クレジット
タイトル: 闇寿司ファイルNo.0505 "鯉のぼり"
著者: Snowy-Yukinko
作成年: 2026
http://scp-jp-sandbox3.wikidot.com/draft:8062398-71-e661
鯉のぼり。
概論
"鯉のぼり"とは、端午の節句に家庭の庭先で飾られる、鯉の形を模して作ったのぼりである。和紙(現在はもっぱら合成繊維)で作られたのぼりに大きく鯉の絵を描き、飾るという風習の由来は江戸時代の初期にまで遡り、男児の健やかな成長や立身出世を願うため主に武家を中心として始まったといわれる。川魚であるコイをネタにしたスシブレーダーとは以前戦ったことがあるが、そちらが切り身であったのに対して、"鯉のぼり"はまるまる一尾を使用したものだ。やはり目玉である1番上の真鯉をそのまま使うのが、威力・追加効果・風流、どれをとっても理想的と言えるだろう。
スシブレード運用
攻撃力
防御力
サイズ
操作性
重量
片付けの手間
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普段浮かんだものを見上げているとあまり気づきにくいが、いざ地面に出してみると鯉のぼりというものはかなり大きい。戸建て用の標準サイズでも3m、世界最大の鯉のぼりとしてギネス世界記録に登録されている加須の鯉のぼりは全長100メートル、重さとして約350キログラムを誇る。風向きが合えば、空洞部に空気が入ってさらに大きくなり、相手の寿司をボヨンと跳ね返す弾力性も獲得することができる。その他、このサイズ感は重要な戦略として機能していくのだが、それについては後述しよう。
欠点となるのは操作性だろう。大型のため他の寿司よりも重くはあるが、何せ体積がそれ以上に大きいため、風に煽られやすい。先述の弾力性も、風を味方につけなければこちら側が凹まされてしまう。
巨大なジンベエザメ型の寿司として知られる"ウルトライドジンベー"のように、シャリ自体を大きくして安定感を底上げするという作戦も取ることができるが、"生ハム寿司"の戦術でもみられる薄くヒラヒラとした部位での受け流し性能を期待するべく、操作性のラフさにはある程度目を瞑って通常サイズのシャリを採用している。
つまりは、こうである。

総じて攻める時も守る時も、風の動きを読み、逐一コントロールを変えるという技能が必要だ。しかしそれを克服すれば、攻守に優れた寿司と化す。さらにうまく風の揚力を利用すれば、空中に浮上し、地上の相手を一方的に攻撃することも可能となる。鯉のぼりを扱うならぜひとも訓練しておきたい技だ。
他の利用法
端午の節句当日に鯉のぼりが飾られているのは壮観だが、それを過ぎても鯉のぼりを突っ立てている家はちょっとマヌケに見えてくる1。早めに仕舞おう。
エピソード
さる2026年5月5日、こどもの日恒例「おこさまやみずしコンテスト」が開かれた。スシブレードを始めたての子供を親が手助けすることで、親子の親睦を深めるとともに、未来のブレーダーを育成することを目的とした大会だ。"鯉のぼり"はこの大会での運用を想定して開発した寿司である。
闇親方謹製のポップな告知チラシ。
しかしながら、私は単に優勝商品の「親子お揃い! なりきり闇寿司ペアルック」目当てで参加したのではない2。それよりも、私にはある崇高な目的があった。
昨今、闇寿司構成員同士の間で新たな関係が芽生える例が急増している。親友となったりカップルが成立したり、果ては家族となったりと形は色々だが、ともかく距離が急速に接近しているのは事実だ。孤独に闇寿司の道を切り拓いたはずの闇親方自身でさえ、このコンテストに限らず、「銘柄対抗OCOCome最強決定戦」「闇堕チームコンテスト 〜我らはシャリを形作る酢飯のかけら、米の一粒〜」等々、集団間の馴れ合いがスシの強さに繋がるとでもいうようなコンテストを計画している。強さのためなら家族も捨てるという意気込みはどこへやら、だ。
夫婦だの子供だのと言った雑念は強いブレーダーには不要ではなかったのか? 「寿司ばっか回してる俺たちスシオタなんて、一生恋人できないよな〜」などと談笑していたかつての仲間たちは、私を裏切ったのだろうか?
