クレジット
タイトル: AO-4899-JP - 亡姉の痕跡を辿って 壊れないまな板
著者: Burnin_A_GoGo
作成年: 2026
特別収容プロトコル: SCP-4899-JPは低脅威度物品収容プロトコルに則り、サイト-81██のAnomalousアイテム収容区画へ保存されます。アクセス者は、本ファイルが高権限Anomalousデータベースへの移行を計画されている点に留意してください。
また、後述されるPoI-8110-026に対しては各偶数月末日に手順: 4899-JPが実行されます。
2020/06/30を以て旧プロトコルは廃止され、上記収容手段が適用されています。
説明: SCP-4899-JPは、370mm×220mm×65mmの異常な破壊耐性を有する 俎板まないた状の物品です。全要素が単一のイチョウ(Ginkgo biloba)木材で構成されているほか、特定の面には軽微な摩耗痕2が不規則的に残存していますが、これらの欠損が発生した経緯は不明です。
発見時の状況および後述される資料群から、当アイテムは嘗てGoI-8110("石榴倶楽部")に所属するPoI-8110-026(手塚 ██、本名: 杉崎すぎさき 栖せい)が保有しており、氏の実姉である先代の「手塚」氏より何らかの意義を以て継承されていた旨が推測されています。
補遺1: SCP-4899-JPは2019/11/07、京都府 京都市下京区に位置するGoI-8110保有の「会食場」3より回収されました。当該施設は比較的堅牢な反ミーム処理を施されていたにも拘らず全面的な破壊が行われており、生存者の証言から過去にGoI-8110と協力関係にあった団体4より奇跡論を含む複数の異常手段を以て襲撃を受けた可能性が濃厚である旨が報告されています。
財団が民間からの通報を受け到着した際には、双方の構成員について大部分が死亡または撤退していた状況であり、財団はこれらの襲撃について事後的に記憶処理および偽装処分を執行しました。
現場から回収された物品は以下の通りです。
- SCP-4899-JP。
- 「石榴倶楽部会報 第611号」1点。(後述)
- 「第620回 石榴倶楽部会食 御品書」21点。5
- ヒト(Homo sapiens)に由来する肉ブロック 1.55kg。8~11歳のモンゴロイド系人種の大腿部と推測される。微弱な奇跡論を行使された痕跡が残存しており、発見より4~5時間前の時点まで中程度の防腐機能を果たしていたと推定されている。
- 鞄、靴、衣類、装飾品、財布、その他貴重品類 52点。最低18名が保有していた物品群と推測される。
- 非異常の調味料、食器、調理器具類 103点。
- A4コピー用紙 5枚。凡そ中世頃に製作された、京都府中心~郊外部を描写する地図の複製と推測される。
- B5サイズ便箋 6枚。(後述)
上記の通り、回収された物品のうち異常性を有する要素がSCP-4899-JPのみであった事実は特筆すべき点です。当該アイテムは初期実験において破壊耐性のみが確認されたため、暫定的にSafeクラスオブジェクトに指定されました。
補遺2: 補遺1において言及された「石榴倶楽部会報 第611号」の内容は、現「手塚」氏が襲名を目的として実姉(先代「手塚」氏)を献体させたことを示唆しています。文書の全容についてはこちらのデータベースよりアクセスしてください。
また、B5サイズ便箋の内容について以下へ転記を行います。鑑定の結果、文書中の筆跡は財団データベース上のあらゆる要注意人物と一致しませんでした。
手塚 ██様
栖、今は██と呼ぶほうが正しいでしょうか。この手紙は日付指定で届く筈ですから、今頃君は何時もの通り午後の休息を取っている頃かもしれません。心の焼き切れるほど待ち望んだ手塚の名を漸く手に入れて安心している時期かも判りませんが、どうか少しだけお邪魔させてください。
私のザクロ6はじょうずに饗せましたか。きっと私の赤筋は天麩羅にするのでしょうけれど、君は全体的に温度管理が苦手でしたから少し心配になります。ふたりで厨房に並んでいたあの頃には先代の手塚様からよく注意を受けていたでしょうし、私が昨年にいただいたものでも揚げかたに偏重がありましたね。折角私を献じたのですから、まともにいただけるものが完成していることを願っています。
