SCP-2073-JP
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SCP-2073-JP(収容以前に撮影)

アイテム番号: SCP-2073-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-2073-JPはサイト-81-109の特殊人型オブジェクト収容セル内に収容されます。SCP-2073-JPの取り扱いは標準人型オブジェクト取り扱い手順に準拠します。SCP-2073-JPの異常性に変化が見られた場合、収容違反の阻止と機動部隊の派遣が実施されます。

SCP-2073-JP-Aは回収され次第、研究チームにより所定の検査を受けた、非異常物品収容ロッカーに必要な処理を施したうえで保管されます。

説明: SCP-2073-JPは日本人男性である小浦 孝氏(収容当時29歳)です。SCP-2073-JPに身体的・精神的な異常は確認されていません。また、収容後に行われた各種検査の結果、総合的なスコアは同年代の日本人男性の平均値を2%ほど上回る結果を示しています。

SCP-2073-JPは複数の異常性を有しています。しかしながら、SCP-2073-JPにこれらの異常性を制御する能力はないものとされています。また、収容環境下での言動から、SCP-2073-JPは自身の異常性に対する自覚を有していないものとされています。

SCP-2073-JPの第一の異常性は、SCP-2073-JPの元交際相手である広瀬 美咲氏を名乗る存在から、SCP-2073-JPの所持するスマートフォン1へ不定期にLINEが送信されるというものです。送信元を特定する試みは不明な理由によって全て失敗に終わっています。

SCP-2073-JPの第二の異常性は、毎日午前2時2にSCP-2073-JPの周囲5m以内に非異常性の物品(SCP-2073-JP-Aに指定)が出現するというものです。出現する物品はSCP-2073-JPに関連するものとなっています。これらの物品が出現するメカニズムは判明していません。


補遺2073-JP.1: 発見

SCP-2073-JPは収容時、非異常性の交通事故により地元病院に入院していました。この時点で両親は既に他界していたことが判明しています。SNS上に「死んだはずの彼女からLINEが送られてくる」と投稿したことを財団ウェブクローラが検知したことが注意を惹き、身柄を確保、財団医療施設に移送されました。以下は初期収容時に実施されたインタビュー記録の一部抜粋です。

インタビュー記録 2073-JP #001
Record 2015/08/23


インタビュアー: 岳研究員

対象: SCP-2073-JP

付記: 収容や当インタビューに際し、オブジェクトの警戒を解く目的から、岳研究員は刑事であり、サイト-81-109は治療施設である旨の欺瞞情報が与えられています。


«記録開始»

岳研究員: では、美咲さんからLINEが送られてきたのはいつからか教えてもらってもいいですか?

SCP-2073-JP: [沈黙] 分かりました。ええと、美咲が事故で死んだ時からです。俺に事故の記憶は無いんですが、確かその時からだったと思います。

岳研究員: そのLINEの内容はどんなものだったか見せてもらってもいいでしょうか?

SCP-2073-JP: いいですよ。 [スマートフォンの画面を見せる] 見えます?こんな感じのLINEがよく送られてくるんです。

岳研究員: [SCP-2073-JPのスマートフォンに写し出されたLINEのメッセージ画面を見る。メッセージ欄には「えへへ、死んじゃった。ごめんね」「いつでも見てるよ。愛してるから」と記述されている] なるほど、これですか。誰かのイタズラではないのですか?

SCP-2073-JP: いや、イタズラでは無いと思います。

岳研究員: イタズラでは無いと思う理由を教えてくれますか?

SCP-2073-JP: LINEが送られてくるようになってから、朝起きるといつもベッドの横に段ボールが現れてるんです。中身は花だったり俺の好きな雑誌だったり、ちょっと怖くて……。

岳研究員: 分かりました。大丈夫です。安心してください。我々はそれらを何とかする方法を有しています。一緒にその方法を見つけましょう。

SCP-2073-JP: ありがとうございます。

«記録終了»


終了報告書: 職場などの関係者にはSCP-2073-JPが死亡した旨の疑似記憶の植え付けと、標準的な隠蔽措置がとられました。スマートフォンは修繕を理由に没収され、SCP-2073-JPには低レベルの記憶処理剤が投与されました。また、広瀬氏の身元調査を行った結果、事故以降行方不明になっていること、広瀬氏の家族によって警察機関へ失踪届が出されていることが明らかになりました。広瀬氏の捜索のため、財団エージェントが警察機関へ派遣されました。


