歴史を綴る
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by Ethagon

神々の中にはデクラの民もいたが、彼ら自身は神々ではなかった。彼らは旧世界で罪を犯し、神々を憎むその心は腐りきっていた。事あるごとに神々を貶しめようとし、神々の戦士を殺すにまで至った。名を知られぬ神々はガイヤへ、全ての人の苦しみを止める為、自分たちをアビルトへ送るべきであると訴えた。しかし、ガイヤは叡智をもって、彼らへ本を授けた。本には彼らが正しい道に戻り、新しい世界に貢献する為の手段が書かれていたのだ。

それで私、ヘカンはデクラの子孫にこう聞かされたのだ。この本は元々の神話には無く、デクラが御書の護り手に征服された後に追加をされたと考えられる。残念なことに、デクラの長は私が全ての物語を記録する事を御書の護り手自身が認めていると知っていた故、本当の物語を取り戻す事は叶わなかった。

そうして彼らの心は殆ど変わったが、神々は彼らに完全なる信頼を置きはせず、彼らを常にエリッツの監視下に置いた。デクラの民は最も勤勉であったのに、だ。だがそれはドラジンの反乱までであった。デクラの民が鎖を外し、ドラジン・エムティフの妨害をしなかったら、倒れるのはガイヤ自身であっただろう。その後、デクラの民は他の人々に受け入れられるようになった。この日を境にデクラの民は悪意ではなく敬意を持って他者と接してきた。新世界が再び終わる日まで、我々はこの美徳を守らねばならない。そうして初めて、我々デクラの民は真に救われるのである。

近くの川にはデクラの民の空腹を満たせるほどの魚がいるにも関わらず、デクラの民が遠くの放浪者との交易で生活する事を選んだ理由は、理にかなっている。彼らは部外者に友好的であり、相手には自分たちのような謙虚さは期待しない。そのことが彼らが伝承を私と共有することに積極的だった説明にもなる。にも関わらず、彼らは私が伝承を覚えるのではなく書いていることに驚いていた。御書の護り手たちは、彼らの征服した民とまだ文字を共有していなかったのだろう。


川をくだりぶらぶらと歩いていると、あまり友好的とは言えない部族、エムティフ・エタインと出会った。実際、彼らの戦士の前に少しでも恐れるような真似をしたら、私は殺されていただろう。ありがたいことに、ガイヤは私が任務を終えるまでは終わりなき好奇心という名の祝福をくれていた。"恐れを知らない"私は、彼らの伝承を記録する為に同行を許された。エムティフもまた、デクラの民のようにドラジンの敗北をその起源としている。

ドラジンと彼の征服地を失ったエムティフは取り乱していた。彼らはドラジンから目的を与えられていたが、主人のいない戦士の生き方は空虚なものとなった。一部の戦士達は反乱を起こし、かつての主人を取り戻さんとした。彼らはガイヤのエムティフに勝利することは無かった。

言っておくべきこと:エムティフ・エタインには、旧世界には数十のエムティフがおり、それぞれが個別の任務を遂行していたと信じられている。旧世界崩壊の後、彼らはガイヤとドラジンの下に集まった。しかし、これを信じている部族はエムティフ・エタインが私の知る唯一であるため、この話は彼らの空想の域を出ない。

他の戦士達は、他の神々へ仕えるためにと分裂した。しかし、一人の戦士、彼女の名はエタイン、ドラジンのかつての征服地を取り戻す事を選んだ。獣に奪われし土地を。彼女は七日間戦い、常に敗北の危機に瀕そうとも、恐怖に屈することはなかった。恐怖に屈する者は獣に屈する。そして最後には彼女は勝ったのだ。この戦士のおかげで我々は今日この地を踏みしめることができたのだ。しかし、獣達は奪還した地の端に留まっている。我々はエムティフ・エタインのように恐れを知らずにいなければならない。さもなくば、獣達はかつて彼らのものだったものを奪うだろう。

エムティフ・エタインに人も動物も関係ない。恐れを示す者は殺さねばならない。もしもっと時間があれば、彼らの話は信憑性に欠けたので、自分の目でその獣を見たいと思った。しかし、私は先へと進まねばならない。次の都市、カレフハイトはそう遠くない筈だ。


次の話をする前に、まずは背景の説明をする必要があるようだ。馬の蹄の音を想像してみてほしい。その馬は一定の速度で歩いているので、蹄の音は一定の順序で回ってくるとしよう。これらの音は「音楽」と呼ばれている。その目的は、人々の仕事への意欲を高めることにある。御書の護り手が「音楽」についてを私に教えたが、私は自分で「音楽」を聞いた時初めてその何たるかを理解することができた。

カレフハイトへ行く途中の山の中にある集落より来た。そこは集落の中間にある毛皮に閉ざされた洞窟を居住地として始まったものだった。洞窟の中はほんの少ししか見えなかったが、中には音楽の道具以外はなかった。そして、御書の護り手の言葉によると、これらは複数人のための道具らしい。
しかし、その音楽は私が洞窟を見つめている間にどこかへと消えてしまった。さらに、洞窟やその中にいる奇妙な生き物は話が出来たのだ。その言葉についてでも紹介しよう。

