〇〇君だけは信用できるの。

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beaf 22/10/4 (火) 20:11:54 #13431374


これは何年か前の話だ。
インターネットのコミュニティに入り浸ってると、新しい誰かが加わったり、いつの間にか誰かが居なくなっていたってことがあると思う。

色んなゲームをやって、色んなコミュニティに属してた俺は、特定の居場所を持っていなかった。そんな中で便利なのがtwitterだ。色んなゲームのアプデ情報が掴めるし、久しぶりにやるゲームに関しても気軽に古い知り合いに声をかけることが出来る。
もうゲーム自体は手を付けず、そこで築いた人間関係だけが維持されてダラダラと交流をするだけって状態になったコミュニティもあったし、なんか変な思想に染まって疎遠になって行った奴もいたな。

それはともかく。俺はある日、とあるゲームのコミュニティの人間を全然見かけないことに気が付いたんだ。

beaf 22/10/4 (火) 20:17:11 #13431374


「モアイマスターさん……5カ月くらいツイートしてないな、ノイシュヴァンも……ちくわさんもだ。」
段々と活動する人が減っていくなら分かるし、中の奴が死んじまった結果としてアカウントが動かなくなることもあるだろう。
それにしても、だ。10人くらい居た全員の更新が途絶えているのは奇妙だ。しかもどいつも、何か楽しみな予定があるようなそぶりを見せるツイートが最後だ。
「ロッキー……ロッキー……も4カ月前のツイートが最後だ……。『今日めっちゃ楽しみ!』か。」
ロッキーは、このゲームをやっていた当時一番仲が良かった友人だ。エロ画像をリツイートしまくるようになったからミュートにしてたんだよな。

そういえば。ロッキーに頼まれたことがあったんだった。
詳しい病名は忘れたが、何か持病があった彼は「俺が死んだらアカウント削除してくれや。」と、アカウントのパスワードを俺に教えたのだ。これもまた随分前の話で、この時まですっかり忘れていた。

beaf 22/10/4 (火) 20:31:20 #13431374


彼が死んだかどうかは分からない。
「不正アクセスだろ」と言う奴もいるかもしれないが、大きな謎が目の前にあって、自分の手元に鍵があるんだ。そこで自制など出来るわけがなかった。

ロッキーのtwitterアカウントにログインする。「通知」にポップが出る。
俺のログインと同時に何かの通知が来たように感じて、俺はかなりビビった。
恐る恐る「通知」をクリックする。

「新しい端末からログインされました」

ああ、驚かせやがって。俺のログインと同時に来たことには間違いなかった。
俺のIPアドレスも表示されている、つまり不審なログインに対するセキュリティ警告だった。

気を取り直して、そのまま通知欄を見る。お気に入りやリツイートされた通知、たまに他愛もないリプライがあるだけだ。
罪悪感と、少しの恐怖と、人の秘密を覗く高揚感が混じり合った変な気持ちだった。ただ、心臓がいつもより強く脈打っていたと思う。自分の脈が良く聞こえた。

そんな変な気分の中、次のクリックに鼓動が高まる。DM……ダイレクトメッセージ。他人の私信を覗くなど、悪趣味極まりない。でも、見たいだろ?俺だってそうだったんだよ。

beaf 22/10/4 (火) 20:41:59 #13431374


一人の人物とのやり取りがそこにあった。それ以外はほとんどスパムメッセージのようだった。
「ねえゆうくん ゆうくんに会いたいな」
「ゆうくんだけは信用できるの」
「ゆうくん 今まで付き合った女の子っている?」
なんだこの女は?いや、そういえば俺と入れ替わりぐらいで女がコミュニティに入って来て、あいつら馬鹿っぽく騒いでた気もするな、そいつか?
ゆうくんというのは、ロッキーの本名だろう。それにしても、俺が好奇心で覗いたとは言え、自分の知り合いのこういうやりとりを見ると少し……なんというか……。いたたまれないような気分だ。
恋愛関係を開始しかけている男女がする、甘くて、ともすれば痛々しいやり取りを客観視するのは、まあ……な。

