日本国和歌山県海南市沿岸に漂着したSCP-4420-JP-A
特別収容プロトコル: SCP-4420-JPの存在する海域は、カバーストーリー("不発弾処理")を流布することで一般船舶の進入を阻止します。財団巡視船による付近海域の常時哨戒と、無人深海探査艇による継続的なSCP-4420-JPの監視を実施してください。また、対象海域にはカント計数器と奇跡論波形観測装置を搭載した観測ブイを敷設し、海面下におけるSCP-4420-JP関連異常活動の兆候を常時モニタリングします。
SCP-4420-JPが明白、かつ高脅威度の異常活動を開始したと判断された場合、攻撃型原子力潜水艦SCPSSNかつらぎにより神聖祈念核魚雷を用いた深海中核攻撃が実施されます。
深海中での無力化に失敗した場合、直ちに西日本全域の財団施設に複合的K-クラスシナリオ発生の可能性を通知します。これに伴い戦術神学部門の直接指揮によるSCP-4420-JP対抗計画を発動し、太平洋上に展開している対神格存在戦闘装備を有する海上戦力による攻撃を実施してください。
SCP-4420-JP-A漂着地域一帯においては、定期的な監視と巡回を行ってください。SCP-4420-JP-Aは発見次第確保されます。監視及び確保従事要員は認識災害曝露を避けるため、スクランブルユニットの装備が義務付けられます。
回収した個体は防腐処理を施した後、不透明な遺体収納袋に収納し保管されます。腐敗が著しく研究価値を喪失した個体は、研究責任者の承認を得た上で焼却処分が許可されます。
SCP-4420-JP-Aによる認識災害に罹災した一般人に対してはクラスB記憶処理を実施してください。精神症状の出現や重篤化が見られる対象者は財団フロント企業が運営する医療機関で治療し、継続的な監視下に置いてください。
説明: SCP-4420-JPは太平洋上(██.████, ███.████)の深海4000m付近に存在する、複数の異常存在および異常現象が複合・連動することで成立していると推定される、未特定の異常存在です。SCP-4420-JPは外見上、おおよそ球状の雑多なゴミ、異常存在、生物遺骸の混在した集合体のように観察されます。複数の異常存在により構成されている特性上、SCP-4420-JPは不安定な現実性、アキヴァ放射等を示しており各種分析は不安定かつ乱雑な結果を示しています。そのため、SCP-4420-JPの明確な成因と中核的存在は特定されていません。
SCP-4420-JPは、直接的または間接的に以下の異常現象を引き起こします。
- 気象学的機序を逸脱した海流の操作
- 周辺生物への奇形誘発
- 日本国和歌山県北部沿岸地域における水害の誘発・操作
- 日本国和歌山県北部沿岸地域及び周辺海域における事故・事件・自殺の誘発
- SCP-4420-JP-Aの生成
SCP-4420-JPは海流の操作により海中に存在する物体を選択的に自己の元へと誘導することができ、それを取り込むことで自己の維持・拡大を図ります。
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標本, キンメダイ(Beryx splendens) |
標本, アカザエビ(Metanephrops japonicus) |
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SCP-4420-JPの周辺生物に対する催奇性の影響は、中深層下部から深海層付近1までの生物に広範に認められています。この催奇性はSCP-4420-JPによる直接的影響と、取り込まれた物体を由来とする物理的毒性による影響が複合的に作用して引き起こされているものと考えられています。これはSCP-4420-JP周辺海域に存在する複数動物門に横断的に観察されるものであり、これらの生物の発生初期段階に何らかの影響を及ぼしているものであると考えられています。
SCP-4420-JP-AはSCP-4420-JPにより何らかの改造を施された異常な人間の水死体です。SCP-4420-JP-Aはほとんどの場合で死蝋化を遂げており、海底との接触や生物による食害に起因するものを除けば損傷は軽微です。SCP-4420-JP-Aは偶発的な要因、またはSCP-4420-JPに関連した水害、事故、事件、自殺等により死亡した人物の遺体であると考えられており、死亡時期には大きなばらつきがあります。過去に調査されたSCP-4420-JP-Aのうち、最も死亡時期が古いものは1860年頃のものと推測されておりSCP-4420-JPが何らかの方法によって遺体の保存を図っているものと考えられています。
SCP-4420-JP-Aは不定期にSCP-4420-JPの海流操作現象によって和歌山県北部沿岸地域に漂着します。SCP-4420-JP-Aは認識災害を有しており、直接視認した対象に精神障害様の神経的影響を及ぼします。これらは軽度では気分の落ち込みや易怒性の出現に留まりますが、曝露者に精神障害の既往や高ストレス状態が認められる場合には激しい希死念慮の増大と反社会性の発現を引き起こします。これによりSCP-4420-JPに関連した自殺、事件が誘発されます。この影響は器質的な領域に及ぶため除去は困難であり、継続的な対症療法による軽減治療のみが有効です。
補遺1: 発見経緯
当初、SCP-4420-JPはSCP-4420-JP-Aのみを対象として独立した異常存在として指定されていました。
当初より、SCP-4420-JP-Aが漂着する和歌山県北部沿岸地域およびその周辺海域では、以下の事象が断続的に確認されており、SCP-4420-JP-Aとの関連性が疑われていました。
- 付近海域における形態異常または行動異常を示す海洋生物の発見
- 周辺地域における水害発生率の恒常的な高さと、一部の事例における神社仏閣等の宗教施設における被害集中の傾向
- 財団の監視対象となっていた異常存在、現象、要注意人物の水害等による喪失
- 周辺海域における海難事故発生率の高さ
- 過去に発生していた海中遺棄事件や異常性を疑われる殺人事件
- 周辺地域における入水自殺率の恒常的な高さ
