使命
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私は画面に並ぶ文字を眺めていた。一人分のコックピットに座りながら。

「日本語で」

「ああ、繋いでくれ」

『やあ、白子君。機体の調子はどうだね』
「上々ですよ。設計図通りに作ったせいか急造品であるせいかはわかりませんけど、若干コックピットが狭いことを除けば」
『はは、そうか……すまんな。研究者である君を駆り出さなくてはならんとは』
「いえいえ」

「まあ彼女と共にこの装備を造ったのは他ならぬ私ですし、他の人間に操作させることの方が不安になりますよ。それにこういうのに乗るのが私の夢みたいなものでしたから。」
『そうか……』

自分でもわかる空元気だ。他の人間より、下手をすると"彼女"よりこの装備について私は詳しい。それにこんな物に乗れるというのは私の夢だ。だがこれから起こることへの不安の方が大きいに決まってる。帰れないかもしれない、失敗するかもしれないという不安はずっと心の中に燻ったままだ。

『では博士、君の作戦遂行及び帰還を心から願っている』
「はい、ありがとうございます」

「……なあ、君は不安じゃないのか?」

もう逃げることはできない。そう思うと不安に押しつぶされそうになって、つい目の前の彼女に尋ねてしまった。

「ああ、十中八九私達は心中することになる。作戦が失敗したら人類が滅ぶのも恐らく間違いはないだろう。そう思うと不安になって仕方がないんだ。君は、どうだ?」

「"ですが"?」
 
 


 
 
 
「使命……か……」

はは、まさかオブジェクトに気付かされるとはな。私にも使命があるじゃないか。人類をK-クラスシナリオから守る、それこそが今の私の使命だ。
私がやらなければ誰がやる?私が奴らから人類を救わなければ誰が救えるんだ?そんな人間も策もないから、私と彼女が出ることにまでなったんじゃないか。ただ粛々と、不安に押しつぶされず、使命を実行する。財団職員とはそういうものだろう!

「……ありがとう。210-JP

「ああ、わかった」

大きく息を吸い、吐く。私の中にある不安を、全て追い出すが如く。

「緊急プロトコルXK-210発動!目標は敵性異常実体3体!行くぞ、210-JP!」

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