背後に日本政府の強い後押しか
背後には政府のある思惑がかかわっていると思われる。もともと近年、政府はヴェール下で国内の超常企業を育て上げる意向を示していた。その代表が理外研グループである。しかし財団の対政府取引縮小工作もあって、理外研をはじめとする認可団体の企業業績は伸び悩んでいた。
そこで白羽の矢が立ったのが規制対象団体であるはずの日本生類創研である。1970年代に正式に活動を開始した日本生類創研は、当初は異常な生命を研究・開発する非営利団体だった。しかし、資金源の確立という観点から、日本生類創研はやがて開発した製品をヴェール内外の顧客に自ら販売するようになった。
そのため財団とGOCに目をつけられ、規制対象団体となったのであるが、財団とGOCの規制にもめげず成長を続けた結果、その活動は東アジアを中心に世界中に広がり、世界有数の超常製品供給者へと発展した。合衆国国防総省の超常部門であるペンタグラムとも取引を行っていると噂されるほどである。
そこで、日本生類創研を株式会社化し、同時に認可団体とするという発想が生まれた。世界に負けない強い超常経済を求める政府と、より積極的に利益を生みだしたい日本生類創研経営陣の思惑が一致した形だ。これまで、あくまで非営利団体であるという建前を崩さなかった日本生類創研だが、今回の再編によって大手を振って利潤を追求することが可能となる。株式会社プロメテウス研究所亡き後、これほど大規模な超常企業は他にほとんど例がなく、日本政府に莫大な超常的税収をもたらすと試算されている。
GOC"消極的賛成"に五行結社の影
もちろん、JAGPATOは財団とGOCが牛耳っている組織である以上、日本政府の意向だけではどうにもならない。JOICLEの認可団体入りが実現した背景には、GOCの"消極的賛成"があった。
GOCがJOICLEの認可団体入りへの"消極的賛成"に傾いた背景には、五行結社が起こしたZMウイルス・アウトブレイクが挙げられる。GOC極東部門の制止要請をいつものように無視し、日本生類創研のとある施設を強襲した五行結社は、結社に近代的・超常的な防疫の知識が欠如していたこともあり、保管されていたZMウイルスのアウトブレイクを引き起こした。あらゆるフィルター類を通過してしまうZMウイルスの収容作業は財団と世界超保健機関をもってしても困難を極めたが、東弊重工の危機管理チームが作業員全員を一時的に機械化することで事件は収束に向かった。
この事件は日本生類創研の危険性をGOCにあらためて認識させるとともに、"破壊"によって日本生類創研を統制することの限界をも認識させることになった。力推しでの組織根絶は困難であり、実現したとしても多数の超常資産と人員が世界各国にばらまかれる。日本生類創研の成果物に危険なものが多いという傾向によって、その混乱はかつてのプロメテウス・ラボ倒産を超えると予測されている。それよりは認可団体としてのJOICLEに政治的影響をおよぼす方が得策であるとの決断が今回の"消極的賛成"であると思われる。
同時にGOCはJOICLEの株式の10%程度を108評議会構成団体を通じて取得し、"もの言う株主"としても影響力を及ぼそうとしているようだ。財団も同程度をフロント企業を通じて取得する見込み。
財団の抵抗むなしく
JOICLEの認可団体入りに猛反対していた財団は、GOC側の決意が固いと見るや、慌てて日本政府側の各加盟団体の切り崩し工作に走ったのだが、背後にある日本政府の意向は固かった。普段はそれぞれの思惑で動く諸団体が一致団結したのである。これについて有識者は、「財団の理外研グループの対政府取引縮小工作が思いのほか反感を買っていたのでは」と話す。
財団が優等生的立ち位置にあった理外研を追いつめ、問題児である日本生類創研が成長できる余地を作り、それに政府が頼らざるを得なくなった。此度の件はいわば財団の自業自得でありオウンゴールであるといえよう。
そしてJAGPATO加盟に伴ってJOICLEは段階的にヴェール外の顧客への販売を取りやめ、その代わりに政府系の超常組織との取引を正式に認められることになる。これについて財団の関係者の一人は短時間取材に応じ、「マジかよ」とのコメントを残した。
108評議会入りも視野に
JAGPATOの「議席」を手に入れたJOICLEだが、さらなる政治力拡大を目指していると考えられる。そこで聞こえてきたのが、JOICLEをGOCの108評議会に加盟させてしまうという"ウルトラC"だ。JOICLE側はGOCの一角となることで莫大な政治力を手に入れられる一方で、GOC側にはJOICLEに対して完全に統制を効かせることができるはず、といったメリットがある。
過去にあった似たような例として、プロメテウス・ラボがあげられる。財政破綻が目前に迫ったプロメテウスに対して、GOCは108評議会の席を与え、存続に必要な資金を提供する提案を行った。これは実現せず、結果としてプロメテウス・ラボは倒産したものの、いわゆる"要注意団体"に対してGOCがこのような手法をとることはありうるのだ。
日本生類創研の108評議会入りなど冗談ではないという意見が大多数な一方で、五行結社が108評議会をやれてるんだから日本生類創研にできないはずはないといった楽観的な声や、毒をもって毒(五行結社のこと)を制すという半ばやけくそのような声も聞かれた。
疑問視されるコンプライアンス意識
JOICLEへの再編にあたって、有識者から相次いで指摘されているのが、日本生類創研のコンプライアンス意識のなさだ。医療倫理を無視した人体実験、成果物のずさんな管理等の数々。これらは上場企業として問題だという声が次々と寄せられた。
これらの指摘に対し、JOICLEはコンプライアンス室や倫理委員会、危機管理部門を設置するとしているが、これほど大規模になった組織の体質が簡単に変わるのかといった疑問を呈する者もいる。
なお、意外にもJOICLEはGOCの査察・指導にも応じる構えを見せている。上場企業として成果物の管理体制が甘いままだとまずいという判断があるのだと思われる。
東弊重工も後に続けるか
JOICLEの認可団体入りを受けて、注目されるのは東弊重工である。
東弊重工の前身組織である東弊組は、かつて大日本帝国の超常軍事産業の一役を担っていた。しかし、戦後の動乱の中、1946年に創業を開始した東弊重工は、小さな町工場として再出発せざるを得なかった。しかも規制対象団体に指定されたため、表立って政府と取引ができなくなってしまったのである。
東弊重工の製品の中には兵器など大規模な物もあったが、モノは造れても売る相手がいない。その状態が続いた。日本生類創研にならい行った海外事業もそれほど進展せず、その規模は常に日本生類創研の後塵を拝していた。
JOICLEに続き、認可団体入りすることができれば、悲願であった政府系の超常組織の案件を正式に受けることができ、それは東弊重工の飛躍につながるだろう。今後の動向を注視していきたい。
【山ノ手マイケル】
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