補遺2073-JP.2: SCP-2073-JP-A出現記録

以下は、現在までに出現したSCP-2073-JP-Aの包括的リストの一部抜粋です。家宅捜索の結果から、SCP-2073-JPが各物品と同一の物品を多数保持していたことは確実であるとみられています。リストの完全版については別紙(付属資料.1)を参照してください。

物品No. 概要
SCP-2073-JP-A-1 段ボールに梱包されたCD。調査により、SCP-2073-JPの愛好するミュージックアーティストのものであることが明らかになっている。
SCP-2073-JP-A-13 █████████3の革靴。証言の内容から、SCP-2073-JPが誕生日プレゼントとして渡されたものと同一のものであると推定される。
SCP-2073-JP-A-25 「好きです。付き合ってください」と書かれた手紙。筆跡鑑定の結果は、広瀬氏のものと一致した。
SCP-2073-JP-A-31 青色の毛糸で縫われたマフラー。2014年のクリスマスに広瀬氏が作成したものとSCP-2073-JPは証言している。


補遺2073-JP.3: 収容初期のインタビュー

以下は、SCP-2073-JP収容初期のインタビュー記録の一部抜粋です。SCP-2073-JPは肉体的には回復していましたが、広瀬氏の生存を悲観視していたためか、軽度の抑うつ傾向が確認されていました。

インタビュー記録 2073-JP #002
Record 2015/09/02


インタビュアー: 岳研究員

対象: SCP-2073-JP


«記録開始»

SCP-2073-JP: ああ、もう、何から何まで申し訳ないです。俺の記憶喪失の治療のために尽くしてくれて、感謝してます。

岳研究員: いえ、我々は真相究明のために動いているだけですから。

SCP-2073-JP: [沈黙] 刑事さん。美咲は何故、俺にプレゼントを贈り続けていると思います?

岳研究員: それは我々にも分かりません。しかし、彼女が貴方との思い出に拘泥しているのは推定できます。

SCP-2073-JP: そう、ですね。 [沈黙] 勝手な考えなんですが、美咲は実は、俺のことを呪っているんじゃないでしょうか。

岳研究員: 何か、そう思わせる要素があの物品群にあるということですか。

SCP-2073-JP: いえ、その、ただの勘なんですけど。あのCDやマフラーは確かに俺が受け取ったもので、大切な思い出ですが。実は、彼女と付き合っていた時期、俺は一度浮気しているんです。

岳研究員: そうだったのですか?

SCP-2073-JP: ええ、お恥ずかしいことですが。美咲と一緒にいても、どっか満たされないというか、空しいというか。そんな気持ちになってしまって。実は、彼女も付き合っていた元彼がいたんですよ。

岳研究員: お互いに別のパートナーが居たと?

SCP-2073-JP: ああ、ごめんなさい、そういう意味じゃないです。美咲は一途でしたよ、元彼を振って俺と付き合ってくれたんですから。でも俺は、そんな彼女を裏切っていた。それを見透かされていたんじゃないかと、怖くなってしまって。

岳研究員: 差し支えなければお聞きしたいのですが、貴方の浮気相手は、どんな人だったのですか?

SCP-2073-JP: さあ、どんな人だったんでしょうねえ? [笑い] ああ、すみません、ふざけてるわけじゃないんです。俺、人を愛したり愛されたりって感覚が、よく分かんなくって。浮気相手と言っても、出会い系のアプリで知り合った女で、本名も知らないような相手ですよ。何度か会って、飽きて別れて、また気が向いたときに会って。そんな繰り返しでした。

SCP-2073-JP: 美咲は確かに、俺に色々なプレゼントをくれたり、尽くしてくれました。でも、モノを与えたからって愛情があるということにはならないでしょう。どんなに付き合っていても、お互いに心が通じたような気がしていても、どこかウソのような気がしてしまって。そういう空しさが、俺を浮気に走らせたのかも知れません。

岳研究員: 成程……。広瀬さんからのプレゼントは、貴方にとって心地よいものではなかったのですか?