友情、愛情、絆……特定の二者間の関係性という変数が寿司の強さに影響するなぞ、私には到底信じがたい。我々闇寿司は"正統派のスシ"という下らない枠組みを一掃することで強い力を得てきた。しかしながら、未だスシブレーダーは「絆」という下らない枠組みに囚われ続けている。私はこの腐敗した環境に一石を投じるため、あえてこの大会に参加することにした。
もちろん私には妻はいないし、子供もいない。通常であれば参加資格を満たさないわけだ。コンテストの併設でお見合い企画でも開いてくれれば、来年に向けての希望が見えるというものだが、こどもの日だからか、あくまでもおひとり様お断りの姿勢を崩さないつもりらしい。しかしこの大会のルールには穴がある。血のつながっていない子供……つまり、養子との出場も可とあったのだ。
私は近所の児童養護施設から子供──拾ってからは「十太じゅうた」という名をつけた──を一人、この子の父親になりたいのだ、などと嘯いて攫い、強さのみを追い求めるように育て上げた(以後、「ガキ」と表記。闇寿司に名前など不要なのだ)。ガキは推定4歳。施設の奴らも出自は把握していないらしく、ある日施設を開けようとしたとき、その前に佇んでいたそうだ。
外から見れば、私とガキはただの闇寿司ファミリーにしか見えないだろう、しかし私がガキと一緒にいたのはせいぜい数ヶ月かそこらだ。コイで偽りの家族、というとニゴイ3を想像するが、我々はいわばニゴイ・ファミリー。"本物"の家族とやらを下して優勝した暁には、我々の真相を高らかに宣言し、日頃持て囃している親子の絆とやらが、本当の強さの前に跪く姿を見せてやろうと思う。
一見すると子ども思いの寿司チョイスに見える"鯉のぼり"にも、もちろん裏がある。鯉のぼりは通常、真鯉、緋鯉、青鯉の3種が含まれるが、これは父親、母親、子供を表すそうだ4。一方で、私の回す"鯉のぼり"は真鯉……つまり大人の鯉がたった1匹だ。こどもの日を祝い、子の成長を願うものと思わせて、その裏、妻子をも顧みず孤独に戦うのが一番強いのだという私の信念をまさに体現した寿司なのだ。
ガキには同じ端午の節句の縁起物である"かしわもち"でも持たせておけば良いだろう。丸く程よい大きさであり、ガキの大好物であるため手にも馴染んでいる。ブレーダー歴数ヶ月のガキの手腕でも、せいぜい私が攻撃する間ぐらいは回ってくれるだろう。
試合はトーナメント制。一回戦、我々は鯉のぼりとかしわもちを備え、さも本物の家族であるようにフィールドに上がる。対して相手は似たような顔の父と息子だ。一端の闇寿司使いが休日暇してるサラリーマンみたいな格好をしやがって、と内心で思いながら、合図に従い寿司を構えて──
「「「「3!2!1! へいらっしゃい!!」」」」
実況: さあ双方とも寿司を盤上に叩きつけた! 十太くんとそのパパはかしわもちと鯉のぼり、こどもの日コンビです。対して新二くんと新二くんパパは……ゲームのコントローラー? でしょうか。スティックがグルグルと回っています。
解説: レバガチャも実質寿司ですからね〜。
相手が出してきたネタは"ニンテンドーSwitch2専用JoyCon"。親の方はJoyCon2-R、息子はJoyCon2-Lというお裾分けプレイときた5。盤上に出た途端、JoyCon2は互いの磁石部分を近づけ、反発で一気に加速する。互いの磁力を活かした2人ならではのプレー、この親子はよほど息のあった仲なのだろう。
しかし、双方向から迫り来るJoyConを尻目に、私は鯉のぼりの進路を全く違う場所に──相手のガキの方向へと定めた。相手のガキに、"鯉のぼり"の体が迫る。ギョロリとした目、そして風の力で開けられた口がガキの目の前でどんどんと大きくなる……
相手のガキ: うっ……
相手のガキ: うわああああああん!!!
そう、ガキにとって、近くで見る鯉のぼりは「怖い」のだ。特に戸建ての少なくなった現在、家に鯉のぼり自体を掲げない家庭も多いだろう。リアルサイズの鯉のぼりというのは今のガキには案外親しみがないのだ。一方で、昨今のJホラーブームにより、"和風のもの=なんか怖い"という認識は多くのガキの中で醸成されている6。風に乗ってビラビラと不規則に動く挙動や、先述したように地上で見るとかなりの大きさをもつ鯉のぼりが近づいてくることは、ガキにとっては見慣れない、何か大きくて怖い物体が襲ってくる……まるでテレビから飛び出してくる貞子と同じような恐怖を与えうるのだ。これで相手のガキを泣かせ、戦闘不能にすることで、まず一勝を挙げる。
そして、親の方はというと……
実況: あーーっと! 新二くん泣き出してしまった! Joy-Con2も失速し停止!
