私は一人室内で佇んでいた。書類に目を通しながら、キャンディを口に含む。
作戦前のキャンディ、これは私がかつて"赤い右手"、機動部隊アルファ-1の一員だった時からの習慣だった。
コンコン、とノック音が響く。私はキャンディを噛み砕いて飲み込むと、入室を促した。扉が開くと部下の1人がが姿を現した。
「失礼します。デルタコマンドより報告。作戦準備全て完了です」
「了解した。予定に変更は無い、本日12:30より"インサージェンシー"は作戦行動を開始する。全隊へ通達せよ」
"インサージェンシー"、表向きには1924年に財団を離反した機動部隊の一派として知られる組織だ。しかしそこには"O5評議会が秘密裏に組織した汚れ仕事の請負人"という裏の顔が存在する。構成員は離反と偽ってインサージェンシーに編入され、サイトへの襲撃と偽って物資を補給し、暴走と偽って重要人物の暗殺を実行する。そうして財団にとって必要で、しかし財団には許されない仕事をこなす事がインサージェンシーの存在意義だった。
そして、私がインサージェンシーの司令部 — デルタコマンドのトップであり、O5評議会の指令をインサージェンシーに伝える事が出来る唯一のポジションであった。故に —
「ところで隊長、本作戦の目的とは一体?」部下が尋ねる。彼らは何も知らされていない。自らがする事の意味も、それが何を齎すのかも。
「君たちにそれを知る必要はない。……つまるところ、ただ各々が与えられた任務をこなせば自ずと事は成る。作戦はそのように出来ている」
私は冷たい声で答え、しかし直ぐに少々突っぱねすぎたと思い直して言葉を繋いだ。
「失礼しました。では指令指令通り、各隊に通達いたします」
部下が退出した扉がガチャリと重い金属音を響かせ閉ざされたのを合図に、私は椅子に深く腰掛けて目を瞑った。
瞼の裏で、あの日目の当たりにした光景が、そして抱いた決意が蘇ってくる。まるでつい先ほどの出来事かのように鮮明に。あれは今から2週間前のこと —
今日もまたO5評議会に呼び出され、余り機能的とは言えない飾り付けに囲まれた部屋の中で立ち尽くしていた。
アルファ-1時代にも呼び出しは多かったが、インサージェンシーの司令官に任命されてからというもの、指令の頻度は明らかに上がっていた。財団はそれだけ汚れ仕事を抱えているのだろうと始めの内は考えていたし、それに応えるべくインサージェンシーは評議会の指示を完璧にこなして来た。資料や物資を盗み出し、各国政府の要人を暗殺し、各地の戦線に武力や陰謀を以って介入した。全ては、財団が必要とすればこそだった。
しかし我々の活動の結果、第二次世界大戦、そしてその裏で起きていた第七次オカルト大戦の戦火は拡大し、泥沼化した。死ぬはずのなかった人々が大勢死んだ。全てが終わって振り返ってみると、この流血と荒廃は本当に必要だったのだろうかという疑念は大きくなっていくばかりだった。
「おはよう、隊長殿。新たな任務だ」
不意に聞こえてきたしゃがれた声にはっとして、姿勢を正した。いつからそこに居たのか、横には秘書を1人伴って評議会の1人、O5-2が無機質な声で新たな司令を告げる。
「目標はソビエト連邦ハバロフスク。詳細を確認してくれたまえ。」
いつも通りに暗がりからO5-2の秘書が姿を現し、金属製の薄いケースを渡される。ケースを開き、ファイリングされた資料に目を通していく……しかしこれは、この作戦は、その予想される結果は。
書類の束の隅々に目を通し、その内容を念入りに吟味しても、増すばかりの嫌な確信に思わず口が開いた。
「私の予測が正しければですが、この作戦は不安定な東アジア情勢を更に混乱に陥れ、新たな戦争を生み出す結果に終わると思われます。少なくとも朝鮮半島における武力衝突は避けられない事態になるのではないかと」
遅れて後悔が湧き上がってくる。O5評議会がそんな事を分かっていない筈がないのだ。彼らには彼らの考え方がある。その真意を知る事は出来ず、知る必要もない。
失言でした、そう一言弁解してその場を立ち去ろうと考え始めた時、O5-2の声が耳に届いた。
