初めに
このファイルは執筆者である私こと御蓮寺恋治がボコボコにされた際に相手が使っていた未知の寿司を考察、分析したものをまとめた「下書き」であることに留意してほしい。というのも現在私は今Sortation, Utilization, Maintaining and Energizing Committee of the Invincibles (SUME-CI)1から何回目かの破門を受けている2。こんな状況になるとただでさえ窮地に陥ったあの御蓮寺恋治にとどめを刺そうと群がる無所属のハイエナに加えて、「もう2度と破門できない体にしてやろうか」と言わんばかりの委員会からの刺客もあしらわなければいけない毎日、そこに突如現れた無名のスシブレーダーに敗北を叩きつけられた。そのため自分への怒りと戒めを込めて闇寿司ファイルのフォーマットを破門した腹いせも込めてメモ帳代わりに 使い自分が闇のスシブレーダーであるという心構えを忘れずにいるというわけだ。
概論
前置きはここまでにして寿司の分析に入ろう。今回相手が使ってきた寿司はイナゴの握りである。字面にすると相当にインパクトがあるが日本にも佃煮などにして食用にする地域が現代にも存在するという3。問題はそのイナゴが調理どころか生きたまま握られているということである。
スシブレードで使用する寿司は例え兵器だろうがオカルトだろうがブラックホールだろうが「握る」という行為を行わなくてはいけない。最近ではドクター・トラヤーをはじめとした寿司研究部門によって「創造する」という行為に代替される寿司も増加傾向にあるが、それでもそのネタに合った酢飯作り、職人や技術者としての握りの技量、そして何よりネタを主人に従わせる威厳がスシブレーダーには不可欠だ。それ故に生きている状態のネタを寿司にするのはスシブレード史に観測されている例は10にも満たない。要するに「モンスターボールはゲージを赤にして眠り状態にしてから投げようね」ということだ。サファリゾーンで運良くラッキーを見つけても弱らせずに捕まえるには更に運がいる、そういうことだ4。
スシブレード運用(予想)
破壊力
防御力
回転力
スタミナ
攻撃範囲
重さ
初見殺し
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私が分析した限りこの寿司の攻撃方法はイナゴの体内から多くの子イナゴを出産し、相手の寿司を喰らい尽くすということだ。まさしくこの世のありとあらゆる法則性を無視した悪魔の如き寿司だが、高速回転しながらシャリの上で行われるイナゴの出産シーンは涙を禁じえない5。
だが恐ろしいことにこの寿司、私の予想が正しければ子イナゴが食べた寿司の質量に比例してスタミナと重量が増加する。子イナゴがこちらの寿司を食べるとなると当然こちらの寿司は小さくなり、回転速度と重量が少なくなり攻撃力が低下、最悪の場合シャリが分離して自滅もありうる。まさしく攻撃は最大の防御を体現した寿司だろう。唯一の救いは親イナゴが子イナゴを出産するまでに約10秒の猶予があることか。子イナゴが出産されるペースはかなり早いため小イナゴを迎撃する方法はいささか非効率である。よって10秒。それが奴を倒すチャンスのタイムリミットだ。
エピソード
闇寿司の世界は常在戦場。先ほど言ったようにゴロツキや刺客に寝首をかかれないように、必要以上の労力を消費しないため普段の私はあくまで仕掛けてきた輩を迎撃するに留めている。それでもなおスシの暗黒卿打倒を掲げる奴らは多いのだが。しかし例外的に私が積極的に勝負を仕掛ける時期がある。闇寿司からの破門を取り消してもらうには他のスシブレーダーを倒した証である破壊した寿司の残骸を上納しなければいけない6。私はその時だけ「闇寿司」の名に相応しく積極的にスシブレーダーの寿司を壊す。
寿司の残骸が999個になり、私は最後の犠牲者を探そうとその大橋を去ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
???: 先程の戦い、50はいたであろう人数の差をものともせず勝利した。貴様が、少なくともここら一帯では最も強い戦士か?