相手: 新二! だっ、大丈夫か──
私: 寿司から目を離したな。隙あり!!
実況: その隙に十太くんパパがJoy-Conに攻撃! こちらのJoyCon2も吹っ飛んだ!
親: なっ、しまった……!
自身の子供が泣いているという事実に動揺し、一瞬だがそちらに気を"回す"ことになった親。その分回転力の引き抜かれた相手のJoy-Conは、密度では格段に劣るはずの鯉のぼりに、いとも容易く吹っ飛ばされて場外へ転落した。
私: 貴様らの寿司は全て場外行き……勝負あり、だな。
相手: お、お前、卑怯な手を使いやがって! しかも、子供の成長を願うはずの鯉のぼりで子供を脅かすなんて……自分の子供の前で、そんなことがよくできるな!
私: 忘れたのか? 俺たち闇寿司使いは、強さの為なら何でもする。ガキを利用された程度で沈むブレーダーなど、魚のウロコ取りにもならん……
これが私の戦略だ。「おこさまやみずしコンテスト」なんて試合にわざわざ子供を連れてやってきた親だ、手塩にかけて育てた子供が泣いている姿に動揺しないはずもない。他人に目をかけたせいで隙を見せ、破滅する。涙ながらにJoy-Con2を噛み締める7親子の負け姿を観客の目に焼き付けることで、他人への情がいかに弱さに繋がるかがさらに効果的に伝わるだろう。
次の試合相手は"セブンティーンアイス"と"ハンディファン"。"ハンディファン"は回し続けると過熱によってへばってしまうはずだが、"セブンティーンアイス"の冷気で帳消しにする作戦らしい。風属性の寿司は鯉のぼりの天敵と言えるカードであったため、かねてから警戒していたが、当日の豊洲は25℃の夏日、よく見ると親のハンディファンは常に暑そうな顔をしたガキの方を向いている。いざ法則を発見してしまえば、私の戦術にとってはメリットしかない。
親が起こした風に乗って、徐々に加速する鯉のぼりはさぞ恐ろしかっただろう、相手のアイスは暴走して壁に突き刺さり、冷却源を失ったハンディファンはリチウムイオン電池がショートして爆散! 戦いに使うはずの寿司をガキのために使ったこと、そして地下闘技城ホールのエアコンが耐用年数ギリギリの10年物だったことが奴の運の尽きだ。
その次の試合、相手のガキの操る"ミニカリカリポテト"は一見すると普通のポテトであったが……
私: 3!2!1! へいらっしゃ──
ミニカリカリポテト cv.花江夏樹8: まもなく出撃します。お取り忘れにご注意ください!
ガキ: え!? 何!!??
そう、音声認識の最新寿司AIが搭載されていたのだ(AIの音声に本職の声優を使ったのは意味がわからないが、おおかた子供が喜ぶとかそう言った理由だろう。現にガキははしゃいでいた)。AIの演算による正確な軌道で、刀のように振るわれるポテト。まさに未来のスシブレードだ。
しかし、寿司の性能がどうであろうと、使い手がガキなら倒し方は変わりない。いざ相手のガキが泣き出すと、コントロールを失った精密AIは全方位にカリカリポテトを乱射し、一部は母親の使う"マグロの竜田揚げ"にも刺さっていた。運よく"鯉のぼり"の影にいたおかげで被弾を免れたガキ共々、こちらの寿司はほぼ無傷のまま、相手を倒すことができたわけだ。
……と、こんな風に、私の"鯉のぼり"は順調にトーナメントを勝ち登り、ついには決勝戦まで進出した。
決勝戦、相対するは、今までのガキと違うオーラを醸し出すガキ。親の方も、まさに歴戦といった風貌だ。仮にもここまで勝ち上がってきた相手、泣かせるのには手間がかかりそうだ──
「「「「3!2!1! へいらっしゃい!!」」」」
実況: さあ、双方の寿司が回り始めました。鯉のぼりとかしわもちに対するのは、カレーと福神漬。カレー大好き若葉くんを、若葉くんパパが補助するというフォーメーションです。
解説: 若葉くんパパが裏に"回っている"と言うわけですね〜。
実況: カレーは昨日、家族で一緒に作ったそうです。仕事で海外へと赴任している若葉くんママも、カレーのシャリをリモート炊飯で炊いてくれたとか── あーっと早速"鯉のぼり"が向きを変えた! 若葉くんへ一心に向かっていきます!