「それが何か問題かね?」
なんと、彼はそう言い放ったのだ。予想外の返答に言葉が詰まる。大戦前の私なら問題ないと即答しただろう。しかし、無意味で無価値にしか思えない死を積み上げた経験はここにさらなる疑念を挟ませた。
「戦争は我々にとって問題ではない、と仰りたいのですか?」
財団は人類を守るための組織だと信じ、O5評議会の手足となって任務を遂行してきた。もし、それが嘘だとしたら。
「先の世界大戦もそうでした。何かがおかしいという気持ちを捨てられずにいます。直接手を下していないとは言え、我々は何十万人もの命をこの手にかけてしまったのですよ」
一度口に出すと、堰を切ったように疑念があふれ出してきた。
「せめて、せめて我々の活動の意味を教えては貰えませんか、どうか……」
自分の声が空気に溶けて消えていくのを感じた。一転して静寂がその場を支配し、重苦しい雰囲気に嫌な汗が滲む。どれだけの時間が経っただろうか。実際はほんの数分だったのだろうが、私にはあまりに長く感じられた。未来永劫続くかと思われた沈黙を破ったのはO5-2の声だった。
「君に特別なセキュリティクリアランスを付与しよう。見てもらいたい資料がある」
SCP-001-EX
アイテム番号: SCP-001-EX
オブジェクトクラス: Thaumiel Explained
特別収容プロトコル: SCP-001-EXはサイト-01の低脅威度物品保管庫内に保管されます。
説明: SCP-001-EXは地殻表層部から出土される二酸化ケイ素を主体とした鉱物です。SCP-001-EXは、かつて地球上に生息していた知的生命体の身体や、文明によって作られた構造物が変化して生じたとされています。SCP-001-EXに関する調査により、人類誕生以前、地球上には██億年の間の異なる時代において複数回知的生命体1が発生していたことが判明しています。SCP-001-EXの元となった知的生命体のうち、少なくとも█種は現代の人類文明より高度な技術力を有しており、SCP-001-EXの解析によりそれらの情報の一部を復元する事に成功しています。
SCP-001-EXは、パキスタン・イスラム共和国シンド州ラルカナに位置するモヘンジョ=ダロ遺跡内において、黒曜石で構成された街を調査した際に発見されました。当初この街は黒曜石の採掘所として認識されていましたが、採掘の過程で黒曜石内部から知的生命体が建造したと見られる構造物が多数発見されました。構造物は長期間に渡って情報を保存することを目的とした施設となっており、その技術を基に記録された情報の復元が行われました。
SCP-001-EXはダエーバイト帝国2やアディウム帝国3の支配地域から原型を留めた形で多く確認されています。一般的な科学技術において現代より劣っている古代文明で、高度な超常技術が利用されていたのは、SCP-001-EXから取得した技術によるものでした。
地殻表層に含まれるSCP-001-EXの探索及び調査は完了しています。SCP-001-EXから得られた情報は調査記録001-EXを確認してください。
資料を読む手が震える。
「これは……一体どういう事ですか」
はるか昔、地球上には高度な知的生命体がいた。それ自体は驚くべき事実ではない。先史文明に由来するとされるアノマリーなどごまんと見てきた。問題は、そこから得られた膨大な知識、調査記録001-EXにあった。そこに記されていたのは、異常な物品を作り、扱い、そして壊す為に必要であろう凡ゆる知識だった。
O5評議会が超常的な技術を隠し持っている事には薄々勘付いていた。異常存在に直接触れていないにも関わらず、まるで予知能力を持っているかのように的確な指示を出す姿を幾度となく見てきたからだ。だが、隠していた物は予想を遥かに超えたものだった。この資料が本物なら、今財団で行われている研究に意味はない。
財団の業務は常に死と隣り合わせだ。冷酷な判断を下さなければならない時もある。目標だった上司、ライバル関係だった同僚、自身の後継者として育てていた部下、多くの仲間を喪ってきた。全てを忘れ、財団など辞めて平和に暮らしたいと思った事は一度や二度ではない。その度に先に逝ってしまった彼らの顔を思い浮かべ、正常な世界の礎となるため走り続けてきた。
