クレジット
タイトル: 星々が降った時
著者: Jadeitor
作成年: 2023
原題: When The Stars Fell
翻訳者: sinornis
翻訳年: 2026
初訳時参照版: 04 ('23/01/12)
ライセンス: CC BY-SA 3.0
ソース: https://scp-wiki.wikidot.com/when-the-stars-fell-down
継ぎ目なく延々と連なる建造物。常なら血と臓物に覆われているそれが、今は空から舞い落ちてきた星々によってかつてない暗さに包まれている。しかしこれらは星ではなく、カラスの羽毛でもなくて、まぎれもなく地を覆う雪だった。
寒い。本当に寒い。私の鉤爪は激しく震える氷の塊になってしまって、自分が書いたものをよく見ても速記記号と引っ掻き傷の区別がつけられなかった。
この異質な冷え込みの重さを凌ぐ助けとして、同胞たちが傍らにいてくれたならと願う。混乱した市民の足元で氷がぱきぱきと砕けるあの規則的な音は無く、ただ気怠い風のざわめきだけが聞こえてくる。
カビの匂いも消え失せて、私に知覚できるのは鼻腔を突き上げて肺の奥へ降りていく鋭い痛みだけだ。
活気に沸いていた街も今は全てが戸の内側にあった。休んでいるのだろうか? そうかもしれない。温かい蝋燭の光が部屋の外へ、誰もいない通りに漏れ出しているのが見えた。君主たちの居場所は誰が知っているのやら。彼らは祝宴でも開いているのだろうか? 屋内に引きこもっているのだろうか? それとも彼らがこの事態の原因なのだろうか? そうだとしたら、目的は何なのだろう? そこに本当に論理的な説明が存在するのであれば、だが。私は真の原因をついぞ知ることがないのではないかと恐れている。その事実は、手のひらに氷晶の欠片が食い込むように私を深く傷つけた。
私の重みの下で、岸辺は硬く凍りついている。非意図Nevermeantの大部分を覆っている黒い海は今や、滑空の術を修得していない大半の存在にとって危険な滑りやすい表面になっていた。今この瞬間ばかりはその恩恵にあずかれたならどれだけありがたかったことか。
丘を登るにつれ私の息はあがっていった。冷気を吸い込まないようくちばしの近くへローブをきつく巻き付け、帽子の毛皮が思考を保ってくれている中、手記を取り続けていた。それでも温もりは失われ、残されたわずかな生命力が滲み出していく。私はこの異常な状況にそれほど長く耐えられそうにないと危惧していたが、仮面をつけた者達にとってはさして恐ろしいものでもない様子だった。
「家へ帰るぞ!」と叫んだ一人の孤独な市民が視界から消え去って、そしてそれきり私は誰ひとり目にすることはなかった。
眺めは暗かったが、黄色い空は天にも地にも頂が届く塔の群れの輪郭を浮かび上がらせるのに十分なほど明るい。立ち並び続けている木々の根は墓の下のさらに奥深くから血と憎悪の念ばかりを吸い上げている。枝の雪はそれらを悲しげに見せていた。枝は罪人の重みを支えられるほど頑丈だったが、冷気がその内部を引き裂いており、地面に触れると砕け散って結晶へ変わってしまうほど脆くもあった。
目的地に近づくと地面は凍てつきひび割れていた。歩くごとに破片が私を傷つけるのではないかと恐ろしかった。私にとっての地獄は誰かにとっての天国である。では結局この雪は何なのだろうか? 苦難も歓喜もアラガッダの民の生活の一部だ。それは死であり等しく悦びでもある。
最後にもう一度痛烈な寒気が私を襲い、その冷気と暗い塵を一緒に持ち帰ってしまうことを恐れて目を閉じながら羽を震わせた。
今は家と呼べる場所へ帰り着き、空から降ってきた星についてのレポートを綴っている。紅茶を浴びるほど飲んでいる間に鉤爪の先端はインクが染みついたいつもの黒色に戻っていた。私は姿勢を正しつつ、「なんてこった、どうしてアラガッダはこんな馬鹿げた寒さなんだ?」などと書いてしまわないように努めた。
製造者のイクス、ガクエルドの第7代堂守
堂守連盟新聞 2023-02-01 発行版に掲載