これらの事象はいずれもその特異性により調査の対象とされていたものの、長期間にわたって散発的に発生しており、SCP-4420-JP-Aとこれらの事象との関連性は示唆されつつも、明確な因果関係は認められず、正体不明の現象群として扱われていました。
SCP-4420-JPは、2005年8月7日に発生した財団所属輸送船の海上事故により捕捉されました。同日午前2時40分頃、太平洋上(██.████, ███.████付近)を航行していた財団所属輸送船は突如として連続発生した巨大波に見舞われました。転覆は免れたものの、急激な横揺れが発生したことで本来想定されていた最大揺れ・最大加速度を超過、固定装置のラッシングロッドが破断しました。これにより荷崩れが発生し、財団サイトへの搬入が予定されていた資機材群コンテナ9個、Anomalousアイテムの仮指定を受けた低危険度異常物品12点を格納したコンテナ1個、SCP-████-JP2を格納していた収容コンテナ1個、作業員4名が海中へと転落しました。
事故後、当該輸送船は迅速に近傍のサイト-81██に事故を報告し救助を要請しました。午前3時10分頃、サイト-81██駐屯機動部隊からなる応援部隊が現地に到着しました。転落した作業員の捜索・救助活動と並行して、SCP-████-JP、Anomalousアイテム群の捜索が行われました。資機材コンテナは事故現場周辺から発見されたものの、オブジェクト群、作業員は発見されませんでした。
コンテナには事故発生時に備えた遭難信号発信装置が備えられていたため、財団はこの信号を捜索しました。同日午前6時45分頃、サイト-81██はSCP-████-JP格納コンテナの遭難信号を受信し、発信源を太平洋上(██.████, ███.████)の座標と特定しました。この座標は事故発生地点から約215km離れており、周辺海域の既知の海流から推定されていたコンテナ漂流位置から大きく逸脱していました。
午前9時50分頃、財団は信号の確認された座標に現地調査とオブジェクト回収を目的として機動部隊ゐ-3(”権瑞玉”)を派遣しました。機動部隊は信号発信装置を回収し、当該地点において無人探査艇による海底探査を実施しました。
探査ログ.4420-JP-2005/08/07
[記録開始]
0:00: 無人深海探査艇、潜航を開始。
10:32: 水深500mに到達。周囲の光量が低下し、外部照明を起動。ハダカイワシ目(Myctophiformes)と推測される魚類の一群、キンメダイ(Beryx splendens)と推測される魚類が観察される。
13:24: 水深700m付近において、頭胸部の形成に著しい奇形を認める大型オキアミと推測される生物、全身骨格の形態異常と腹腔壁の欠如の認められるキンメダイと推測される生物が確認される。
18:01: 水深900m付近において全長7m程度の深海性大型イカ類を発見する。形態異常が顕著であり外観からの種特定は困難。付属肢が極端に多く、中腹より樹状に分岐している。また、眼球が著しく突出している。
25:15: 水深1200m付近を通過。クラゲ類と思われる複数種の浮遊生物を確認。いずれも著しい形態の異常が認められるものの、一般的な奇形個体の範疇にある。
42:03: 水深2000mに到達。水温2.0℃を記録。航行・通信ともに良好。
55:48: 2500m付近において小型の発光魚類を確認。行動に特筆すべき異常なし。
58:21: 2700m付近においてソコギス科(Notacanthidae)魚類の幼魚と思われる生物を複数認める。全ての個体に共通し、頭部骨格が欠如している。
59:24: 浮遊物を確認。照明照射により、著しく欠損した人の胸郭及び上腕と判明する。
同時に、周囲に複数の生物群を確認。外観からの種特定は困難であるものの深海性魚類と推測される。骨格の過剰形成・不全、左右非対称、融合・欠損など激しい奇形が認められる。生物群は個体間の距離を保ちつつ、探査艇周囲を旋回するように遊泳する。
1:03:06: 水深3000mに到達。金属片・樹脂片・繊維状物質など雑多なゴミの小片が漂い始めていることを確認。降下に伴い漂流物の量が顕著に増加。奇形を伴う生物群の数も増え、時折人体の一部と思われる有機物片が記録される。
1:12:37: 人工物、衣類とみられる漂流物が大量に存在。それらに混ざり、SCP-4420-JP-Aと一致する死蝋化した人間の水死体と思われる存在が3体認められる。漂流物との衝突に起因すると推測される体表の欠落と四肢末端、頭部の損傷は激しいものの、体幹部はほぼ完全な状態を維持している。映像を確認していた機動部隊員4名、研究員2名が認識災害に曝露するも、SCP-4420-JP-Aの異常性特定には至らず調査が継続される。
1:18:03: 深海生物の断片化した肉体、破壊されたコンテナ、船体構造物、SCP-4420-JP-Aと一致する人体、生活廃棄物等が流動的に浮遊している。
1:24:00: 海底付近に到達。着底を確認。水深4010mを記録。
1:25:12: 海底を移動開始。堆積物は主に泥質。深海性カニ類を1個体確認。堆積物中に埋没した人体を摂食している。
1:27:23: 財団輸送船から落下したコンテナ2つを発見。いずれも著しく破壊されており、破壊箇所及び周辺に人体の一部が散乱している。内容物は存在しない。
1:32:09: 未知のナマコ類を複数確認。
1:36:55: 何らかの高速移動する存在が探査艇の前を横切る。詳細不明。
1:41:38: 海底に小規模な岩礁帯を確認。破壊された鳥居と思われる人工物が倒れるように存在する。奇形生物群の一部が岩礁周辺と鳥居に固着している。
1:46:21: 浮遊物の密度が高い方向へ接近。
1:57:10: 船舶や建造物の一部、衣類などの雑多な人工物、様々な生物遺骸の混在した集合体が凝集しているのを発見する。これらは流動的であるものの、おおよそ球状を保っている。これらの周囲には、特異な水流が生じておりSCP-4420-JP-Aと一致する夥しい数の水死体が遊泳するように浮遊・旋回している。
複数のSCP-4420-JP-Aを連続的に視認したことにより、映像を確認していた人員が重篤な認識災害影響を被る。機動部隊員2名と研究員1名が錯乱し海中に投身する。認識災害に曝露した残り3名の人員においても気分不快、混乱、希死念慮の増大が出現。この時点で認識災害等による精神影響の可能性が指摘され、映像と記録の隔離が行われる。
