SCP-CN-4017
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アイテム番号: SCP-CN-4017 クリアランス未定
オブジェクトクラス: Pending 機密
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SCP-CN-4017-1

特別収容プロトコル: SCP-CN-4017-1が当初の出現位置に浮遊している現状を維持します。それ以外の収容措置は必要ありません。

説明: SCP-CN-4017-1は空中に浮遊するドーナツです。直径は約10cm、中央の空洞の直径は約3cmで、表面は油で揚げた後の茶褐色を呈し、少量の砂糖がまぶされています。オブジェクトは2025年11月8日、サイト-CN-144の地下3階にある未使用の倉庫に出現しました。以来、オブジェクトは地上から約2mの高度で浮遊を続けています。

SCP-CN-4017-1の異常性は、財団が「それはドーナツである」という事実の基盤を維持したまま、その中央にある空洞を排除することが不可能な点にあります。

SCP-CN-4017-1の中央空洞を排除する目的で、財団は向明(元)上席研究員を実験担当に任命しました。しかしながら、向明(元)上席研究員は3日間にわたり、いかなる実験計画も提出しなかったため、財団は同氏を一般研究員への降格処分とし、代わりの研究チームを任命して多数の実験を試みました。以下はその記録の一部です。

実験テーマ: SCP-CN-4017-1の中央空洞を追加の生地で充填する
実施者: 顔華上席研究員以下、研究チーム。サイト-CN-28


研究チームはSCP-CN-4017-1に類似したドーナツを用いて実験を行った。中央空洞を充填することで、チームは世間一般的に「食欲をそそる色合いで、芳醇な香りを放つ」と評される、揚げた生地を得るに至った。しかし、研究チームは自己欺瞞1の放棄を表明した。彼らは生地を「マントウ」や「パン」、「沙翁サーヨン」2といった呼称で定義せざるを得なかったのである。研究チームは、呼称自体は些末な問題としており、むしろ「いずれの呼称もドーナツではない」という点に着目している。顔華上席研究員は膨大な資料を精読した末、これ以上の実験継続は不要と断じた。無数の先人たちの事績・過ぎ去った歴史・無秩序な記録のすべてが、「SCP-CN-4017-1はドーナツである」という事実基盤を立証していたためだ。目下の財団は、当事実を覆すだけの力を持ち合わせていない。一方で、当事実を見過ごしてしまうほど、我々は愚かでもなかった。

研究チームは実験の失敗を宣言。サイト-CN-28は機能を停止した。

実験テーマ: SCP-CN-4017-1の生地を少しずつ除去し、中央空洞を消滅させる
実施者: 沈徳銘上席研究員以下、研究チーム。サイト-CN-72


研究チームはSCP-CN-4017-1に類似したドーナツを用いて実験を行った。構成する生地を段階的に除去し、どの時点でメンバーが対象の中央空洞を認識できなくなるかを観測した。しかし実験の結果、生地の90%近くを除去してもなお、研究員たちは残存する生地の輪郭の弧から、完全なドーナツの形状および、中央空洞のサイズを推測できることが示された。

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その後、チームは残存する弧状輪郭を可能な限り削り取ることを決定したが、直後に全メンバーが割れるような激しい頭痛を訴え、実験の続行が不可能となった。サイト管理官の許可を得て、沈徳銘上席研究員は高温殺菌を施した縫い針を用い、メンバーの頭部を切開。各人の脳組織から、実験で使用したものと類似したドーナツを1つずつ取り出した。その後、メンバーらは頭痛の消失を報告した。にもかかわらず、沈徳銘上席研究員はこれ以上の実験継続は不要と断じた。残存部の多寡に関わらず、ドーナツが存在し続ける限り、研究チームがその中央空洞に気付かないということはあり得ないためである。

研究チームは実験の失敗を宣言。サイト-CN-72は機能を停止した。

実験テーマ: ドーナツを製作する
実施者: 向明研究員、サイト-CN-144


向明研究員は誤って薄力粉を使用したため、生地が垂れて弾力を欠き、正常な発酵・膨張が行われなかった。

向明研究員はすでに一般研究員へと降格されており、本オブジェクトの担当責任者ではない。上述の実験は事前の届け出なく行われたものであり、向明研究員がいかなる目的、あるいは原理に基づいて実験を行ったのかは不明である。本文書は、オブジェクトとの関連の可能性のみを理由としてここに記録される。

