それは持て囃される彼女への妬みからの行為であった。それをバラせと命令した。
女の目の前にはバラバラにされた死体が転がっていた。
その後ろから、いくつもの歓声があがっていた。
彼女は英雄であった。
それは自分はそう有れないと、最後まで職員である事を貫いた彼への賞賛だった。ただ、それを誰もが認められなかった。
終ぞ男は、期待外れであったと貶され続けた。
いくつもの批判が、足跡のように彼を追いかけ続けていた。
彼は凡夫であった。
彼女には悩みなどないと全員が思っていた。それはバラバラになった家族の死体を見せた後だってそうだった。
女は英雄を辞めようとした。
自らを知らぬ、どこか別の場所へと行こうと辞表を上司の机へと叩きつけた。
彼女は平凡を願っていた。
彼が抱えていた苦悩を誰もが知っていた。だからこそ、彼も彼女も、それは誰でも同じだと思い込んで消化せずにはいられなかった。
男は誰かを救えるだけの力が欲しかった。
そのためにいくつもの苦悩を、全て飲み込んで笑顔を浮かべた。
体も精神も、命さえももつぎ込んだ。彼は一人のためにだって英雄になりたかった。
男は、彼女を「同じ目をしている」と感じた。
サイト-8101の廊下、どこかで見たような顔に、振り向いた。
しかし、その人生は交わることはなかった。
女は、彼を「同じ目をしている」と感じた。
「英雄」の呪いは彼女を蝕んだ。
「成功」の名は、彼女を錆びさせていった。
手にかけたものは戻ってくることなく、その光景をいつまでも脳内にフラッシュバックさせている。
脳裏に浮かぶのは幸せな、団らんの記憶。
「凡庸」のレッテルは彼に穴を空けた。
「失敗」の結果は彼に現実を突きつけた。
今でもその判断が正しかったのか、彼はずっと悩み続けていた。正解はどこにもなかった。
脳裏に浮かぶのは幸せな、団らんの記憶。
そして彼女は血の流れ落ちる死体の前で、ただそれを見つめていた。
冠城先軌は英雄であった。
これからも。
女は「変わらない」。
ただし彼は、"改変者として生まれた"娘を殺すことはできなかった。
ウェイブラー・デイビスは凡夫であった。
どこまでも。
男は「変われない」。