ふっふっふ驚いた。相手を最強だと認識しておきながらバカ正直に正面から?せっかく私が気づかないほど上手に気配を消していたのに?私の名前と顔を知らないあたりスシブレード初心者か一般人の酔っぱらいかただの馬鹿だろう。私はやれやれといった顔をしながら振り返り声の主を見る。
1人じゃない。複数、5人だ。背丈はバラバラ。全員白いマントかローブのようなものに身を包んでおり、顔は同じく白いガスマスクに覆われている。私に質問した声はよく通る低音の男───多分あいつだ。王冠のような変な被り物をしている。
御蓮寺: 戦士とは、随分と闇のスシブレーダーに似つかわしくない称号ありがとう。あいにく今は全員を相手にする気はしない。そっちで話し合って代表を決めてくれ。
王冠の男: 俺が話しかけたのだ。俺が戦う。この世界における「スシ」の回し方はおおよそ把握した。
話を聞く限り、いや「寿司」の異様なイントネーションを聞く限りどうやら「ボクたち海外から来たので寿司のことゼンゼン分かりマセン〜」というだまし討ちスタイルで来るようだ。そういうしょーもない策を弄する奴が一番弱いと相場が決まっている。そもそも寿司を知らない設定で行くならどうやって戦うというのか。
そう思いZico Type:CurryBread発射の構えを取ると声の主である男は右手を差し出した。私が疑問に思う間もなく男の掌が黒く輝き始め、次の瞬間1匹のイナゴと手のひらサイズの稲穂が現れた。男はそれを左手で包み込む。数秒に渡る再びの輝きの後、男の右手にはしっかりと握られたシャリとその上に行儀よく乗っているイナゴが。左手には謎の言語が書かれた湯呑みと割り箸があった。あんぐりしている私に男が問い掛ける。
王冠の男: 待たせたな、どうやら貴様も準備万端のようだ。開戦の合図は確かこうだったな。3、2、1……へいらっしゃい!
しまった出鼻をくじかれた。そう思ったのも時既に遅し、私のカレーパンはすでに発射していた。しかし今までにない寿司のタイプだ。まずは小手先で様子見か。そう思い1発攻撃を入れる。
王冠の男: 随分と慎重だ。長期決戦が得意なのか我々に畏れを抱いているのか。戦術自体は誤りだが、その畏敬の念は正しい。
言い終わらないうちに相手のイナゴが子イナゴを出産し始める。いや虫なのに卵じゃないんかいというツッコミが言えないほどに私の長年の経験が危険信号を伝えている。この男と、この寿司と対峙することをなぜか体が止めたがっている。思考が恐怖心で霞む。この時点で私の闘争心はほとんど削がれていった。
蝗害が包み紙ごとカレーパンを食いつぶす。中身の「どこからでも切れます」と書かれたプラ袋に入ったワサビもカゴごと喰らう。平行宇宙からの隠し包丁であるアンパンマンリンゴジュースも紙パックごと消滅する。
そんな光景をぼんやり見るしかない、私の頭に無意識にひとつの考えが浮かんだ。
破滅とは、こんなにも美しいものなのかと。
神話の如き光景を目の当たりにして、私の頬につうと一筋の涙が頬を伝った。目の前で仁王立ちしている男は、男の後ろで観戦している男女は神なのではないかと錯覚してしまう。男が「どうした。もう終わりか?」と言っているような気がする。私はその場に崩れ落ちうずくまる。神に相対した恐怖のあらわれ、ではなく数え切れないほどに産まれた子イナゴが顔面の穴という穴に侵入してくるのを防ぐためである。
負けたのか、私が…負け…
その言葉を反芻させながら私は意識を手放そうとする。羽音がうるさい。めのまえが まっくらに なった。急に背後から襟首を捕まれ引きずられている………
目を覚ますと私はベッドに横たわっていた。意識がまだはっきりしないうちに私に質問する声が聞こえる。
ルベトゥス睦美: ヨウ、オ寝坊サン、気分ハドウダ?
御蓮寺: ルベトゥス…それにお前は…「弟の食料品」の…
ウェイター: お久しぶりです。恋治さん。
ルベトゥス睦美: 近クデデカイ騒ギガ起キテルンデ見テミレバ破門サレタハズノオ前ガ倒レテタカラ、ナントカ救出シタッテワケヨ。
ウェイター: お変わりありませんねと言いたかった所なのですが…どうもそういう訳にはいきませんね。
御蓮寺: フッ…そうだよ。今までだったらお前らと悠長に話なんざしない。スシブレーダーなら戦いの中で話し合おうって、すぐさま獲物を構えてたさ。
ルベトゥス睦美: ソウダナ、オ前ハ全国ニ散ラバルスシノ暗黒卿ノ中デモ狂犬扱イサレテル。
御蓮寺: でも…もう駄目なんだ。人は実際に神と破滅の美しさを目の当たりにした時、ただ平伏すしかない。勝てないとかそんな理由じゃない。そもそも逆らってはいけないんだ。俺はもう、寿司を回せない。
ルベトゥス睦美: レンジ…
ウェイター: 恋治さん…
御蓮寺: 悪い、2人とも。スシの暗黒卿の二つ名はお前らに任せ…
言い切らないうちに病室のドアが強く開く。
安達: ふざけんな!!