実験テーマ: SCP-CN-4017-1への崇敬を示す
実施者: 袁瀚上席研究員以下、研究チーム。サイト-CN-105


研究チームは応用神学の理論に基づき、SCP-CN-4017-1へ崇拝の感情を投射し、オブジェクトがその中央空洞に関連した反応を示すか否かを確認しようと試みた。あらゆる反応の兆候を捉えるため、研究チームはSCP-CN-4017-1の前方に、以下を含む一連の機器を設置した。

  • ダイヤフラム・コンデンサーマイク × 6
  • フルスペクトルカメラ × 3
  • ロゴス放射検出器 × 7
  • 中古のPC用ウェブカメラ × 1

その後、研究チームはSCP-CN-4017-1の前で、以下を含む行動を示した。

  • 20本の白檀ビャクダンの線香に点火し、計1.5時間燃焼させる
  • 3つの白磁の酒杯に市販のアイスティーを注ぎ、まず天を拝し、次に地を拝し、最後にドーナツを拝礼したのち、アイスティーを地面に撒く
  • 約2kgの子豚の丸焼きを切り分けて食す
  • SCP-CN-4017-1の前で車座になり、かつて体験したドーナツに関する良い思い出を語り合う

研究チームはいかなる試行においても、SCP-CN-4017-1からの反応を捉えられずに終わった。オブジェクトは終始、浮遊するドーナツとしての形態を維持し、それ自身も、その中央空洞も、絶対的な沈黙を保った。袁瀚上席研究員は、これ以上の実験継続は不要と断じた。SCP-CN-4017-1は神格ではなく、ドーナツであり、財団に対して何らかの反応を返すことは不可能、またその必要もないからである。むしろ財団こそが、オブジェクトとその中央空洞に対し、応答を示す必要があったのだ。

研究チームは実験の失敗を宣言。サイト-CN-105は機能を停止した。

SCP-CN-4017-1の中央空洞を排除するための膨大な実験が失敗に終わり、結果として、財団サイトの80%近くが機能を停止した後、監督評議会は財団の運営継続を不要と判断しました。関連する通達は以下の通りです。

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以下は監督評議会の総意により作成されたメッセージである。

財団の使命は、異常な事物、実体、その他さまざまな現象の収容と研究を中心に展開されてきた。この使命は過去100年以上にわたり、我々の組織の焦点であった。しかしながら、財団はもはや、立ち行くことができなくなってしまった。

SCP-CN-4017-1は、回避も解決も不可能な一つの事実を、我々に突きつけた。すなわち、「SCP-CN-4017-1はドーナツである」という事実基盤を保たんとする限り、財団はその中央空洞を永遠に排除できないということだ。ドーナツが存在しないことによってのみ、空洞もまた存在しなくなるのだ。

財団は現時点をもって、その機能を停止した。全職員は規定に従い、すべての業務を停止し、離職手続きへ進むことが許可される。希望者は所属するサイト管理官に申請の上、サイト-CN-144でSCP-CN-4017-1を観察しても良い。

今後、監督評議会からの通信は行われない。

通達以降、すべての財団サイトは機能を停止し、大多数の職員が段階的にサイトより撤退。ごくわずかな職員のみが、サイトに留まることを選択しており、その中にはサイト-CN-144の向明研究員も含まれています。その後の数日間、向明研究員は残留した少数の職員との間で、数回にわたる通話を行いました。うち1回の通話記録を以下に示します。

通話者:
堂栄坤上席研究員、サイト-CN-16
向明研究員、サイト-CN-144


[記録開始]

堂栄坤: この前話してた、君の家の件だけど、まだ途中だったよね。

向明: ああ、そうでしたね。(沈黙)自分の家には、クチがひとつありまして。ソレはずっと、お腹を空かせているんです。

堂栄坤: 分かるよ、分かる。(沈黙)そのクチに、君は何を食わせているんだい?