ロッキーの名誉のために、彼の返信は載せない。

beaf 22/10/4 (火) 20:55:51 #13431374


それで、だ。
一番新しいやり取りを見るに、ロッキーはこいつの家に招かれたようだった。ロッキーは二つ返事でOKしていた。飛行機の予約までしてな。
「恋は盲目」だとか、そういうような言葉があるから、絶対におかしいとは言い切れないが、俺はおかしいと思った。
それに、ロッキーが最後にツイートした日、ロッキーがこいつに最後にメッセージを送った日、ロッキーとこいつが会う約束の日、全部同じ日なんだ。何かあったに違いない。

「こっから120km……。高速使って、2時間ってとこか……。」
その時は確か14時くらいだったはずだ。俺は迷ったが、翌日に行くとしたならば今夜は眠れなくなるだろう。その日の内に行くことにした。

beaf 22/10/4 (火) 21:01:02 #13431374


ロッキーとあいつのやり取りの中に出てきた家がそこにあった。
濡れたようなムラの、濃い灰色の壁。手入れされていないのか、壁を伝って生え放題の植物。確認出来る限り、全ての窓には紺色のカーテンがかかっている。
陽が落ちかけてオレンジの空に、この出で立ちの家はやけに妖しく感じた。

「ピンポン……。ピンポンしよう。」
恐る恐る敷地に足を踏み入れる、玄関までの石畳が敷いてあったが、ガタガタだ。庭も背の高い雑草まみれになっている。
胸の高鳴りを感じながら、玄関まで辿り着く。深呼吸して、俺はインターホンを鳴らした。

「ピンポーン」

鳴らないかもな、と思っていたがインターホンは正常に動作したようで、家の中からインターホンの音が聞こえた。しかし、それに対応しようとするような物音は聞こえてこない。
「ピンポーン、ピンポーン」

中に誰も居ないような気がした俺は、何度も何度もインターホンを鳴らしてみた。中から何か物音が聞こえれば逃げればいいのだ。しかし、何度鳴らしても人の気配はない。
意を決して、ドアノブを引く。何の抵抗もなくドアは開いた。
「すいませーん、こんにちはー。誰かいませんかー?」
もし誰かがいたら何て言い訳をしようか、そんなことを考えながら、家の中に入る。廊下の寂れ具合から廃墟だと直感した。

beaf 22/10/4 (火) 21:11:51 #13431374


懐中電灯を持ってくるべきだったな、と思った。玄関のドアを閉めると、家の中はとても暗い。壁に手をつくと、慣れ親しんだ感触があった、照明のスイッチだ。点かないだろうな、と思いつつ力をいれると、パチッと音がして、照明が点いた。
マズイ、もしかしたらまだ誰か住んでる家なのか?しかし、明かりが点いて改めて見ると、およそ人が住んでいるとは思えないような有様だ。蜘蛛の巣、埃、虫の死骸、そして床に積もった埃に……猫の足跡?ともかく、大丈夫だと自分を落ち着かせながらドアを開けていく。キッチン、リビング、トイレ、どこもかしこも生活感が無い。一階には興味を惹かれるようなものはなく、俺は二階へと足を進めた。二階に上がる途中、変な、嫌な、腐ったような臭いがしてくる。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
俺の声だけが響いていく。この臭いだ、死体でもあるんじゃないかと思いながら、生きてる人間が出てくるより死体が出てくるほうがマシだと思った。今考えれば、死体も生きた人間も居る可能性があったんだが、その時は頭が回ってなかったな。
ともかく、ここまで来たんだ、行くしかない。俺の予想が正しければ、きっとロッキーの死体がある。
二階の手前の部屋、書斎だろうか。本棚が沢山ある。その反対側は……私室だな、家族構成は分からないが、父親の部屋というようなイメージだ。
廊下を奥に進むと、臭いがキツくなった気がする。
書斎の隣も誰かの私室のようだ、今度は母親の部屋ってところか?そしてその部屋の向い、最後の部屋。猫みたいな足跡が、この部屋に出入りするように残っている。

beaf 22/10/4 (火) 21:19:11 #13431374


何かが居るのか。でもきっとここにロッキーの死体があるんだ。覚悟を決めろ。やるしかない。行くしかないんだ。
好奇心、恐怖心、義務感、色んなものが混じった気持ちだったと思う。俺はそのドアを開ける、より強烈な臭いがする。やっぱりここだったんだ、俺は電気のスイッチを探りながら部屋に足を踏み入れた。

