クレジット
タイトル: SCP-2297-JP - 自己内患
著者: Hoojiro_san
作成年: 2026
⚠️ コンテンツ警告: この記事には自殺行為、虚無主義、鬱的傾向、希死念慮に関するトピックが含まれております。心臓の弱い方は閲覧をお控えください。
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SCP-2297-JPの発生が確認されたJR真秀駅の青色防犯灯(2008年撮影)。
特別収容プロトコル: サイト-81DSは脱出後のSCP-2297-JP曝露者(以下曝露者)の後遺症の検査を目的とした夢界走査と事後処理を担当します。奈良県内の民間の心療内科に潜入している近畿共同ネットワーク(KJN-KD)の職員は、SCP-2297-JP-Aと推定される症状を報告している患者を捜索し、財団の影響下にある治療施設へ誘導します。暴露者の夢界走査結果に応じて81DS職員は催眠と暗示を介し、曝露者が体験したSCP-2297-JP-Aが個人差のある別個の悪夢であるとの誤情報の刷り込みを行います。
Nx-87-A("真秀市"1)に地方分局を置く財団フロントシンクタンクである社会慈善・社会貢献研究所(Institute for Social Charity and Philanthropy)は青色防犯灯の犯罪抑止効果を否定する学術論文を一般社会に喧伝することで、財団がSCP-2297-JP発生源である青色防犯灯を撤去して従来の白色街灯に置き換える収容工作を正当化します。また、同シンクタンクは曝露者の悪夢が特殊な波長の青色光による光過敏性発作に起因するという論説を流布し、同論説に批判的な学者は財団による偽装工作の対象となります。
説明: SCP-2297-JPは2005年以降真秀市全域で発生している、青色防犯灯の異常な発光現象です。SCP-2297-JPは強いストレスを感じている任意のヒトが青色防犯灯の照射範囲に入ると稀に発生します。SCP-2297-JPが発生すると曝露者は瞬間的かつ過剰な青色光2の光刺激を知覚します。同時に曝露者は基底現実から瞬時に消失し、SCP-2297-JP-A内部に転送されます。
SCP-2297-JP-Aは時間帯が夜明け頃で固定された都市圏の形態を取る夢現空間3です。夢現空間であるため、SCP-2297-JP-Aは夢界でありながら、有人探査および通常のカメラでの夢イメージ投影が可能です。SCP-2297-JP-A内部では、被験者の外観は通常の夢見時4と異なり、基底現実における曝露者の身体的特徴とほぼ合致した形態を維持します。SCP-2297-JP-A内部には通常の夢界で見られるような夢界実体は現在まで一切確認されていません。SCP-2297-JP-Aから覚醒した曝露者の全員が内部での自殺直後に基底現実に再出現した旨を報告しており、SCP-2297-JP-Aにおける既知の脱出手段は自殺行為のみであると推測されています。なお、財団が把握する中で曝露者が基底現実に復帰するまでの最長時間は5分48秒で、最短時間は約1分です。財団の検証実験においてSCP-2297-JP-A内での体感時間は、最低でも基底現実の約5.8×103倍と計測されています。
補遺1: SCP-2297-JP-Aの詳細な空間構造の把握を目的として、有人探査が計画されました。しかしながら81DS職員の中から条件に合致する高ストレス者を発見できなかった為、専門技能を持つ民間組織『夢探偵社"つくよみ"5』所属の黒塚氏が抜擢されました。サイト地下部に設置された実験用青色防犯灯によってSCP-2297-JPが発生し、黒崎氏はSCP-2297-JP-Aに転送されました。以下は探査記録の抜粋です。
探査記録: SCP-2297-JP-A
日付: 2010/10/27
対象: 黒塚 真一
備考: 黒塚氏には探査中の思考内容をすべて発話にて録音することを指示しています。また、夢現空間の性質から本人の精神状態に応じて非客観的な表現が反映される場合があります。
<転写開始>
黒崎氏: あー。マイクテスト。
黒崎氏: 黒塚 真一、28歳。今回の仕事はこの夢を探索することですと。基本的な情報以外に夢から出る方法も思い出せず全体的に記憶が朧気だ。
黒崎氏: まあいい。この年で"自分探し"は嫌になるが、ぼちぼち思い出しつつ探索するしかないな。どうせ、この世は不条理ばかりなんだし。
黒崎氏: しかし…いつもの夢は心地よい浮遊感が癖になるんだが、どうもここは変に地に足が付いて妙な現実感が拭えない変な感じだ。
[周囲を軽く見渡して視界に収める。]
黒塚氏: ん?