SCP-2073-JP: いえ、そういうわけじゃないんです。ただ、 [沈黙] それを愛だと素直に受け取れない、自分自身が嫌だっただけです。

«記録終了»


終了報告書: 広瀬氏に対する追加調査により、氏と以前交際関係にあった男性が発見されました。SCP-2073-JPの過去調査の一環として、男性に対してインタビューが実施されることとなりました。


補遺2073-JP.4: 関係者へのインタビュー

インタビューを基とした追加調査によって、広瀬氏の元交際相手である井口 佑氏が発見されました。井口氏は地元金融機関で営業担当をしており、広瀬氏の行方を独自に捜査していたことが明らかになっています。

インタビュー記録 2073-JP #003
Record 2015/09/17


インタビュアー: エージェント・百瀬

対象: 井口 佑氏


«記録開始»

井口氏: 警察の方が僕に何のご用ですか。何もやましいことはしていませんよ。

エージェント・百瀬: 忙しい時にご同行いただき申し訳ありません。広瀬さんの遭われた事故について調査しております。何か知っていらっしゃいますか。

井口氏: [身を乗り出す] ちょっと待ってください。調査してるってことは、やっぱりただの事故じゃないんですね?

エージェント・百瀬: すみませんが、捜査上お伝えできないこともあります。

井口氏: いや、言わなくていいっすよ。小浦ですよね? [罵倒] 。何故かあいつだけ事故死したことになってるみたいですが。わざとやったんじゃねえのか。彼女を道連れにしやがって。

エージェント・百瀬: 小浦さんがどのような人物であったか御存知でしたか?

井口氏: 御存知ですかって、それを知ってて僕を呼んだんじゃないんですか?まあ、いいです。僕の望みはひとつ、たとえ死んでいるとしても、奴を裁いていただきたいんですよ。美咲が奴のせいで死んだとしたら、絶対に許せません。僕は小浦に、二度も美咲を奪われたことになるんですから。

井口氏: 奴は彼女の同僚でしてね。と言っても派遣社員で、彼女をサポートする部署に配置されていたんです。女好きという噂があったらしく、彼女からは「ちょっと変だけど、面白い人」だと聞かされていました。こんなことになるなら、当時から注意しておくべきだったです。

井口氏: 美咲は、休憩時間や仕事終わりとかに、奴からしつこいアプローチを受けていました。彼氏がいるんだと僕の写真を見せても、奴はお構いなしだったそうです。セクハラだから通報しろよ、と言っても、彼女は聞いているんだか聞いてねえんだか…… [沈黙] 今思えば、その時既に彼女は奴に絆されてしまっていたのかもしれません。

井口氏: それからしばらくして、美咲から電話で別れ話を切り出されました。何故だ、小浦より僕の方がずっと収入も多いし、君とは結婚を前提に真摯に付き合ってきたはずだ、と言っても、とにかく別れたいの一点張りで。僕もついカッとなって、電話を切ってしまいました。その後はLINEもブロックされて、それきりでしたね。 [嗚咽] せめて最後に一言、彼女に謝っておきたかったです。

エージェント・百瀬: 大変貴重な情報をありがとうございます。他に何か、広瀬さんと小浦さんについて不審に感じた点などはありませんでしたか?

井口氏: 不審な点、ですか。僕にとっては最初から納得いかないことだらけですが…… [数秒思案] ひとつ、腹の立ったエピソードがありますね。しょうもない話でして、捜査の御役には立たないかも知れませんが。

エージェント・百瀬: いえ、是非とも教えてください。

井口氏: きもいんですよ、小浦の奴。男のくせに、美咲に何度もプレゼントをねだっていたそうなんです。靴を買って欲しいとか、ラブレターとかくれないの?とか。冗談のつもりだったんでしょうがね。

«記録終了»


終了報告書: 井口氏は記憶処理剤を投与した後に解放されました。


補遺2073-JP.5: 事実確認

以下のインタビューは、井口氏に対する聞き取りの際に得られた情報の内容を裏付ける目的で行われました。

インタビュー記録 2073-JP #004
Record 2015/09/23


インタビュアー: 岳研究員

対象: SCP-2073-JP


«記録開始»

SCP-2073-JP: そうですか、元彼がそんなことを。まあ、彼にとっては俺は憎んでも憎みきれない相手でしょう。恨まれてもしょうがないことをしたと思います。

岳研究員: 貴方から広瀬さんにアプローチしたことや、プレゼントをねだったことは事実なのですか?