こうして思い出を掘り起こしていると、揚げ油でぼろぼろになった手の甲へ、ひとり涙を堪えながら消毒液を塗りつける君のどうしようもなくいじらしい表情を思い出してしまいます。のちに私を底まで抉り抜くような、それでいて敬愛するかのような君の視線を思い起こすと、あのとき駆け寄って抱きしめていたらと後悔したことは数知れません。
過去を振り返るのは楽しくて仕方がありませんが、そろそろ本題に入らなければならないでしょう。今回君に伝えたいのは手塚の名に深く纏わる、或いはその名を堅固にする上で最も重要な宝物についてです。
そう、これは単なる俎板に留まらない遺物です。もし配送が順調であるなら、手許にはもうひとつ小包が届いているでしょう。気のはやい君に限ってそのようなことは無いでしょうけれど、未だ開いていないのであれば是非そのようにしてください。そこから厳封された一枚の俎板が出てくる筈です。忙しない献体の準備の中でゆっくりお話する時間が生まれなかったことは悔やまれますが、これは本来手塚の名を継ぐにあたって必ずと表現すべき程に大切な宝物です。
訊いた話に依ると、この宝物の歴史は凡そ五〇〇年前にまで遡るそうです。当時京が戦火7に包まれていたことは知っていますね。嘗て四条の寺には御神木 樹齢が千年に迫る銀杏の木が植わっておりました。当代の御住職はこの神木だけでも護り抜かんとなさいましたが、雑兵共の果てない棄損に因って虚しく朽ちてしまいます。
不安と失望に包まれていたある冬の明け方、とうとう御住職の鼓膜を不吉な音が否応無しに揺らしたそうです。未だ日も満足に昇らないうちから野卑な喊声が響く中、それは明瞭に彼の意識に飛び込んだとか。雪駄も履かず庭へ飛び出した彼の視界へ飛び込んだのは、他でもなく根から平衡を失っていく御神木でありました。
寺、ひいては四条の象徴ですらあった御神木の喪失を機に、彼らの心はその場から離れていきます。それでも御住職の懸命の努力により、腕も回りきらない大木のうち僅かに腐り落ちなかった部分を抱えて京を離れることが叶ったそうですね。
もうお解りでしょう。その御神木、正確にはその残痕から造り出されたものがこちらの俎板ということです。御住職は初代の手塚様へ木材を下賜なさり、彼のかたはその境地というべき技術を注ぎ込んだ果てに俎板を完成されました。
無論、どれだけ生々しい物語り ナラティヴであろうと、いずれは恣意性を孕むものです。今君に語り聴かせたお話も、何処までが真実であるかなどは探求するほうが野暮というものでしょう。それでも、これからお伝えすることは紛れもない真実です。
██、他の誰でもない君の手でこの俎板を暴いて御覧なさい。倶楽部に規定された形式上の襲名とは別に、代々の手塚はこの秘密を己の手で切り拓いてはじめて手塚としての料理を実現できるのです。
君はあるときから私の料理が変化したことを憶えているでしょう。それもその筈、この俎板にはどれだけ時が経とうと朽ちることのない、ザクロの深奥へ至るための路が隠されているのですから。その過程ではザクロのみならず、あらゆる食材への理解や技法、加えて懐石といった形で饗すことの意義さえをも手に入れることになるでしょう。
古い会報を拡げてみてください。手塚の操るザクロの筋繊維は引締まり、火に焚べればゆらゆらと脂が溶け出す。或いは煮込んでも極度に型を崩さず、出汁を程好く吸い上げ口内で自ずから解けてしまう。君も過去の手塚のように、そういった賛辞を向けられてみたいでしょう。この俎板は然るべき資質を持つ人間が手にすれば、ザクロを最適な形へと導く力が備わっています。
どうか、私の妹が手塚として相応たることを願っています。
補遺3: 補遺2において言及された内容より、SCP-4899-JPが何らかのさらなる異常性を備えている可能性が示唆されたため、当該アイテムの追実験が開始されました。
実験ID: E4899-JP-01