[黒塚氏は自身のズボンのポケットを弄り不明な小物を取り出す。ピントが合うにつれてそれは不明な銘柄の紙巻き煙草1箱であることが判明する。実験前の黒崎氏は該当する物品を所持しておらず、SCP-2297-JP-A内で生成された物品だと推定される。箱の正面には青みがかった月の衛星写真がプリントされている。]
[黒崎氏はタバコのパッケージに記された文字を、指の腹でなぞりながら声に出す。]
黒塚氏: 『Moon-Blues』『No fire required』ねぇ。貰える物は有難く吸わせて貰うぜ、また随分と大きなお月様よ。
[黒塚氏が所持しているカメラが上空に向く。SCP-2297-JP-Aの上空には基底現実の推定20倍と考えられる巨大な月が浮かんでいる。様相は一般的な月の衛星写真に近似しており、SCP-2297-JP-A内部の地形や建築物の輪郭が不鮮明であるのと比較して優位に鮮明である。]
SCP-2297-JP-Aの空。
黒塚氏: うーん?あの鉄塔、動いてるっぽいな。瞬間移動した先に自分が巻き込まれたらどうなるか、考えたくもない。
[黒崎氏の視界には複数の鉄塔が映るが、空間の不安定性から設置場所が不定期に変動している様に観察される。時折近隣の建造物の屋上に鉄塔が聳えている様子も目撃される。黒塚氏は鉄塔を迂回しながら付近のマンションらしき建築物に近寄る。]
黒塚氏: おいおい、全部コンクリートかよ。変なハコモノ建築だな。とりあえず中に入ってみるか。
[マンションらしき建築物は1980年代のブルータリズム様式に近似している。建築物の外観から見える窓ガラスは全て割られており廃墟のように見える。黒塚氏はドアが外された部屋群を1部屋づつ念入りに確認するが僅かな家具の残骸らしき物体以外目ぼしい物品や家具なども存在しない。]
[黒塚氏がマンションの4階の外通路を歩いている最中、通路が大きく抉られる形で破損しており通行不能な箇所に遭遇する。破損跡は不明な大型侵略者あるいは軍事的攻撃により生じたものと推定される。]
マンションの外通路。
黒塚氏: これは酷く壊されてるな。戦争による被害か…あるいはドデカい化物が暴れたか。思い出したくもなかったな。そうだ。他人の夢に潜って調査する探偵業務の中で化物に出くわすこともあった。それでも、他人の無防備な夢を探る仕事しか生きる道を見付けられなかった俺は、苦しい現実社会で仕事を見付けられなくて。だから今、自分はこの夢の中にいるんだ。
[黒塚氏は回り道をしてマンションの屋上に辿り着き、見たところ地平線の彼方まで茫漠に続く市街地を眺めて蹲る。黒崎氏はポケットから先述の紙巻き煙草を取り出し、口に咥えると着火具で着火せずとも薄青色の紫煙が立ち始める。]
黒塚氏: へぇ、メンソール味か。口がスッとして悪くない。
[吸い終えた吸殻を屋上から地面に投げ捨てると、階段を降りて探索を再開する。]
[黒塚氏は特定方向から絶え間なく吹き続ける風に凍えながら探索を続行する。黒崎氏が時折煙草を消費しながら探索したSCP-2297-JP-Aの領域は推定100km2を超えているが、どの建造物にも住人らしき夢界実体は一切確認されずアスファルトで舗装された道路に沿う街並みも延々と続いている。]
[15分ほど、特に特徴のない区画を探索する。]
[黒塚氏は地方都市から団地が立ち並ぶ領域に辿り着く。街灯らしき青色防犯灯を発見した黒塚氏は目に見えて驚く。さらに近づいて、街灯の照射範囲に入るが、特筆すべき超常現象は発生しない。黒塚氏は5分以上その場に立ち続け、最後に上空に浮かぶ月を凝視して煙草を咥え探索を続行する。]
黒塚氏が発見した団地内部の公園。
[黒崎氏は団地に併設された小規模な公園の遊具を発見する。]
[黒塚氏はブランコに近寄り漕ぎ始める。黒崎氏が漕ぐたびにブランコは少しづつ縦方向に延長していき、最終的にサーカスで見られるような空中ブランコのような形式に変容していく。]
