闇寿司開発記No.878 "制空権の握り"
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序説

言うまでもなくスシブレードとはスシとスシとがぶつかり合う市場最強のスポーツである。その勝利条件は相手のスシブレードを「スタジアムから押し出す」か、「回転を止める」、もしくは「破壊する」ことのみであり、老若男女あらゆるブレーダーが理解しやすく、単純明快だからこそ誇りをかけて熱くなれるすばらしい競技と言えるであろう1

して、この押し出すという行為。スシブレードが激しく回転している以上は相撲の如くがっぷり四つに組みあって……ということはできない。それよりはむしろ張り手、相手を何らかの方法でスタジアムの外へはじき出すことが肝要となる。闇寿司ではこれまで爆破2や油によるスリップ3、数に物を言わせた連射4であったり、様々な邪道を模索してきたが、これ以上実験で施設を爆破するなと言われたので ここで一度原点に立ち戻り、"重量差により相手を弾き飛ばす"方法を考えてみたい。

まず考えられるのは古典派、"ラーメン"である。器の重さに加え、中に入っているスープが重さをプラスする。水は個体の状態よりも液体である方が密度を増す異常液体5であり、同じ体積でもスープがある方が重さを効率的に増加することができるのだ。しかし、重いスシブレードは"受け流し"戦法に弱いというセオリーはすでに常識となっている。その巨大さを誇る江戸前寿司6が廃れたのもそういう理由で、大トロやカンパチなどの油が多いネタにはその重量のある攻撃を受け流されてしまうのだ。そして大抵その勢いのまま場外にへいらっしゃいされてしまう悲しい結末を迎える7。何とか重量以外の方法でぶつかった威力を増すことができないだろうか……。

そこで私に電流が走った。ニュートンは落ちるリンゴを見て閃き、万有引力を発見したというが、私もその"落ちる"ことに光明を見出したのである。物体が落下する際、位置エネルギーが運動エネルギーへ転換され等加速度運動でその物体のエネルギーは増してゆく。つまりは高い位置からスシブレードを相手にぶつけることで重量だけでなく落下の衝撃を加えてアタックの威力を増すことができるはずだ。空気抵抗を考慮しない場合、落下する寿司のエネルギーは以下の公式によって導き出せる。

(1)
\begin{align} E = mgh = {1\over 2}mv^2 \end{align}
(2)
\begin{align} v = \sqrt{2gh} \end{align}

一般的な回転ずし一貫の重量、23gを代入すると3700m上空から落下させることで約834.5J、つまりダイナマイト一本分の熱量(836.8J)と同等の威力の攻撃をぶつけることが可能となる。またより高い位置、例えば高度10000mから攻撃すればさらなる効果が期待できるだろう……相手が攻撃を察知できないのである。優れたスシブレーダーのスシ覚は軍事用レーダーの探知範囲と同等の感度8をしていると言われているが、レーダー網の警戒さえすり抜ける高高度からの攻撃はその盲点を突くことができる。例えばこんなシチュエーションはどうだろうか。

敵: スシブレードで人を傷つけるなんて……許せねえ!寿司は人に喰らわせる(ダイレクトアタック)ためにあるんじゃねえ、己の誇りをのせてぶつけ合うためにあるんだ!俺とスシブレードで勝負だ!

私: いいだろう。かかってこい、俺の寿司はもう廻っているぞ。

敵: 何い!いったいお前のスシブレードはどこにあるっていうんだ!まさか透明な寿司だとでも!?

私: どこを見ている……上だッ!

(上空から飛来した寿司により、敵のスシが粉砕される)

なんてことも可能だ。やっぱり上空からの奇襲は男のロマンである。一般的なスシブレードは使用者の命令に応じてせいぜい20cmほどを「ピョン」と飛び上がるのが関の山であることを考えると、私の考案したスシブレードがいかに圧倒的なパワーを持つか実感できるだろう。天空を支配し、相手をロックオン。後は予想外の死角から必殺の一撃をお見舞いしてやるだけ……。完璧である。

私はこのスシブレード案を"制空権の握り"と名付けることにした。以下は作成手順である。

作成手順

ネタに用いるのはヤリイカ(Heterololigo bleekeri)である。これは言うまでもなく「槍烏賊」という名前の由来となった尖りを持つその姿が奇跡論的な性質付与に大きく寄与するからである9。またイカの足は10本であることから"十全"つまり完璧に通じ、様々な神話の空の神が同時に全能神・最高神であることからも相性が良いと言えるだろう。

シャリに用いるのはヒノヒカリ(O. s. subsp. japonica)である。コシヒカリと黄金晴を掛け合わせた品種で、コシヒカリに比べると中粒であるものの、より上品な味わいと炊き上がりにきらきらとした輝く米粒が特徴だ。もちろん"日の光"という名前が奇跡論的に空と相性が良いことは言うまでもない。さらに私はこのシャリを独自技術で中空になるよう加工する10。これにより、もし空からの攻撃を躱されたとしても、スポンジ状になったシャリによってスプリングのようにスタジアムに反発!そしてもう一度跳ね上がる。相手は初撃を躱すことで手一杯だが、躱せば今度は予測不能のジャンピングアタックが待ち受けているという寸法だ。

そして射出に用いる道具も一味違う。レールガンである。本業の方で使っている物を勝手に持ち出す形となるが、まあ私以外に闇寿司の中の東弊重工出身者でもいなければバレないだろう。これを使うことで遥か高高度にまで"制空権の握り"を打ち上げる。

持久力

破壊力

防御力

機動力

重量

爆発力

操縦性

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"制空権の握り"の予想パラメータは上記の通り。基本的には一撃必殺型ということで防御力は低めと見積もった。持久力に関しても、スプリング・シャリによるジャンピングアタックは回転力と引き換えに機動力を得る改造のため、これも低くなると思われる。重量は今回のヤリイカを用いた握りで26g。闇寿司としてはやや軽めといったところか。……よく考えたら、どうせレールガンで打ち上げるならむしろ重量が多いラーメンの方が威力が増すのでは?