内容: 一般的な家畜用ブタ(Sus domesticus)由来の食肉を市販の俎板3種およびSCP-4899-JP上でそれぞれ切断し、成分の変動を対照する。
結果: 諸成分に有意な変化は観測されなかった。
実験ID: E4899-JP-02
内容: 一般的な家畜用ブタ(Sus domesticus)由来の食肉を市販の俎板3種およびSCP-4899-JP上でそれぞれ切断し、食中毒のリスクが十全に除去される程度の湯煎を行う。摂食後の健康 / 精神状態の変動を対照する。
結果: 摂食者へのインタビューおよび健康調査 / 精神鑑定の結果、各種状態に有意な変化は観測されなかった。
実験ID: E4899-JP-03
内容: ヒト(Homo sapiens)上腕部に由来する筋肉について、実験01, 02へ準ずる対照を行う。
結果: 諸結果について有意な変化は観測されなかった。
[重要度の低い 8 件のエントリが省略されています]
実験ID: E4899-JP-12
内容: 「石榴倶楽部会報 第███号」8を参照し、文中にて言及される「ザクロの幽庵焼」を実現可能な範疇で再現する。調査内容は実験01, 02へ準ずる。
結果: 諸結果について有意な変化は観測されなかった。
実験ID: E4899-JP-13
内容: 「石榴倶楽部会報 第███号」9を参照し、文中にて言及される「ザクロの磯部揚」を含む懐石料理9点を実現可能な範疇で再現する。実食はSCP-4899-JPの回収された「会食場」において行わせる。調査内容は実験01, 02へ準ずる。
結果: 諸結果について有意な変化は観測されなかった。
[重要度の低い 21 件のエントリが省略されています]
上記実験結果が示す通り、本項目の記録時点において破壊耐性に追加されうる異常性の観測は難航している状況です。今後数ヶ月間に渡り、さらなる異常性の調査が予定されています。
補遺4: 2020/02/18、SCP-4899-JPを収容しているサイト-81██ 低脅威度物品研究チーム長のデスク上に長型3号封筒が出現しました。内容物は8枚のA4用紙より構成されており、以下の内容が確認されています。
SCP財団の皆様、はじめまして。突然のご連絡となりますことをどうか御容赦ください。当人は結社「石榴倶楽部」にて料理人のひとりを務めております、手塚 ██と申します。返送の際には添付のアドレスを御利用くださいますよう、何卒御承知おきくださいませ。
今回失礼ながらもご連絡を差し上げました原因は他でもなく、貴殿等が六条の会食場より掠奪なさった私の大切な俎板でございます。SCP財団という組織は随分と大規模である旨のお話を伝え聞いておりますが、どれだけ各地に支部が遍在していようと貴殿の施設で保管していらっしゃる物品を知らぬ存ぜぬと仰ることは叶わないでしょう。
過ぎし日10に当人主宰の場で饗しましたザクロは、果物ばかりを与えつつ育てられましたが故にとても瑞々しく、数年に一度現れるやも判らない程度の逸材でございました。包丁をするりと受け容れる彼の感触は今まで触れてきた数多のそれより優しく柔和なもので、思わず瞠目してしまったほどです。残念ながら当方は鈍らな包丁ばかりを保有しておりますけれど、このときばかりはそれらをあたかも名匠に造られた逸品であるかの如く錯覚させられてしまいました。それ故に、私はかのザクロへひときわ魅入られていたのでございます。
[約4500字に渡る人肉食およびその生育環境へ関連する言及。重要度を鑑み省略]
それだけに、あの出来事は私の無念を募らせていくばかりでした。突如として傾く燭光、私の名と共に怒声を張り上げる襲撃者、踏躙られる列席者の皆様と丹精込めたザクロ達、幾重もの金属音、破砕音、発射音、そして血香 その場に至ってはじめて、私はある契約を失念していたことに気づかされます。
私は手塚を襲名するに際し、ひとつの医院11との契約を結びました。貴殿等は既に御存知かも判りませんが、それは医院の名を冠しつつも実際には人を看取ったのち我々へザクロを卸す方々であり、料理人の凡そ半数が懇意にしている団体でもございます。彼等は私共へ、卸に際してひとつの条件を附しました。