黒塚氏: 大人になっても公園の遊具を見ると心が躍るんだよな。ここには誰もいないから幾ら遊んでも誰も怒りやしない。小学生の時も休み時間はいつもブランコ漕いでたっけな。
[黒崎氏はブランコを漕ぎながら、少し上を見上げる。見上げたブランコの高さは無限長まで伸展しており、まるで月から架空されているかのように映る。]
黒塚氏: 大人になるってのは嫌なことばかりだ、小学生の頃に戻りたいよ。
[数分間の沈黙]
黒塚氏: 俺はどうもハンディキャップを持っていた…らしい。ああ、クソ思い出してしまった、ずっと忘れられてたのに。そのせいでガキの頃から口が上手く動かなくて、他の人に絡んでいくのも出来なくて、学校でもいつもボッチだ。当然就活も上手く行かず、見かねたバイトの店長の薦めにホイホイ乗ったら夢界探偵なんて蛇の道に進んでしまった。
黒塚氏: 働けるだけマシだ、どうせこんな俺にはこの道しかないと思ってた。でも、本当にそうだったんだろうか。
[黒崎氏はブランコを遊び終えて団地を一瞥する。黒崎氏の視線の奥で団地の棟が俄に増殖している様子が確認できるが興味なさげに糸杉林に分け入って探索を続ける。林は進むにつれて鬱蒼とした森林に変遷してゆく。]
針葉樹林にポツンと聳える給水塔。
黒崎氏: 死体だ。
[黒崎氏は針葉樹林に唯一存在する建造物と推定される給水塔の根本で落下死体を発見する。]
[黒崎氏が死体に近寄り、輪郭が鮮明化していく。死体の外観は腐敗していないように目視されるが、落下の衝撃で破断した内部からは、著しく腐敗した体液の流出やウジらしき腐食性昆虫の繁殖が確認できる。後の調査で財団に把握されている過去の曝露者である██ ███氏の外観であると特定された。]
黒崎氏: 外面は良くても中身は腐ってるのか。
[黒崎氏は死体の身元が飛び降りたと推定される給水塔に侵入する。内部の構造は単純化されており、コンクリート造りの螺旋階段以外存在しないようである。黒崎氏は屋上に通じる階段を登り始める。]
黒崎氏: 思えば俺はいつも壁にぶち当たった時、生まれ持った特質のせいにしていたのかもしれない。初めての環境では打ち解けるよりも前にいつも自分の殻に籠るという選択肢ばかり取って、自分よりも大変な彼らと違い働けているからと最悪な優越感に浸って他者のプライベートな空間に土足で上がって日銭を稼いで生きていた。
[黒崎氏は唾を地面に吐く。唾液にはウジの死骸が混じっている。]
黒崎氏: 腐ってたんだな、俺の中身は。とっくの昔に。思えば、昔からずっと生きたくなかった。上手く行かない人生にずっと嫌気が差してたんだ。でも本当は変わらない自分に嫌気が差してたんだ。
[黒崎氏は給水塔の屋上に辿り着く。扉を開けるとSCP-2297-JP-Aの俯瞰風景が見える。針葉樹林は見たところ地平線まで続いている様に見え、そこから地面までは十分な距離が有るように見える。黒崎氏が口を開く。]
黒崎氏: ここなら、一撃で死ねる。
月。
黒崎氏: ははは。現実じゃ何度も高所から飛び降りようと思ったのに、こうしないと夢から醒めないと思い出しても足が竦むな。何度も夢見た死が、今俺の目の前にある。
[黒崎氏は震えながら最後の煙草を取り出し、1本をじっくりと味わい尽くすように吸う。周囲に立ち込めた煙草のメンソールの香りが消えると大きく深呼吸する。]
黒崎氏: 俺は、ちゃんと生きる。今度こそ。
[黒崎氏が給水塔の屋上より飛び降りる。]
[黒崎氏の墜死体が給水塔の根元に確認できる。死体に切れ目が入り、さながら蛹が脱皮するが如く黒崎氏の本来の意識体である多種多様な眼球が詰まったガムボール自動販売機が出現する。意識体は導かれるように空へと昇って行き最終的に月に吸収される。]
<転写終了>


