末端宇宙開拓記録:001 "最果ての地 ネバーラスト"
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宇宙の果てを観測する試みは失敗に終わった。観測機構が内部気圧の変化に耐えられずステーションの一部毎巻き込んで崩壊し、後には見たこともないような規模の爆発だけが残った。脱出ポッドに異常は見られない。ただ一点、異様な加速を繰り返している事を除けば。

ここから生存するにあたって幾つか懸念すべき問題がある。まず、異世界跳躍はできないものと切り捨てた方が良い。私の技術では今乗り込んでいる脱出ポッドごと跳躍する事は難しく、この速度を保ったまま生身の状態で放り投げられる事となるだろう。

そうなると大人しく脱出ポッドが着陸してくれる事を願うのみだ。だが着陸した土地の環境に脱出ポッドが適応できる保証はないし、閉ざされた未開の地に着陸した場合も厳しい。しかし、それ以上に恐ろしいのは虚空の輪の軌道に乗ってしまう事か。

オルバースのパラドックスという問いがある。宇宙が無限に広がり、無限に多くの星が存在するとしたら、夜空は真っ暗ではなく、全体が太陽のように明るくなるはずだ。そうならないという事はつまり"この宇宙は有限の空間である"事の証明となる。古典的な問いだが、今私が置かれている状況は限りなくこの問いの前提条件に近い。もし脱出ポッドの軌道上に着陸可能な星が存在していないとすると、宇宙の最端に存在すると噂されている、惑星一つすら存在しない循環、虚空の輪と呼ばれる軌道へと突入する事になるだろう。

あるいは、既に突入した後だろうか。

事故から1ヶ月が経過した、もう自分がどの銀河座標に位置するのかすらわからない。

畜生、暗くて狭い箱の中で野垂れ死ぬなんて最後は嫌だ。


こわい



何の音だ?

末端宇宙開拓記録:001 "最果ての地 ネバーラスト"

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基礎概要

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ネバーラストの内周から撮影された風景

開拓先名称: 最果ての地 ネバーラスト
└ 文字通り、宇宙の最果てに存在する空間です。
所属宇宙: ユニバース01
└ エルマ本部を構えるアトラルの存在をはじめとした、エルマと深い繋がりを持つユニバースです。

到達経路: 非常に良好
└ 巡礼用、偽装用共に複数の跳躍経路が確立されています。

エルマより跳躍に関しての注意点: 有り
└ 通称通り末端に位置する事から卓逸された跳躍の技術と暦によって変化する経由ルート分岐の把握の両方が高い水準で求められます。







現地解説

ネバーラストはユニバース01に存在する歪曲型空間遮絶領域です。ネバーラストは記号化された空間座標が特定のパターンで自律的に複製、配置される事によって成立しており、空間の50%以上が修復不可能な損害を負わない限り、理論上は無期限に存在し続ける物と考えられています。

ネバーラストは主に以下の3つの特性を示す空間によって構成されています。

外周: 生い茂る森林に囲まれた空間であり、空間的連続性を有さない特徴を持ちます。空間的連続性が欠如している事を示す一例として、5分歩いた場合と3時間以上歩いた場合のどちらもランダムな位置から内周へと出る事となります。

内周: パトソレの花の咲き乱れる空間です。土壌の環境は良好とは言い難く、時折、機械油の匂いが鼻を突く事が知られています。

放棄された塔: 外部から持ち込まれた観測技術を駆使しても頂上が観測できない程高くそびえ立つ、レンガ造りの塔です。ネバーラスト内の全ての空間はこれを起点として形成されています。

ネバーラストの内周では、時空間が目視可能な状態で巻き込まれ虚空へと流れ去って行く、"世界の終端"と呼ばれる現象を目にする事ができます。一瞬でも"世界の終端"と接触した場合、貴方を構成する全ての要素は即座に過去、現在、未来へと一律に転送され、因果を通して存在する1本の線として再構成される事となるでしょう。







ランドマーク

ネバーラストの中心にそびえ立つ塔は、構成する建築様式は相反する様式から矛盾する工法までもが混合した造りとなっており、一貫して重力下と無重力下の両方で利用する事が可能な構造となっています。