2:07:47: 球状凝集体の表面をSCP-████-JPが流れていく。SCP-████-JPの周囲には複数の水死体が殺到している3。
2:13:31: その場にて待機していた探査艇の映像が揺れる。画面外において探査艇の外殻に何らかの物体が衝突しているものと推測される。
2:13:57: 探査艇上部から一部欠損した人の手のような有機体が伸び、カメラレンズ前を通過する。SCP-4420-JP-Aと一致する水死体のものと思われる。
2:14:47: 探査艇の映像が揺れ続ける。外殻に何かが叩きつけられるような音が連続して記録される。
2:16:11: 前方の球状凝集体の密度が薄くなる。内部に巨大な影を認める。構成物の遮蔽によりはっきりとした姿を認めることは出来ないものの、その輪郭は人間の上半身に類似する。
2:17:50: 明確に水死体が探査艇に衝突する。横転し、カメラが堆積物に埋もれる。
2:34:29: 外殻を叩きつけるような音が記録され続ける。
2:34:37: 外殻が損傷したと思われる音。直後に信号が途絶。水圧により探査艇が破壊されたものと考えられる。
[記録終了]
この探査により財団は海底の凝集体の存在を認知し、暫定的な異常存在として調査対象に指定しました。
探査から2日後の8月9日、探査艇の一部残骸と、それらに群がる7体のSCP-4420-JP-Aが、和歌山県北部沿岸地域の████海岸に漂着しました。この発見により、探査で発見された存在が明確にSCP-4420-JPに関連するものであると判断しました。
また本事案を受け、探査で発見された異常存在が当該海域における事故や災害の誘発、生物の奇形誘発を引き起こしているものと判断され、SCP-4420-JP-Aは当該存在によって生成された端末的存在、もしくは副産物であると断定されました。
以上の判断に基づき、当該海中の異常存在はSCP-4420-JPとして新たに指定され、SCP-4420-JP-Aを含む複合的異常存在として、現在の報告書が作成されました。
補遺2: SCP-4420-JPの関与の疑われる事案
以下は財団の関知以降に発生したSCP-4420-JPの関与の疑われる事案の記録からの抜粋です。
発生年月日: 1949年3月17日
概要: 蒐集院残党勢力への呪術的協力が疑われていた本居香三朗氏が和歌山県北野上村で行方不明となりました。同日中に氏の遺留物と多量の血痕が村内河川敷から発見され、出血量から死亡しているものと推測されました。所轄警察による捜査が行われ、同地域に居住する漁師 小畠瑳壱氏が本居氏の殺害を自供し逮捕されました。
小畠氏は警察に対し、「強盗目的で本居氏を撲殺した。死体は川に流し、奪った金は借金の返済に全て充ててしまった。」と説明しました。小畠氏の遺体は発見されておらず、流されてしまったものと考えられています。
小畠氏は1947年12月に漂着したSCP-4420-JP-Aを発見し認識災害に曝露した経歴を有していた事が判明しています。記憶処理は施されていたものの、当該事件までの間に精神症状の悪化を示していました。
発生年月日: 1959年9月26日
概要: 1959年台風第15号4の接近に伴う豪雨災害により発生した土石流が██山に存在していたサイト-8146施設に直撃し、エリアCとエリアEが破壊されました。当該エリアに存在していた大規模低危険物収容保管庫と一室の収容房が崩壊し、13件のAnomalousアイテムと1体の指定待ち人型存在を喪失しました。
後に喪失したオブジェクト群の捜索が行われましたが、完全に破壊され無力化された2件のAnomalousアイテムのみが発見され、それ以外の所在は不明です。
発生年月日: 2001年8月21日
概要: 2001年台風第11号に伴う豪雨により、財団考古学部門による発掘調査対象となっていた和歌山県和歌山市の古墳が破壊されました。当古墳では特異なアキヴァ放射が確認されており、奇跡論的異常の痕跡が残された副葬品が発見されるなどしていました。豪雨災害により古墳は一部を残して押し流され、これにより確認されていたアキヴァ放射が消失しました。
近くの河川より古墳内土壌を由来とする微弱なアキヴァ放射が検出されており、雨水の侵食により古墳内に存在していた何らかの未発見のアキヴァ放射源オブジェクトが露出し、流されたものと考えられています。
発生年月日: 2014年4月16日
概要: SCP-1859-JP5イベント終了後、異常性を喪失したSCP-1859-JP-1、SCP-1859-JP-2が確保され、両個体の生物学的調査のために陸路にてサイト-8168へと輸送されていました。
輸送車両は国道42号線を走行中に大型トラックによる衝突を受け、熊野川河口に転落しました。この事故により大型トラック運転手が一名死亡し、輸送車両に乗車していた財団職員4名全員とSCP-1859-JP-1、SCP-1859-JP-2個体が行方不明となりました。状況から、河川転落後に流された可能性が高いと考えられています。
これらの事案はいずれも偶発的な水害、事件、事故の形態で発生しており、その結果として人命、異常存在、宗教的・歴史的遺物を喪失しています。財団はこれらの事象をSCP-4420-JPによる長期的かつ選択的な回収行動の一端である可能性が高いと評価しています。
補遺3: SCP-4420-JP-A漂着地域における民俗学的研究

日本国和歌山県海南市沿岸地域におけるえびす神・ヒルコ信仰
神話・民俗学部門
SCP-4420-JP-Aの漂着する日本国和歌山県海南市沿岸地域において、漂着水死体および海難死者に関する民間信仰体系が形成されてきたことが確認されています。
当該地域には、漂着した水死体を「えびす」と称し、これを豊漁・繁栄を齎す存在として扱う慣習が存在していました。漂着した水死体は丁重に清められ、弔いの儀礼を伴って埋葬、供養されていた事が確認されています。これらの儀礼は漂着物を単なる死体ではなく寄り神(漂着神)とみなすものであり、外来物に対する信仰の一種です。
