20██年█月0█日
実験番号-2231
「NEO:UNIVERSE実験」報告書
久能 尚史 編
- 表紙 -
- 目次 -
表紙・・・・・・・表紙
目次・・・・・・・P.1
第一章 実験目的と利用生類・・・・・・・P.2
│ 第一節 背景
│ 第二節 目的
│ 第三節 方法
│ 第四節 使用生類
第二章 実験結果・・・・・・・P.3
│ 第一節 出現パターン
│ 第二節 経過フェーズ
第三章 考察・・・・・・・P.4
│ 第一節 パターンについて
│ 第二節 フェーズについて
第四章 補記・・・・・・・P.5
│ 第一節 今後の展望
│ 第二節 参考文献
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第一章 実験目的と利用生類
第一節 背景
現代の世界においてヒト(Homo sapiens)の個体数は増加の一途を辿っている。日本生類創研生類情報部によると、20██年現在においてヒトは脊椎動物の中で最も多い種となっている。この現状においてヒトの過密が他の生類に与える影響は多く研究されているが、ヒトがヒトに与える影響については未だ未知数である。これに関してJohn Bumpass Calhoun氏が行った楽園実験の環境に倣って本実験を行った。
第二節 目的
ヒトの過密条件下におけるヒト間の影響を調査することを目的とする。得られた結果から今後のヒト優占環境を分析する。
第三節 方法
前述の通りヒトを使用する。完全に管理された箱庭を建設し、ヒトの生育環境において有用な要素を用意する。箱庭内で世代交代を重ね、ヒトの過密環境を形成する。実験開始時点から、過密環境が形成されて安定期に至るまでを記録する。また攪乱のために人工災害を発生させるが、実験個体の追加は行わない。
John Bumpass Calhoun氏の楽園実験と異なり、複数の箱庭の前提環境を同一に整えた上で、並行して実験を行う。あくまでも目的は過密環境におけるヒト間の影響であるため、再現実験を除いて形成された社会に関与することは殆どない。
第四節 使用生類
実験生類: ヒト(Homo sapiens)
食用生類: ニクムスビ(Solanum carogena)

入手難易度の観点からモンゴロイドを使用する。実験の前段階として、職員の直接管理下で幼体10個体を箱庭内で生育させ、実験に有用な成体を用意する。実験において構築期では、前述した成体10個体と幼体20個体を用意し、実験個体のみでの生存を行わせる。このような手法を取るのは、出来る限り現社会の形成と同等の経路、つまり外部からの働き掛けがない経路で実験を進行するためである。当実験の個体はT-015の一部技術を利用することで、迅速な世代交代を可能としている。この技術が当実験に影響を及ぼす可能性は、限りなくゼロに近い。
ヒトは生類ピラミッドの最底辺付近として存在するため、動的生類由来の必須アミノ酸源となる生類は使用することができない。そのため食用生類として、一般的な肉類に含まれる栄養素を多量に貯蔵するニクムスビを生育させる。生育させるニクムスビは最も生命力が高く、光中断で繁殖が容易に制御可能な品種であり、根が一部でも残存していれば容易に再生する。これにより個体数が幾ら増加しようとも、食料が尽きる可能性は殆どないと言える。
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第二章 実験結果
第一節 出現パターン
今回の実験でヒトには、オスとメスで3つずつの行動パターンが見られた。
- パターンA= 支配者的な立ち位置。B・C個体に指示を行い自身が動くことは殆どない。
パターンB= オス種の中で最も個体数が多い。C個体に指示を行うが自身も積極的に行動する。
パターンC= 奴隷的な立ち位置。個体数の変動が最も激しい。
- パターンA= Aオスに追従する。入れ替わりが激しくBメスに対して執拗な攻撃を行う。
パターンB= メス種の中で最も個体数が多い。殆どはBオスと結ばれるが稀にAメスからAオスを略奪する。
パターンC= 奴隷的な立ち位置。Cオスと結ばれるほか、A・Bオスの性欲処理を行う。
第二節 経過フェーズ
今回の実験では計7つのフェーズを経過した(図1)。なお個体数は常に増加傾向にある。
- 全てはB個体に分類される(構築期)。オスもメスも共同してニクムスビの収穫を行う。
- 複数のAオスが出現し縄張りを形成する。Cメスが出現する。
- 安定期に入る。Cオスが出現し、B・C個体がAオスの傘下に入る。
- Aオス同士で争いが生じる。B・C個体も争いに参加する。Aメスが出現する。
- 争いが終息し1体のAオスが箱庭を統一する。争いに負けたAオスはCオスに変化する。縄張り環境が過密に至る。
- 統一を果たしたAオス一族で近親交配が積極的に行われる。これにより有害遺伝子が蓄積する。
- 未知の機序により全ての個体が死亡する。実験はここで終了した。

