初期収容時のSCP-0098-JP-J。
アイテム番号: SCP-0098-JP-J
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: その性質上、カバーストーリーによる隠蔽が困難を極めることから、SCP-0098-JP-JはKeterクラスに分類されました。
SCP-0098-JP-Jに感染した人間や物品は、ただちの隔離が推奨されますが、感染速度に対応が追いついていないのが現状です。O5評議会では現在、SCP-0098-JP-JをExplained指定にすべきか否かの議論に入っています。
説明: SCP-0098-JP-Jは影響を受けた物質の物理的・化学的性質を著しく変貌させる異常現象です。主に接触によって感染が拡大します。
SCP-0098-JP-Jは目下未収容であり、封じ込めは理論上不可能です。オブジェクトは2026年5月28日、日本国大分県中津市の「スーパーなかぞの」本耶馬渓町冠石野店で販売されていた██製菓のポテトチップスを起点に、世界各国へ拡散しています。
第一発見者であるエージェント・シュルツは、SCP-0098-JP-Jがカビや焦げ、斑入り、光合成の実験、別件で進行中の収容インシデント1に伴う石油系着色料の削減など、さまざまな推論を展開しつつも、勿体なさを理由に当該ポテトチップスを摂食。オブジェクトによる変質が発生したため、母親であるアデーレ・シュルツ博士が通報し、異常性の発覚に至りました。
補遺0098-JP-J-1:
諸君、我々はまた失敗しつつある。SCP-0098-JP-Jの影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになりかけている。空の不自然な青は上品で自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく清められた。SCP-0098-JP-Jは今や、半数以上の物質の可視スペクトルに、SCP-8900-EX以前への回帰をもたらした。ここまでなら、"災い転じて福となす"というやつで、財団としては大団円で終わったかもしれないな。
されども、しかし。事はそう上手くいかないものだ。
SCP-0098-JP-Jは……厄介なおまけとして、感染したものにイカスミの風味まで付けてしまったのだ。味覚センサーの計測によると、味はコウイカ(Sepia esculenta)の墨に近いそうだ。いいや、ダイオウイカの墨だったら良いというような話ではないぞ。
まだ事態を飲み込めていない大馬鹿……幸運な者は、感染が進んだ本報告書を一度、ペロッと舐めてみてほしい。きっと、出汁の効いた塩気とほろ苦さを感じ取れるはずだ。
味覚にだけ正反対の影響を及ぼす"ワクチン"を作る試みも、また失敗した。正常な味蕾みらいを復元するどころか、感染部から今度はタコスミの味を感じ取れるようにしてしまった。「うま味が強い分、イカよりマシだ」と、被験者のミリアムはフォローしてくれたものの、これからの生涯ずっと、悪魔の化身をしゃぶり続けることを思うと、敬虔な私は涙を禁じ得なかったよ。
さて……いま、我々にはたった一つの選択肢が残されている。諸君、私は財団の最終フェイルセーフ手段、アンニュイ・プロトコルを実行したいと考えている。
記憶処理薬ENUI-5の大量散布だ。かような恐怖を味わうべきでない世界中の男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう。この現象が常に存在していたと確信し、何が変わったかを決して知らないまま。濃厚なイカスミの空気を肺に溜めたり、イカスミの混じったフルーツタルトに苦しめられることは、もうない。
何としても、いち早く、やり遂げねばならない。
— O5-8.
確保、収容、保護。
しかしなあ、エイト……こちとらカタルーニャの生まれだが、イカスミのパエリアはどうなる?ENUI-5は万能薬じゃない、記憶改変の及ぶ範囲が不確実だ。この世で一番旨い食いもんを台無しにしちまうかもしれん。万が一そうなったら、お前をサグラダ・ファミリアの建材にして、完成を3日早めるからな。
— O5-4.
私も、サイゼのイカスミパスタ2が消えるのは人類文明の損失だと思います。再考をお願いします。
— O5-3.
んな悠長なこと言ってる場合じゃあないんだよ。
空。複雑で奥深いハーモニーを持つイカのエッセンス。大気中に染み出しており、微かな生臭さを伴いながら、鼻腔から口腔へと静かに流れ込んでいく。
雲。クリーミーでマイルドな口当たり。イカスミとしてはやや甘さが目立つものの、ふんわりとした軽やかさが特徴。
ヒトの足。個体差はあるが、おおむね十分に熟成されたコブシメを思わせる味。
太陽。高密度かつ強烈なイカスミの塊。地球から1億5000万km地点で賞味したところ、口腔から脳髄へ直接灼き付けるような暴力的な旨味を確認。
口吻。ふわりと広がる柑橘を思わせる甘酸っぱさ。イカスミのベースに優しい果実の香りが溶け込んだ、すうっと消えて無くなりそうな、繊細な味わい。相互評価。
口吻。舌の上に深く、重く残り続けるコク。イカスミ特有の生臭さと旨味が長時間にわたり染みつき、別れてもしばらく引き摺る爪痕を残す。相互評価。
湖面。粘液質の冷たい塩気の中に、突き刺すような苦味が潜む。冷涼でありながら重厚なアフターテイストが長く続き、水面下の深遠な味わいを想起させる。
総員、司令部に籠ってないで表へ出るように。外の惨状に触れれば、たちまち考えも変わるだろうさ。
— O5-8.
補遺0098-JP-J-2: 暗闇は生物におけるSCP-0098-JP-Jの症状悪化を助長することが判明しています。深夜1時に司令部屋上に出たO5達は、消化不良により医療ユニットへ搬送されました。


