幻 -Visium-
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マシュー博士は自分の席に深く腰を下ろしていた。溜息を洩らし、目を擦った。一体何故連中は朝早くから叩き起こすマネを?現場での相棒たるスティムソンという名のエージェントが隣の席に座り、顔に自分と似たような表情を浮かべながら背もたれに背中を預けた際には、欠伸を噛み殺して笑みを浮かべた。

「俺たち、夜遅くまで飲むべきじゃなかったな….。」スティムソンはそう小声で漏らした。

講堂の席が埋まり満員になりつつあるのを見て、マシューは微笑した。「分かってるさ。」返事を返す。「俺らは眠りに就いて、仕事の時に起きてりゃ良かったんだ。」続けてこう言った。「そんなんでいいんだよ、俺らの休日なんて…」

スティムソンが首を向けてきた。「おい…お前はサイト-11から来た研究アシスタント2人に見覚えあっか?」そう尋ねた。マシューは前の方に身体を伸ばし、頷いた。「あいつらの考えが分かるのか?」聞き返す。笑い声をあげるスティムソン。「それだけじゃないぜ…もっと近くに行くべきだったな…。」

苛立ちを覚え、歯軋り声を上げるマシュー。「いい加減にしろよ、スティムソン…お前何でそんな事聞いたんだ?」

誰かの指がマイクに触れて音を立てるとスティムソンは忍び笑いを上げたので、周りから注意を引いた。マシューは椅子の背にもたれ、一人の男が壇上に上がっていくのを見た。男は聴衆を見渡すと頷いた。「おはようございます。」聞き慣れない調子の発音で、男が口を開いた。「今朝お越し頂いた皆様方全員に歓迎の言葉と、朝早くからお越し下さる苦労をお掛けしてしまった事に謝罪の言葉を申し上げます….。」

スティムソンは小さく肩を回し、マシューの方に身体を近づけてきた。耳に小声で告げる。「あいつ誰だよ?」そう尋ねた。

スティムソンは肩をすくめた。男が壇上でスピーチを続けていた。「短時間になりますが、が皆様方全員お伝えしたいのは….私たちの任務についてです。皆様方が御存じでしょうが…大変、大変に要です…。」

マシューは眉をひそめた。一体何故あいつはあんな風に話してやがる?鼻柱を擦りつつ、疑問を抱いた。首を振り、今一度眠気と二日酔いによる朦朧感を癒そうとした。

またもスティムソンが身体を伸ばしてきた。「あの男、O5じゃないのか?」そう聞いた。

マシューは首を横に振った。もう一度男の言葉に集中しようと、彼の両目は固く閉じていた。「…それ全てを手中に収めなければなりません。計画は予定通りに実行されなければなりません…。」

頷くスティムソン。「そうだ。O5だ…間違いない。」

相棒がまたも頭を振った。「いや、奴は違う。」マシューが答えた。「前にO5の連中に会った事はあるんだが…。」空気を嗅いだ。なぜ何の前触れもなく、ポップコーンの匂いなんてしたのか疑問を抱いた。

「…そして可能な限り性急に全てを手中に収め、収容せねばなりません…。私たちの事業は初めてスタート地点に立てるでしょう自らが停滞に甘んじるのも、遅に甘んじるのも許されません…。」

ほんの一瞬、マシューは頭に痛みを感じた。こめかみが脈打ち、小鼻から鼻血が流れ出た。両目を両の掌で覆うと、心臓が激しく脈打っているが分かった。そしてその後…突如として右耳に痛みが走り、後ろに倒れ込んでしまった。

「私たちは奉仕し容し、保するのです。」男は厳かに告げた。「そこから…私たちは始められるのです。

スピーチが終わると聴衆は一斉に拍手を送った。マシューとその他2、3人を除いた全員が席を立ち、各々おのおの講堂を後にした。スティムソンは立ち上がって拍手をし、聴衆へと称賛を示そうとした。祈りの声を耳にすると、最初は自分が考えもせずに行動したことに小声で悪態を吐いたものの、最早聞くより他は無かったのだった。

「13番目よ!13番目よ!13番目よ!13番目よ!」

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