昔聖賢曰く「序無く類無くんば、天其の道を失ふ。虫に蠃鱗毛羽介の分有り、書に経史子集の別有り。故に異学会西方の目録学を以て、竹書の言語を録し、異物の形状を納め、歴朝の奇事を記す。異学の録す所の者に、仙魔の魑、妖獣の魅、異物の魍、天兆の魎有り。当に経伝史賛を以て之を録し、号碼類別を以て輔け、庫に入れ封存し、以て取用を待つべし。」と。──民国三年、太尉巨門。
異学会は-かつては-中国最大の超自然現象研究機関でした。学会の歴史は、晋代から唐代のある時期にまで遡ります。彼らは統治者と高位の学者による、小規模の集まりから成立しました。当初の目的は、単に「竹簡」に書かれた記録に沿って、アノマリーを収容することだけでした。稀に、竹簡に記載されていないアノマリーの処理にあたることもありましたが、彼らにできる事はそこまででした。
しかし、少しずつ、好奇心が畏敬に勝っていくようになります。こうして、アノマリーの分析や応用、そして中国人が得意とする、道徳的観点からの批判などといった試みがなされました。
異学会はアノマリーが激動と太平、豊作と飢饉を招くものであると知りつつも、実験を止めませんでした。これにより、能ある者を葬り去ってしまった為、中国は蒙古の民に蹂躙され、異学会の活躍は志怪小説のネタに成り下がりました(この間、北京の約半分が壊滅しています)。異学会は次第に機密のベールに覆われていき、その後、清朝と共に埋没しました。
近代になり、科学の食指が延伸してくると、異学会の遺児達は山積みの文献を整理し、襟を正したのち、財団の門を叩いたのです。
—— ダークエクエイション首席研究員『中華異学会の顛末(全三巻)』19██年、スミス・コンダー出版(Smith·Conder Publication)
研究を円滑にするため、中華異学会の文献をアーカイブ化する際は財団の標準文書フォーマットに類似した形式に整理されます。
志号: 異学会における、異常物品へ付与される識別番号。
志類: 異学会が用いる、古典的な分類システム。
- 魑(仙魔): 外形が人間に類似するアノマリーを指す。きっちり人型でなければならない訳ではない。
- 魅(妖獣): 外形が生物に類似するアノマリーを指す。
- 魍(異物): 外形が非生物/物品に類似するアノマリーを指す。
- 魉(天兆): 異常な現象を指す。当時の人間が観測できないアノマリーが引き起こした現象も含む。
経: 「異学一号」の本文。多くはアノマリーの記録に関するもの。
伝: “経”を補足するもの。異学一号の余白に書かれたものや、史書や儒教、諸家の経典などから成り立つ。
史: 中華異学会のアノマリーに対する研究の記録。長い歴史の中で何度も記録が取られている為、制約の緩い「散文」から羅列的な「賦」まで、様々な文章形式が存在する。
賛: 「評価」に類似。文献の大部分は、アノマリーに対する、異学会構成員の主観的な見解で構成されている。
原始~古代
人間と怪異が共存していた時代。敬畏こそしていたが、人間の知恵は既に怪異への干渉を始めていた。異学会の前身組織が竹簡を記す。
古代~中世
怪異に打ち勝ったことで、神代は終わりを迎える。組織は正式に「異学会」と命名される。王朝の拡張と同時に、異学会は四夷(異民族)へと探索範囲を広げた。異学会の絶頂期。
近代
科学と外国勢力の挑戦に直面し、異学会は必死の足掻きを見せる。竹簡や記録をなめるように読み、あらゆる手段を用いて抵抗した。この時代、異学会が生み出した奇人や珍事は、野良犬よりもありふれたものとなっていた。
現代
竹簡体制が終わり、現代的な体制と技術を用いるようになってから、一部の幹部を除いて、異学会の構成員は殆ど雲散霧消してしまった。一筋の光明が差しながらも、有名無実の組織と化した時代(「中華」の二文字が入り、略さずに呼称するようになったことも、その一例である)。
(1915年█月██日更新。財団中国支部により整理が進められています)
指導者
異学会のトップは太尉/監督者と言い、代号(コードネーム)で呼称されます。三皇五帝から名を取った者が8名、北斗七星から名を取った者が7名、計15名が存在します。
財団職員に向けた解説:
三皇
伏羲・神農・燧人
五帝
黄帝・炎帝・顓頊・尭・舜
北斗七星
天枢/貪狼・天璇/巨門・天璣/禄存・天権/文曲・玉衡/廉貞・開陽/武曲・揺光/破軍
方士
方士は正体不明の勢力で、異学会が収容と保存を行っている時にしばしば遭遇する、自らを「方士」と名乗る組織及び人員のことを指します。いくつかの事件において、方士は異学会に対して協力や警告を行い、時には衝突することもありました。方士の技術水準は同時期の異学会よりも高く、初期の文献によると、異学会は方士のことを「神通力」を持つ者達と認識していました。
財団中国支部が1993年に更新した内容: ████年に回収された中華異学会の文献によると、「方士」と称される組織は████年に分裂しました。現在、中国地区に存在するいくつかの組織について、分裂した方士の元構成員が設立または合流したものであることが確認されています。方士本体の状況については、今の所不明です。
クイヤン派
クイヤン派の勃興は道教の勃興と関連があると見られています。しかし、クイヤン派は道教の流派であると自称したことはなく、異学会の初期の文献によると、クイヤン派の出現は道教よりもずっと早い時期であったとされます。
クイヤン派の技術はその時代と同じ水準ですが、方士よりも積極的にアノマリーを活用します。
