バーム博士が提言した探索法は議論を呼びました。特に安全性の担保が論点となり、倫理部門と度重なる討論を重ね、直接接触する実験は禁止という条件下で提言は承認されました。SCP-1475-JP群はプロジェクトチームに所有権が移行されました。
しかし、有益な結果は得られませんでした。現実不全部門による存在基盤の解析や倫理規定の範囲内で人体を模擬したダミーを着席させるなどの試みが行われましたが、いずれも空振りに終わっています。3年もの間にその他も様々な試験が繰り返されましたが、成果は得られませんでした。
連邦暦5573年、バーム博士がSCP-1475-JPの直接使用を提言しました。被験者として自ら名乗りあげ、あらゆる安全装置を搭載した防護スーツやSCP-1475-JPの安定性を示す資料、そしてミ・ガからの更なる援護を取り付けました。
半年に及ぶシミュレーションと安全性テストの結果、特例中の特例で現実不全存在の直接使用が許可されました。これも連邦の歴史で初めてのことでした。
更なる安全策として、倫理部門の指令により物理的光速突破エンジンを搭載した艦が連邦中より集結しました。重ヒュム管理艦を筆頭として、次元装甲艦、次元断裂艦、次元貫通艦、平面トーラス適応艦、テラフォーミング艦、惑星質量艦など20種150隻の艦隊が出来上がりました。これにミ・ニ氏を指揮者としたミ・ガ中規模分離光速戦闘飛翔体群も加わりました。
3ヶ月もの準備期間を経て、連邦暦5573年10月2日に『カントリーロード』と名付けられた探索作戦が火星にて決行されました。使用されたのは最も状態が良好なSCP-1475-JP-13でした。
『カントリーロード』作戦記録
U.D.5573/10/02
バーム博士: SCP-1475-JP-13周辺ヒュム・イコォリゼイションの停止を確認。着用スーツの機能テスト成功。
ヘラ研究長: 全連邦艦リモート動作良好。光速突破、いつでも可能です。
ミ・ニ: こちらも大丈夫。母からの発進許可も受諾。予定通り私は直接乗艦している。
バーム博士: 只今より、私の着席を以て作戦名『カントリーロード』を開始する。
[バーム博士がSCP-1475-JP-13に着席する]
マルト部族長: こちら司令本部。SCP-1475-JP-13の現実不全現象の励起を確認。異常なし。
[着席から2分53秒後、SCP-1475-JP-13が振動し方向が変化する]
マルト部族長: 射出方向は基準線からプラス13.56°、仰角85°で固定!発射前兆確認!3…2…1…発射!
[大規模な火炎と共にバーム博士が直立の姿勢で射出される。初速は秒速760光年を記録]
ヘラ研究長: 艦隊群の光速突破機能、自動追従機能ともに良好です。ミ・ガの飛翔体も近辺に確認できました。航路上のヒュム・イコォリゼイションの限定解除も問題ありません。
ミ・ニ: 機器類と目視でバーム博士を確認。聞こえていますか?
バーム博士: 通信良好。血圧、心拍数、ヒュム値すべて安定しています。現在速度は秒速763…764…763.5光年です。現実不全現象も発生中で……たった今射出から20秒が経過。透過状態に移行しました。
マルト部族長: 推定飛翔時間は2時間3分で、予測される到着銀河はGO-1538です。かつて地球圏から観測され、M87と呼称されていました。想定より比較的近距離です。
バーム博士: 太陽系を射出点としたのが幸いした。飛翔が安定軌道に乗ったため、以降の連絡は10分ごとの定時報告のみとする。
[2時間2分15秒後、透過状態が解除される]
バーム博士: 透過状態が解除された。着弾予定まで15、10、5、4、3、2、1……。
[バーム博士の位置座標が減速し停止する]
バーム博士: 異常発生。地球確認できず。現在まだ宇宙に位置している。惑星は見当たらない。
ヘラ研究長: こちらからは確認できません。いや、そもそも付近に惑星がありません。
マルト部族長: こちらからも確認できません。
ミ・ニ: あなた方は見えていないのですか?目の前に人工的な真っ黒な外郭で覆われた惑星があって、博士がぶつかって止まっています。あなた方の認知に異常が発生しています。
バーム博士: 停止させたヒュム・イコォリゼイションを再起動し、重ヒュム管理艦からも援護しろ。
[艦の援護でバーム博士周囲のヒュム・イコォリゼイションが従来の60倍の密度となる]
バーム博士: 黒い惑星を視認できた。そちらは?
