「SPC独占取材!彼らはなぜサメを殴るようになったのか!?」
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「しっかしまぁ……なんでサメなんて殴るんでしょうね?目的が分からないっす」
「まったくだ。いったい何を考えてるのやら……」
「でも話した感じは割と理性的でしたね」
「けっこうマッチョ揃いだったけどな」
「あの筋肉で人喰いサメを倒すんでしょうね」
「ああ、でも人を襲うサメなんてサメの中じゃ少数派だぞ」
「え、そうなんすか」
「ああ、『JAWS』で有名なホホジロザメやイタチザメなんかは死亡事故もちょいちょい起こってるが、ネコザメやトラフザメなんかはおとなしくて人を襲うことはないそうだ」
「へぇ、釈さん詳しいっすね」
「たまたまな。もちろん人喰いしなくても危険なサメは多いけども」
「うーん、やっぱりなんで殴るんすかね?大事な人をサメに襲われて亡くしたとか……?」
「サメに対する恨み、ってやつか。でもそれなら殴らずとも別の方法があると思うけどな」
「確かに。じゃあ何でですかね」
「強さを求める集団なのかもしれない。海で最強なのはサメだからサメを倒せば海の覇者になれると考えたとか」
「SPCの連中は鍛えてそうな人々でしたけど……こないだ殴ってたのはけっこう小っちゃいサメでしたよ。そんな強くなさそうでした」
「まぁ他にも海にはシャチとか強そうなのいるもんな」
「それじゃあ、なんか新興宗教でサメを殴るといいことがあるとか?え、なんか勧誘とかされたらどうしましょう」
「それぐらいの心配は今更じゃないか?」
「まぁ確かに……」
「俺は『なぜ殴るのか、そこにサメがいるからだ』みたいな解答してくると見たね」
「あーありそうっすね」
「……お、木山、待ち合わせ場所についたみたいだぞ」


最近海岸に謎の船が現れるようになったという小さな噂がちらほら漁協で流れるようになっていた。密漁の疑いのため、同じ漁業組合で働いている釈さんとともに僕は調査を始めた。目撃者に取材を重ね、漁船がよく出没するポイントに当たりをつけ張り込むことにした。

果たしてその船は現れた。一般的な漁船に見えるがブリッジに白抜きで「S.P.C」と巨大な塗装がされており、なるほど謎な船と言えなくもない。カメラを釈さんに任せて双眼鏡で観察していると乗組員が網を投げ、漁を始めている。密漁の現場を押さえた……と思ったが彼らは魚を捕まえても逃がすばかり。しかし何度目かの回収された網にいっせいに乗組員が群がりだした。それは異様と言っていい風景だった。後でわかったことだが、ネコザメを複数人で取り囲み殴打していたのだ。

結局彼らはサメ以外の捕獲は行わず船を岸へと戻した。どうやら密漁はしていないようだが、念のため身元を改める必要がある。なにより彼らが何を行っていたかが気になった。船から降りた彼らに接触を図ったところ、意外にも気さくで警戒されることもなく対話に応じてくれた。彼らはサメ殴りセンター、通称SPCの職員を名乗り、洋上では漁はしておらずサメを殴ることしか行っていないという。だが、そんな荒唐無稽な話では納得がいかないため取材を申しこむと後日基地の見学をすることになった。

待ち合わせた倉庫街の一角にあるコンテナの地下に彼らの基地はあり、木山は倉庫街の一角に巨大な基地が設立されていることに驚いた。SPCの職員を名乗る男は施設内を案内してくれ、サメを殴るために日夜活動をしていると熱く語った。研究室などは機密のためか見せてもらえなかったが、サメを探しに行く艦船や鍛錬場の迫力は凄まじくサメを殴るための徹底的な探求がうかがえた。


「いやぁすごかったっすね。サメ殴りに対する熱意」
「ああ」

SPC基地からの帰り道。釈さんは生返事で携帯端末をいじっている。どこかに電話をかけようとしているのだろうか。

「でも結局SPCってよくわからなかったっすね……。最後の質問もなんすかあれ」


「うちの施設の紹介はこんなもんですかね」
「今日はありがとうございました!」
「何か質問とかあります?」
「あっじゃあ良いですか」
「ええ、どうぞどうぞ」
「SPCの方々は、どうしてサメを殴るんでしょうか」

職員が困ったような笑みを浮かべる。

「どうして、といわれましても……」
「こう目的とか、きっかけとかが知りたいんです」

やはりそこにサメがいるから、みたいな返答になるのだろうかと思ったが、返ってきたのは意外な言葉だった。

「あぁきっかけは言い間違いです」
「え、言い間違い?」
「ええ、私前はとある石鹸会社の日本支部にいまして、なかなか忙しい会社でした。そこでまぁ疲れてて呂律が回らなかったと言いますか、何かを「SPC」と言い間違えちゃったんですね。その時同僚たちにここを教えていただいて、それで気づいたんですよ。ああ、サメを殴らなければと」
「はぁ……?」
「そこからその会社を辞めこちらでお世話になっている次第です。いまではサメ殴りで毎日が充実していますよ」
「何を……「SPC」と言い間違えたんですか?」
「うーん何だったかなぁ。なにしろ10年近く前の話だから、忘れちゃいましたよ」


「いったい何を「SPC」と言い間違えたんですかね。たぶんアルファベット3文字かな。「SPD」とか「SBC」とか」
「まぁ俺達にはわからないし考えてもしょうがないさ」

携帯端末をいじりながら釈さんは我関せずといった風で歩いていく。

「でも気になるじゃないっすか。「SPG」?なんとなく最初のSは言い間違えない気がするんすよね」
「ほら木山置いてくぞ」

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「それとも順番を入れ替えて、「SCP」とか」

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一瞬妙な空気が二人の間に流れた。

「そういえば石鹸会社に勤めてたって言ってましたけど、確かSCPとかいう海外の石鹸会社ありますよね。ひょっとするとそこにいたのかもしれないっすね。どう思います釈さん……」

いつの間にか釈さんはどこかに電話をかけている。

「釈だ。……ああ任務完了だ、これから帰還する。……うん、目撃者のリストはレポートに貼付してある、カバーストーリーはまかせる」

電話を切った釈さんに僕は話しかける。

「釈さん今の電話は……?」
「ああこの地域のSPCの規模や装備は把握できたしもう調査は十分だと思ってな」

この地域……?他の場所にもSPCはあるのだろうか。それを釈さんは調べている……?

「こっちの話だ。木山には関係ないよ」

二人で会話しているはずなのにどこか釈さんの話が遠くに感じる。まるで違う世界の人とは話しているような。

「木山、短い間だったけどありがとな」
「え、短い間……?何を……」

そういえば釈さんと出会ったのはいつだ……?

そんなことを考えているうちに、釈さんはスーツの内側からペン型のライトを取り出し突き付けた。

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