水曜日、午後3時、ポール・ディマシオのオフィスで
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ウェイスは注意深くドアを押し開き、オフィスへと踏み出した。

部屋はあまり飾り立てられてはいなかった。内装は壁に飾られた粗末な額縁の免状数枚とシンプルなデスク、それと椅子が2脚で全部だった。機動部隊シータ-90の司令官、ポール・ディマシオは机の所に座っていた。その向かい、ウェイスが空席だろうと思っていた場所に、機動部隊イプシロン-242のマリオ・ソットボスコ博士が座っていた。

「いや、真剣さ」ディマシオは言った。「うちの母のスパゲッティソースを食うべきだ。来週持って来るから。きっと衝撃だぜ。約束する。」

ソットボスコ博士は見るからに苛立っていた。「君のお母さんはイタリア生まれなんだろうね?」

「ああ、うん……リトル・イタリーだ。でも似たようなもんだろ?」

「違う!『似たようなもん』なんかじゃない!」ソットボスコは立ち上がった。「君が真に文明人だったならばよくできたカルボナーラやバッカラ1の美味い部分の素晴らしい味わいに感謝するって事を学んだだろうに!」

「おや、俺はペンネにかける美味いカルボナーラソースのレシピを持ってるんだぜ。スーパーで買ってきて、そしたら—」

「カルボナーラソースだって?カッツォ!失礼するよ!」ソットボスコは不機嫌に部屋を立ち去った。

ディマシオはウェイスを見た。その目が微かに光った。「座ってくれスペシャリスト。遅れてすまない。ソットボスコがイタリア料理バカになるのを止められなくてな」

「問題ありません。サー」ウェイスは一度言葉を切った。「彼は生粋のイタリア人なんですね」

「あいつはローマの生まれで、ローマの食い物が全てだと思っている。俺は無知なアメリカ人を演じてあいつを怒らせるのが好きなんだ。あいつはプリック2って言ったって俺には分からんだろうと思ってるよ」

「なるほど」

ディマシオの笑みが消えた。「アドバイスだ。ここではソットボスコみたいな奴を侮るな。彼らはかなり変かもしれんが、それを自分で理解している。そして物事が慎重を要する時に慎重さを失うことは無い。シータ-90において有能でありたいならばそういう技術が必要だ」ディマシオはファイルを開いた。「では仕事にかかるとしようか。どうしてここにいるのかは知っているか?」

「いいえ、サー」

「おいおいウェイス、公式には何も言われてないのは分かってるさ。でもお前は口をきかないって理由で選ばれたんじゃない。言ってみろ」

「ええと……私は一般訓練過程を終了して、今後の訓練について話し合うために私が所属する機動部隊の司令官とミーティングしています」

「よろしい。例えば?」

「私が所属する機動部隊のDOSに特有の事についてです」

ディマシオは少し黙った。「ではウェイス。シータ-90のDOSとは何だ?」

ウェイスは即座に答えた。「幾何学的、トポロジー的、その他空間的な異常です、サー」

ディマシオは突然口をポカンと開けて初めて聞いたような顔をした。「なんてこった。俺はただのフィールドドッグだから君の言ってる事は分からないよ。もっと簡単に言ってくれ」

ウェイスは笑いを堪えた。「つまり、私たちは変な寸法とか角度とか曲線を扱うということです、サー」

「そうだ」ディマシオは片眉を上げた。「お前はあの大学を出たんだから、どうして俺たちが『角度研削者』なんて愉快で洒落たニックネームを貰ったのかも分かるだろう」

「はは。ええ、はい、サー」ウェイスに何か起きた。「待ってください。ペンシルバニア大に通ってはいらっしゃらなかったんですよね?サー」彼女は素早く付け加えた。

「ウェイス、宿題はやったな?」ディマシオはにっこり笑った。「BS数学だ。俺も必死にやった。だが言わなくても分かるだろ。俺たちフィールドエージェントはやっていくために無学な田舎者って呼ばれるのさ」

「おいおい、ウェイス、本当なのは分かってるだろ。もう少し言おうか—あのお高い学校を卒業したフィールドドッグは俺だけじゃない。何人かはもっといいとこを出てる。だがこういう博士号ばかりの場所では」—ディマシオは身振りをして—「みんな身内だ。それはそれとして話が逸れたな」彼は1枚の紙をファイルから出して寄こした。「こいつを見て線のあるところにサインをするんだ。読みやすく頼むぞ」

ウェイスは紙を見た。サインをする線を除けば、そこにあったのは作戦用ロードアウトの中にいる、ボディアーマーとレスピレーターを装着した機動部隊員の、かなり写実的なドローイングだった。ウェイスは肩をすくめ、線の上にJ・ウェイスと署名した。

するとドローイングが頷き返したので、彼女は椅子から転げ落ちそうになった。

そいつは予想外だったろ?」ディマシオは明らかに楽しんでいた。「だけどそうでなくっちゃな。前にもここで会ったお友達だぜ」

「そんな、私は……いや」ウェイスは机の彼女側に重ねられたメモ用紙を見た。彼女はそれを1枚取り、ドローイングに重ねて「ヘルメットとレスピレーターを取ってくれますか」と書き込んだ。絵の中の隊員が再び頷き、頭に手を伸ばしてヘッドギアを取り外すと、ウェイスにはその顔がすぐに分かった。