塔の内部には無数の日誌、ログ、図表、地図、日記が揃えられており、口伝上では、この宇宙に存在する全ての文明の歴史が記されていると言い伝えられています。しかしながら道中の階段や廊下は劣化が激しく、見学に来た教徒らの多くはいつ崩壊してもおかしくないとの見解を示しています。

ネバーラストの発見以降、塔の上部からは定期的に剥がれ落ちた外壁が落下し続けています。間近で観察する場合は細心の注意を払うよう心掛けるべきでしょう。

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塔の外壁







収集された情報

以下はネバーラストの観測当初、パトソレの花畑に埋め尽くされた状態で回収された人造オートマトンの記憶メモリより収集された記録です。

[深い穴の中から損傷の激しい小型ポッドと、未知のスーツを着用した青年の姿を確認できる。]

:謎の合成音声 まずはお詫び申し上げます。不時着した貴方を掘り出すのに丸2日かかってしまいました。

漂着者: とんでもない、こちらとしてもまさか生き延びられるとは思っていなかった。

[数秒の沈黙]

漂着者: すまないが腕を貸してくれるか?腰が言う事を聞かん。

:謎の合成音声 勿論です。


漂着者: 風の吹き方が妙だ。工夫してみても隣の星が見えないという事は、切り離された…ポケットディメンションのような空間である可能性が高い。

:謎の合成音声 お見事です。漂着者様。

漂着者: 様?悪いが主になった覚えはないぞ。

:AMIE-008 AMIE-008に与えられた絶対的な行動理念の一つに漂着者様の適切な誘導が含まれています。それ以上の理由はありません。

漂着者: そう。ところでこの場所はどこだ?今は西暦何年?

:AMIE-008 質問への回答は後にしましょう。時間は余るほどあるのですから。

漂着者: 構わない。ただ、どうしても今答えて貰いたい質問が1つだけある。

:AMIE-008 なんでしょう。

漂着者: この土地に、エルマの教えは広まっているだろうか?

:AMIE-008 その質問への回答は……困難です。よければ自身の目で見届けては如何でしょうか。

[視界が上方へと移動し、頂上が見えない塔の姿が映し出される。]


漂着者: これは…見事なもんだな。

[視界が360回転する。塔内部と思われる空間はその全てが書架に覆われている。]

:AMIE-008 この塔は常にこの土地の絶対的な中心点です。気になる記録があればお好きにどうぞ。再配置はこちらで済ませておきます。

漂着者: 待て、最初の質問がまだ済んでない。この土地はどこなんだ?どのユニバースの、どの銀河に属している?今は西暦何年だ?私は何年宇宙を漂い続けていた?

:AMIE-008 可能であれば、質問は一つずつお願いします。複数の因果処理は貴方が求めている回答から逸脱する危険があります。

漂着者: この土地はどこだ。

:AMIE-008 どこでもありません。漂着者様。

漂着者: どういう事だ?ならどのユニバースだ?

:AMIE-008 ユニバース01。しかし、ユニバース01のどの銀河にも属しません。ユニバース01からこの土地を訪れる事は不可能であり、またその逆も然りです。

漂着者: ちょっと待ってくれ。訳がわからない。そんな奇妙な土地の話は聞いた事がないぞ。

:AMIE-008 この土地はどのタイムラインにも従っていません。しかし観測は可能です。その全てを記録し続けるためにこの土地は存在しています。

漂着者: ……つまり、ここに落ちてきたのは必然で、俺も記録する側に回れと?

:AMIE-008 従来のシステムではそうでした。1人の見張り人が寿命を通して塔を管理し、いずれ訪れる次の客人に役割が引き継がれる。しかし、その1人が寿命を超越し、塔と共に悠久の時を過ごす事ができるならば、そのサイクルは既に過去の物となります。

漂着者: 君は、いや、君を作ったのは一体誰なんだ?