日本国内で広く見られるえびす神に対する信仰は、元来生活コミュニティ内に出現・漂着した外来物に対する信仰であり、多くの場合で海洋に関連した神格であるとみなされています。当該地域におけるえびす信仰もこの外来物に対する信仰の古典的な形態であり、同様の伝承・民俗が存在していた地域は日本国沿岸地域に多数認められます。
当該地域におけるえびす信仰には、ヒルコ信仰の影響が強く認められます。当該地域には蛭子命を祭神として祀る神社が多数分布しており、蛭子命とえびす神を同一の神格としてみなしています。
ヒルコ(水蛭子/蛭子命/蛭児)は日本神話において、国産みの際にイザナキノミコト(伊邪那岐命)とイザナミノミコト(伊邪那美命)との間に産まれた神格です。ヒルコは不具の子として出産され、芦船へと乗せられ海へと流されたとされる神格とされます。ヒルコが具体的にどのような姿をしていたのかに関しての記述は存在しないものの、先天的奇形によるものと解釈されてきました。古事記において、ヒルコは次に出産された神格であるアハシマと共に、イザナギノミコトとイザナミノミコトの間に産まれた子として数えないものとして記述されています。
古来より、ヒルコは海へと流されたという神話的ナラティブにより海洋に関連した神格であるとみなされてきました。えびす神の漂着神としての神格とヒルコの福神伝承が結びつき、室町時代頃に両神格は同一の存在として再解釈・習合され、日本国内に広く浸透しました。
また、当該地域には日本各地に散見されるヒルコ流着譚と同様の伝承が複数確認されています。これらの伝承では、漂着したヒルコが周辺の海洋を領する神格として降臨し、大漁等の恩恵を与える反面、水害、呪いなどによる災禍をもたらしたものとして語られています。
これらの伝承の成立時期は未特定であるものの、SCP-4420-JPの影響が長期的かつ断続的に発生していた可能性を示唆するものです。また、当該地域では元来よりSCP-4420-JP-Aをえびす神、SCP-4420-JPをヒルコと見なす信仰が存在していたものと推測されます。
これらの信仰の形成は当該地域の住民が理解不能な漂着死体および海難現象に対して意味付けを行った結果形成された文化的応答であると評価可能です。一方で神道的体系における神格存在の顕現事例も存在する以上、ヒルコとみなされる何らかの神格の直接的関与の可能性も否定できません。

SCP-4420-JPとの関連が疑われる民俗伝承
神話・民俗学部門
海神の祟り
(1914, 神畠善治による郷土研究より抜粋)
昔、海にいる幽霊を祓ってやると言って修験者がやってきた。修験者は摂津の生まれだと言い、様々な神通力を使って見せた。修験者は村にいる間に様々な人の願いを叶え、もてなされた。
ついに修験者は海へと出て海の幽霊を祓おうとしたが敵わず、そのまま海で溺れ死んだ。海の幽霊は実は村民が奉っていた海の神そのものであり、修験者が来たことで神は大いに怒った。
それから村は不幸が続くようになり、水害に見舞われ、祟りを持った「あらえびす」というえびす神が漂着することがある。
補遺4: 蒐集院内部文書
以下は蒐集院から譲渡された「紀伊国災禍注進之事」と題された一連の文書群における、SCP-4420-JPと考えられている存在について言及されている資料です。参照性向上のため文章は現代語訳されています。
紀伊の荒蛭子
荒蛭子は海部郡の沖の水底に座する異質な海神である。荒蛭子は、伊邪那岐命と伊邪那美命の産み落とした神格である蛭子命の荒御魂が現世に留まり、姿を成したものである。荒蛭子は肉からなる身体を持ち、その姿はひどく巨大な人に似る。その肉体の周囲は様々な怪が取り囲んでいる。怪は夥しい数の物怪、呪物、仏、鬼神、化生、妖、魑魅魍魎、人、御神、畜生からなり、甚だしい穢れを帯びる。これらの怪、穢れまでもが荒蛭子の身体であり、これらの持つ様々な怪異すらも荒蛭子は自身の力のようにふるう。
荒蛭子は土地の民衆によって蛭子命やえびす神と称え奉られている。だが荒蛭子の神格は様々な怪に呪いと罪穢れを飲み込み、混ざり合ってしまい、全く異なる神威を成している。和魂を欠いた荒蛭子をもはや鎮めることは出来ない。
荒蛭子は神威をふるうことで様々な災いを引き起こす。海神である荒蛭子はこの災いを用いて、海部郡の海村を大きく激しい水害で襲う。この水害により荒蛭子は人や畜生を拐い、呪物や怪異までもを拐う。水の流れを操ることで社や神殿すらも破壊し、荒蛭子以外の神仏を穢し冒す。呪いをかけた死体を漂着させ、人々を狂わせ、呪い殺す。その力は凄まじく、蒐集院が呪術と祈祷によって防護していても守りきれず、神仏の霊験を頼ろうと祭儀を行う事も出来ない程である。この恐ろしい災いにより、我らもただ荒蛭子に民衆と同じような儀礼を通じて祈り、その災禍を和らげることしか許されない。
荒蛭子が様々な怪を蒐集する理由は不明である。だが、蛭子命の成り立ちを考えればその理由は察せよう。蛭子命は不具の神で、不完全で欠けた神である。ともすれば、蛭子命の荒御魂は己の欠けを補うべくして怪の類を集め纏っているのだろう。
荒蛭子はその力を恐ろしいまでに顕しているが、今は早くに産まれ出た赤子である。荒蛭子が十分な数の怪を集め、体が完全なものとなった時に何が引き起こされるのかは分からない。
蛭子命の和魂、幸魂、奇魂が荒蛭子を治め鎮めることを祈念し、畏れ敬い、奉る。
補遺5: インシデント.4420-JP(2017/04/21)
2017年4月21日18時2分頃、日本国全域において神格的存在の現出に伴う異常イベント(SCP-3000-JP)が発生しました。当該イベントの終結直後よりSCP-4420-JPが特異な活動を開始し、インシデント.4420-JP(2017/04/21)が発生しました。以下は当該インシデントの記録です。
インシデント.4420-JP(2017/04/21)
2017年4月21日
18時12分頃
SCP-3000-JPから復帰した監視要員がSCP-4420-JPが元来の座標から移動しているのを発見しました。直ちにSCP-4420-JPの所在位置の特定作業が開始されました。
18時36分
音響測位装置によりSCP-4420-JPの位置が特定されました。SCP-4420-JPは元来の座標から約3km移動しており、時速29ノットで日本国和歌山県北部沿岸地域を目指して移動していました。移動速度から、4時間20分後に沿岸地域に到達することが予測されました。