向明: ドーナツです。買ってきた、出来合いのものですが。そのクチは、ドーナツしか食べないんです。

堂栄坤: ふむ……ドーナツの真ん中には、空洞があるよね。

向明: ええ。

堂栄坤: それだから、いつまで経っても満腹にならないんだ。何せ、真ん中にポッカリ穴が開いてるんだから。

向明: おっしゃる通りです。

堂栄坤: それゆえに、君は最初、何の実験計画も立てなかったんだね。

向明: ……はい。

堂栄坤: 分かるよ、向明くん。実によく分かる。(沈黙)私の家にも、そういうクチがあるんでね。

向明: 多くの人がお持ちですよ。

堂栄坤: そうだね。ええと、ドーナツだったかな?

向明: ええ、ドーナツです。

堂栄坤: 私も一緒に試してみるよ。

向明: ありがとうございます。

[記録終了]

2025年11月22日、向明研究員はドーナツの制作を再び試みたものの、生地を練る段階で牛乳を注ぎすぎたため、成形に失敗しました。田斌(元)サイト-CN-144管理官は向明研究員の挙動に気を留め、正式な離職前に面談を求めました。

インタビュアー: 田斌(元)サイト管理官、サイト-CN-144
対象: 向明研究員、サイト-CN-144


[記録開始]

田斌: 向明。報告によると、君は一からドーナツを作ろうとしているそうだな。

向明: はい。

田斌: そのドーナツなんだが、真ん中に穴はあるのかね。

向明: あるでしょうね。

田斌: ……すると君、SCP-CN-4017-1の中央空洞を消す方法を、思いついたわけではないのか?

向明: 思いついていません。

田斌: だが、君は作っている……ドーナツを……何か、考えがあるのか?これはSCP-CN-4017-1に対する実験なのか?

短い沈黙。

向明: いいえ。何も思いついていません。これは……おおかた、実験とも呼べない――

田斌: (遮って)だったらどうして、無駄にドーナツを作っている。新たな着想も、知見もありゃしない――SCP-CN-4017-1の穴を消す手立てがないのなら……どうして、ドーナツなど作る必要がある……どうしてまだ、ここに留まっているんだ?てんで無意味じゃないか!空洞はずっと、そこにあるんだぞ!君は……君は本当に、オブジェクトの空洞に気づいているのか?

向明: 気づいては、いますが――

田斌: (遮って)なら、何をそんなに足掻いているんだ!

短い沈黙。

田斌: すまない、私は……取り乱してしまった。

向明: 構いません。お気持ちは分かります。

田斌: 私はただ……君ならやってくれるんじゃないかと……あの穴、あの空洞は、ずっとあり続ける。そう分かってはいるんだが……。

短い沈黙。

田斌: それで……これからも君は、ドーナツ作りを続けるのか?

向明: そのつもりです。私はまだ、足掻いていたいので。

短い沈黙。

田斌: そうか……幸運を祈るよ。

[記録終了]

2025年12月1日、提出された最後の離職申請手続きが完了しました。SCP-CN-4017-1を収容するサイトを含め、ごく一部のサイトには依然として少数の職員が残留しており、彼らはある程度、アノマリーの収容といった基礎業務を維持しています。しかしながら、俯瞰的に見ると、財団はもはや存立する実体とは見なされず、彼らのあらゆる行為もまた、財団とは無関係なものとして扱われます。それらすべては、財団職員のいかなる行動も、「SCP-CN-4017-1はドーナツである」という事実基盤を維持しつつ、その中央空洞を排除することができないことに起因しています。

地点: サイト-CN-91

程喬恩研究員はSCP-CN-803の手を握り、無人となったサイト-CN-91の職員食堂へ連れて行った。両者は向かい合って座り、程喬恩研究員はSCP-CN-803の前に、小ぶりなドーナツ3つと、ミルクティー1杯を差し出した。SCP-CN-803はドーナツとミルクティーをゆっくりと賞味し、その後、小声で感謝を述べた。

地点: エリア-CN-1029

欧宇宏上席研究員は午後8時、ドーナツ1つを手に持ち、エリア-CN-1029に収容されているトウモロコシの穀倉へ手を差し込んだ。ドーナツは持ち去られた。その夜、穀倉の開口部から荒々しい息遣いや断末魔が聞こえることはなかった。