:AMIE-008 勤勉は素晴らしい事です。状態を継続してください。

漂着者: 無茶言うな。あぁ、腰が痛い。

:AMIE-008 それでは休息を推奨します。四半世紀分の成果は如何でしょうか?

漂着者: 外界の時がこの場所と同じように進んでいない事を祈るよ。

:AMIE-008 それは正確な情報です。漂着者様。貴方がこの塔に足を踏み入れてから何万冊の本を読破した現在まで、全ての時間は限りなく0に等しく、外界から見ればそれは一晩眠っている間にも満たないでしょう。

漂着者: ほとんど0に等しい、ね。ならここの存在意義は何なんだ?

:AMIE-008 知の貯蔵。所謂データベースです。本のインク、石板の表面、壁画の色彩、これらは自然の環境下では時と共に失われます。不可逆的な損失の回避こそこの塔の存在意義です。

漂着者: データベースねぇ。

:AMIE-008 何か不都合がありますでしょうか。

漂着者: いや、大丈夫。何一つ問題はない。作業に戻る事としよう、ありがとうAMIE-008。

:AMIE-008 どういたしまして。


漂着者: ああッ。

[漂着者が体勢を崩し、カップから溢れたコーヒーが書物の一部に滲む。]

漂着者: すまない、AMIE-008。

:AMIE-008 心配に及びません、漂着者様。司書役の1機に修繕を手配します。一冊の修繕であれば1週間と掛からないでしょう。

漂着者: 時折後ろを通り掛かる機体がいると思ったが、それか。

:AMIE-008 それです。

漂着者: そういえば、来た時にも別の個体がいたな。他にも何種類かいるのか。

:AMIE-008 種類…と呼ぶには元のスペックに大きな違いはありません。多くの機体は塔の周辺に拠点を築き集団で生活しています。そこから優秀と判断された機体が塔の管理の一部を任されます。勿論、私もその内の1機です。

漂着者: 俺の付き添いは塔の管理の一部だと?

:AMIE-008 この空間が持つ旧式のシステムの一環です。貴方は何も考えず、いつまでも、気の赴くままにこの場所の記録を享受する事が許されています。

漂着者: ちょっと待ってくれ、この前君はここに流れる時間は外界から見ればほとんど0に等しいと言った筈だ。四半世紀という気が遠くなるような期間が一晩にも満たないと。それなら塔の下にいた君の同族達は今どうなっている?

[数秒の沈黙]

:AMIE-008 総じて異なる個体へと作り変えられている事でしょう。それが私達の本来の営みであり、正しい秩序です。

漂着者: …一つ聞きたいんだが、君達のオートマトンが他の星に跳躍する事はないのか?

:AMIE-008 前例は聞いた事がありません。多くの同胞はこの土地で象られ、従来の施設を維持し、身体の部品に限界の兆しが見えれば己の身体を再び元の金属の状態へと還元します。

漂着者: へぇ。

:AMIE-008 どうされましたか?

[数秒の沈黙]

漂着者: いや、なんだ

漂着者: この場所から離れる日もそう遠くはなさそうだ。


漂着者: そろそろ、試練の答え合わせを始めよう。

:AMIE-008 何の事でしょうか。

漂着者: 思えば苦しい試練であった。未知の土地に不時着し、周りに跳躍可能な星は見えず、何世紀もの気が遠くなるような期間、数多の銀河の文献を読まされ続けた。

:AMIE-008 何か目的があると思っていました。

漂着者: 全ては試練を乗り越えるために用意された物だった_まず初めに、周りに跳躍可能な星が見えないのは何故か。これは降り立った時に把握していたように、この空間が後天的にポケットディメンション化されたためである。

漂着者: しかし、ポケットディメンションでも他の並行宇宙や多元宇宙への跳躍は可能なはずだ。それすら叶わないとあれば、それは並行するユニバースや可能性が存在しない…

漂着者: いわば、世界の"末端"なのではないだろうか。

:AMIE-008 正確な推論です、漂着者様。

漂着者: 記録から積み上げた仮説に過ぎなかったが、そうであれば様々な理屈に説明が付く。時間の概念がないのは既に全てが終わった後だからだ。塔の中に全てが記録されているのは既に一度記録するべき物が決まりきっているからだ。つまるところ、ここから脱出する方法は存在しない。

:AMIE-008 えーと、いいえ?脱出する方法は存在しますよ。

漂着者: となると次に考えるべきは…なんだって?