当事案の報告と同時に、全国現実性強度観測網 ("Kant-NETs")がSCP-4420-JPの所在座標周辺の著しい現実性変動を捉えました。記録上、周辺現実性は0.98Hm~21.7Hmの間を極めて短い間隔で変動し続けました。財団は直ちに臨時司令部を設置し、別任務で近海に展開していた攻撃型潜水艦SCPSSNかつらぎにSCP-4420-JPの直接監視、観測を指示しました。
19時28分
SCPSSNかつらぎはSCP-4420-JPを発見しました。SCP-4420-JPは高レベルEVEを示す黒色の液体を滲出させながら、表面構造物を激しく流動させ、海底を移動していました。SCP-4420-JPの周辺には250~300体程度のSCP-4420-JP-Aが漂っており、SCP-4420-JPによる海流操作能力により流されるように移動していました。SCPSSNかつらぎはSCP-4420-JPに300mまで接近し、観測を開始しました。この観測により、67~74HmのSCP-4420-JP周辺環境現実性、及び高レベルEVEの存在を検出しました。
司令部はSCPSSGNかつらぎにSCP-4420-JPのアスペクト放射の観測を命じました。しかしながらSCP-4420-JP構成物による撹乱と奇跡反射を引き起こす無機物が大量に存在する影響で観測結果が安定せず、アスペクト放射の色相分析に必要なEVEデータは十分に得られませんでした。
19時34分
SCPSSNかつらぎにより目標が観測困難である旨の報告が成されました。これを受けた司令部は簡易協議の後に深海目標攻撃魚雷によるSCP-4420-JP構成物の除去と再観測を指示し、SCPSSNかつらぎは迅速に魚雷による攻撃を実施しました。これによりSCP-4420-JP構成物を一時的に振り払うことに成功し、中核に存在していた未知の実体が露出しました。
UE-4420-JP
実体は体長約25m。ヒト胎児様の形態を有しており、有意に高い現実性と強力なアスペクト放射が確認されました。司令部はこの存在を暫定的にUE-4420-JPに指定し、SCPSSNかつらぎは観測を開始しました。攻撃直後よりUE-4420-JPは海流を操作し振り払われた構成物を再集結し始め、51秒で完全に元の状態に復元しました。その間に十分なアスペクト放射観測データが収集され、司令部に送信されました。
SCP-4420-JPの再構築が完了された直後、突如として海流が変化しSCPSSNかつらぎが航行不能に陥いりました。同時に艦は、総数不明の実体群による襲撃を受けました。これらの実体群は著しい奇形を遂げた海洋生物、何らかの異常存在と考えられる非生物的実体、SCP-4420-JP-Aと合致する人体などによって構成されており、艦に殺到しました。この攻撃によりSCPSSNかつらぎは任務継続を不可能と判断し任務から離脱しました。
20時5分
司令部はSCPSSNかつらぎによって収集されたデータの分析を完了し、UE-4420-JPのアスペクト放射色相パターンを特定しました。分析結果はタイプ・ブラックであり、UE-4420-JPは神格的存在に準ずる実体であると判断されました。この時点から司令部はSCP-4420-JPの中核であるUE-4420-JPは、神話・民俗学部門の報告等から示唆されていたヒルコまたはえびす神として信仰されている神格存在であると仮定しました。
この報告は直ちに財団神学部門、戦術神学部門、神話・民俗学部門に共有されました。これらの部門は記録された各種情報とSCP-4420-JPの有する異常性及びヒルコの神学的背景から、SCP-4420-JP、UE-4420-JPが上陸した場合、自身の成長のために無尽蔵に周辺資源を収集・吸収し、かつSCP-4420-JP-A様の認識災害の致命的拡散等の大規模かつ隠蔽不可能な被害を及ぼすと推測しました。これにより、SCP-4420-JPの上陸により、XK-クラス: 世界終焉、AK-クラス: "狂気"世界終焉、HK-クラス: 神的征服、LK-クラス :"捲られたヴェール"を伴う複合的な世界終焉シナリオが発生するものと判断されました。
財団は部門横断的にSCP-4420-JP上陸阻止を目的とした対神格存在戦闘の展開についての協議を開始しましたが、この時点でSCP-4420-JPは22時15分頃に沿岸地域へ到達するものと予測されており、住民避難の実施と大規模戦闘資産の展開を同時に成立させる時間的余裕は存在しないと判断されました。複数の対処案が検討されたものの、いずれも実行準備に要する時間、被害規模、秘匿性の観点から実現性に乏しいと結論され、最終的に作戦司令部は住民避難を最優先事項とし、SCP-4420-JPが深海から浮上した段階で核ミサイルによる物理的実体の熱的滅却を試みるという作戦計画を立案しました。
20時48分
作戦計画が日本支部理事会に提出され、攻撃実施に関する緊急決議が行われました。
日本支部理事緊急提言
提言: 複合的Kクラスシナリオを引き起こす可能性の高いSCP-4420-JPの上陸阻止計画として、日本国近畿地方近海において核ミサイルによる熱滅却攻撃を実施する。
評議会投票概要:
| 是 | 非 | 棄権 |
|---|---|---|
| 獅子 | 鵺 | 若山 |
| 千鳥 | 鳳林 | |
| 升 | ||
| 稲妻 |
| 結果 |
|---|
| 承認 |
理事コメント:
即応可能な戦力が存在しない現状において、SCP-4420-JPへの対抗手段は限られている。物理的・熱的・現実性破壊を同時に与えられる核兵器は、現時点で唯一、神格を含むSCP-4420-JPを一括分解できる手段である。-獅子
核攻撃は現時点で最も分かりやすいが、最も短絡的な選択肢だと評価せざるを得ない。核爆発を発生させた場合、破壊されるのはSCP-4420-JPだけではない。核爆発後の自然環境への影響を考慮すれば、この判断は支持できない。-鳳林
決議を経て計画は承認され日本支部理事会から司令部に対し、SCP-4420-JP上陸阻止を目的とした核攻撃実施の指令が下されました。
21時11分
