昨日、僕は「SCP財団」というサイトを読んだ
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アイテム番号: SCP-682

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-682はできるだけ早く破壊しなければなりません。現時点でSCPチームはSCP-682に重傷を与えられるだけで⋯⋯

昨日、僕は「SCP財団」というサイトを読んだ。ホラーSF的な世界観を背景とした共同創作コミュニティサイトだ(Wikipediaの説明によると)。色々な化け物や異常な物品について解説する、という具合で、非常に面白くて、また恐ろしくて、夜中の2時まで読み通してしまった。

特に気に入ったのがSCP-682と呼ばれる、凶悪で不死身なトカゲだ。「財団」に機会があれば破壊しようとされているが、いかなるモノを使ってもSCP-682は死に至らず再生する。
脱走を繰り返し常に全ての存在について怒り狂っている。そこが、美しいというか、頼もしいというか、そうあるべきだ、と思えた。

SCP-682は内側の表面全てを25cmの耐酸性の板金で補強した5m×5m×5mの収容室に収容してください。収容室はSCP-682が完全に浸かり無力化するほどの塩酸で満たしてください。

僕は義務教育を受ける中学生だ。自分でも気に病むぐらいに普通の中学生だ。学力は中の上、運動は中の下、顔はまあ中の中程度だろうか?
⋯⋯ 普通、というのは言い方でしかないかもしれない。いや、そもそも普通の人間、なんて存在するのだろうか?みんな、個々それぞれ事情があるはずだ。
とはいっても、僕の事情は、事情としても平々凡々なんだろうか?

⋯⋯ 僕は、いじめを受けている、のかもしれない。

SCP-682がすこしでも動く、話す、または脱走を試みた場合はすぐに、その状況で使用できる全力をもって対処してください。

刺激すると激怒する可能性があるため、職員がSCP-682と話すことは禁じられています。許可されていない職員がSCP-682と接触しようした場合は武力により制止し⋯⋯

あるいは、いじめという程では、ないのかもしれない。実際、たまにドラマでやってるような大袈裟なものではない。たぶん下には下がいるんだろう。しかし結局いじめとは被害者がそう思うか、で決まるんだと思う。自分がいじめられていることを認められない、という人もいるだろう。もしかしたら「いじり」の範疇なのかもしれない。しかし「いじり」との境界線がどんな程度のものなのか、基準も何もないし判断できない。

しかし僕自身の感情で言えば「嫌だ」とは思っている。

SCP-682はすべての生命に対し憎悪を示しており⋯⋯

毎日が憂鬱である。いじめの主犯は不良グループだ。僕は小突かれ、無視され、かと思えば自分の席に落書きされ、何か失敗すれば大袈裟に馬鹿にされる。この前、体育でシャトルランをして、疲れすぎて吐いてしまったときは教室に戻ると黒板に僕が吐いた様子を絵にして書いてあった。
そして、教師もクラスメイトもいじめが起きていることに無干渉である。

D-085: ヤツのぐちゃぐちゃの喉を見ろよ!あんなんで話せるわけ── (息を呑む音と叫び声)

今日の昼食後の第五限は体育館での体育だ。
体育教師はバスケットゴールを使ってレイアップシュートの練習をさせたいらしい。
ゴールの数は限られているので生徒は列を為している。

後ろから頭を叩かれた。
振り返ると不良グループが取って付けたかのように談笑している。

前を向き直す。また叩かれた。
振り返ると、また談笑している。

SCP-682: (D-085を攻撃しながら) …奴らは…忌まわしい…

気が付くと僕は不良グループの一人、原に掴みかかっていた。
僕の左手が原の右手首を掴む、すると原は僕のみぞおちに左手を叩き込んだ。

補遺682-D: SCP-682脱走事案:

1: 第1事案、██-██-████: エージェント███████、エージェント███、エージェント████████(死亡)、D-129(死亡)、D-027(死亡)、D-173(死亡)、D-200(死亡)、D-193(死亡)により対処

2: 第2事案、██-██-████: エージェント███、エージェント████████████、███████博士、D-124、D-137(死亡)、D-201(死亡)、D-202(死亡)、D-203(死亡)により対処

3: 第3事案、⋯⋯

僕はその場に倒れこみ、蛙の鳴き声のような呼吸を繰り返すばかりだったが、左手は爪を立てて離さなかった。原は引き剥がそうと僕ごと振り回した。蹴りを入れた。しかし僕は左手の爪を食い込ませ続けた。

しばらくたって原はようやく僕を引き離せた。僕はまだゲボゲボと呼吸がおかしい。

体育教師は、次はお前の番だとバスケットボールを手渡してきた。

現在SCP-682はSCP-409に対し耐性ができたようです。

放課後、帰宅しようとすると不良グループに遭遇した。保健室から出てきた原は手首に包帯を巻いていた。
不良グループは僕を睨んだが別の方向へ去っていった。

その後、何故かいじめは無くなった。いや、少しの「いじり」はある。あるいは実際には大して変わってないのかもしれない。しかし、もしかしたら、全ての存在を殺すつもりで本気で向き合ったことが、環境か、自分か、何かを変えたのかもしれない。

SCP-682は、そうあるべきだという怪物だ。そのように生きることが出来たらな、と今でも思う。

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