相手: ……貴様の戦術、見ていたぞ。まさか、こどもの日当日の大会で、子供目掛けて精神攻撃を仕掛ける奴がいるとはな。
私: 私を責めるつもりか? 真の闇寿司使いは、勝つためには手段を選ばない。それを知らないとは言わせないぞ。
相手: ケチをつけるわけじゃない。相手の急所を"握る"ことも、本質的には寿司だからな。だがそれだけで若葉……いや、俺たち家族を倒せると思ったら、大間違いだ。
相手はしのごの言っているが、相手のガキの泣き面を見ればビビっているのは一目瞭然。このまま押せば行ける、そう確信した私は"鯉のぼり"をさらに進めた。相手のガキの頬から、一滴の涙が地面に落ちる。その瞬間──
実況: おーーっと! 若葉くんのカレーが盛大に放出されました! すごい勢いです! カレーの流れが十太くんパパの鯉のぼりに直撃だーーっ!!
私: なっ、なんだこのカレー! あんな小さなカレーから出たルウが、一瞬でフィールドを染め上げただと!?
突然、相手の皿からとてつもない量のカレーが吹き出してきたのだ。フィールドは一転、ガラムマサラの香りが漂う。"鯉のぼり"も流れに飲まれて、一気に体勢を崩す。
相手: 貴様は若葉の戦意を喪失させるために感情を揺さぶった。しかし、カレーの放出量というのは精神の揺らぎ、回し手の気持ちの高まりに共鳴する。使い手の気持ちを昂らせる貴様の戦術では、カレーの威力を増やすだけだ。
私: 精神の揺らぎ? たかがカレーに、そんなものを読む力など……
相手のガキ: ただのカレーじゃないぜ。お父さんとお母さん、それに僕が一生懸命作った、世界に一つだけの特注品だからな!
相手: 俺たち親の想いだけじゃない──若葉自身の、戦いへ向ける感情が、まさに、なみなみ貯め込まれた代物だ。最も、場外戦術ばかり考えてろくに我々の寿司を見なかった貴様には、気づかなかったみたいだがな……
相手のガキの寿司をよく見ると、カレーのシャリに相手の"福神漬"が刺さっている。刺さった部分は管を形成して、そこから放物線状にカレーが降り注いでいたのだ。……そういえば、盤上に叩きつけられる前、カレーの米に違和感があった。些細なことと思って気に留めていなかったが、あふれんばかりのルウを母親の愛が支えるとでも言うかのように、米は皿の真ん中に、まさに堤防のように固められていたのだ……!
私: まさか、このカレーは……!
相手のガキ: 俺の恐怖も、願いも、ルウに乗せて全部押し出してやる! "ダムカレー"! 今こそ、僕らの思いを吹き出すんだ!
私: なッ、 何だとォォオオオ!
ダムカレー。深底の皿に貯められたカレーと、土手のように硬く整形されたライスを特徴とする。
"ダムカレー"はカレーの派生として見られる形態の一つで、ライスを崩してダムを壊しつつ食べるという、冷静に考えて不謹慎な食べ方を特徴とする。寿司として見れば通常のカレーより底が深く容量が多い上に、硬いライスにより噴出ポイントが一点に固定されるため、通常のカレーよりも大量・高圧な放出を可能としているのだろう。しかし、今のカレーの勢いはそれだけでは説明できない……ガキの激情に呼応するかのように、その放出は滝のように強くなっていく。
これでは目玉などの柄がカレーで隠れ、ガキ威嚇効果はダダ下がりだ。さらに、鯉のぼり自体もベチャベチャになり、今にも回転数が落ちていっている。万事休す──と思った時、ガキの叫び声が会場に響いた。相手の方ではない。叫び声の主は、こちら側のガキ……十太だった。
ガキ: お父さーーん! 負けるなーーーーー!
叫びに続いて、盤上の「かしわもち」が鯉のぼりの尾鰭めがけて突進する。そして、次の瞬間、その姿は消えてしまったのだ。
実況: 消えた!? 十太くんのかしわもちが、一瞬で消えてしまいました!