御託はここまでとしよう。いざ実射テストである。

実射テスト

失敗した。

ちょっと調子に乗って高く打ち上げすぎたら、簡単に"制空権の握り"が私の制御を離れFly awayである。未だ行方不明のため、各所に連絡して捜索中だ。

あとレールガン持ち出してたのがバレた。踏んだり蹴ったりだよもう。

反省点

今回の反省点は、「高く打ち上げるほど落ちてきた際に威力が増す」と単純に考えていたことだろう。そもそもの話、地球の大気圏の最も外側である外気圏(高度10000000m)から26gの"制空権の握り"を落下させたとしても2,549,729Jにしかならず、雷一発分の平均エネルギーである1,500,000,000Jには遠く及ばない。天空神は偉大だった。

また「上空から落下してくる」という"制空権の握り"の性質上、当然のことながら室内では使用できないという重大な欠点がある。次回はこの欠点を何とか改善して、今度こそ実用化を目指したい11

参考資料

闇寿司開発記No.674"二段ジャンプ"
少林拳の奥義"軽功・空渡り"を参考に、スシブレードの空中浮遊改造を試みた記録。

東弊分解式150mmレールガン寿司特化型 仕様書
今回使用したレールガンについて。

忍者が教えるシリーズ⑫ アンブッシュ(待ち伏せ)の作法
闇寿司忍者が書いたマナー本。"制空権の握り"が実用化された際はこれに則って奇襲しよう。

文責: 魔改造師 白雲

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後日談

このファイルを書いてから2年後、闇寿司が親しくしているエルマ外教のメンバーから"制空権の握り"を発見したとの連絡があった。なんでも打ち上げた際、あまりの速さによって"制空権の握り"は世界の壁を超えてしまい、異世界へと跳躍してしまったのだという。

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ミヤ族の"天空より来たる寿司"の石碑。

その異世界は度重なる異常気象に見舞われたことで文明が衰退してしまっており、人類は超常的な天災に為すすべもなく神に祈り、身を寄せ合うのみであった……"制空権の握り"がやってくるまでは。どうも"制空権の握り"はその世界に異常気象をもたらしていた神様にクリーンヒットしてしまったらしく、ぴたっと荒れ狂う嵐が止まってしまった。そして一連の出来事を目撃した人々は確信した。「この寿司こそが真の神である」と。

その一件で信仰心を集めたからなのか、もしくは神殺しで何らかの力が宿ったのかはわからないが、"制空権の握り"はその後実際に天候を操る力を手に入れたらしい。今はミヤ族という奴らの手に"制空権の握り"はあるようだが、エルマ外教のメンバーが見たところでは、"制空権の握り"は天にまで届くような黄金のオーラを纏っていたそうである。"制空権の握り"を使い天気を操作することで、今やミヤ族は人類の希望として多くの支持者を集めており、その勢力をじわじわと伸ばしているんだそうだ。「神の写し身」と称し"制空権の握り"の量産型も大量生産しているんだとか。

話を聞いてもよく理解できなかったが、"制空権の握り"が私の手に戻ってくることは無さそうで泣いてしまった。まあ人助けに役に立っているというなら良いだろう。曲がりなりにも寿司を扱っているなら、そのミヤ族とやらも今後闇寿司の戦力になってくれるかもしれない。めでたしめでたしということにしておこう。

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さらに後日談

エルマ外教のメンバーからこんなものが伝達されてきた。


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以下の情報はクオドラント34の小擾乱に関連しています

当該文書は多元宇宙財団との連絡を保持するSCP財団のみ閲覧が許可されています

神寿司の概略的分析 (闇寿司派生組織)

普遍的擾乱名称: "天空の支配者にして絶大なる権能の神なる寿司に導かれし者たち (The Almighty Sushi Spinner — 神寿司)"

領域名称: クオドラント34、セクター834-SC (Q43S834-SC)

領域指導者: SCP財団 (宇宙呼称: 78a-AJO-1131)

説明: 神寿司とは、以前は"闇寿司"として知られていた組織であり、宇宙横断的に異常技術を開発・取得してきたグループである。神寿司はもともと宇宙呼称: Qw-487-HU-27に所属していたグループ"ミヤ族"が母体となっており、ミヤ族が"超越的爆転ニギリ"と呼ばれる何らかの手法により近隣宇宙へと侵攻、闇寿司へと挑戦・勝利したことで組織を吸収し、現在の勢力にまで成長した。彼らは天候、つまり大気循環、ひいては宇宙構造そのものを"回す"ことが可能な詳細不明のアーティファクトを所持しており、将来的には何らかの対処を要する。

推奨される行動: 未定

うん……。

何かすまんかった。

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