:AMIE-008 脱出する方法は存在します。というより、ここから出たい素振りを見せればお教えするつもりでいました。

漂着者: …つまり前任者達は謎の失踪を遂げていない?

:AMIE-008 はい。全て私達の手助けもあって元の時代へと帰還し、ここで得た知見を活かしてエルマの教えを広めています。

:AMIE-008 この土地の詳細について語らなかった事はお詫び申し上げます。最初にこれを伝えては混乱を招くと思い、意図的に秘匿していました。これで全ての謎は解明したでしょうか。

漂着者: いや、まだだ。後2つ未だに解明できていない謎が残されている。

:AMIE-008 何でしょう。今なら如何なる疑問にも、持ち得る情報の全てを提示する事を誓います。

漂着者: 君達を最初に作った人物の正体だ。

漂着者: どれも確証には至るものではないが、いくつか予想は立てられる。世界の末端を観測し、正規の手段で到達する事が可能な立場。ElMAを並び替えた型番。正確な年数はわからないが、四半世紀が一晩で流れる空間で機械文明が成立する程、遥か遠い過去に存在していた教徒とあれば…私のいた現在では、老師としてその名が語り継がれていても何ら不思議ではない。

:AMIE-008 …我等の先祖となる機体を作った人物は、名をリデンと言います。話によれば、彼は教祖の教えを直接聞き届け、かつてはElMAの音に意味を与えた者と共に跳躍を行なっていたと聞きます。


漂着者: ああッ

[漂着者が姿勢を崩しカップを倒すが、咄嗟に別方向を抑えた事により全てのコーヒーが机の下の床へと落下する。]

漂着者: コーヒーを零した時の対処も慣れたもんだな。

:AMIE-008 あまり床を汚す事もして欲しくないのですが。

:AMIE-008 ところでもう一つの謎というのは?

漂着者: あまりにも解決の糸口が無さすぎて言う気にもなれないが、末端の"その先"への跳躍の方法だ。

:AMIE-008 その先、というのは?

漂着者: 正直なところ、まだ何の手掛かりも掴めていない。そもそも、観測可能な物なのかどうかすら…

:AMIE-008 一度だけ、終端を観測した事があります。そこは目に映る限りの虚無であり…何かを期待できる空間では、そもそも空間とも呼べる物なのか、その先についてわかる事は何もありません。すみません、少し気が動転しています。

漂着者: ふーむ。まぁ結局のところ、その先に何があるかは誰にもわからないのだろうな。そして、この塔の中にも答えはない。

[視点の中心点が僅かに漂流者の顔へと寄る。]

:AMIE-008 その先へと、向かうつもりなのですか?

漂着者: まぁ、この先に進む以外にやるべき事は残されていないだろうからね。

:AMIE-008 本当に進む必要があるのですか?ここには文字通り無限の情報が存在していますし、悠久の時を過ごす事もできます。急いで旅立つ必要はどこにもありませんし、旅立つ先があの場所である理由も無いはずです。

漂着者: 残酷な話だが、それは正しい認識ではない。過去から未来の全ての情報が綴られていようと、このユニバースにも必ず終わりが訪れる。終わりがある以上、綴られる歴史は有限だ。

:AMIE-008 それでも、この塔は無限に続きます。それがこの空間の絶対的な中心点である塔の在り方なのです。

漂着者: 仮に塔が無限に続いていたとしても、中の本の内容が一冊も被っていないとは限らないさ。有限の物を無限に見せかけるには無限に見間違う程に何度も繰り返すしかない。

:AMIE-008 では、この塔すら欺瞞であると言うなら、他に何を信じれば良いのでしょうか。私達の緩やかに消費されゆく生を、ただ眺め続ける他ないのでしょうか。

漂着者: それも違う、女神エルマは我等に試練を与えたと共にそれを乗り越えるため跳躍という技術をも授けた。

:AMIE-008 大まかな概要は把握しています。

漂着者: いずれ私は世界の終端への跳躍を試みるつもりだが、それは今じゃない。何せ、まだやり残した事がある。

:AMIE-008 やり残した事、とは?

