ワールド・ベースボール・コンテイン
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サイト-17特設球場は異様な熱気に包まれていた。ワールドベースボールコンテイン決勝戦、日本対アメリカは3回を終え、34対6で日本が圧倒的得点差を付けリードするも、キャッチャーコンドラキが蝶の王として力を振るったことで、氷河期の如く冷え切っていた空気を一気に歓声の嵐へと書き換えた。

日本は今大会全ての試合においてホームランを量産し、大量点差でのコールド勝ちを重ねてここまで来た。あのキューバ代表でさえ、対処することが出来ずに284対11でコールド負けを喫した。

だが、アメリカは蝶の力を持って、打者にのみ投球を見えなくさせることで対策としてきた。
日本もこれは読めていた。しかし、蝶の投入が予想以上に早かった。日本の読みでは、蝶の体力の問題から早くとも中盤の抑えでの起用と考えていた。だが、このタイミングで投入するということはアメリカも早期に決着をつけるつもりだろう。

この点差ならまだアメリカにも勝つ見込みは十分ある。何故ならアメリカにはイチローがいるからだ。正確には今大会の為だけに製造されたイチローのクローンのボディに入ったブライトだ。

両チーム共に野球素人ばかりの男女混合チームでありながら、その特性から実質的な肉体を持たないブライトは、クローンイチローに憑依することでブライトでありながらイチローとして、攻守共にチームの要となっていた。まともに野球をしてはブライトイチローがいるアメリカには勝てない。
しかもブライトイチローは8人用意されていた。
万が一ブライトイチローが試合中に死ぬことがあっても補充出来るようにだ。

しかし、日本もそれは十分承知の上。
ベンチに戻った日本は予め用意していたプランを二つ実行することにした。
一つめは使用されているボールを統一スクラントン現実ボールにすりかえること。これが成功すれば蝶の力は失われ、再びホームランを量産できる。
そしてもう一つは……。

ウグイス嬢を務めるアイリスが日本チームの選手交代を告げる。
四番、桑名に代わりまして、神山。
スコアボードの表示が書き換わり、バッターボックスへ登場した神山を見て、会場が怒号のような歓声で揺れた。
そこにいたのは誰がどう見ても全盛期のベーブ・ルースとしか思えない神山の姿があったからだ!
中継を見ていたカインもこれには思わず声を荒げ、ケイン教授は尻尾を千切れんばかりに振り続け、モニターに向かって吠え続けている!

「コニチワ。ワタシハ、神山ベーブ蔵デス。キョウダイノ、カワリニ、キマシタ。ヨロシクオネガイシマス」
ボックス内で日本人として丁寧に主審であるO5-1とコンドラキに一礼するベーブ蔵!
それを迎え撃つピッチャーは、闘気を剥き出しに睨みつけるブライトイチロー!
ベーブ蔵とブライトイチローの間には最早会話は必要ない。どちらが真のレジェンドかここではっきりさせようではないか。
叶わないはずの夢の一打席が今まさに始まろうとしていた。

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