曰く、彼等は日を跨ぐ接触を禁忌としているとのお話でした。彼等の卸すザクロには特殊な処理が施されているものの、日付が動く前後には一瞬だけその効果が揺らぐ時間帯が在るとのことです。その際にザクロへ触れてしまえばその奇跡が途絶し、最早戻ることは叶わない。そしてそれを饗すということは彼等の信用問題に影響するから、その兆候を受信した場合には実力の行使を以て違約の対価とする そういった契約でございました。幸運にも列席者へ██████12幹部のかたがいらっしゃらなければ、私はあの場から身ひとつで逃げ果せることもなく無残に引き裂かれておりましたでしょう。
とはいえ、私もまた無知なままで在るべきではありません。ほかの料理人より、我々の会食場を粉微塵に叩き壊した団体と貴殿等は良好でない関係にあると伝え聞きました。この場で長々と恨み言を垂れ流すのも筋ではないでしょうから、私の大切な饗宴について申し上げるのはこの辺りで終いにいたしましょう。
それでも、なにより重要である俎板を掠め取っていかれた事実は私にとって如何ともしがたいものです。あの会報を、増してただ一人の姉から私へ宛てられた手紙すら盗み読んでいらっしゃるのでしたら御存知でしょう。あれには私の与り知らぬ、それでいて料理人たる者に不可欠である能力が隠されているとのことです。私は十数ヶ月にわたってこれに隠された秘密を調べ、過去から現在に至るまであらゆる会報を参考にしながらザクロの饗しかたについて探求しておりました。
そのような物品を、何故あの場まで不用心に防護なく持ち出してきたのか その答えは、恥ずかしながら私がその答えに辿り着かれなかったために他なりません。あのとき私はその秘密を暴こうと必死になった果てに、あらゆる会食に際してその調理へ利用しておりました。契約を失念し痛ましい出来事を引起こしてしまいましたことも、俎板を暴こうとするあまりに視野が狭窄した為でございます。どうにか姉と同じ場所へ辿り着こうと足掻き、挙句の果てにあのような失策を犯してしまったと考えるたび虚しく感じられて致し方ありません。
然しながら、このまま貴殿等の施設へ私の宝物をお預けする訳にはまいりません。掲げていらっしゃる理念は薄らと存じておりますが、望まれるのでしたら相応以上の対価はお支払いいたします。どうか双方ともに穏当な手段を以てこの場の収束が叶いますよう、最後に伏してお願い申し上げます。
手塚 ██
建物内部の監視カメラ及び下足痕、出現物に含まれる生体組織等から当該インシデントの発生手法を特定する試みは失敗しています。また、文章中における複数回の不穏当な示唆を鑑み、今後予定されていた実験は一時的に凍結されました。本項の記録時点においても、内部協力者の存在等を視野に入れた捜査が継続されています。
加えて、文書中の記述と補遺2を含む押収品類の内容間に矛盾する点が極めて少ない事実から、送信者とSCP-4899-JPの旧所有者は概ね同一人物としての扱いが可能と結論付けられました。当該人物はPoI-8110-026として財団データベースへの登録が為され、財団による注視と警戒が継続されます。
当該PoIに対し、財団はSCP-4899-JPの警戒態勢を維持しながら電子メールを用いた複数回の応答を行いました。氏から送信される内容は一貫して封書の形式を利用したSCP-4899-JPの返還要求に限定され、財団はこれを穏当な形式で退けつつ実験を進行しています。
補遺5: 2020/03/15、財務監理部門による定例内部監査が実施されました。当該監査に際し、SCP-4899-JPに対して一切の異常性13の観測に成功しないまま過度に実験を反復している点が注目され、実験の実在性および予算計上の適切性について嫌疑が寄せられました。これに対する研究チームによる詳細なログ等の提出後、財団上層部より複数の追実験について提案が返信されました。以下は実験ログの要約です。
実験ID: E4899-JP-112~117
内容: SCP-4899-JPに対して年輪年代測定および放射性炭素年代(14C)測定、その他複数の独自測定技術を適用し、その製作時期やイチョウ(Ginkgo biloba)の基礎情報を同定する。