作戦範囲近傍に存在するサイト群の機動部隊を中心として、和歌山県北部沿岸地域一帯の住民避難が開始されました。この時既にSCP-3000-JP発生に伴う市民混乱から大規模記憶処理プロトコル("アンニュイプロトコル")の実施が決定していたため、避難にあたっては情報隠蔽を省略し、避難完了までの迅速性を優先した誘導が実施されました。
同時に南太平洋に展開していた巡航ミサイル原子力潜水艦SCPSSGNやまのべに対し、SCP-4420-JPの浮上予測座標を標的とした核ミサイル攻撃命令が下されました。SCPSSGNやまのべは戦術神学的戦闘を前提とした兵装を有しており、神聖祈念核弾頭搭載潜水艦発射弾道ミサイルを装備していました。
21時42分
SCP-4420-JPは和歌山県南端部より約50kmの浅海に浮上しました。威力偵察を目的として、当該空域に展開していた攻撃機の爆雷による対海中放火が実施されましたがSCP-4420-JP周囲は強力な海流と高レベル奇跡論パルスによって防護されており、明確な効果を認めませんでした。この報告を受けて司令部は作戦計画に基づいた核攻撃の遂行を再度指令し、SCPSSGNやまのべはミサイルの発射シークエンスに移行しました。
21時53分
突如としてSCP-4420-JP直上に極めて強力なアキヴァ放射と高現実性を示すEVE凝集体が出現しました。この存在は明確な実体を持たないものの光柱を伴っており、アスペクト放射を示しました。財団は直ちに付近に展開していた観測機による情報収集と分析を実施し、この存在のアスペクト放射がSCP-4420-JPに類似したタイプ・ブラックの色相パターンを有する存在であるとの結論を出しました。神学部門はこの存在をUE-4420-JPの何らかの神学的現象に呼応する形で現出した未知の神格的存在、または形而下に現出したUE-4420-JPの一部と位置づけ、UE-4420-JP´と暫定的に指定しました。
UE-4420-JP´の現出と同時にSCP-4420-JPは移動を停止し、海流による防護を継続しながら当該地点に留まりました。停止から2分17秒後、SCP-4420-JP及びUE-4420-JP´の周囲約2700mの現実性が372Hmに増大し、両存在から極めて高レベルの奇跡論パルスが照射されました。これらの奇跡論パルスは明確な指向性を有しており、それぞれの存在を標的に照射されました。この事象により周辺空間では著しい現実改変と時空間的な断絶が引き起こされ、内部環境の正確な観測が困難になりました。光学的観測ではSCP-4420-JP周囲の海水面の著しい膨張、SCP-4420-JP-A群の飛翔、SCP-4420-JP構成物の分解と再構築、UE-4420-JP´の拡散と再凝集、突発的な岩石の出現と消失、断続的な閃光の発生、推定全長300m程度の不明瞭な輪郭を有する人型の影の出現と消失等が確認されました。各現象がどのような作用により引き起こされたのかは不明であるものの、両神格存在による奇跡論的能力の応酬であったと推測されています。
UE-4420-JP´の出現による事態急変を受け、司令部はSCPSSGNやまのべに発射シークエンスの一時停止を指示しました。
22時1分
UE-4420-JP´よりSCP-4420-JPに対し、一際強力な奇跡論パルスが照射されました。直後SCP-4420-JP構成物が海中に拡散、UE-4420-JPが露出しました。UE-4420-JP実体が急速に溶解し、黒色の液状に変化しました。
22時2分
UE-4420-JP実体より「赤子の泣き声」と形容される巨大な絶叫が発せられ、UE-4420-JPが破裂しました。激しい爆発に伴い高度240mに達する水柱が観測されました。同時にUE-4420-JPのアスペクト放射が消失し、SCP-4420-JP構成物は海中に落下、拡散しました。
22時3分
UE-4420-JP´の発光が低減し、EVE凝集の霧散が確認されました。同時に、UE-4420-JP´のアスペクト放射が消失し、周辺現実性の安定化と各種観測数値の基準値への回復が確認されました。
22時6分
周辺海域に存在していたSCP-4420-JP構成物、SCP-4420-JP-A群が異常な海流により沖合へと流されました。観測機による追跡が行われたものの、これらは沖合140kmにまで流された時点で急速に海中に潜航し、追跡不能となりました。
一般社会に露呈した当インシデントについての各種情報はSCP-3000-JP関連大規模記憶処理プロトコルにより対処、隠蔽されました。
インシデント後、海中を移動し消失したSCP-4420-JP構成物及びSCP-4420-JP-A群の捜索が実施されました。捜索の結果、元来のSCP-4420-JP所在座標と同一の太平洋上(██.████, ███.████)の深海4,000m地点に再集結しているのを発見しました。これらは元来のSCP-4420-JPと同一のおおよそ球状の形態を有しており、異常性の変化も確認されませんでした。これを受けて日本支部理事会はSCP-4420-JPを引き続きKeterクラスオブジェクトとして分類し、監視継続する方針を決定しました。
補遺6: SCP-4420-JP関連神格存在群に関する神学的分析
インシデント.4420-JP(2017/04/21)においてUE-4420-JPが実体を喪失した直後、当該海域にほぼ完全な黒色を呈する液体状物質が確認されました。これはUE-4420-JPの肉体を由来とする液体であり、移動していたSCP-4420-JPから滲出していた液体と同一の組成を有しました。本物質は高い粘性を有し、標準状態では速やかに蒸発しました。この特性により回収に成功したサンプルはごく少量であり、大部分は自然蒸発しました。分析の結果から、当該物質はSCP-3000-JP事案において確認されていたAO-3000-JPと同一の存在であると結論づけられました。
また、UE-4420-JPおよびインシデント中に一時的に現出したUE-4420-JP´から観測されたアスペクト放射について、神学部門および戦術神学部門による再解析が実施されました。その結果、両存在から観測されたアスペクト放射の色相パターン、変調周期、奇跡論的干渉パターンが、SCP-3000-JP関連報告中で記録されたヒルコと推定される神格的存在由来の特異的アスペクト放射パターンと高度に合致していることが判明しました。