地点: サイト-CN-144

向明研究員は再びドーナツの作成を試みた。生地は正常に発酵し、膨らんだものの、その後の揚げ時間が長すぎたため、ドーナツは濃い褐色を呈した。表面は焦げ付き、味は不良だった。

地点: 中国広東省広州市越秀区、北京路歩行者天国

元上級フィールドエージェント・何紹麟および、その他7名の戦術対応班メンバーは正午、歩行者天国の中ほどに集結した。彼らは全員が戦闘服を着用し、財団の標準アサルトライフルで武装していた。何紹麟を除き、残るすべての元エージェントは、タクティカルヘルメットとマスクで顔を覆っていた。


[記録開始]

7名の元戦術対応班メンバーは銃を胸の高さで構えた一方、元エージェント・何紹麟は銃を下ろしていた。周囲の群衆はごった返し、彼らのそばを通り過ぎていくが、誰一人として彼らに注意を払わない。

何紹麟: ……全部、空っぽだ。

何紹麟: 俺たちは、自分自身をそこに投げ込んだ……結果、何もかも空っぽだと気づいた。

何紹麟はタクティカルベストのポケットから弾倉を取り出し、アサルトライフルに装填すると、銃を持ち上げ、群衆に照準を合わせる。

何紹麟: 観測可能な宇宙の縁、その外側で見たんだ……

何紹麟: 巨大な生地の塊を。全宇宙を取り巻く、1つの巨大なドーナツを……

他7名のメンバーも、一斉に銃を群衆に向ける。人々は変わらず往来し、新年に向けた商店街の飾り付けについて話し、実店舗の割引率がネットに対抗できるかを議論し、昼食に牛肉を食べたから、夕食に火鍋はやめておこうなどと談笑していた。銃口が向けられていることに気づく者は、誰もいなかった。

何紹麟: その真ん中の空洞に、俺たちはいるんだ。

トリガーが引かれ、群衆に向け、轟音とともに弾丸が放たれる。8名の元財団エージェントは、弾倉が完全に空になるまで撃ち続けた。誰一人として傷つくことはなく、市民は元エージェントらのそばを通り過ぎていく。誰も彼らの行為に気づかない。

何紹麟は手を放し、銃が地面に落下する。彼はゆっくりとカフェに入り、ドーナツを1つ、テイクアウトで購入する。彼は店外に出ると、ピンク色のアイシングがかかった小ぶりなドーナツを掲げ、小さく一口かじった。

何紹麟: ……甘すぎるんだよ。

元上級フィールドエージェント・何紹麟は、声を上げて泣き始めた。

[記録終了]

通話者:
馮書柔研究員、サイト-CN-48
向明研究員、サイト-CN-144


[記録開始]

馮書柔: あなたの家の、例のクチ、まだあるの?

向明: もちろん、まだありますよ。

馮書柔: 今もまだ、ドーナツを食べさせてるわけ?

向明: もちろんです。それ以外、どうしろと言うんです?飢えたままにしておきますか?

馮書柔: ……それも、アリなんじゃない?

向明: それはまた、どうして。

馮書柔: いっそ、飢えさせておけばいいのよ。引っ越す時まで、ひたすら耐え忍ぶの。新しいお家には、クチなんか無くなるって、皆言ってるわよ。

短い沈黙。

向明: 私はそういうの、あまり信じてないですね。

馮書柔: 信じてないって、どの話?

向明: 引っ越しですよ。この先、家を替えることがあるなんて、信じられない。(沈黙)あなたは信じてるんですか?

短い沈黙。

馮書柔: そうね。私もぶっちゃけ、信じていないわ。

向明: だから、どうしようもないんですよ。私たちは、そうやっていくしかない。ドーナツを食わせ続けるしかないんです。

馮書柔: そして、アレが満腹になることは永遠にない。なんてったって、ドーナツの真ん中には穴があるんだから。

向明: ええ。

短い沈黙。

馮書柔: 頑張りなさいよ。

向明: はい、あなたも。

[記録終了]