SCP-2073-JP: そうですね、だいたいその通りです。そんなにしつこく迫ったつもりは無いんですけどね。彼女からすれば、彼氏持ちなのに付き合ってくれーとか言ってくる時点で、うざいなーと思うのは当然だと思います。結局美咲は、俺の方を選んでくれたわけですが。

SCP-2073-JP: プレゼントについては、以前も言いましたけど、何か彼女の愛の証明になるものが欲しかったんです。大切な思い出として、愛情を保証するものとして。でも、俺の心はあまり満たされませんでした。所詮、モノでは何も示したことにはならない。本当の愛ってやつが、俺にはどうしてもよくわからないので。

岳研究員: 成る程。しかし、これは私の勝手な考えですが、彼女は死してなお貴方にプレゼントをくれるわけです。これは純粋な愛情の表現ではないでしょうか?

SCP-2073-JP: そ、そうなんでしょうか?正直、色々な意味でちょっと怖いですけど。

岳研究員: 確かに、貴方は彼女と付き合っても変われなかったのかもしれません。でも、彼女は貴方に愛というものを理解して欲しいと願っているのではないでしょうか。あのプレゼントは、その現れであるように思います。

SCP-2073-JP: [沈黙] 確かに。死んでからもプレゼントをくれるというのは、俺にはとても出来ない発想です。彼女の強い気持ちを感じます。

岳研究員: もしかしたら、貴方の認識が変われば、プレゼントやメッセージは届かなくなるかも知れません。

SCP-2073-JP: [沈黙] 成る程。刑事さん、俺にあのプレゼントを確認する時間をくれませんか。もしかしたら、そうすることで彼女の気持ちを理解出来るかも知れない。最近は先に皆さんが回収しているでしょう。俺が確かめたら、ちゃんと証拠としてお渡ししますから。

岳研究員: 了解しました。上司と相談させていただきます。

SCP-2073-JP: ありがとうございます。遅すぎたかも知れませんが、俺も理解したいんです。彼女の愛情の正体が何なのかを。

«記録終了»


終了報告書: 収容担当チームによる検討の結果、SCP-2073-JP-AをSCP-2073-JPの確認後に回収するプロトコルが承認されました。プロトコル変更の結果、SCP-2073-JP-Aの出現頻度の低下が認められ、現在の出現は3日につき2回程度まで減少しています。SCP-2073-JPに対する定期カウンセリングは、いずれも肯定的な結果を示しています。


補遺2073-JP.6: 広瀬氏の発見

2015/10/06に広瀬氏が発見されました。発見当時、広瀬氏は県外の██████病院に昏睡状態で入院しており、原因は非異常性の頭部挫傷であることが確認されました。身分証明書などの所持品が全て失われていたため、地元警察は氏の身元を特定できていませんでした。担当医師によると、広瀬氏が覚醒するかどうかは非常に流動的であると推定されています。この事実について、SCP-2073-JPに対してインタビューが行われました。

インタビュー記録 2073-JP #005
Record 2015/10/07


インタビュアー: 岳研究員

対象: SCP-2073-JP


«記録開始»

SCP-2073-JP: [嗚咽] すみません、折角美咲が生きていてくれたというのに。

岳研究員: 無理もないですよ。本日のインタビューは中止しますか?

SCP-2073-JP: いえ、続けさせてください。俺の記憶も、もしかしたら戻るかも知れませんし。

岳研究員: わかりました。では改めてお聞きしたいのですが、広瀬さんと貴方が遭った事故について、何か思い出したことはないですか?

SCP-2073-JP: 美咲は、 [沈黙]

岳研究員: 小浦さん?

