クレジット
タイトル: When the dearest partner quiet
著者: ©︎Dr_rrrr_2919
作成年: 2022
http://scp-jp-sandbox3.wikidot.com/draft:7200455-22-2ddc
<19/03/02>
<[user deleted]が退出しました。>
Desai: そうか、もう彼の最終ログインから24時間か。
You: なあ博士、一体どうなってやがる?
Desai: うん、確かにおかしいな。だがすぐに3月5日はやってくる。これくらいド派手にやれる選択肢があるだけ幸せさ。
You: あぁ、こうも静かだと、寂しさを思い出すな。
Desai: うん?マリレッツはどうしたんだい?
You: 土の中。今朝眠ったんだ。
Desai: 済まない。辛いだろう?
You: もう何も感じないさ。
Desai: だが、
You: 人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない。他に我々を守るものはいない、我々自身が立ち上がらなければならないのだ。そうだろ?
Desai: これ程笑えないジョークがあったろうか。こんな時まで財団だなんて、君は少し誠実すぎるね。
You: 本気のつもりだったんだがなあ。少なくとも俺はまだ死なない。配られた薬も捨てようか悩んでいる。
Desai: まあいい、もう今日は眠ることにするよ。
You: まさか?
Desai: はは、まだ死ぬ訳にはいかないさ。僕は正直死ぬことを考えていた。配られたその日にでも、飲むつもりだった。けれど、今は君がいるんだ。その日までは君の話し相手をしてやらなければ。おお忙しい。
You: ああ。よろしく頼むよ、博士。
<19/03/03>
You: クソ、ダメだ。娯楽も何もありゃしない。マスコミもラジオも延々と死を流してる。
Desai: そうだな、私たちも長くないのだろう。
You: 怖いこと言うな、せめて今だけは恐怖を忘れていたいんだ。
Desai: 私もだよ。なあ、約束しよう。
You: なんだ?
Desai: 古い中国の歴史で、桃園の誓いというものがあったそうだ。ほとんど創作らしいけどな。ある三人の男たちは誓った。生まれた時は違うが、我ら三人は同じ時に死のうと。どうだい、同じように誓わないかい。3月5日の0時、僕らはともに死ぬ。どうだい?
You: ああ、最高にクールだな。勿論だ、博士。
Desai: そう言ってもらえて嬉しいよ。ところで、どうだい、一杯やらないかい?
You: 博士は本当に酒好きだな。
Desai: 君が言えることじゃないだろう?君は僕と違い、タバコもやっているんだ。健康に気を遣ったほうがいいだろう。
You: 何かの皮肉か?
Desai: ハハ、ああ。君、僕に断りもなく先に逝こうだなんて許さないぞ。
You: まさか、この俺がそんなことするわけがないだろう。第一自動ログアウトが有効なんだ、仮に死んだとしても直ぐにわかる。
Desai: ああそうだ。だから君はまだ死なない。僕もまだ死なない。これで約束は完璧だろう?
You: そうだな、では買い出しに行ってくる。明日は戻れないかもしれない。
Desai: 寂しくなるなあ、どうか元気でな。
<19/03/04>
Desai: まだいるかい?
You: いるぞ、博士。
Desai: 実は、日に日に耐えられなくなっているんだ。もう楽に眠る準備はできている。
You: なんだって?約束したじゃないか!3月5日の0時、俺らはともに死ぬんだ。違うか?
Desai: 世界の終わりが怖いんだ。周りには誰もいない。かつての繁華街も切れかかったネオンを掲げ、どのビルも形無しだ。叫んでも反響が返ってくのみだ。
You: 博士。
Desai: それに、本当に6日に終わるのかもわからない。財団の技術をもってしても、このミームは止めることができないんだ。予想外の事態が起こってもおかしくはない。今は — 君との約束を後悔しているよ。だから今、ふたりで死のう。約束はなかったことにして死のうじゃないか。
You: あ、ああ。わかった。だが、最期に1本だけ吸わせてほしい。
Desai: もちろん!では僕も1杯、やらせてもらおうかな。
You: はっきり言って、俺はまだミームにやられていない。博士と最期まで過ごせると思っていた。だが博士の頼みならば仕方がない。支度をさせてもらうよ。
Desai: 君、嘘はよくないよ。正直に話してくれるか?
You: はは、博士には敵わないなあ。その通り、俺は生きようと思っている。博士を騙し、ふたりで死んだと思い込ませる。俺は死なない、博士は幸せに死ねる。誰も傷つかないと思った。さて、本当に支度をするよ。
Desai: 何か送ったようだが、どうやら通信エラーで見えていないね。僕は何も見えていないよ。終わる支度はできたかい?
You: もちろん。さよならだな、相棒。
Desai: そりゃどうも。最後の一日を、私のぶんまで味わってくれよ。
<19/03/05>
<Desaiが退出しました。>
You: ありがとよ、博士。
博士と同じ薬物を手にすると、ためらいもなくそれを飲み込んだ。完全な終わり。そのつもりで、彼は静かに眼を閉じた。
— 朦朧とする意識の中彼は眼を開いた。自分は生きている、と認識すると当然のごとく、頭にはこれが浮かんだ。何故?
オブジェクトによる死の渦中、何者かは彼を恨んで散っていった。そしてその何者かの望みが叶えられた。彼の時は何者かにより終わった。それは正確には、彼のよく知る人物、デザイ博士であった。
博士は彼を嫌っていた。ミームに侵されず我が道を行く彼を異端として扱った。博士だけでない。マリレッツも、職員たちも。
それを知らずに生き残った彼は、神に祝福を受けたのだなどと聞き飽きた台詞を口にし、涙に滲んだ素晴らしい朝日を見つめていた。
(T+1) 19/03/06: いい天気だ。
3月6日は今迄に経験したことのない様な、まるで驚くほどの晴天だったと信じていた。が、それは3月5日の空であることを信じる余裕はない。朦朧とする意識の中、空が動かないことなど気が付いていられなかった。
マリレッツやデサイ博士、O5や罪なき人々さえも、誰もがミーム汚染に殺された。その誠実な心からは消えない傷を負い、永劫の時を過ごしていくのだ。人類代表気取りで、遺言を一言。彼の視界は再び永遠の暗闇に満ちていく。
彼は生き延びてなどいなかった。
地球最後の人類も、この物語も、いくつかの勘違いにより終わってゆく。