私の部屋のちゃんこ鍋。
概論
"横綱の廻し"は私、父公ちゃんこ包丁のアリマが回すちゃんこ鍋だ。
力士の体格を作り上げるための鍋であり、かなり栄養バランスが考えられている。私は元々在籍していた部屋のレシピを参考に作っているが、部屋によって味が大きく異なることも珍しくなく、ちゃんこ鍋と一口に行ってもバリエーションに富んでいることも特徴だ。
スシブレード運用
ラーメンがスシブレードの中でもトップクラスに強力な物であることは言うまでもないが、理由としてその重量による荒々しさや、スープや器の滑らかさによるテクニカルさを兼ね備えていることが挙げられる。その方向性で開発・研究が重ねられているネタが、鍋物スシブレードだ。
鍋物はラーメンと同等、もしくはそれ以上の重量が期待できる他、具材のカスタマイズ性も魅力の一つとして挙げられるだろう。例えば、闇寿司韓国本店に在籍するあるスシブレーダーはチゲを鍋物スシブレードとして使用しており、スニーク氏開発のシビカララーメンと同等の効果を鍋物に付与している。しかし、重量を上げれば上げるほど操作性が低下する問題から、特殊な鍋物は軽量化を意識せざるを得ない状況となっており、本末転倒である。1
攻撃力
防御力
機動力
持久力
重量
操作性
{$label7}
{$label8}
{$label9}
{$label10}
そこで、解決策を模索した結果が、「自らのパワーも鍛えることで、スシブレードに見合う自分になる」という方法だった。元々が力士だった私は少しのブランクを調節し、ついに鍋物の操作性向上に成功、今では鍋物の中でも重量の大きいちゃんこ鍋を扱っている。
このグラフは、一般の鍋使いによるちゃんこ鍋のステータス(赤)と私によるちゃんこ鍋のステータス(青)である。欠点である操作性、機動力の底上げがされており、元々高めだった攻撃力にも向上が見られることがお分かりであろう。全体的なグラフの外形として円状に近いものとなっており、バランスの取れたスシブレードとして運用が可能となっている。
ただし、バランスの取れたものとなる代わりに、特化型のスシブレードに弱い傾向がある。そうでなくとも、テクニック分を能力で埋めることが困難なスシブレードであるため、熟練したスシブレーダーを相手取る際には劣勢のまま抜け出せず押されて負けることのないように気をつける必要があるだろう。
他の活用法
単純に体づくりのために摂取することも可能である。私は毎日ちゃんこ鍋をいつものレシピで作り、弟子と一緒に食べることを日課としている。現在、ちゃんこ鍋を扱える弟子は現れてはいない。しかし、必ず私を超える闇寿司力士は現れるだろう。それまではちゃんこ鍋を作り続けたい。逃げ出してしまったあの部屋の、親方の好きだった味を。
エピソード
私は闇寿司力士という勢力を率いているため、必然的に闇寿司内での勢力争いに巻き込まれることが多い。これはその中で特に印象に残っているエピソードの一つだ。
その時はちょうど夏が終わり、涼しくなってきた頃のことだった。私は朝回す用に仕込んだちゃんこ鍋と共にトレーニングをした帰り道を歩いていた。既に月が登っている。満月だった。
すると、前から中華服を着た男が歩いてきた。服の上からも厳しく鍛えたであろう筋肉が見て取れる。彼が取り出したのは木の台に白い球が数個。空は満月。ショーシャンク氏が開発した月見団子だ。こちらも蓋を素早く相手に投げつけながらおたまと菜箸で鍋を挟む。
私・男: 3、2、1、へいらっしゃい!
月見団子は満月、特に十五夜に力を増す。と言ってもその重量、攻撃力は低い。私は月見団子がヒットアンドアウェイで少しずつ削っていく作戦だと推測した。ならばこちらはいつも通り攻め続ける。そう思った次の瞬間だ。
パリン。
先ほど男に投げた蓋が空中で割れた、粉々に。スシブレードではない、一般的な物体であるとはいえ簡単に割ることのできるものではない。そして、月見団子に目をやると、私の予想に反して真っ直ぐにこちらへ突進してきていた。
火花が散る。衝撃音と共に両者は大きく円を描くように離れる。重量が十分にならないと成らない軌道だ。
私: 重く硬い月見団子……?
中華の男: その通りです。この月見団子は普通のものとは違う。
私: 月見団子を改造したというわけか……
先ほどの蓋も団子の一つを高速で飛ばすことによって破壊したのだろう。迂闊だった。自分がカスタマイズ性の高いネタを使用していたというのに相手はしてこないと思い切っていたのだ。
男はこう言い放った。
中華の男: 逆ですよ。特殊な素材、それも月見団子に縁の深い材料を使っています。
私: 縁の深い材料……まさか!?
