新たな卸商を迎えて
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石榴倶楽部 会報

新たな卸商を迎えて

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《御品書》


【向付】
ブドウの七夕盛り





ブドウそのものの味を知ることを目的としているため、今回は調味料などは用いずに調理。ブドウ内部を満たす硝子体をたれに、繊切りにしたブドウと絡ませた膾としてお出ししました。
調理の際に取り除いた茎は、細く割いたものに刻み葱と生姜を添え、素麺として器に盛りつけました。


来る七月十三日、京都は五条にて██氏よりご提供いただいたブドウの試食会を執り行いました。

ありがたいことに、当倶楽部にザクロを提供してくださる方々は多数おられます。██氏もまた、先月よりその一人となられました。小さな牧場を抱える氏が今回お持ちになったのは、ガラス瓶に保管された10粒のブドウでした。星空の味がするという瞳に見た目上の特徴はありませんでしたが、望月のような曇りの無い瞳を見るとそれも真実であるかのように感じられました。

ブドウが会報の主役となるのは久々でございますから、僭越ながらブドウについて、少しばかりお話しさせていただきたく存じます。
ブドウは強膜を除去し、ぶどう膜とその内側のみを頂くのが通常です。強膜はつるりとした舌触りが特徴ですが、食感や食味の面では他部位に一歩譲るためです。多くのブドウ料理には合わないものの、薄く塩味を付けたりお漬物に添えたりしたものは、お酒によく合いますから、捨てる部位は無いと言っても過言ではありません。このブドウという呼称は、強膜を剝いた見た目によるものでございます。
さて、あくまで都市伝説の類ではありますが、ブドウからは生前見た景色の味がするとされています。強膜を除去するという手間があるにも拘わらず数多くの愛好家を惹きつけてやまないのは、その都市伝説の持つ魅力や、ブドウそのものの希少性のためでしょう。

かく言う私も、ブドウに魅入られた一人でございます。初めて口にしたのは、事故に遭った男児のブドウでした。目は口ほどに物を言うという諺は、やはり正しいのでしょう。健康な弾力が溢れんばかりの活力を雄弁に語っていたことを、そしてこれほどに健康な子供が、椿が落ちるように亡くなるという事実に驚いたことを、今でもはっきりと覚えております。また涙の混じった果汁の、舌が竦む後味もまた得難い経験でございます。人は儚く美しい存在であるのだと再確認したあの日、私はザクロとブドウの虜となったのです。

今回の試食会では██氏の御勧めに従い、調味料の類を用いずに調理いたしました。包丁を押し返す弾力は、初めて頂いたブドウのような生前の健康さを、そして██氏の注がれた愛情の深さを感じさせ、大いに期待が膨らませられました。試食会ということもあり、普段よりも品数が少なかったため、ブドウ一粒一粒に心を込めて調理ができたと自負しております。

完成した料理を口に運び、最初に声を上げたのは恥ずかしながら私でした。ブドウの味自体、ザクロと比較すると薄いものです。それにも拘わらず、氏のお持ちになったブドウには確かな味がありました。ブドウとは全く違う味です。初夏の涼風のような爽やかな風味をベースに、花束のような静謐かつ彩り豊かで華やかな味が広がり、最後には紺と青が混ざった黎明の空のような透明感のある香りが鼻腔を抜けていきました。今まで口にしたどのような食材とも似つかない味でした。あれこそが、██氏の仰る星空の味だったのでしょう。一夜を味として再現し、それを10粒も作成するという手間は、畜産には不案内なため皆目見当もつきません。
お素麺は弾力と歯の上でほろほろと崩れる柔らかさを兼ね備えており、仄かに香る星空の風味もまたブドウとは違った魅力を放っておりました。

██氏にブドウの製法をお聞きしたところ、大きな望遠鏡を頭に取り付けた5人の子供たちの写真を見せていただけました。仰向けに寝転がり、点滴に埋まった彼らは、皆██氏のお子様とのことでした。一家が一丸となり同じ目標に向かう姿は非常に感動的で、こうして筆を執っている現在も涙が浮かびます。星空の味を実現する上で超常的な手段も用いておられるのでしょうが、あまり詮索するべきではないでしょう。私たちは地下茎のような信頼関係で結ばれており、具体的な方法は不明であっても、風景の味という青い薔薇を完成させた実績は揺るぎませんから。
現在はありふれた人生の味の栽培にも着手しておられるとのことでしたので、続報に期待したいところでございます。

さて、やや話は前後いたしますが、亡くなった人々の魂が星になるというのは、しばしば耳にする表現でございます。私も幼い頃、母を喪った日に、父より聞かされました。これまでにザクロとして頂いた方々も星となっているのならば、今回頂いたブドウは数多くのザクロを濃縮した一品であったと言えるのではないでしょうか。ブドウの主の人生に加えて、これまでに頂いたザクロとなった人々の魂を味わうこともできるのですから、ザクロの享受を掲げる私たちにとっては正に理想的な食材であるように感じます。貪食は石榴倶楽部の理念には沿いませんが、魂についてはその限りではありません。戦争が夥多な悲劇の上に記録されるように、魂は大量消費によって価値が生まれるのです。

ブドウ   より広く言うのであればザクロをこのように飼育し"出荷"するという行為に対して、美学に反すると仰る方もおられましたが、その品質や味は善美なるものでした。私としては多少雑味のある方が好みですが、それでも再び口にしたいと思えるほどです。

██氏の今後益々のご清栄をお祈り申し上げ、当会報の結びとさせていただきます。

(記・椎名)

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