だが、調査記録001-EXが周知されていれば、それを基に適切に指示が出されていれば犠牲は最小限に留める事が出来たはずだ。アノマリーの情報不足のために後手に回る必要も、存在するだけで多大なリスクを伴うオブジェクト群を抱え込む必要も、それの封じ込めや無力化に少なからぬ犠牲を払う必要も無かったはずなのだ。それだけではない。上手く利用すれば第二次世界大戦や第七次オカルト対戦を未然に防ぐ事も出来たはずだ。それが出来る力を持ちながら隠していたのだとすれば、O5評議会は財団、そして人類そのものを裏切っていた事になる。
「なぜ、この知識を隠していたのですか」
湧き上がってくる心の澱を抑え込み、努めて冷静に聞いた。
「その理由は報告書の全てに目を通したら教えよう。続きを読み給え」
あくまで無感情なその言葉に苛立ちつつも、いずれにせよ見極めるにも全てを知る必要がある、そう自分を宥めながら再び報告書に目を落とした。
SCP-001-EX-1はSCP-001-EXから得られた情報により発見された、特定の性質を持つ素粒子群です。SCP-001-EX-1は標準レベルの濃度下では、他の素粒子と干渉しないため観測不能ですが、その濃度が一定水準を逸脱して上昇または低下すると他の素粒子と干渉し相互作用し始めます。財団はSCP-001-EX-1と他の素粒子が相互作用している状態を異常と認定しています。
異常存在の生成・利用・破壊などを行った場合、SCP-001-EX-1に局所的な濃度変化が発生し、濃度変化が伝播することで「波」を発生させます。この「波」中でのSCP-001-EX-1濃度の振幅は、極めて広範囲の異常性発現を招きます。「波」は時間経過と共に減衰し、再び定常状態へと戻りますが、「波」の濃度の振幅が一定の範囲を超えた場合、SCP-001-EX-1と接触した物質の原子構造を変える現象が発生します。
「波」と物質の反応は「波」の振幅の大きさと物質の種類4に応じて決定され、振幅が大きいほど反応する物質の種類が増え、変化後の物質の傾向も変化します。振幅が小さい場合、物質は主に二酸化ケイ素に変化します。振幅の増加に伴い、カルシウムや鉄などを含む金属化合物を中心に、多岐に渡る物質5に変化します。
SCP-001-EXの調査により、かつて地球上に存在していた知的生命体はSCP-001-EX-1の影響を受けて全て滅亡し、SCP-001-EXへと変化した事が分かっています。SCP-001-EX-1の「波」の発生はO5評議会が管理する計算機により予測する事が可能です。財団は異常存在の生成・利用・破壊などによりSCP-001-EX-1の「波」が意図しない形で発生する事を防ぐために設立されました。
報告書を読み進めても、まるで気は晴れなかった。異常という概念を一意に定義づけるSCP-001-EX-1の存在も、それが齎す危険性も、財団の存在意義も。何もかもが自分の信じていた事からかけ離れていた。書かれているのは何かの冗談か?今は夢を見ているのか?自分の足元が酷く覚束ない……それでも、1つ言える事は。
「目を通しましたがなおの事、これを隠す理由が分かりません。人類がSCP-001-EX-1オブジェクトの"波"の脅威に晒されていて、それに対抗する事が財団の目的である事と、あんな……第二次世界大戦や第7次オカルト大戦の惨劇を引き起こした作戦の数々に、どの様な関わりがあるというのですか」
「大いにあるとも」
O5-2は即答するとおもむろに席を立ち、会議室に備え付けられたウォーターサーバーで1杯の水を汲んだ。
「我々は丁度、大洋に浮かぶ船の様なものだ。逃げ場なく、打ち寄せる波に揺られるだけの小舟だ」
その目線の先で、手にした紙コップをゆらゆらと弄ぶ。
「隊長殿、君ならどうする?荒れ狂う海の中で沈まぬ為に、我々は何をすべきだと思う?」