地点: サイト-CN-144

向明研究員はSCP-CN-4017-1を収容する地下倉庫に入った。倉庫の床には、離職済みの元財団職員たちが隙間なく座り込んでいる。互いの肩が触れ合うほどの過密さで、間を歩くことさえ困難な状況である。彼らは一様に、空中に浮かぶSCP-CN-4017-1を凝視しており、視線はオブジェクトの中央空洞に固定されていた。倉庫内では猛烈な嵐が吹き荒れ、壁に衝突してはバンバンと音を立て、人々の髪や衣服を乱していた。向明研究員は、その場にいた楊秋元・元上席研究員と言葉を交わした。


[記録開始]

向明: どうも。

楊秋元: ……ああ。

倉庫内で、風音が怒号のように響いている。楊秋元・元上席研究員は、SCP-CN-4017-1の中央空洞を見つめ続ける。

向明: お久しぶりで——

楊秋元: (遮って)用件は何だ。

風音が唸りを上げる。

向明: あなたに会いに来たんです。

楊秋元: そりゃあ、何をしに?

向明: 手作りの、ドーナツを持ってきました。

楊秋元: はあ?

向明: 今回は結構、上手いこと出来た気がして……ちょっぴり薄味かもしれないし、若干硬いかもですけど、今回は本当に、良い出来なんです。(沈黙)あなたに、食べてほしくて。

倉庫内の嵐が、2人の間を吹き抜ける。

楊秋元: どうして、俺なんだ?

向明: あなたがここにいると知っていましたし……それに、真っ先に思い浮かんだのが、あなただったので。

楊秋元: それだけか?

向明: ええ、それだけです。縁、のようなものでしょうか。

楊秋元・元上席研究員は、SCP-CN-4017-1の中央空洞への凝視を解き、向明研究員の方へ顔を向ける。

楊秋元: ここは財団だぞ。俺たちは「縁」なんてあやふやな言葉は使わない。この事象を、専門的に説明してみせろ。

向明: ……そうですね。財団は、世界中に数百のサイトを持っていて、あなたと私は、そのどれに派遣されていてもおかしくなかった。……いいえ、それだけじゃない。2人の出生から辿れば、それぞれを異なる人生へ導く、無数の分かれ道が存在したはずです。似たような選択をしたからといって、必ず出会えたとは限らない。本イベントは「起こり得ない」と見なせるほど、確率の低い事象ですが、それは実際に起こり、確率は固定され、数値は100%になりました。過去に私たちの取った、何千何万という些末な選択が、2人をこの場へと導いたのです。この宇宙には、微小なプロセスを長年かけて積み重ね、錯綜する可能性を「確定した事実」へと固めるメカニズムが存在します。それこそが、縁です。

楊秋元・元上席研究員は顔を戻し、SCP-CN-4017-1の中央空洞を再び見つめ始める。

楊秋元: まるで、確率論への侮辱だな。

向明: (苦笑)すみません、私はただの、ヒラ研究員なもので。

楊秋元: ……よせ。

嵐が倉庫内で渦を巻く。

楊秋元: これでもまだ、俺にドーナツを食ってほしいのか?

向明: はい。

楊秋元: 嫌だと言ったら?無理やり引きずっていくつもりか?

向明: しませんってば。本当に食べたくないんですか?

楊秋元: ……まるっきり、嫌というわけでもないが。

向明: あなたが望むなら……私は、待ちます。

楊秋元: お前、本気か?おおよそ、長い待ち時間になるぞ。

向明: ええ、待ってますから。

向明研究員は嵐の中で、楊秋元・元上席研究員を待ち続けた。

47分が経過。

3時間が経過。

20ヶ月が経過。

11年と4ヶ月が経過。

楊秋元・元上席研究員は立ち上がり、SCP-CN-4017-1に背を向けた。

楊秋元: 分かった、行こう。

[記録終了]

地点: サイト-19

向明研究員は計20時間のフライトを経てサイト-19に到着し、内部の汚れを清掃するため、SCP-173の収容室に進入。わずか1人でモップを用い、清掃を実施した。この間、向明研究員は普段通り瞬きをし、途中でドーナツを1つ摂食した。清掃終了後、向明研究員は消臭スプレーを取り出して噴霧し、オブジェクトに会釈を行った。