「サー、これは……これはどう収容プロトコルに沿ってるんですか?」

「ああ、そうだな、それが問題なんだよ、スペシャリスト。プロトコルになんざ沿ってないのさ」

ウェイスは唖然としてドローイングを見つめた。もう1度ディマシオはニヤつき、しかし今度は何も言わなかった。ウェイスは自分は空欄を埋める事を期待されているのだと気づいた。それには長くはかからなかった。

「しかし……私たちはそういう事をしたことは無いと思ってました」

「大抵はってことだな?そう、しない。あのオメガ-7とかいうはちゃめちゃな大失敗は壁にクソを投げつけて貼りついた物を見るような行為だった。実際には壁には何も張り付かず壁も倒れちまったわけだが。だが非常に特殊な場合においては、俺たちは未だ例外を作るのさ」

「知りませんでした」

「そういうコースを選ばなかったからな、ウェイス。need to knowだ。財団が抱えるクソの殆どがそうなのと同じだよ。ここにあるエイト=ファイブ3は時々外に出て俺たちと遊ぶんだ。なぜなら……いいか?それを教えてやるよ」ディマシオは紙を1枚取り、綺麗な大文字で「EXPLAIN TO SPECIALIST WEISS WHY YOU GET TO WORK WITH MTF THETA 90スペシャリストウェイスにどうしてシータ90と仕事をしているのか説明しろ」と書いた。

ドローイングはそれを見上げて頷くと、外に目を向け、手袋をした手を動かした。ウェイスはすぐにそれがアメリカ手話だと気づいた。何か書いて。そして眉を釣り上げた。サインって分かる?

ウェイスは瞬き、自分のメモ帳に書いた。{ええ。}

上等。私の名前はカサンドラ。ラストネームは分からないから、エイト=ファイブを使わなきゃならない。ドローイングはその事に対し不満げに見えた。ディマシオ司令官は私たちは会ったことがあるって言うの。

{ええ。私は以前職務の一環でSCP—あなたと1時間ばかり話すように言われたわ}

ごめんなさい。覚えてない。沢山の人と話したから

{どうして}—ウェイスは躊躇い、続けた—{ここにいるの?つまり私たちと}

ドローイングは悲しげに微笑んだ。私が私だから。

{分からないわ}

ドローイングは少し動き、眉を潜めて、指で文字を書き出した。シ、ー、タ、90は二次元に存在する者を任用できる。

ディマシオはウェイスが浮かべた表情を見た。「おふざけだと思ってるんだろう?スペシャリスト。俺がこの部隊に来てから、俺たちは二次元的性質を持つ未収容のアノマリーに7回—いや、違うな8回—遭遇した。そのうち何回かの場合では、エイト=ファイブを展開できなければやられていただろう。」ディマシオは目を伏せた。「そう言えば訓練の途中だったな」ディマシオはページに「85、RECOMMENCE EXERCISE訓練再開」と書き、ファイルに戻してウェイスに向き直った。「廃墟の街が描かれているんだ。エイト=ファイブはUO技術を磨いている。心配するな、出られはしない」

「サー……SCP-085のHMCLが黙っては—」

「スペシャリスト、俺SCP-085のHMCLだ」

ウェイスは完全に言葉を失った。

「ウェイス、俺たちは何をすると思う?俺はそれが従来通りではない事を知っている。だが、二次元アノマリーに対処するとなると俺たちの選択肢はエイト=ファイブを除けば文字通りゼロだ。これがただ一つの選択肢だったのさ。それに、エイト=ファイブは自分が歩き考えるドローイングであることにお前にも分かるくらい気が狂いそうになっていた。俺はその状況を聞き、裏から手を回し、プレゼンテーションを行い、クソみたいな事に遭遇して、そして俺たちはここにいる」

「サー、全員は……そのアプローチに賛成しないでしょう」ウェイスの語調は、彼女が自身をこのグループの一員に数えている事を明らかにした。

「そうだウェイス。知っているし理解している。俺たちは汚物にはなりたくないし、異常に対抗するために異常を使い続けたくはない。そういう事はしょっちゅう文字通り顔面を爆発させる4。だが他に選択肢が無いという極めてクソ稀な状況がある。この職種ではお前は勝ち戦を選ばなきゃならんぞ、スペシャリスト。できる限りな」ディマシオは沈黙した。

「それで、その。サー、あれが訓練課題だったんですか?」

「何?そんなわけあるか」ディマシオは別の、分厚いファイルを取り出した。「あれはただちょっと慣れてもらうためのエクササイズさ。これがお前の訓練課題だ。免責事項に署名したらセクション1から始めるんだ」微笑み。「80時間も90時間もかからんはずだ」

「はい、サー」

「急げばな」

「……はい、サー」

「よろしい」ディマシオは微笑んだまま親指で素早くドアを指し示した。「ではな、スペシャリスト」

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