ああ!私は旧世界を思い出したよ。当時の思い出はいくつかあるし、大好きなものもあるがストーリー性を持ったものはない。今ほど原始的な設備ではなかったが、同じように部屋で音楽を聴いたり、料理をして過ごしていた。また、遊ぶことも多くあったと思っている。結局のところ、私はまだ若かったのだ。時々、ロバートが私の血の採取をしたり、ちょっとした運動をしなければならなかったり、医者からいくつか質問をされたりもしたが、それだけであった。スタンレーにはもっと頻繁に来て欲しかったが、彼には手間のかかることがあったのだ。

背景から推測すると、洞窟で話していた人々は多くの者には知られていないような神々であると考えねばならない。
 

しかし、ある日とその翌日にかけてで、彼らは全員いなくなってしまった。私はどれほど待ったのか分からないが、部屋を出て、サイトを出て、友人を探した。とうとう、彼らを見つけることが出来なかった。少なくとも、私はこの新たな人々の生活の手助けなら出来る。ロバートが恋しいよ。

話を終えると、洞窟の集落の長に「料理の準備が出来ましたよ」と叫んだ。後になって分かったことであるが、洞窟は私たちの話の間中音楽の演奏を続けただけでなく、私が今まで食べたものの中で最も味わい深い食事を作ってくれた。私はいつものように食事を終えると、その場を立ち去った。
 


こんな感じに、旧世界から新世界への移行の真実へと近づいていくのを感じた。集落の長は警告するには、私の向かっている地域には「ライダー」という盗賊がよく出没するという。私はその警告を気にはしなかった、なぜなら、盗賊にも伝えるべき伝承がある。だが、ガイヤは私にまだライダーと会って欲しいとは思っていなかった。

その代わり、私の進む道はマイナーなサイトュや美しい草花でいっぱいの野原へと続いていた。数人の人がそこへ住み、近くのサイトュにと果物を摘んでいた。当初はサイトュの増加は故郷なるサイトュが近くにあるからと思っていたが、ここに住む人々は違う考えを持っているようだ。

故郷なるサイトュはドラゴンシイケィトゥに奪われるまではガイアとその信者の居場所であった。しかし、この野原には別の古い種の神の力が宿っている。彼らは「五眼」と呼ばれ、旧世界で起こる森羅万象を見ることができた。しかし新世界は彼らを盲目とし、彼らは新世界を軽蔑し、殆どの者が新世界を捨ててしまった。しかしこの場所のような庭がいくつかは残されていて、旧世界を守ろうとしていた。昼は畑から好きなだけ収穫を得られるが、夜は庭の見張りの為に一人のエムティフの戦士を派遣した。

この時点で、私は色々な話を聞いていたが、全く信じられない話など初めてだった。言い換えれば、私は初めてそう感じた。ガイヤはどうして私をこのような場所へと送ったのだろうか。この嘘を消し去りたいのなら、彼は私の代わりにエムティフを送り込んだのではないのだろうか。私は腑に落ちないと思い、さらに詳細な情報を求めた。私は彼らの夜を過ごすサイトュに聖典がまだあるという話を聞いた。エムティフの戦士が注意を払わなかった唯一の場所のようだ。

確かに、その聖典にはガイヤのシンボルがあった。私は直訳の内容を望んだが、驚いたことに、ここの人々は先人の話を聞いてその内容を知らないでいたのだ。私は聖典の内容を読み解こうと試みたが、無駄なことであった。私はあまりにも多くの時間を無駄にしており、もう行かなければと思った。私はガイヤによって守られている事を知っている故に、人々の警告を無視した。

しかしガイヤの加護が、この庭に及ぶ事はなかった。

戦士に捕まった私は既に庭の外れにいた。その様は、戦士から広がる花や蔓の為に行使される人間のようであった。戦士は一直線に私の元へと歩み、手に持った武器で私の腕を切り刻みだした。私は畑の中を一直線に逃げた。戦士は畑を一周しても、私に追いつき、私をもっとバラバラにして土とせんとしていることを私は思い出した。ようやく庭を後にした時には、後頭部には裂傷が残り、私の左腕と手は何箇所か骨が折れていた。一つだけ確かなことがある。もしも五眼が実在するならば、彼らは善良とは程遠い存在なのだということだ。

その戦士は、私を地面に寝かせたままとした。三、四時間は経っただろうか、私は動くことも出来ず横たわるのみであった。ある時、一団がやってきて、私を連行した。彼らはライダーと呼ばれていた。彼らは私の持っていた僅かな価値あるものだけを奪い、私にはノートだけを残した。私は彼らにどこへ行くのかと尋ねると、カレフハイトに行くと答えた。思わず笑いがこぼれてしまった。どうやらガイヤは、私の進むべき道を既に決めていたようだった。そこでは、どんな物語が待っているのだろう。


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