ヘラ研究長: 無理です。機器的には観測できているはずなのですが、私がそれを認識できません。
マルト部族長: 同じです。どうやら、私たち自身の問題だそうです。こちらでも濃度を上げてみます。
[司令部で追加のヒュム・イコォリゼイションを起動。ヘラ研究長、マルト部族長など司令部の人員全てが当惑星を認識可能となる]
バーム博士: 処置されたのは恒星虫だけではなく、我々もか。
ヘラ研究長: そのようでしたね。ミ・ニさんが影響を受けていないことから、我々人類そのものに仕組まれていたようです。
マルト部族長: しかし、外殻は物理的な物です。コンテナと同じような特殊な装甲ですが、三層に重なった装甲の強度は相当なもので超新星爆発にも耐えうる数値です。
ミ・ニ: こじ開けますか?おそらく可能です。
ヘラ研究長: 次元断裂艦なら破壊は容易かと思われます。
バーム博士: いや、待ってくれ。衛星が妙だ。
[当惑星の衛星から複数の攻撃的な旧式の砲台が発見される。いずれも攻撃艦に照準が向けられる]
ヘラ研究長: 次元装甲艦、惑星質量艦で射線を遮ります。……砲台の照準が外れました。
マルト部族長: 中止して帰還しますか?位置座標は割り出せました。サンプルを入手すれば安全な突破が可能です。
バーム博士: いや、続行する。おそらくこの事態は儀式のように仕組まれている。モノリスと言い椅子と言い、示唆的だ。我々がアレを利用してここまで来るのは想定されている。辿り着かせないことだけが目的なら、『組織』はもっと徹底的だろう。
バーム博士: 我々は『組織』に見定められている。地球を託すに値するかどうか。
マルト部族長: 衛星は番犬で、外殻は扉のようなものと。
バーム博士: そうだ。そもそも故郷へ里帰りしに来たんだ。扉を叩いて壊す必要なんてない。平和的な解決法があるはずだ。
マルト部族長: では、博士が扉を何回か叩いてみてください。『ノック』と呼ばれていた、家の住民に訪問したことを告げる挨拶のようなものです。
バーム博士: わかった。
[バーム博士が外殻に接近し、手で外殻を直接3回叩く]
ヘラ研究長: 反応ありです!最内の層が開きました。
バーム博士: 続けよう、次は?
マルト部族長: 住民に自分の顔を見せて、名乗ったりしてから用件を言います。
バーム博士: よし、バブルをくれ。並行して通信も試してくれ。
[テラフォーミング艦より生存用バブルが射出され、バーム博士を包む。バーム博士はヘルメットを外す]
バーム博士: 天の川連邦大学教授のバーム・クリェウと申します!地球へ里帰りに来た人類です!
[2層目の外殻が格納される反応を検出]
バーム博士: 残り一層、次は?
マルト部族長: 手順としてはこれで終わりのはずです。敵意がないことを示すことが肝心なので、それはできたと思いますが、もう少し続けて見ましょう。
[1時間程度同様の手順が繰り返されるも効果なし]
ヘラ研究長: あと一手が分かりませんね。持ち帰って解析すれば分かるかもしれませんが。どうします?
バーム博士: [疲労によるため息] そう言えば、ミ・ニ殿がまだ挨拶していないな。あなたもここまで来てくれたんだ。挨拶しても損はないだろう。
ミ・ニ: 確かにあなたの家なら挨拶ぐらいはした方がいいかもしれません。[飛翔体から離脱し、5本全ての触手で外殻に触れる]
ミ・ニ: [咳払い] 母なるミ・ガより贅沢なる自我を賜り栄光ある自由と責任を背負う極小自我分裂体の身の上であるミ・ニです。
ミ・ニ: 人類とは繁殖体系も哲学も存在基盤も大きく異なりますが、こうして共に立っています。
ミ・ニ: 私たちは友達です。
[数秒後、強烈な現実不全反応が発生]
ヘラ研究長: 第一層に強烈な反応!格納、いや、自壊します!退避を!
バーム博士: 引っ張られる!ミ・ニ殿、こちらに![悲鳴]
[バーム博士とミ・ニ氏が自壊した装甲の隙間から吸い込まれる。異常検知0.1秒後にスーツが起動し、2人を包むように緊急保護膜が展開される]
マルト部族長: 大丈夫ですか!応答を!
バーム博士: スーツは完璧だ。それよりも、ほら、見てくれよ。
[バーム博士より画像データが送信される]
ミ・ニ: 綺麗だ。
第一層自壊から5分後、スーツの緩衝着陸機能によって両名は一切の怪我なく地球に着陸しました。後の調査の結果、着陸したのはウェストバージニア州と呼称された地域でした。
地球の環境は豊かな自然と人類が生存可能な環境な状態で完璧に保存されていました。外殻消失後も、作戦に同伴したテラフォーミング艦によって即座に保全され、太陽系まで移送されました。
後に行われた地球の調査時に、『組織』に関する遺跡や資料が続々と発見されました。『組織』の正式名称は『SCP財団』で、現実不全存在から人々を保護する組織でした。我々に対する妨害ともとれる数々の障壁は、いずれも地球に設けられた数々の人類そのもののセーフティを保護する為の処置でした。
更に発見された資料に基づくと、財団は少なくとも大宇宙拡散時代までに53,500回のレッドランプ、4,931回の次元崩落、 150回の法則改変、12回のヒュム・ロストを未然に防ぐことに成功していました。これは脅威的な数字で、財団が存在しなければ今日の人類の栄光は無かったと断言できるほどです。
歴史の影に隠れた彼らたちの功績は、紛れもなく光り輝く舞台で褒め称えるべき偉業でした。
私たちの繁栄は、紛れもなくゆりかごたる地球と、生きてきた人類と、それらを守り切ったSCP財団によるものです。
こうして、我々はようやく自らの故郷に里帰りし、尊敬すべき先人たちに花を供えることができました。
これにて説明は以上となります。お疲れ様でした。