特に注目すべき点として、ヒルコ(UE-3000-JP)、UE-4420-JP、UE-4420-JP´のアスペクト放射は、互いに強い類似性を示す一方で、完全な同一性を示していませんでした。この差異は単なる観測誤差の範疇を超えており、同一の起源を有しつつも、異なる位相・役割を持つ神格的存在である可能性を示唆するものと評価されています。
これらの分析結果を総合すると、UE-4420-JPおよびUE-4420-JP´は、SCP-3000-JP事案において観測されたヒルコと推定される神格的存在と共通の神学的起源を有する存在である可能性が高いと考えられます。ただし、その顕現形態および行動原理が複数に分化している点を踏まえると、これらは単一の神格存在が完全な形で再現されたものではなく、ヒルコという神格を構成する何らかの要素が、複数の存在として形而下に顕現した結果であると考えられています。
神格の多面性と存在の解離的顕現
神道体系において、神格は単一かつ不可分の人格として捉えられるとは限らず、その霊的性質や作用の側面に応じて複数の「魂」として認識される場合がある。その代表的な分類が、いわゆる荒魂(あらみたま)および和魂(にぎみたま)である。
荒魂とは、神格が有する激烈・破壊的・変革的な側面を指し、災害、戦乱、疫病などの現象と結びつけられることが多い。強靱性や勇猛性の象徴的存在とされる一方で、祟りや呪いなどの神的な禍(わざわい)を引き起こすものとも信仰されてきた。
和魂は同一の神格存在が有する鎮静的・調和的・恩恵的側面であり、五穀豊穣、平安、守護といった作用を司るものとして信仰されてきた。和魂はさらに、因果論的過程による恩恵をもたらす幸魂(さきみたま)、神格の直接的介入に基づく奇跡による恩恵をもたらす奇魂(くしみたま)として細分化されることもある。重要な点として、これらは本来的には対立する存在ではなく、単一の神格を構成する異なる側面であると理解されている。
しかしながら、日本各地の信仰形態を詳細に検討すると、荒魂および和魂が、あたかも別個の神格存在であるかのように分離して祀られている事例が複数確認される。代表的な例としては日吉・日枝・山王神社の総本宮にあたる日吉大社では、大山咋神(オオヤマクイノカミ)の和魂や、大己貴神(オオナムチノカミ)の荒魂を祀るなど、神格の一側面を独立した神格として信仰の対象としている。このような例は他地域の神社・祠においても散見され、神道的実践においては必ずしも荒魂・和魂の統合性が維持されていないことが示唆される。
財団神学部門では、この現象を単なる宗教的象徴の分化としてではなく、奇跡論的観点から再評価している。荒魂および和魂がそれぞれ別個の対象として長期的に信仰を受けることで、互酬的崇拝仮説に基づいた神格のピスティファージ的特性、すなわち崇拝プロセスの変化によりノウアスフィアにおける神格の実在性および性質が変質・強化される性質が作用し、当初は単一神格の側面に過ぎなかったものが、実質的に独立した神格存在として成立する可能性がある。
この過程においては、両者が共通の起源を有しながらも、異なる信仰内容、異なる役割、異なる儀礼体系を通じて神学的・奇跡論的位相を分岐させ、結果として互いに干渉しつつも同一性を失った別個体の神格存在として振る舞うようになると考えられる。
すなわち、荒魂・和魂の分離は象徴的な概念操作に留まらず、条件が整った場合には、形而下における実在的分化を引き起こし得る現象である。本論文では、これらの事例を踏まえ、神道的神格構造は本質的に可塑性を有し、信仰の在り方次第では単一神格が複数の神格存在へと分岐・再構成され得る動的体系であると考察する。
[…]
"日本国における神道体系由来神格存在の顕現形態に関する研究", 深山武祥: 戦術神学ジャーナル, Vol. 80.1, pp.57-59, 2001"
荒魂・和魂への神格存在分化モデルをUE-4420-JPの観測された挙動および奇跡論的特性に適用した場合、UE-4420-JPはヒルコと推定される統合的神格存在を構成する要素のうち、荒魂に相当する側面が形而下において部分的に顕現した存在である可能性が示唆されます。
UE-4420-JPはSCP-4420-JPを形成し、一貫して生態系を含む周囲環境の破壊的変質と災害の誘発、人間や異常存在の選択的集積といった挙動を示してきました。これらの行動様式は、神道的文脈において荒魂に帰属される性質、すなわち人間による制御が不能な変革性および災厄性に属していると評価されます。
特筆すべき点として、SCP-4420-JPは単なる破壊の結果として生じたものではなく、周囲から回収・集積された要素を用いて構造的に再編成されています。この点を踏まえるとUE-4420-JPの行動は無目的な破壊行為ではなく、何らかの欠損状態を補填することを目的とした収集行動である可能性が高いと考えられます。ただし、その欠損の具体的な性質や起源については現時点では明らかになっておらず、当該収集行動が結果として災害を誘発しているに過ぎないのか、あるいはそれ自体が行動原理の一部であるのかについては、結論には至っていません。しかしながら、神話的文脈においてはヒルコは国産みの際に不具の子として出産された背景を有するため、この収集行動が自らの身体的・神格的欠落を補填することを目的にしていた可能性が示唆されています。
インシデント.4420-JP(2017/04/21)において一時的に露出したUE-4420-JPの実体は、欠損の無いヒト胎児様の明瞭な形態を有していた点が特筆されます。この形態的特徴は、UE-4420-JPが自身の欠損を補填する過程において、一時的かつ仮構築的な実体を形而下に形成した可能性を示唆するものです。
UE-4420-JPをヒルコと推定される神格存在の荒魂的側面として位置付けた場合、UE-4420-JP´は、同一神格の和魂に相当する側面が形而下に顕現した存在である可能性が高いと考察されます。
UE-4420-JP´から観測されたアスペクト放射はUE-4420-JPのものと比較して、SCP-3000-JP事案において観測されたヒルコと推定される神格存在の特異的パターンとより顕著な類似を示しました。これはUE-4420-JP´が荒魂側の顕現であるUE-4420-JPよりも、元来の統合されたヒルコの性質を強く保持している存在である可能性を示唆しています。