漂着者: 未確定の情報が多くあまり要領を得ない返答になってしまうが、まず初めに初歩的な機械文明に跳躍技術を根付かせる事ができるのかの検証、それと付随してもう一つ…虚空の輪と呼ばれる異常空間の解体だ。

漂着者: 調べて新たに判明した情報の一つから、このディメンションの存在を外宇宙から秘匿するため空間を起点に広大な余剰空間を展開していた事が判明した。その機構が君達と塔の周りに存在する集落に組み込まれて機能している事もわかっている。

:AMIE-008 そんな。

漂着者: 待て、まず君達を構成する金属だが、それはこの土地で採れないだけで他の星へと赴けばいくらでも調達する事ができる。これは仮説だが、もし君達が異世界へと跳躍し、そこで繁栄を繰り返せば…

:AMIE-008 どこかのタイミングで自然と体系が崩壊する?

漂着者: その通り。

:AMIE-008 興味深い考えです。

漂着者: 老師リデンがこの土地にエルマの教えを根付かせなかった理由はおそらく、オートマトン達に塔の管理を一任させ、この土地の存在を隠し通したかっただろう。外部から持ち込まれた君達の総数は有限で、跳躍によって数を失う訳にはいかなかった。しかし、機械でも終わりを恐れる感情がある。

:AMIE-008 しかし、教えを広めるにはまずこの塔の有限性を皆に知らしめる必要があります。

漂着者: そう、だからこれは俺のエゴだ。恐怖心を煽って教義を広め、かつて老師リデンが築き上げたシステムを破壊する。創造主への反逆とも捉えかねられない行いだが、これを聞いて君はどうする?エイト。

:AMIE-008 そうですね…その考えへの賛同はAMIE-008に与えられた行動理念のいくつかと矛盾します。それらの対応について、今この場でお答えする事はできません。

:AMIE-008 ですが、「漂着者様の適切な誘導」の理念の元、新たな道を提示する事は可能です。資料収集のため、少し時間を頂く事は可能でしょうか。

漂着者: 好きなだけ時間をかけてもらって構わない。

:AMIE-008 では、失礼します。

:AMIE-008 と、その前にカーペットを洗浄する必要がありますね。椅子と机を退けてくださいますか?

[数秒間の沈黙]

漂着者: はい。


:AMIE-008 申し訳ありません。帰還が遅くなりました。

[複数の本がドーム状に積み重なった構造物が映し出される。出入り口と思われる空間から漂流者が顔を出す。]

漂着者: あー、エイト。その、なんだ。

[数秒の沈黙]

漂着者: 2年くらい帰ってこなかったんじゃないか?

:AMIE-008 2年近く、帰還が遅くなりました。

漂着者: 何が起きた!

:AMIE-008 資料収集の途中、この塔のどこかに老師リデンが自ら書き残した1冊の遺書が残されているとの情報を入手しました。

漂着者: それは…見つかればエルマにとっても歴史的な発見になりそうだな。

:AMIE-008 そうなのですか?

漂着者: それで、見つかったのか?

:AMIE-008 当然です。数ある候補の中からものの数時間で探し当てて見せました。

漂着者: …それじゃあなんで2年近くかかったんだ?

:AMIE-008 単純に、ここからの直線ルートがおおよそ片道1年の場所にありましたので。

漂着者: そうか…改めて思い知らされたが、この空間は人智を超越しているな。それで、偶然にも思案する時間は十分確保された訳だが、君の考えを聞かせてもらおうか。

:AMIE-008 はい。まず初めに、私はこの塔が私達によって管理され続ける理由を求めて遺書を読み始めました。

[数秒の沈黙]