結果: 伐採時の樹齢は凡そ60~80程度、その直径は500~800mmと推定された。また、破壊耐性の付与痕は測定から48~60ヶ月前程度に発生したものと判明した。
当該実験群の結果は、補遺2で示された文書(以下、"文書")中の以下の記述より明瞭に逸脱しています。
- 伐採直前の樹木が「腕も回りきらない大木」であり、加えて「樹齢が千年に迫る」点。
- アイテムの「歴史は凡そ五〇〇年前にまで遡る」点。
該当する実験結果と文書の矛盾は単なる忘却あるいは記憶の縺れといった範疇で合理的に説明することが不可能である点から、少なくとも文書の一部または全部が偽装に拠る旨の疑義が齎されました。さらなる調査が進行するまで、SCP-4899-JPに対する実験規模は順次縮小されます。
補遺6: 2020/05/30、サイト-81██はGoI-8110の所属を名乗る人物より電子メールを受信しました。送信者がサイト-81██固有のメールアドレスを特定し、さらに送信元の偽装やファイアウォールの突破を成功させた手段は現時点で不明であるため、異常手段等の利用を想定した逆探知プロトコルが進行中です。
From: [E0x000012: 送信元情報の検出に失敗しました]
To: securitysite.81██@ja.scip.net
Subject: 手塚の処遇に関しまして
初めまして。当人の所属と要件は件名を御覧なされば凡そお察しいただけますでしょうから、紹介は最低限に留めたく願います。当人は石榴倶楽部の料理人、六角で御座います。手塚が貴団体へ多大なご迷惑を被らせました点に関しまして、この場を以て深くお詫び申し上げます。
早速となりますが、今回ご相談したいことは我々と貴方がた双方に纏わる問題 惨たらしい手段を以て手塚の名を手にしたアレの処遇に関するものです。
率直に申し上げますと、当人等は手塚を扱いかねております。貴方がたは手塚に対して、その先代たる姉が遺した俎板を回収なさったでしょう。加えて組織の性質を鑑みるに、それに秘められた真価を見抜こうと捏ね繰り回されたに違いありません。
そして、そろそろ真相に辿り着かれた頃ではありませんでしょうか。貴方がたの研究がどの程度まで先進的かは存じ上げませんが、おそらく不可壊以上の特異性は何を以てしても現れなかったに違いありません。それもその筈です 先代の手塚が妹へ遺したものは、手紙から史料へ至るまでの一切が虚構なのですから。四条の寺も、御神木も、その残り滓を加工した初代手塚の逸話でさえもです。
元来、当人は手塚を好ましく捉えておりませんでした。先代の、増してや彼女の持つ最後の親類を自ら饗・さ・せ・る・かたちで手塚を襲名するなど、この目からすれば残虐以外の何物にも映りません。但し最後の憐憫として、これに関する見解は倶楽部の内輪でも分かれている点のみは附記しておきましょう。
先代の手塚が、どういった経緯で自らの献体を決意したのかはもはや存じません。ただ、献体の前日に彼女は当人を訪ねて参りました。曰く、自身を追い込んだ愚妹にすこしばかりの御灸を据えて遣りたいと。そして、妹が適当な時間を費やして「ザクロの深奥」などというものの発見に失敗したと結論づけたとき、すべての種明かしを当人へ頼みたいと。然しながら、彼女とそれを承諾した当人は大きな誤算を二つも犯しておりました。
一つ目の誤算は、我々の会食場が卸おろしの面々14より襲撃を受け、先代の計画が破綻してしまった点です。手塚の結んだ契約がどのようなものかは存じませんが、彼等を実力の行使へ至らしめる程度の重い罪を重ねたのでしょう。
もう一つは、先代が手塚から向けられている感情の強靭さを見誤っていた点に在ります。不幸にもあのような事案が起こり、我等の大切な会食場が蹂躙され 次いで貴方がたを説得しようと四苦八苦している彼女の様子を垣間見るうち、当人の胸にはひとつの不安が胚胎してまいりました。それは即ち、手塚はその名やザクロの為ではなく、ただ姉の遺品を取りもどす為に闘っているのではないかと。姉のことをただ去るべき厄介者と認識していたのではなく、現在も尚愛憎の綯交ぜにされた悍ましい視線を向けているのではないかと。そして、それを外部から粉微塵に叩き割られたとしたら、当人、ひいては倶楽部そのものへ幾倍もの憎悪を芽生えさせ、我々の立つ瀬は失くなるのではないかという疑念で御座います。彼女は、妹が真相を知ったとしても「数日も経てば涼しい顔をして手塚の名を謳歌するでしょう」などと宣っておりましたが、日が沈む毎にそれと相反する確信が固まってゆきました。