解説: これには十太くんパパも唖然としています! 寿司を動かす手が止まっています。
私: はっ! こ、この私がガキのために隙を! このままだと流される──
解説: が、"鯉のぼり"は依然動いていますよ。これはどうなっているんでしょうか!?
実況: 見てください! かしわもちです! 十太くんのかしわもちが鯉のぼりを内側から巧みに操作し、体勢をなんとか立て直しています!
鯉のぼりのお腹あたりがモゾモゾ動いている……そう、ガキはかしわもちを鯉のぼりの中に潜らせたのだ! 押し寄せる滝の中を「泳ぐ」ことで空中に浮かせ、滝の影響から逃れる作戦らしい。ガキには鯉のぼりの操作など教えていなかったはずだが、門前のガキ習わぬ寿司を回すというべきか、その動かし方は、まさに私の鯉の扱いとピタリ一致していた。
私も突っ立っているわけにはいかない。私は直接"鯉のぼり"を操作し、ガキの動きに合わせて体をくねらせた。柄が汚れて相手のガキを驚かすことが難しくなった今、私の勝ち筋は風……もといカレーを利用して鯉のぼりを空中に浮かせ、空中から相手を攻撃することだけだ!
ガキ: 僕のかしわもちとお父さんの鯉のぼりが合わされば、滝だろうがダムだろうが、登り切ってやる!
相手のガキ: こっちだって! お父さんの福神漬けと母さんの米が作り出したダムカレーだ! この戦い、負けないぞ!
相手: 本当の親の絆というものを、貴様に知らしめてやる! くらえぇえっ!
私: 絆とやらを信じているお前ら如きに、俺たちが負けるか!!
私はガキみたく叫んだ。この瞬間の私にとっては、1人で戦うなんて思想はどうでも良かった。ただ目の前の滝を登り切ること、そして相手に勝利することのみを願っていた。その思いはガキも同じ……私の"鯉のぼり"が作った揺れは、ガキの"かしわもち"によって増幅され、カレーを上り切るパワーとなる。そして、鯉のぼりの推進力が最大まで達した時、ガキは盤上に飛び込み声を上げた!
ガキ: 登り切って輝け! 鯉の滝登りライジング・カープ!!
ガキが叫んだ瞬間、激しい風が吹いて鯉のぼりが大きくはためく。視界が白い布で遮られる──
目を開けると、"鯉のぼり"の姿はどこにもない。その代わり、大きな竜が盤上を飛んでいる。竜の上には、ガキ……十太が乗っていた。
ガキ: お父さーーーーーーーん!!
私: ど、どうしたんだ、その竜。鯉のぼりはどこ行ったんだ!?
ガキ: 鯉のぼりが変わって、この竜になったんだ!
実況: なんという展開でしょう! 十太くんが突然出現した竜──鯉のぼりが変化したものでしょうか──を操っています!
鯉を捕まえる金太郎。
滝を登った鯉が竜になる、という伝説がある。滝のようなカレーの波状攻撃という登竜門を登りきった私の"鯉のぼり"と伝説が呼応し、鯉のぼりを竜へと変化させたのだろうか? ガキは、竜に怯えることも、竜を暴走させることもなく、ツノを握って竜の動きを御していた。
金太郎が自分より大きい鯉を捕まえたという逸話から、一部の鯉のぼりには、真鯉に赤い裸の男の子がしがみついている柄のものがあるが、竜にしがみついて自由自在にそれを操るガキの姿は、まさに鯉を捉える金太郎そっくりであった。──といっても、ガキが乗っているのは鯉ではなく、それが変化した竜であるわけだが。
ガキが竜の首を軽く叩いて何か話しかける。竜は少し頷いたのち、ホール全体をぐるりと回って、まっすぐカレーに突っ込もうとした。しかし相手もタダでは倒れない。ダムカレーの前に、巨大なダムの壁のような幻像が出現したのだ!
相手のガキ: ライス・バリア発動! ダムカレーを守るんだ!
私: 何!? カレーの放出だけでなく、こんなデカい奥の手を用意していたとは……!
相手: "ダムカレー"の真髄は防御にある! 竜に変化したお前の寿司が、俺たちの作った最強の防壁ダムを破れるかな?
ガキ: 僕らの竜なら、どんな壁でも打ち破れる! いっけーーー!!