私は秋空を見上げた。輝く真円が高速回転する月見団子のそれと重なる。
私: 月の石……!月の石を月見団子にして回しているのか!
中華の男: 正解。風流でしょう?
中華の男: 私がより強い寿司を求めて、料理の研究会に所属しているときにです、食べさせてもらったことがあったんですよ。それ以降は月の石の研究を、最強の重量を持つ食材を扱ってきたという訳だよ。
私: つまりちゃんこ鍋と互角の重量、いやそれ以上と言うわけか。
中華の男: 名乗り忘れていましたね。ヤミ・マスターが一人、森 武克! 行け、月見団子!押しつぶせ!
5周目。月見団子とちゃんこ鍋が互いを押す。火花を散らしながら回転し続け、後は攻撃力の勝負となる。両者は一見均衡しているように見えるが、ほんの少しの差で月見団子が押し出した。このままだと先に勢いを落とすのはちゃんこ鍋だろう。
ちゃんこ鍋が必死に回転し続ける。火花を散らし、自身より重い相手に立ち向かい。だが、私は離れた場所で操作しているだけだ。このまま負けてるところを見てるだけなのか?今まで鍛えてきた努力は?ちゃんこ鍋で育てた身体は?何故今も廻しを履いているんだ?私は服を脱ぎ捨てから、廻し一丁で両者がつけた回転の跡に足を踏み入れ、ちゃんこ鍋の前に立つ。
体重200kg弱。力士の一発はプロボクサーのそれを超える。私は月に向かって打ち込み続けた。
人間がスシブレードに直接参加しない理由。それは圧倒的な威力の差だった。人間では超えられない壁、回転のエネルギー。でも、今回だけは微力でも、ちゃんこ鍋を助ける側に回りたい。今までは助けてもらったんだから。
今にも吹き飛ばされそうな圧力に向かって張り手、張り手、張り手。わずかな差が埋まり始める。現役時代、逃げ出した強敵より体感は重い。だけども手応えを感じる。団子の隙間と隙間、台の亀裂、一気に畳み掛けていく。
次の瞬間、星を"押し出した"。いや、この感触は、月見団子が砕けたのだ。火花を散らしていた鉄の塊は一気に散らばり、私の肌を刺す。しかしその時は痛みを忘れて、ただ漠然と勝利を感じることしかできなかった。愛用の鍋を見てみればこちらも細かいヒビがいくつか入っている。もう少し続けていたら、割れるのは避けられなかっただろう。帰ったらいい職人に直してもらわないとな、そんなことを思いながら私は男に向き合った。
煙が晴れてからの相手の顔は忘れられない。笑みにも似た諦め顔、驚愕に目を見開かせ、最後には絶叫と共に恐怖の表情。その瞬間相手は恐ろしい何かを見たかのように逃げ出した。
こうしてなんとか勝利したわけではあるが、ほどなくしてある意味で私の方が負けてしまっていることに気がついてしまった。
不浄負け。2運悪く砕けた月見団子が廻しを切ってしまったようだ。
急に全裸になった変態を目撃したのは、逃げ出すのに十分な理由だろう。
関連資料
闇寿司ファイルNo.1040 "酢飯おじや"
敗北した寿司を鍋に投入して作るおじや。戦闘の終盤になるほど重量が増していく性質を持ち、集団戦に長けた戦法の一つである。食べる段階になってから投入するのは温くなるのでやめてほしい。
闇寿司ファイルNo.882 "バーバリー"
実運用する気はないが、脱衣による精神攻撃の先例がないか一応調べた時に見つけた例だ。正直引く。しかし、バーバリー使いの一人者、渡邊 一郎本人による現リビジョンには基礎戦法、応用技法だけでなく、四包丁執筆のものと引けを取らない個性的なエピソードが記載されており、読み物としてはかなり面白い。特に同タイプのブレーダーとの辻廻し勝負の末に渡邊氏が弟子を取る第6章はつい一気読みしてしまった。
全ジャンル寿司ネタ最強議論スレ
スシブレーダーによってPAMWACに建てられた最強の寿司ネタを考察するスレだ。匿名で正道、邪道を問わずに議論できる貴重な場ではあるが、荒らされやすい。
世界最強の国技 SUMOU
恥ずかしながら小学生まではこれを本物として見ていた。憧れて入った中学相撲部で現実を知ったわけだが、まさか今になって月を砕くとは思わなかった。
文責: 父公ちゃんこ包丁のアリマ