地点: エリア-CN-2801

向明研究員がエリア-CN-2801に進入する。エリア内は明るく照らされており、アイボリー色の微笑むテディベアが、純白の書斎机に置かれている。向明研究員は縫い合わせた布に綿を詰めた、おもちゃのドーナツを取り出し、テディベアの胸元に置いた。テディベアの両腕がわずかに閉じられ、おもちゃのドーナツを優しく握りしめる様子が確認された。

地点: サイト-CN-18

向明研究員はSCP-CN-985の収容室に入り、10kgの鮮魚を給餌した。向明研究員は続けて、観察窓越しにオブジェクトと向き合い、ドーナツを1つ取り出して食した。その後、携帯用のBluetoothスピーカーを取り出し、オブジェクトとともに香港の歌手・盧冠廷Lowell Loの『どうしてWhy』を聴いた。


[前略]

衆生は必ず経ねばならぬ

四苦は根本にして平常なり

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

शान्तिः सुखं च भवन्तु

[後略]

地点: サイト-CN-144

向明研究員はSCP-CN-4017-1を収容する地下倉庫に入った。倉庫内に他の人間はおらず、空中に浮かぶSCP-CN-4017-1と、向明研究員のみが存在した。両者は対話を行った。


[記録開始]

SCP-CN-4017-1:

向明: ええ、ちゃんと見えてますよ。

SCP-CN-4017-1:

向明: 何も感じていないわけじゃありません。答えを見つけ出そうと必死になる……そういう性分なんですよ、私だって。でも、分かってるんです。自分は何の役にも立たないって。……みんな同じです、結局は、何もできないんですよ。

SCP-CN-4017-1:

向明: さあ、どうでしょうね……世界中の人間が一致団結すれば、「あなたがドーナツである」という事実基盤を保ったまま、その中央空洞を消せると、そうお思いで?私はそれが、絶対に確実だとは思えません……何より、その「団結する」という前提すら、我々には達成できないのですから。

SCP-CN-4017-1:

向明: (苦笑)ええ、酷い話ですよ。

SCP-CN-4017-1:

向明: 私がいます。それに、他にも何人か。私たちは皆、試してるんです……もっと、シンプルなアイデアを。ドーナツとは、そこに実在するという事実基盤であり——

SCP-CN-4017-1:

向明: 要するに、ドーナツは食べ物の一種です。

SCP-CN-4017-1:

向明: 食べ物は、食べるためにあります。

向明研究員は歩み寄り、空中のSCP-CN-4017-1を手に取ると、それを口に運び、一口かじってよく咀嚼した。

向明: あぁ、なるほど……正しくは、こういう味でしたか。この配分なら……確かに、私が作ったのより美味しい。……完璧とは言えません。間違いなく、改良の余地はある……でも、良いですね。ええ、とても良い。

向明研究員が数歩下がると、真新しいSCP-CN-4017-1が目の前に現れ、空中に浮かび上がった。

向明: (苦笑)そりゃあ、当たり前でしょう。私はただの、普通の人間なんですから。

[記録終了]

補遺 - SCP-CN-4017

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SCP-CN-4017内部で生産されたドーナツ。中国香港・油尖旺区のベーカリーにて購入。

SCP-CN-4017の内部では、一般にドーナツと称される揚げた生地が生産されます。生地の中央に空洞を有しますが、これは回避不可能な事象です。なぜなら、ドーナツの存在そのものが空洞を内包しており、その生産過程には必然的に、空洞の出現が伴うからです。これこそが、ドーナツがその存在を維持するために依存する、事実の基盤なのです。

揚げ菓子の一種であるドーナツは本質的に、柔らかな食感を持つ、精製された糖分と油分の混合物です。したがって通常、人々はドーナツを美味と認識するはずです。ありふれたプレーンであれ、シンプルに砂糖をまぶしたものであれ、あるいはより複雑に、シロップやチョコレート、色とりどりのキャンディをかけたものであれ、千変万化のドーナツは、人々の多様な好みを満たすことができるでしょう。

ゆえに、「それがドーナツである」という事実基盤を維持したまま、その中央空洞を排除することは不可能であるにもかかわらず、食べ物としてのドーナツは美味しく頂くことが可能であり、食する者の心を愉しませることができるのです。



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