御蓮寺: …安達?
安達: なんで…なんで俺のヴァギュラポス神話は鼻で笑った癖にたった1回の敗北で神なんか信じてんだよ!!
看護師: お客様、病院内では静かに…!
安達: お前は闇の力が欲しくて闇寿司に入ったんだろうが!それを神は美しいだ!?そんな腑抜けたお前を倒したって、ガリの汁にもなんねえ!
警備員: おい取り押さえろ!こいつを摘み出せ!
安達: 闇の寿司を極めたスシの暗黒卿が信じるのは神様でも自分の相棒でもねえ!自分の力だけだろ!!目を醒ませ!!湯呑みにお湯入れるヤツで手洗って火傷しちまえバーカ!!
屈強な警備員2人に不審者扱いされ腕をガッチリ掴まれながら安達は消えていった。最悪のファーストコンタクトを果たしたルベトゥスとウェイターはただただ困惑するばかり。
ルベトゥス睦美: …何ダッタンダアイツ。スシブレーダートイエド公共施設ノマナーハマモレヨ。
ウェイター: 話を聞く限り恋治さんのお知り合いだった様ですが…
御蓮寺: …2人とも、
2人: 何ダ(です)?
御蓮寺: さっきの弱音、聞かなかったことにしてくれないか。やっぱり俺、今になって急に悔しくなってきたわ。
1度自分の本心を自覚したら、堰を切ったように言葉が溢れ出す。
御蓮寺: そうだ、俺は闇寿司を何度も破門にされた男だぞ。命ある限り何度だって寿司を回し続ける。俺が最強のスシブレーダーだって知らしめるために。俺は破滅の光よりも神の後光よりも、黒い闇の力に魅力を感じてスシの暗黒卿を名乗ったんだ。
御蓮寺: 俺はアイツらにリベンジして、お前ら2人も、安達も、全スシブレーダーを倒してやるよ。
必死になって声を絞り出し強がる俺を見て、2人は呆れたような、しかしその中に安堵を含んだ笑みを浮かべる。
ウェイター: 全く…御友人も貴方も似たもの同士ですね。
ルベトゥス睦美: フッ、ソウイウヤツガ案外侮レナインダゼ。ホラヨ。
そういうとルベトゥスは私に1つのアプリが起動しているスマホとイヤホンを投げ渡す。
御蓮寺: これは?
ウェイター: 恋治さんを救出する際に後ろで突っ立っていた奴らのうちの1人につけました。超小型米粒盗聴器、略してOBNT(オベント)と呼びます。ドクター・トラヤー曰く試作品のテストだから気にしなくていい、恋治くんは面白いアイデア出してくれるからひと段落着いたらまた一緒に面白くて強い寿司を開発したい、だそうです。
御蓮寺: えっ…ママ…?7
ルベトゥス睦美: キモチワリイコト言ッテナイデサッサトイヤホンツケロヨ!
2人に倣ってイヤホンを付ける、少々の雑音に混じって奴の声と…それともう1人、別の男の声が聞こえてきた。
…以上が今回我々が倒した戦士たちだ。最後の一人は逃げられてしまったが相棒の「スシ」を眼前で食い散らかした以上、その精神的ショックからまあ立ち直れまい。
…おい、約束が違うぞ。
たった一粒の米を取り逃しただけでそこまで騒ぐか。仕方がない、少し手間ではあるが追跡を───
そうじゃない!なぜ負けたスシブレーダーたちの両腕を「消失」させた!スシブレードで倒して意識を失わせた後はこちらに任せろと言ったはずだ!
…フン、甘いな。
何…?
