休憩室に入ったオペレーターは、Fostergrant博士をそこで見付けられるとは思っていなかった。第一にFostergrantは休憩室を一度も使わなかったし、第二にFostergrant博士は機械からでてきたものを何も飲まなかったし、第三に、紙コップで出されたものを飲まなかったからだ。
博士が皮製のソファと暗いろ過された液体に関心を示さなかったというのは事実だが、オペレーターは彼のふだんの行動と3つ点でかけ離れた行動に興味を持った。何かに興味がある人間というのは、普通それを確認したいと思うものだ。オペレーターはしばし見つめた後、より安全な方法を選んだ。
飲み物は、最終的にセルロース容器から完全に無くなった。しかし、これは観察することに何の問題も引き起こさなかった。なぜなら、Fostergrant博士は不注意にも、木製ベンチに座っていたからだった。しかし、まだ飲み物は必要なようだった。なぜなら彼はコップを壁に向かって投げ、それをごみの山の上に投げ入れつつ、自動販売機に向かって移動したからだった。
壁に立っている機械は、操作された命令を処理し、何らかの飲み物が取り出し口に落ちてくる音がした。Fostergrant博士はしばらく内容物を眺めてから、ベンチへと戻った。かれは小さく一口飲み、一息ついた。
— おはようございます、博士。 — オペレーターはリスクを犯した。
— おぉ、君か。 — 科学者の声から不意に明るさが消えた。 — 何があったんだ?
— いいえなにも。お気になさらず。
— じゃあ、なにが望みだ?
博士の声は普通ではなく、少し上ずっていた。彼は…泣いてる?
— 大丈夫ですか? — オペレーターは反対側に座った。
— 少し考え事をしていてね… — 彼は前かがみになって、両手をひざの上においた。 — あなたは我々の研究する012について考えたことはないかね?
— 012?我々の保護している…
— やつは池の中に立って何かを育ててる。私はそれがコケのように見えるが、それが全てではない。やつは、私が何かを守っている、という理屈を良く理解している。くそ、ただ、名前は何にも由来していない。わかるか?
— 確かにその理屈は道理が通っていますが、確証がないでしょう。
— そうだ、そこについて考えていた…。最後の改訂が行われたのは2017年だ。オメガ2は、やつのためにまだ解体されていない。あれはおそらくセクター13の最も古い施設だ。常任スタッフの数は何人だと思う?5人だ。1人が清掃し、2人が警備し、1人が「研究」し、1人が破損箇所を修理する。公式にはそれだけだ。実際にそこに行ったことがあるか?おそらくないだろう。そして、お前は何も失ってやいないだろう。良く聴け。時間は待ってはくれない。我々がやつを確保したのは1985年だ。オメガ2武装研究センターは最も野心的なプロジェクトだった。施設は傷ひとつ無かった、進んだ技術を使い、20以上の部隊がいた。コントロールセンターには世界最大のCRTモニターがあった。誰もが、モップでさえもそのプロジェクトに提供した。今はどうだ?
Fostergrantは一口でカップの1/4を飲み干し、緑の目でオペレーターを見つめた。瞳孔はさらに小さくなったようだった。
— いまや16の部隊が解体されている。全ての有用なオブジェクトは、ずっと前に他に持ち去られてしまった。新しいセンターが作られた。もっといい、きれいで、新しい物がな。かつてはすばらしく、やわらかいカーペットと財団の最大の成果が額にいれて壁に飾られていたロビーは、いまや破片や、折れた竿、雑草であふれている有様だ。おそらくそこへ行けば、水たまりの中に落ちている、新聞の破片やら、写真の一部やらを見つけられるだろう。だが、私は正直それらが信じられない。我々のかつての最高の誇りは、いまや沈黙し、死んでいる。それとともに、012は死に掛けている。泥まみれで、忘れ去られて。そうだ、君はまだあの報告を覚えているだろう。彼が、怒りと決意に震えて、あのプールを守っている写真を覚えているか?いつか彼を訪ねてやってくれ。いや、別に命令なんかではないよ。しかし、彼に会ってやってくれ。彼の顔を見てやってくれ。彼の不安にあふれた目を見てやってくれ。近づくのを恐れるな。やつはお前に何もせんよ。彼が目を配らなかったものは、重要ではないのだ。少なくとも彼にとっては。しかし、それを探ろうとしてはいけない。そこまでして守りたかったものだ。彼に任せてやってくれ。こっちは、命令だ。そして立ち去るとき、肩越しに彼を見てみろ。たぶんお前には、何も見えないだろう。でも、やってくれ。わたしのためではない。財団のためですらない。彼のために。そして君自身のために。
誰かが、黒革のソファーへやってきた。女性だ。オペレーターは足音を聞いた。男性にしては軽すぎ、通常のRMTにしてはやわらかすぎる音だった。
— 失礼、管理官のClyde Fostergrant博士ですか? — 彼女は繊細な声でたずねた。
— よし!行こうか! — 管理官Clyde Fostergrant博士は、明るい声で、オペレーターにそう言った。
彼が行った後、オペレーターは安定した音を聞いていた。静かで、レクリエーションルームの騒音はほとんど聞こえなかった。オペレーターは振り返った。倒れたカップからは、明るい赤色の液体が、ゆっくりと滴り落ちていた。