彼の問いかけの意図が分からず、困惑する。だが、その言葉と共に自分へと向けられた眼差しが、この問答は決して戯れではないと語りかけてくる様で、無意識に考え込んでしまう。
「波が……収まるのを待ちます。海は常に荒れている訳ではありません、いつかは晴れ間がやってきます」
「もっともな意見だ。それが可能ならばな」
「どういう意味ですか?」
O5-2が、勢いよく腕をこちらへと振り上げる。手に持つコップから水が溢れて彼の手を濡らしても、それを意にも止める様子はない。
「今まさに、我々を容易く飲み込み、海の藻屑と化すほどの高波が迫っている、といえば分かるかね?我々に、もはや耐え忍ぶという選択肢は用意されていない」
「それでは、どうしろと言うので……」
言いかけて、気付いた。今、O5-2は先の大戦の必要性を説いている筈なのだ。尋ねるべきなのは"どうすればいいのか"ではない。
「……どうしたと、言うのですか。何をしたと言うのですか、評議会は、我々は」
O5-2は、目線を幾分か内容量の減ったコップの中へと落とした。その目付きが、ここではないずっと遠くを眺める様な色を帯びた気がした。
「……この世は、初めから荒海だった訳ではない。太古より人類が悪戯に水面をかき回し、我欲のままにアノマリーを作り扱ってきた結果なのだよ。高波は人の手により生じた……ならば、それを打ち消すに足る波もまた人の手により作れる、そうではないかね?」
波は逆さまの波で打ち消す事ができる、というのは聞いた事がある。だが、高波とすら形容される程の波を打ち消せるだけの波を起こすのに、どれほど大掛かりな手段が必要というのだろうか……そこまで考えて、不意に答えに辿り着いた。
「波を打ち消す為の波……それを作り出す為に、あの戦火が必要だったと……?」
「そうだ」
解答は、酷く完結だった。それが事実だとすれば、O5評議会の行動にも説明が付く。異常存在の生成・利用・破壊を意図する形で引き起こし、制御されたSCP-001-EX-1の波を引き起こせば我々人類の生存圏ではSCP-001-EX-1の臨界点を超えないように波を低く保つ事が出来るかもしれない……しかし。
「確かに理論上は可能でしょう、大戦の混沌の中でアノマリーの発生と消滅を多数誘発して、その、素粒子の波を起こす事は。しかし、あの時我々が自らの意思でそうしたオブジェクトよりも、事の成り行きから偶発的にそうなったオブジェクトの方がずっと多かった筈です。それらも全て計算の内だと?できるわけが……」
「何故、できないと?」
O5-2は自身のこめかみをトントンと指で叩いた。
「以前からやっている事なのだがね?」
……今日に入って何度目かの、喉まで出かけた「冗談じゃない」という言葉を飲み込み、言葉を紡ぐ。
「それは、つまり……財団が生まれてから、ずっと……」
O5-2は静かに首を横に振る。しかし、そのジェスチャーが意味するところは。
「事の始まりは、ダエーバイト帝国、アディウム帝国、そしてメカニトを中心とする都市連合の間で起きた超常戦争……現代から数えればおよそ3000余年ほど前の、紀元前1200年頃だな」
それは、SCP-001-EX報告書にも現れた名だった。SCP-001-EXの情報は彼らの遺跡から多く出土し、そこにはSCP-001-EX-1に関する情報も存在した……となれば、"波"の出自に彼らが関わっていても不思議ではなかった。しかし紀元前1200年など、財団はおろか現代とはまるきり断絶しているとさえ思える時代に、評議会はどうやって世界を動かしていたというのか?報告書の内容を脳内で反芻しながら考える内に、ふと重要な疑問に思い当たった。
「超常戦争で勝ち残ったメカニトはどこに消えたのですか」
三つ巴の戦いを勝ち抜き、世界の覇権を握る事も可能な立場にいた筈の機械の徒。彼らは何処へ姿を消した?人類文明の表社会から去ったというなら、彼らが今君臨するのは、裏社会の頂……すなわち。
「君の目の前にいる」
その時、O5-2の体内からカチリ、カチリと音が鳴った。O5-2はコップの水を手にこぼし、濡れた手を己の顔に撫で付けると、濡れた表面から火花が全身へと広がった。火花が表皮を舐めるとその皮が剥ぎ取られ、その奥に機械仕掛けの骨格が姿を表した。