:AMIE-008 しかしながら、どれだけ頁を捲っても、私達の存在意義について書き記された文章が見つかる事はありませんでした。そこには今まで跳躍によって渡ってきた土地への追憶と、世界の終端が観測された事への恐怖心。そして既に己の身体がもはや次の跳躍に耐えられないであろうという、予感と葛藤の連続が綴られていました。

漂着者: …そうか。

:AMIE-008 最後の項ではエルマの教えが世界にもたらす希望について、内容の重複した見解が1つの頁に繰り返し綴られ、もはや文章の体裁すら保てていないようでした。そしてある地点から力尽きたかのように白紙となり、残されたどの頁を捲っても、更なる文章が見つかる事はありませんでした。

漂着者: 最初、君は遺書と言ってその本を探し始めたと述べたが、その様子だと本当に老師リデンは…

:AMIE-008 死去しているでしょうね。私達の先祖に当たる初期型が生まれたのが何十世代も前の事ですから、元より存命だとは思っていませんでしたが。

漂着者: しかし、肝心の遺書の内容がそのような状態では今後の指標となるような物は得られなかったんじゃないか?

:AMIE-008 いいえ、これで良いのです。これで諦めが付きました。創造主は我等に対して無関心であった。この事実だけで職務を放棄する理由としては十分でしょう。

漂着者: しかし、今から取り組もうとしている課題はその創造主が死の直前まで縋っていた教えを広める行為でもある。君達はそれを許容できるのか?

:AMIE-008 …誰しもきっと、信じていた存在に見放されたとしても、変わらず縋り続けていたいと思わずには居られない筈です。

:AMIE-008 さぁ、塔を降りましょう。


:AMIE-008 さようなら、良き旅になる事を願っています。

[古ぼけた1機のオートマトンが跳躍を行い、空間から消失する。]

[視点が180°回転し、平原が映し出される。機械文明の跡が残されているが、オートマトンの姿はどこにも見えない。]

:AMIE-008 これで、塔の外にいた同胞達は全員行ってしまった事になりましたね。

[視点の移動に伴い、歯車同士が軋む音が響き渡る。]

:AMIE-008 騙し騙し動かし続けてきましたが、私の身体ももう限界なのでしょうね。

:AMIE-008 漂着者様は今も塔の頂上を目指して登り続けているのでしょうか。

:AMIE-008 それとも、とっくに見切りを付けていて、既に終端の先へと跳躍した後なのでしょうか。

[視点は突如上空を映し出す。この視点は当該オートマトンが回収された場所と一致している。]

:AMIE-008 縋り続けていたいと思ってしまうのは、私も例外ではないのですよ。

[合成音声の波長が徐々に、鈍い低音へと変化し始めている。]

:AMIE-008 嗚呼、漂着者様。貴方の行く先にエルマの祝福があらんことを!

[映像が停止する。]

更なる跳躍への足掛かり

ネバーラストの観測はユニバース01の各所において、いずれも「虚空の輪」の消失以降、同時多発的に発生した。しかしながら放棄されていたこの一機を除いて、この地で生活を営んでいたとされる機械生命体の行方や、"漂着者"なる人物の消息も、未だ一切が闇に包まれたままである。

またその後の観察はこの世界の更なる驚愕の真実を暴いた。「虚空の輪」はネバーラストを起点としてユニバース01に限らず、複数のユニバースに跨って存在していたのである。各ユニバースでは、これまで「虚空の輪」によって妨害を受けていた宇宙体系の観測が正常化しつつあり、とりわけ宇宙構造を基盤とする研究分野は未曾有の急発展を遂げる最中にあると言えるだろう。

これらの正常化された観測技術はいずれも、この宇宙に(定義次第ではあるものの)"ネバーラスト"以外にも"世界の終端"と呼ばれる空間が無数に存在している事を示している。この事実は一部の熱心なエルマ教徒の間では跳躍の有限性を示す宗教的タブーとして捉えられているようであり、時には弾圧の対象となる場合もあるようだ。

だがその一方で、「エルマの教えは世界の終端すらも跳躍する」という思想のもと、自身が到達した終端の情報を特定の土地へと持ち寄り、共有し合うムーブメントが一部のユニバースに根付きつつある事が確認され始めている。

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