どうやら、この幻像は"ダムカレー"の米一粒一粒が出したバリアとのことらしい。原理はよくわからないが、ガキの母親の"リモート炊飯"周りの何かがどうにかしているのだろう。もしこれが実際のダムに並ぶ防御だったら、元々の"鯉のぼり"どころか、ここに参戦したどの寿司も太刀打ちできなかったはずだ。
しかし、水を司る竜に人間の作ったダムは敵わない。竜がひとたびバリアに向かって頭突きすると、まるでダムが決壊するかの如く幻像は崩れ、ダムカレーは遥か遠くに吹き飛ばされたのであった。
実況: 十太くんの龍の攻撃で、ダムカレーがバリアごと決壊したーーーーっ! ……しかし、これはルール的に大丈夫なんでしょうか? なんらかの寿司で相手の寿司を倒せば技ありとはなりますが、鯉のぼりが竜に変化したのを直接見ていない以上、たまたまそこら辺を泳いでいた竜に十太くんが乗っただけ、という可能性もありますよ。
解説: 竜は宝珠を"握っ"て、竜巻を"回す"と言う伝承がありますからね。こりゃあもう、寿司でいいでしょう!
崩れ落ちる相手を横にして、私はガキを見上げる。
ガキ: ね、お父さん! 僕もっと強くなるよ! いろんなところに行って、いっぱいスシブレードで戦うんだ。
私: ど、どうしたんだいきなり。1人でどこかに行くなんて……その、危ないだろ。
ガキ: だって今日、お父さんばっかり相手の寿司倒してたから。僕ももっと倒せるようにならなきゃだよ。
私: べ、別にそこまでする必要は……
ガキ: 「闇寿司は強さのためなら家族からも離れる」でしょ? 大丈夫だって。また強くなって、戻ってくるから!
私: ……そうか。元気でな。
そして、ガキは私の"鯉のぼり"……もとい、"登り竜"とともに、どこか遠くへと飛んでいった……
というわけで、私たちの「おこさまやみずしコンテスト」は途中棄権となった。相手の寿司こそ倒したのだが、その前に寿司がフィールドから離れており、そのまま消えてしまったせいで技ありとはならなかったのだ9。
さらに、"登り竜"に乗ったガキが私に話しかけてきたくだりを「親子の固い絆でスシを覚醒させた」と闇親方が勘違いしたせいで、特別賞である「なかよし闇ファミリー賞」を受賞する羽目になり、結果として本来の目的であった、寿司を回すのに絆は不要だと宣言することも失敗に終わってしまった。あのガキには強さのみを追い求めるように教え込んだはずだが、私の育て方が悪かったために、思い通りの結果を出せなかったのは反省点だ10。
今でも、強さを追い求める上で、他人との関係性など不要だと思っている。一度でも他人との関係から強さを得れば、いつか必ず自分の弱さをその人に仮託してしまう瞬間が来るからだ。しかし、あの時滝を登った鯉のぼりが竜になったこと、あの子が竜を自由に扱ったことについては、ガキの実力や滝登りの伝承等々考えられるが、完璧に納得のいく説明は思いついていない。ひょっとしたら、他人との関係が実際に寿司を強くすることもあるのかもしれない──「おこさまやみずしコンテスト」も、闇親方がそれを検証するべく、開催したコンテストなのだ……というのは邪推が過ぎるだろうか──。闇寿司は強さのみを追い求める。もし本当に絆が寿司を強くするのだとしたら、私は喜んで絆の力を信じようと思う。
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闇寿司ファイルNo.130 "ギャラドス"
凶暴なポケモンだが、相手の周りの水を回す技"うずしお"を覚えるため論理的11には寿司にすることが可能だ。場に出した時相手の攻撃が下がる効果もうれしい。
闇寿司ファイルNo.044-6-D "パンジャンドラム"
最近開発者である"スシの英国卿"K・J・ローリング氏から、鯉のぼりの先端についてるアレ12とパンジャンドラムとの形態的類似性を熱弁された。擁護し難い操作性の悪さから、寿司としての運用はその場で却下している。
追記
ファイルが投稿されて以降、複数のブレーダーから「空に竜が浮かんでいた」「子供が何かに乗って空を飛んでいた」等の目撃情報が寄せられている。
次回の戦いのため新しくガキを拾ってくるのは億劫だ。もしこれを読んでいる者の中で、竜に乗ったガキのブレーダーを見かけることがあったら私まで連絡されたし。なお、ガキとはいえ強さは折り紙付きだ。スシブレードを挑んで連れ戻そうとする際は、返り討ちされぬよう、せいぜい気をつけることだ。
文責: 比企名びぎな 十三じゅうぞう