「スシ」が異常物品だと勘定に入れるのならそれを創り出す戦士たちも異常だ。なぜわからない?戦士たちのその手は回転する「スシ」を生み出した罪の手だ。どれほど貴様らが記憶を弄くろうとも無意識下で回る「スシ」を握る輩もいるかもしれん。だからこそだ。稲穂を刈り取り、魚を捕らえ、「スシ」を握り、「スシ」を回す。それは罪だ。ならばそれ以上罪を重ねる前に俺が蝗害と共にその原罪を償う。
世界オカルト連合は徹底した破壊を掲げていると聞いて同盟を結んだのに、実態はこの体たらくとは聞いて呆れる。利害の一致以前の問題だったとは。
我々がアノマリーを破壊しているのはあくまで超常的脅威からの人類種維持のためだ。信条に掲げるのはいいが任務にまで嗜虐心や復讐心を持ち込むのは命取りとなる。過度に要注意人物に危害を加えることは冷静さを欠くことを意味する。異常に関連する人物への接触はインタビューや尋問に留めておく。これが我々の方針だ。
貴様らは事後対応でしか動けぬと。事実上の敗北宣言に等しいな。それは。
いいか、もう一度語ってやろう。我々の故郷は3貫の「スシ」によって滅びた。不毛の惑星となった故郷の生き残りとして、我々は独自の時空間跳躍法を会得し、数多の世界の「スシ」の歴史とその使い手たちを滅ぼした。いいだろう、我々は同盟仲間だからな。お前らの要求通りこれからは無傷で戦士たちを渡すことを約束する。だがもう一度「復讐心を持ち込むのは命取り」などと我々の復讐心を無碍にしてみろ。我々が、このアバドン様がこの星を滅ぼす。
…わかった。それとすまなかった。あとはこちらが事後処理と隠蔽を行うからお前らは拠点に戻れ。
了解した。この星の「スシ」を滅ぼした後に別の組織との無益な衝突はできるだけ避けたい。故に「仕方なく」君たちと手を取り合っているのだ。こちらにも譲れぬものがあることを理解して欲しい。諸君、行くぞ。…ああ、そうだ。
何───だアッッッ…!?
我々の諜報によると貴様は連合の中でも穏健派のスタンスを取っているが故に周囲から疎まれているらしいな。それが原因で食い物が回るこんなトンチキな現場に左遷されたと。よほど信用されていないのだろう、貴様の隊服に盗聴器が仕込まれていることも我々は織り込み済みだ。聞こえているか連合よ。たった今貴様らの不甲斐ない部下が「スシ」によって殺された。次はもっとマシな特使を貴様らの言う「こんな現場」に呼んでこい。冷酷で残酷で、殺戮と「スシ」に飢えたやつを、な。
…やはりお前のアルコーン軍艦は返り血やモツが服についてしまうな。いや、不満なわけじゃない。赤が映えるように我々はこの装いを選んだのだから。さあ諸君、一旦アジトに戻って仕切り直しだ。「跳躍」の準備をしろ…
(この会話の直後に何らかの強い衝撃で盗聴器が破壊されたらしく、後は壊れた機械音が聞こえるだけだった。)
関連資料
ヨハネの黙示録
新約聖書の最後の方に記載された予言書。旧約聖書は過去について、新約聖書は未来について書かれており、その中でアバドンは終末を告げる7つのラッパの音色のうち5つ目が鳴り響く時に降臨すると言われている。らしい。表記揺れで別名をアポリュオーン、アポリオンというらしい。私が見た限り敵は5人しかいなかったが、まだまだ自分の名前に神話のモチーフをつけるような色物があいつらの中にいるのかもしれない。気を引き締めておこう。
恋昏崎新聞特集コラム 連合と財団の確執
恋昏崎新聞社が1年ほど前に発行した新聞の切り抜き。財団を目の敵にしている新聞のため、過剰に財団を貶し不自然なほどに世界オカルト連合を持ち上げる内容になっている。情報自体はよく調べ上げられているのだが執筆者の筆がノリにノッたのだろうか、特に最後の方になると連合が財団を成敗するという勧善懲悪ものになっているため資料的価値はあまりない。組織の公的な記録にエピソードを誇張した物語を差し込んだりよくわかんない注釈をいれるのはライターとしてお粗末と言わざるを得ないだろう。
日本生類創研販売カタログ ば-O-097"イナゴデストロイア"
日創研が開発したイナゴというイナゴを殲滅するスプレー…のカタログ。効果範囲や持続期間などに差異がある3タイプが販売されているようで、お客様の感謝の言葉が書かれている。日創研に何かトラウマがあったのかと勘繰るほどに過剰な効果を発揮し、一番高いものになると使用者の脳内からイナゴに関する知識が全て消え、イナゴを認識したり触れたり出来なくするという。最早半分ホラーの域である。
イナゴの佃煮 300g2100円
アマゾンのページ。意外と高価なのはその希少性故か。私は1回画像検索しただけでお腹いっぱいになったにも関わらず、ルベトゥスとウェイターは即注文して病院に配達員を呼び、挙句の果てに入院患者である私の眼前で旨そうに食っていた。何で?最終的に2人は警備員に病院で謎の食べ物を通販する不審者扱いされて強制退出し、食べかけの佃煮はお見舞い品という名目で私の病室に放置された。マジで何で?
文責: 御蓮寺 恋治