クイヤン派と異学会は友好関係を保ち続けていました。そのため、異学会はクイヤン派に関する大量の情報を入手していましたが、異学██号を回収して以降、両者の関係は急速に悪化していきました。その後、クイヤン派の襲撃により、異学会はクイヤン派に関するほとんどの情報を喪失してしまいました。現在、異学会はクイヤン派を唯一の”敵対組織”と見なしています。
クイヤン派は茶文化に対して独特な拘りを持っており、彼らがアノマリーを積極的に用いる動機にもなっています。
財団中国支部が1993年に更新した内容: 現在、クイヤン派に関する情報はその殆どが中華異学会の文献から得られたものです。異学会とクイヤン派の対立経緯を考えるに、中国支部と異学会の関係についての情報を外部に漏らすべきではありません。
異学会とは何か
Darkequationという1人の歴史オタク兼設定厨の発想を、Archibald1等の有志がブラッシュアップした結果、異学会は誕生しました。ロゴはKooが描いたものです。
第一に、異学会は悠久の歴史を持ちます。その中で光陰は異学会の主軸を成しています。アノマリーは時間という洪水の中で、練られ、書かれ、遊ばれ、拝まれることで一定の臨界点を越え、古今の橋梁、時代の証人となりました。同時に、それらの事物は後世の人々に知られることとなったのです。
また、科学の権化である財団と比べ、異学会は文学、そして伝統の集合体です。ご存知だと思いますが、見栄のために著名人と交遊したり、文化的活動に手を出したりする人間というのは、話に尾ひれをつけたり、あることにかこつけて自分の見解を述べたり、経典の引用を議論の根拠にしたり、詩を作るために憂いを口にしたりすることを得意とします。彼らは如何なる事柄についても、それが天の意志や世界への警告、災厄の予兆など、何らかのメッセージであると深く信じ込みます。財団はそれらの現象を記録しますが、異学会はそれと同時に評論を書き加えるのです:例えるとするなら、財団が鍋を煮込んでいる頃、異学会はその鍋を如何にして高級スープにできるかについて考えているのです。
異学会はいい加減です。明白と言えるビジョンは、竹簡ただ一つしかありません。異学会の組織構造はバラバラです。異学会の行動は経験則に基づくものであり、その仕事ぶりは一面的です。異学会の文献もまた、固定されたフォーマットを持ちません。異学会の構成員は総じて物書きの秀才であるため、幕僚や詩人を兼ねることもあります。彼らは色々なことに手を出したがるのです。
これらのことから、異学会の実態ははっきりとしていません。異学会がことさらに自身の存在を隠蔽しようとした訳ではありませんが、彼らの事跡や記録は玉石混交であり、伝奇と事実が入り混じっていることもあれば、唐突に七言絶句の詩が挿入されていることもあります。彼ららしいと言えるかもしれません。その事件が本当に発生したのか、ただの寝言なのか、はたまたどちらにも当てはまるのか……彼らの記録から真実を読み取るのは、非常に困難です:また、多くのアノマリーとその記録は、今もなおこの大地の下に埋まっています。このことは彼らを放浪者の図書館にいるかのような気分にさせています:竹簡には真実と虚構、過去と現在、そして未来が記されているのです。
最後に重要なことを一つ。異学会は過去の遺物です。清末に西洋勢力の侵入があった際、すでに斜陽となっていた異学会は、紫禁城にて雌伏することを決意しました。宮殿が崩れ落ちた後、異学会は2度と立ち上がることができませんでした。かつての異学会は活力に溢れていましたが、彼らの歴史は既に、紙魚と黄ばみに塗れたものとなっていたのです。盛者必衰と考えるのも良し、感慨するのも良し、追憶するのも良し……そのような気持ちで異学会を書いて頂ければと思います。
異学会とは何ではないか
異学会はSCPを漢文で書き直しただけのものではありません。異学一号は誰でも一目で理解できるようにアーカイブ化されていますが、そのような高度な技術が2000年前からあった訳ではありませんし、昔から大広間において無造作に飾られていた訳でもありません。息壤だって、顕微鏡によってまじまじと観察されたことは無いのです。近代の漢文や白話文でも、十分に異学会の雰囲気を出すことが可能ですが、”ですますであるか”を”なりけりべけんや”に置き換えるだけではいけないのです。
つまり、評価に値するSCP記事を書いた後、それをどこかの時代の中国に転送し、「その後どうなりましたか?」と、顛末をその時代の自分に問いかけることで出来上がった文献……そのような文献こそが”異学会らしい”文献と言えるのです。
異学会は悪いアイデアを愉快なアイデアに変換してくれる便利な手段ではありません。文章を手っ取り早くすごそうな感じにしたいのであれば、文の末尾に"(リオプレウロドン語)"と付け加えることをオススメします。
ダークエクエイションというキャラクターについて
彼は異学会の最後の生き残りです。彼は財団に身を置く中で、しばしば自分が巨人の肩の上に立っているとも、巨人が自分の肩の上に立っているとも表現できるような感覚に陥ります。
ひょっとすると、彼は異学会が終焉した本当の理由を、永遠に明かしてくれないかもしれません。
彼は大の猫好きですが、半身猫を飼ったことはないようです。
ディン博士のメモ
異学会のフォーマットは必ずしも一定の規則を遵守しなければならない訳ではありません。ここにあるテンプレートは皆様に提供されたヒント、叩き台のようなものです。”異学会の文献”と呼ばれる書物も、もしかするとただの膨大な小説や詩歌の集合体なのかもしれません。異学会は歴史こそ長いですが、すでに過去の遺物となっていることに留意してください。
異学会の中で不動である設定は異学一号と彼らの研究理念、そして15名の指導者とダークエクエイションは皆猫好きであると同時に、半身猫を飼ったことはないという事実だけです。