「正しく言うと都市連合はダエーバイト帝国やアディウム帝国に勝利した訳ではない。ダエーバイト帝国やアディウム帝国、それに我々もまた……異常存在を濫用し続けた結果、その反動であるSCP-001-EX-1の波に襲われる事となったのだ。それも、超常戦争の只中で。肉を捨て機械化していた我々は偶然その被害を受けにくい立場にいただけだ」
皮膚の剥げた、金属骨格の手の甲をじっと見つめる。そこには、重く錆がこびりついて見えた。
「戦争の終結後、我々は何が起きたのかを知るべく、過去の遺産……つまりSCP-001-EXを調べ上げ、そしてSCP-001-EX-1の波の存在に辿り着いた。だが……それは我々に希望を授けてはくれなかった。むしろ、先史文明もまた同じ過ちを犯し、同じ問題に直面し、全ての試み虚しく同じ報いを受け滅ぶ……全ては繰り返してきたのだ。ああ、これが癇癪を起こした神の裁きであったなら、まだ幾分か我々は救われただろうに。実際に我々を脅かしているものは、慈悲も呪いもないただの物理現象なのだよ」
黒ずんだ手が握り締められて、か細い軋み声を出した。
「波を静めるための凡ゆる手段が模索されたが、最終的に減衰を待つ前に人類は滅びるという結論に至った。だが、当然そう簡単に我々の未来を捨てる事などできるはずがない。尚も手段を考え続けた結果ようやく見えた一縷の希望……それが都度逆位相の波で破局を打ち消し先延ばし続けるという対症療法だった。だが、その机上の空論を実践するには、SCP-001-EX-1の波を計算で予測する必要がある。"Wan"は……我らがメカニトの神は、我々に高度な演算処理能力という加護を与えてくれる。しかしその力をもってしても、宇宙の中で気ままに干渉し合う波の計算など現実的ではないと考えられていた、だから……」
「だから……?」
聞き返した直後、O5-2の身体が大きく震え、そして弾けた。とっさに後方へ飛び退き、様子を伺う。彼の上半身は直径数mの球形に膨らんで静止していた。
「1人では足りぬのなら、2人で。2人で足りぬのなら、4人で」
O5-2だけのものではない、性別も年齢もバラバラなように感じられる幾つもの声が、異口同音に不協和音を織り上げながら言葉を紡ぐ。
「我々は繋がり、混ざり合い、頭脳を縒り合わせた。星の間を揺蕩う素粒子の一粒まで頭の中で演算できる様になるまで、ひたすら、ひたすら」
アンバランスの余りよろめきながら、O5-2の身体が自分と正対した。膨れ上がった筐体の中に、"6つ"の煌めくレンズの眼光を見た。
「結局、メカニトのほぼ全ての住民を消費して、星見の脳は完成した。それを運用する為に切りなされた13人分の子機……それが我々O5評議会だ。と言っても、今なお機能しているのは"ここ"に居る6名だけだがね」
「そして我々は歴史の表舞台から姿をくらまし、時代に応じた権力に結び付き、逆の波を起こし、大波を打ち消し続けた。我々の試みはおおよそ成功し続けた。そうなれば必然的に、人類圏は再び拡大と成長を始める……我々には、より長期的に、大規模に、己の使命を全うする為の組織が必要になった」
「それが、財団……」
「そして君達だ、インサージェンシー」
いつのまにか、O5-2の腫れ上がった様な上半身は、幾分か人の形を取り戻していた。それでも声は変わらず音声の寄せ集めの様相で、部隊名を呼ばれただけでも胸奥がざわついた。
「大戦を経て、これまで以上に波の予測は困難になるだろう。予測に不備があればそれは即ち人類の終焉に直結する。我々O5評議会は、これまで犠牲になった仲間たちのためにも限界まで人類を守りたいと考えている。君にはこの気持ちが理解できるんじゃないか?」
わからないと言えば嘘になる。自分も任務のために仲間を失い、その犠牲を無駄にしないという一心で走り続けてきた。
「これからも、そしてこれまで以上に、我々は君の力が必要だ」
そして、私は一つの決意を胸にした。
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