚢内でしばらく保管された後老朽化したものは分解されて再び体内に吸収されます。しかし、あなたの場合そうはいかない。異常性を複製された精子は再生されるため分解も出来ず、不老であるから老朽化もしない。常に精嚢にたまり続ける。

SCP-████-JP: やめろ

八嶋研究員: もっと簡潔に言いましょうか。確かにあなたの物理的耐性は高いが、限界がある。精嚢がはちきれるほど精子が貯まれば……

SCP-████-JP: やめろ!

八嶋研究員: あなたの金玉は、時々爆発する!

(SCP-████-JPが飛び出し襲い掛かる。)

(換気扇が食堂の排気管と接続される。この日の日替わりメニューは餃子定食である。)

SCP-████-JP: (呻き声)

(換気扇を閉じる。)

八嶋研究員: 頻度にして、月に1回金玉が爆発しています。

SCP-████-JP: (呻き声)

八嶋研究員: 財団が20年前に収容してから、毎月金玉が爆発していた。

SCP-████-JP: やめてくれ

八嶋研究員: あなたの眷属だって金玉が爆発しています。

SCP-████-JP: (呻き声)

八嶋研究員: 周期を考えるに、次にあなたの金玉が爆発するのは2日後。今も激痛が金玉を襲っているはずです。

SCP-████-JP: こんなことになるとは思わなかったんだ。

八嶋研究員: ええ、あなたの高いプライドのことです。財団の監視下において、自分で、その、爆発する前に排出することは自分の尊厳が許さなかった。

SCP-████-JP: 屈辱だ。

八嶋研究員: 本当は痛くてたまらないはずです。金玉が爆発する痛みを定期的に味わうなんて、想像に絶する苦行です。

(10秒間沈黙)

八嶋研究員: チャウシェスク閣下、閣下の収容中の態度は時々問題があるものの基本的に真面目であり、脱走の意図も見られないとの判断です。あなたの要望次第で、定期的に監視カメラを切ることや、必要な書物の調達も認可すると、収容チームは決定しました。

(5秒間沈黙)

SCP-████-JP: よ、よきにはからえ。

<記録終了>

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