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第三章 考察
第一節 パターンについて
ヒトが元来有する高い社会形成能力により、支配者層・中間層・被支配者層の段階的格差が生じた。また安定期(フェーズ:γ)以降、Aオスの身体能力は低下傾向にあるが身体的に優位なBオスは反抗行動を起こしていない。この理由についても社会形成能力が関係していると考えられる。社会に属するBオスは、被支配下を脱するための反抗が成功する可能性と、被支配下における自身が子孫を遺す可能性を天秤にかけて被支配環境を選択した。この選択により結果的に社会の存続が達せられる。その一方、Bメスの反抗はAメスからの支配を脱するものではなく、社会内地位の向上である。そのため敵となるのは社会全体でなく、殆どの場合で1個体である。それ故にBオスと異なり反抗が成功する可能性が高く、A・Bメス間では反抗が多分に生じたと考えられる。
C個体は完全な被支配者層であり、縄張りにおいても外側に位置することが多い。実験においてA・B個体にはC個体の無視行動ではなく、むしろ積極的に関わる行動が確認されている。このことからC個体はA・B個体のストレスや性欲の発散といった社会的意味を有していると考えられる。また基本的にC個体は劣悪な生育環境にあるため、一般的なB個体よりも身体能力が劣っている。これによりC個体は反抗を起こすことができず、生存に不利な立場を甘受することとなる。
前述の通り安定期以降、支配者層に位置するAオスの身体能力は低下傾向にある。これは自ら積極的に行動する状況が減少し、縄張りの一部地域に滞留するためであると考えられる。そのため、多くのAオスは自身よりも高い身体能力を有するBオスを引き連れている。なお、入れ替わり争いが多分に生じるAメスにおいて、身体能力の低下傾向は見られていない。
第二節 フェーズについて
本実験では食用生類としてニクムスビを生育させている等、ヒトにとって有用な環境が形成されている。そのため、フェーズ:δ時点において争いが発生するほど資源が不足している状況は確認できなかった。勿論ニクムスビに誘争的な効果は確認されていないため、争いの発生はヒトが元来有する性質によると推測される。
フェーズ:εでは箱庭の統一が為されたが、この時に形成された縄張り環境は、中世ヨーロッパで見られた国家の環境に酷似している。その例示として、前述した殆ど絶対的な身分制度が挙げられる。実験中は攪乱のために度々災害を起こしたが、フェーズ:ε以降はこれまでと異なり最高位のAオス家系が変わることは無かった。最高位のAオスが死亡した場合においても血縁度がより高い個体へと地位が継承されていた。この現象は如何なる試行においても見られたことから、特定の一族が支配者として君臨し子孫に脈々と受け継がれるという現象自体がヒトの本能に由来する可能性が示唆される。
フェーズ:ζは"neo:universe 33"、"neo:universe 56"、"neo:universe 89"、"neo:universe 93"、"neo:universe 115"の5例で確認されている。このことから、これらの試行が特殊事例である可能性は充分にあるが、これまでに8度の再現実験に成功していることもまた事実である。フェーズ:ζに移行する条件は少なくとも、①フェーズ:ε時点における最高位のAオス家系で有害形質を有した仔が産まれ成熟するまで生存すること、②有害形質を有する個体の生殖器官が機能を有していること、③最高位のAオスに追従するB個体がAオスの代替として働けることであると考えられている。

フェーズ:ηに移行する鍵となるのは最高位のAオスである。フェーズ:ζ時点で一定以上の有害形質を蓄積した最高位のAオスが出現した場合、タイプを問わずメス個体は最高位のAオスの元へ集合し性行為を行う。殆どの仔は有害形質により母体内で死亡するが、極々稀な事例として詳細不明の細胞塊(図2)を出産する。細胞塊の出産後、全ての個体が死亡した。死亡個体の位置関係から、細胞塊を中心とした同心円状に死亡現象が進行していると判明している。解明のために箱庭内へ侵入したところ、細胞塊及び全ての実験個体頭部が爆発したために細胞塊の全容は把握できていない。また如何なる個体の死骸にも通常の個体と異なる点は確認できなかった。
フェーズ:ηへの移行が確認されたのは"neo:universe 33"と再現実験における3例のみである。また爆発以前の細胞塊を回収しようとした職員から「細胞塊が僅かに動いた」「細胞塊に見られた」「何かを話した」との報告が為されたが、その真偽は不明である。ただし再現実験の3例において、細胞塊および実験個体は出産後即座に爆発、死亡した。
再現実験を含めてフェーズ:ηに移行しなかった試行では、経過に伴って殆ど全ての個体が生殖行動についての忌避感を示し、漸次的な個体数減少および絶滅が起こった。当実験の全147回の結果から、ヒトが優占する環境が長期間継続すると、何らかの機序により絶滅が誘発されると推測できる。
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第四章 補記
第一節 今後の展望
今回の実験で、ヒト優占環境の長期間継続が絶滅を招くことが判明した。しかしながら、今回の実験ではT-015の技術を利用したため、実際に絶滅が誘発されるまでに必要な期間は不透明である。今後は、その点を明らかにする必要がある。また、現時点で先進国には少子化問題が多分に発生している。少子化問題が、この実験における「経過に伴って殆ど全ての個体が生殖行動についての忌避感を示す」に由来する物であるかは解明するべきだろう。
今回の実験における謂わば"外れ値"には有害遺伝子が多分に関わっている。有害遺伝子は殆ど全ての動的生類に含まれている。そして全ゲノム解析が為されている生類のデータから、しばしば同義置換は為されているものの、その殆どが全動的生類で一致していることも既知の概念である。外れ値ではあるが、私はフェーズ:ηに移行するまでが全て仕組まれたものであるように感じている。この外れ値が何に由来するか、何を意味しているかを明らかにすることが、ヒトにとってのターニングポイントである気がしてならないのである。
第二節 参考文献
松風 昇ほか. 全生類個体数調査. 日本生類創研情報部. 20██, vol.53, no.23, p.7-8.
久能 尚史. John Bumpass CalhounのUNIVERSE実験の是非について. 日本生類会誌. 2002, vol.8, no.6, p.23-27.
小田峰 求. 世代交代促進技術について ─ T-015 "オロスタカ"を事例に ─. 日本生類会誌. 1985, vol.30, no.22, p.9-11.
河村 徹. 新規生類「ニクムスビ」について. JOICLE SynBio. 2010, vol.13, no.3, p.41-47.
八木 信雄. 諸生類の全ゲノム解析. JOICLE DB. 2001, vol.21, no.33, p.112-125.
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