またUE-4420-JP´現出時にはその周辺環境において急激な現実性の上昇が観測されました。この現象はSCP-3000-JP事案において、元来のヒルコが行使していたとされる「高現実性により『壁』を構築する奇跡論術」と極めて近似した性質を示しており、両者が同一、もしくは同系統の奇跡論的作用に由来するものであると結論づけることが可能です。この点は、UE-4420-JP´がヒルコの和魂的側面に由来する存在であるという仮説を強く支持する要素です。
SCP-3000-JP事案において撃滅されたヒルコと推定される神格存在は、形而下における実体を喪失したものの、概念知性的な完全解体には至っていなかった可能性が指摘されています。当該神格存在は形而下のEVE凝集を喪失したものの形而上学的概念知性としては存続しており、その意味において死には至っていなかったと解釈されます。この前提に立つ場合、UE-4420-JP´は形而下実体を喪失した後のヒルコが、和魂に類する側面として一時的に形而下へ再顕現した存在であると推測することが可能です。
ただしUE-4420-JP´の形而下顕現は実体の喪失と、強く関連するもう一柱の神格の消失による神学的変容を経験した後に生じたものであったため、その存在は極めて不安定なものであったと考えられます。加えて、和魂が本来有する恩恵的・鎮静的側面が周辺地域におけるえびす信仰との習合等の要因によって相対的に増長された結果、荒魂および和魂が統合された本来のヒルコと比較して、神格的完全性および行使可能な権能の点において低位の存在であった可能性が高いと考えられています。
インシデント中における二柱の神格存在による奇跡論的能力による応酬は、ヒルコという同一の神格を起源とする荒魂と和魂の間に生じた対立の結果であったと解釈することが可能です。すなわちインシデント.4420-JP(2017/04/21)は、暴走状態にある荒魂を鎮めようとする和魂と、それに抗い権能行使を継続しようとする荒魂の人格統合プロセス的な衝突として見なすことができます。
SCP-3000-JP発生以前におけるSCP-4420-JPの異常性は和魂、あるいは荒魂と和魂が統合された状態にあったヒルコそのものによって一定程度抑制されていた可能性が高いと推測されます。しかしながら、SCP-3000-JPイベント中においてヒルコが撃滅されたことで、この抑制構造が崩壊し、荒魂に相当する側面であるUE-4420-JPが、外部からの制御を失った単一の神格存在として解離し、活動を開始したものと考えられます。
神学部門内では、SCP-3000-JP中においてヒルコと推測される神格存在によるアハシマへの対抗行動が人為的介入によって妨害され、結果的に殲滅に至った背景から、ヒルコの攻撃的な情動的反応6が荒魂の増大を引き起こしたとの仮説が提唱されています。この仮説について直接的な証拠は確認されていないものの、インシデント発生時期および挙動の変化を説明する仮説として、一定の説得力を有していると評価されています。
結果として、UE-4420-JPはUE-4420-JP´による奇跡論的干渉を受け、形而下における実体を喪失し、当該インシデントは終息しました。しかしながら、その後の観測においてSCP-4420-JPが元来の座標において再構築されていることが確認されている点を踏まえると、UE-4420-JPはUE-4420-JP´と同様に、実体を喪失したとしても死には至っていないものと考えられます。すなわち、両者はいずれも形而上学的、概念知性的な次元において存続し続ける、本質的に不滅の神格存在である可能性が高いと結論づけられます。
UE-4420-JP、UE-4420-JP´はヒルコという神格から解離した結果生じた、互いに強く関連しつつも別個の人格に近い存在であると考えられます。UE-4420-JP´は、インシデント時においてUE-4420-JPを鎮め、統合を試みたものの、その試みは失敗に終わり、結果として実体を破壊し退けることしか出来なかったと解釈されます。
現時点においてもSCP-4420-JPの異常性は継続しており、UE-4420-JPは再び自身の身体的欠落を補填した実体を獲得するため、断続的に権能を行使しているものと推測されます。将来的に、何らかの要因によってUE-4420-JPが完全顕現を果たし再上陸を試みた場合において、UE-4420-JP´が再び介入し事態の収束に寄与するとは限りません。UE-4420-JPの完全顕現への対抗を前提とした新たな対応策の検討が必要です。
補遺7: 異常性の変質が疑われる事案
2017年以降、日本国和歌山県北部沿岸地域に漂着したSCP-4420-JP-Aの一部において、従来確認されていなかった特異な活動を示す事例が複数確認されています。
これらのSCP-4420-JP-Aはいずれも生物学的に死亡していることが確認されていますが、漂着後の不明な時点で自発的に活動を開始します。活動を開始したSCP-4420-JP-Aは歩行、または這いずるような動作で移動を試みます。移動行動はごく短時間であり、確認されている移動距離はいずれも数メートルから最大で百数十メートル程度に留まっています。一定距離の移動を行った後、当該SCP-4420-JP-Aは再び完全に不活化し、その後は従来のSCP-4420-JP-Aと同様に振る舞います。現時点において、当該活動以外に顕著な異常行動は確認されていません。
これらの事例に共通する特徴として、移動を開始したSCP-4420-JP-Aが、特定の方向に向かって進行していることが確認されています。また、事例の経時的な比較により、個体ごとの移動距離が緩やかに増加傾向にあることが認められています。
これらの現象はSCP-4420-JP-Aの構成要素に生じた何らかの変化、あるいはSCP-4420-JPの自発的な発達・変質に起因している可能性が指摘されています。
なお、現在確認されている進行方向の延長線上、約4.2km地点には財団管理下のサイトが存在していますが、当該施設と本事象との間に直接的な因果関係は現時点では確認されていません。継続的な監視および評価が求められます。