俺は恋に落ちた。

言ってる意味が分からないと思うが、そうとしか言いようが無かった。そこには誰も居なかった、でも、好きになった。誰を?分からない。でも俺の胸は高鳴っていた、好きな女の子とメッセージをやり取りをしてる時みたいだった。
部屋の中は甘いフルーツか花のような、とにかくすごくいい匂いがする。沢山のグロ可愛い何かのぬいぐるみ、モフモフしたピンクの絨毯、丸鏡のピンクの化粧台には色んな瓶が並んでいて、天幕付きのピンクのダブルベッドの上にはゴスロリ?みたいな服が脱ぎ捨てられている。
その時、俺はもう死体がどうとか、そういうのはどうでも良くなっていた。結局見つからなかったしな。(後から調べたんだが、死体が放置されると外からでも分かるくらい強烈な臭いがするらしい。)
「好きな女の子の部屋に居る。」その認識がその時の全てだった。

beaf 22/10/4 (火) 21:29:54 #13431374


書いてて自分でもキモいと思うが、俺は部屋の中を物色したくなった。これは好きな女の子の秘密を知りたいみたいな、そういう好奇心だ。ああもう、クソ。
ともかく俺はワクワクしながらクローゼットを開けた、これもゴスロリ?だろうか、ベッドにあったのと似たような、着るのが大変そうな服が掛けられていた。その時の俺は彼女に良く似合うと思った。
タンスにも当然衣類が入っているのだろう。……ああもう、ほら、下着とかな。クソキモいな。ともかく俺はドキドキしながら一番上の棚を引っ張り出した。

そこにはジップロックに入ったスマホが何台も何台も重なって敷き詰められていた。
ジップロックには黒マジックで、「こうくん」「ともくん」「しんじくん」「ゆうくん」というように、それぞれ名前が書いてあった。

現実が戻って来た。俺も正気に戻った。自分自身があまりにもアホだと思った。言わばここは敵の本拠地だ、何やってんだ。こんな腐敗臭が良い匂いなわけが無い。クソが。異常、異常だ。きっと俺も何かされたんだ。罠なんだ。早く出なきゃダメだ。

beaf 22/10/4 (火) 21:35:22 #13431374


考えるのと動くの、どちらが早かったかは分からない。ただ俺は乱暴にドアを開け、転がるように階段を降り、猛ダッシュで玄関を出た。大急ぎで自分の車に乗り込んで、どこでも良いから遠くに行こうとした、とにかくあの家から離れたかった。
途中で見つけた電話ボックスで、匿名で警察に通報した。電話ボックスも何かの罠みたいな気がしてかなり怖かった。
家に帰る途中、車の後部座席がやけに気になって何度もバックミラーを見た。何もいなかった。
帰宅しても、全ての物音が怖かった。全ての空間が怖かった。馬鹿な話だと思うかも知れないが、俺は布団にくるまりながら押し入れに閉じこもった。自分が安心できるためなら何でもした。

beaf 22/10/4 (火) 21:38:19 #13431374


眠れない夜はグルグルと思考が回るものだ。布団で自分を締め付けながら、”あれ”が何だったのか考えを巡らせた。
恋、いや恋と同じ感覚。ありきたりだが、妖怪の類なら狐のイメージだ。男を騙すみたいな奴。あの足跡も狐だったのかもしれない。しかし”SNSで男を釣って拐かす化け狐”?なんだかチグハグな気もするが、この板でもっとワケの分からない存在の話も見たからな。

結局のところ、俺はあいつの正体は見ていない。だからそれが何だったのか、はっきりとした答えは出せない。それでも、もし妖怪や化物なら真夜中はあっちのテリトリーな気がして、俺は押し入れの隙間から光が差し込むのを待ち続けた。

beaf 22/10/4 (火) 21:42:09 #13431374


翌日、俺は友人に運転を頼んで回れる限りの神社や寺、教会やらを回った。お祓いやらなんやらを受けて、教えてもらった限りの全ての神や仏に拝んだ。この日は、その友人の家に泊めてもらうことにした。
「妖怪や化物が居るなら、神様だってきっといる。あんだけ頼んだんだから、誰か一人くらい助けてくれるさ。」と、少し気が楽になった俺は、スマホでtwitterを開いた。


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beaf 22/10/4 (火) 21:45:59 #13431374


俺はアカウントを削除した。アプリも消した。もう二度とtwitterにアクセスはしない。インスタのDMも、ディスコ―ドのDMも、俺は絶対に開かない。

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