SCP-2073-JP: [20秒の沈黙の後、突如呻き声を上げ、頭を押さえつつ、失神する]

岳研究員: 小浦さん?しっかりしてください。 [舌打ち] おい、医療班を。

[SCP-2073-JPは近傍の医務室へ移動するが、程なくして意識を取り戻す。インタビューは後日実施される予定だったものの、SCP-2073-JP自身の強い要望により30分後に再開された]

岳研究員: 大丈夫ですか、小浦さん。

SCP-2073-JP: [呻き声] ええ、大丈夫です。すみませんでした。 [沈黙] 下らない演技じゃないですよ。思い出したんです、今、全てのことを。

岳研究員: では、事件の記憶が蘇ったと。

SCP-2073-JP: はい。 [涙を浮かべる] 本当に申し訳ありませんでした。殺すつもりはなかったんです。

SCP-2073-JP: あの時、俺は美咲とドライブしながら、ちょっとした口論になってしまいました。例の出会い系アプリを使っていたことがバレて、どういうつもりなのかと問いただされたんです。美咲に言われました。『貴方には愛情などない』と。

SCP-2073-JP: 俺はイラッとしました。彼女は結局、俺の本当に欲しかったものをくれなかった。形だけの愛だったのはお前も同じだろうと思ったんです。俺は声を荒げて反論し、彼女を車の中でどやしつけました。

SCP-2073-JP: 怯えた美咲は、警察へ通報しようとしました。焦った俺は、運転をミスって、ガードレールに車を激突させてしまいました。彼女はシートベルトを付け忘れていたらしく、フロントガラスに激しく頭を打って、失神してしまいました。俺はそれで、彼女を殺してしまったと思い込んだんです。

SCP-2073-JP: 俺はパニクりました。とりあえず、このまま走っていたら警察に捕まる、もしや既に通報されたのでは?と思うと気が気じゃありませんでした。そこで、彼女の所持品を全て奪い取って、着の身着のまま道路に放置しました。それから大急ぎで逃げる最中、自分も事故を起こしてしまったんです。

岳研究員: なるほど。確かに、事故の状況証拠と矛盾はありませんね。

SCP-2073-JP: [嗚咽] 愛されたかったんです、どうしても。彼女に好きだと言って欲しかった。俺は……俺は愛してくれる女なら誰でもいいと最初は思っていました。美咲は、たまたま顔が好みだったから目を付けただけなんです。でも、彼女のことを知る内に、自分が本気で彼女を愛していたことに気づきました。

SCP-2073-JP: 俺は彼女から愛されてると思いたかった。その証明になるものをずっと探していました。でも、結局は何ひとつ美咲のことを分かっていなかった。俺が彼女を殺したも同然です。 [嗚咽] いっそ、俺も死んでしまいたい。

岳研究員: 事故の真相が完全に明らかとなるまでは、それは許可できません。そして、貴方は我々とともにここに残って頂きます。少なくとも、その不思議な力が無くなるまでは。

SCP-2073-JP: ええ、これが俺に与えられた現実です。俺は、確かに受け取りました。

«記録終了»


終了報告書: 追加インタビュー以降、SCP-2073-JPは重度の抑うつ状態にあり、持続的な希死念慮を防ぐためのカウンセリングと投薬が続けられています。本インタビュー以降、新たなSCP-2073-JP-Aはは出現しておらず、財団分類委員会はNeutralizedクラスアノマリーへの再分類とSCP-2073-JPの解放についての審議を行っています。

現在、広瀬氏の容態は回復傾向にあり、財団の指名したパラテック医療の知識を持つ専門医が治療を担当しています。意識を取り戻し次第、必要な事情説明とインタビューが実施される予定です。


補遺2073-JP.7: インシデントレポート2073-JP

警察機関の協力を得て行われた徹底した追加調査により、自動車事故がガードレールへ故意に激突した結果である疑いが高いこと、事故現場から数mほど移動した道路脇に広瀬氏が放置されていたことが明らかになりました。

また、広瀬氏の友人への聞き取りにより、広瀬氏が大学時代に一度男性ポルノ動画作品に出演していたこと、その事実を知ったSCP-2073-JPにより交際を強要されていたことが明らかになりました。広瀬氏は友人に対し、SCP-2073-JPと別れる方法を数十回以上に渡って相談していたことが判明しています。

上記の事実が判明した2015/11/23、広瀬氏は多臓器不全によって死亡しました。広瀬氏の容態が急激に悪化した理由は担当医にも判断できませんでした。交際強要の裏取り調査も含めて、SCP-2073-JPへ尋問が実施されました。

インタビュー記録 2073-JP #006
Record 2015/11/23


インタビュアー: 岳研究員

対象: SCP-2073-JP


«記録開始»

SCP-2073-JP: 刑事さん。どうしましたか、嫌なことでも?