ともかく、先代の頭には「片時も俎板を手許から離すことなくザクロの深奥に至ろうとし、終いには失敗して無力感に苛まれる」妹の青写真が描かれていた筈です。当然ながら、第三勢力による妨害を受けることなど想定しておりませんでしたでしょう。貴殿等の施設にて俎板が保管されているうち、当初予定されていた「適当な時間」は徒に引き延ばされていきました。
ひとつ確実であることを申し上げましょう。我々 そして不幸にも貴方がたは、あの姉妹に因って極めて厄介な爆弾を抱えさせられたと云うことです。手塚は貴方がたの施設から俎板を取返す計画を思い描いているようで、このまま芳しい返答が得られない場合は強硬手段さえも辞さないと息巻いております。このままでは遠くないうちに貴方がたへも損害が訪れる可能性は否定できないでしょう。
然しながら、仮に ほんとうに空想上のお話ですが、あの俎板に特異な技術が宿っていたとして。それで手塚は幸福になりますでしょうか?
私の眼には到底そのように映りません。手塚は自ら葬った姉の偶像を飽き足らず追い掛けるでしょう。手塚にとって、姉とは傍に在ってはならないもので御座いましょう。それでいて、自身へ限りなく近づけなければならないと強迫的に見做している存在でもある筈です。我々の手ではもはやアレを満たすことさえ叶わず、仮に遺品が真実であろうとその空虚は満たされないでしょう。
老爺からのお願いで御座います。どうか手塚を飢えることさえ能わぬよう、宙吊りにしていてくださいませ。我々と貴方がた、相互の最もただしい解となる筈です。
理性ある判断を期待しております。
石榴倶楽部 第一八七代 六角 ██
補遺5にて述べられたE4899-112~117の結果および上記メッセージを鑑み、補遺2の文書に基づいた調査を継続する意義は限りなく薄いものと結論付けられました。今後の実験計画は無期限に凍結され、SCP-4899-JPは関連プロトコルの改定及び近日中のAnomalousアイテムへの再分類が予定されています。
また、PoI-8110-026本人及びその所属団体より行使されうる損壊への対応費用を想定し、当該人物に対する何らかの穏当な手段を講じて経済的損失を抑制すべきとの提言が為されています。
2020/07/02追記: 上記提言を受け、以下の手順: 4899-JPが策定されました。当手順の実効性は低~中程度と予測されていますが、より効果的な対応策が講じられるまでの期間内における破壊的行為の抑制、並びに事態の複雑化の遅延を目的としています。
手順:4899-JP
財団はPoI-8110-026との表面的な協力態勢を構築し、偶数月末毎に当該人物に対してSCP-4899-JP関連の「実験結果」を記述した文書を送信する。文書は以下の内容を実現可能な範疇で満足しなければならない。
- 文書はA4両面刷で8~10枚程度とする。
- PoI-8110-026へ提示する「実験結果」の一切は虚構に基づくものとし、AIC等への委託を含め人的リソースを低減可能な形式で生成する。
- 氏が何らかの実験を要望した場合、各回割当てられた予算の範疇でその実現を演出する。
- 結果を提示する場合は「異常性の観測不能」または「誤差程度の軽微な変動のみ観測」といった内容に留め、一定以上の具体的 / 大規模的な異常性の提示は回避する。
上記を踏まえ、財団はPoI-8110-026に対して今後の協力態勢の構築と「実験結果」レポートの定期送信を提案しました。以下は同氏によって返信された文書の内容です。
承知いたしました。姉と同じ景色へ至れる日を、心より楽しみにお待ちしています。
本項の記録時点において、手順: 4899-JPは遅滞なく執行されています。