岳研究員: 大変申し上げにくいのですが……広瀬さんが亡くなられました。

SCP-2073-JP: [沈黙]

岳研究員: 心中お察しいたします。しかし、数点お伺いしたいことが──

SCP-2073-JP: ああ、やっぱり。

岳研究員: はい?

SCP-2073-JP: いえ、やっぱり俺は愛されているんだなあ、と。 [笑み]

岳研究員: すみません。話が掴めません。

SCP-2073-JP: [興奮して] 言ってなかったか。美咲を殺したのはね、俺なんですよ。むかついて、思わず一緒に死んでやろうって。だってこっちはあんなに愛してたのに、ちゃんと愛し返してくれない気がしましてね。 [笑い] 今思えば思い違いだったんですが。

岳研究員: それは、自分のものにならないと思ったから殺してしまった、ということですか?

SCP-2073-JP: え?いやいや、そんな難しい話じゃなくて。やばいですよ、自分のものとか。人はモノじゃないんですから。 [笑い] あのね、愛を返してくれないって、俺を馬鹿にしてますよね。それでカッとしちゃって、つい。ほら、ありますよね。愛してるからこそ許せないみたいなことって。

岳研究員: 愛を返さないことが、馬鹿にしていることになるんですか?

SCP-2073-JP: いや、普通に考えてくださいよ。親は子供に愛情を注ぐでしょ?だから子供も親を愛して、老人ホームの高い金払うんですよね。愛をちゃんと注げば愛が返ってくるんですよ。ほら、虐待とか、ああいうのは愛するってことに欠損があるから起こっちゃうと思うんです。だからちゃんと返してくれないと、俺がまともに人を愛せてないみたいじゃないですか。

岳研究員: それが広瀬さんがあなたを愛しているということにどう繋がるのですか?

SCP-2073-JP: ほら、俺が美咲を殺しちゃったのは、ちゃんと愛してたからなんですよね。じゃないと、こんなことで怒らないし、それに一緒に死のうとか思わないですよね?

岳研究員: ちゃんととは?

SCP-2073-JP: [遮って] でも美咲は、運悪く死にきれなかったわけです。美咲も悲しかったと思いますよ、俺の愛をちゃんと受け取れてないってことですから。それで改めて死んでくれたんですよ。命で愛を証明してくれたんです。あれ、え、なんか変なこと言ってますか?

岳研究員: そもそも愛していたからといって、殺したことが正当化されるわけではないでしょう。

SCP-2073-JP: ん?愛してるってのはわかってくれたんですよね?だから許されるとか許されないとか [笑い] 本気で言ってます?ドラマとか見たほうがいいですよ、愛の力ってすごいんですよね。社会のくだらないルールとか、関係ないくらい。

岳研究員: そんなことは── [岳研究員のポケットに収納されていたSCP-2073-JPのスマートフォンから音が鳴る]

[スマートフォンには広瀬氏からのLINEの着信があり、「孝、愛してる」とのメッセージが百二十件連続送信されている]

岳研究員: これは。

SCP-2073-JP: ああ、よかった。ほら、ちゃんと愛せてたんですよ、俺。 [笑い]

«記録終了»


終了報告書: 再調査の結果、SCP-2073-JPがプレゼントであると証言していた物品群は、全て自身が購入したものであったことが明らかになりました。また、広瀬氏がSCP-2073-JPに対して手紙などを送っていた証拠は発見できませんでした。

インシデント以降、SCP-2073-JPの異常性が再度発現したことが確認され、SCP-2073-JPは特別セキュリティ収容房へ移送されることとなりました。オブジェクトクラス変更は白紙化され、SCP-2073-JPに更なる異常性の変化が発生しないかについて、慎重な観察が継続されることとなりました。

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